異世界転移先が中世風とは限らない
気付けば、私は交差点の歩道に立っていた。
交差点。そう、交差点。
周りのビルぐらいの高さまで空飛ぶ車でびっしりと埋め尽くされた交差点、である。
そのビル郡もやたら近未来的なガラス張りのデザインで、広告らしきホログラムがさながらARのように宙で自由に舞っている。
道行く人々の服装は、いかにも近未来という感じのスーツから私が着ているような現代的なものまでさまざま。
というかよく見れば猫耳しっぽ生えてたり角生えてたり肌の色が緑色だったり亜人っぽいのがちらちら...どころじゃなく5割以上いる。
なんかVRゲームが舞台の小説にありがちなステータスウィンドウみたいな端末を操作していたり、セグウェイの進化系みたいな謎の乗り物に乗っている人達もいる。
目の前に広がるのはまさしく近未来の街。
あまりに突拍子もなく現れた景色に、逆に冷静になった頭が一つの答を出していた。
ああきっと、これは異世界転移というやつだ、と。
◇◆◇
私こと守条薫は、ごく一般的な女子大生である。
強いて特徴を言えば背がやたら小さい(どうやら私に二次成長期なんてなかった)ことと、趣味が女の子らしくない、というところだろうか。
友人からは「お前は女として産まれてくるべきではなかった」というありがたい評価も頂いているが、私はちゃんと女の子しているつもりだ。つもりだが。
今日も連れと友人宅でいつもみたいに駄弁っていたところだ。
だった。
トラックに轢かれたとか雷が落ちたとか突然まばゆい光が私を包んだとかそういうのは一切無かった。
ようはこんな不思議現象に合う要素が記憶にある限りはまったく無いということである。
というか異世界転移っつったけど、なんでしょうこの目の前に広がる近未来シティは。
ふつう異世界て中世風の時代設定が一般的なんじゃないのか。というかそれしか知らないのだが。
こういうのは神様的な奴からチートとか貰って無双するとかがセオリーだと思うのだけれど。
そうでなくとも知識チートとかでハードな世界をうまく生きていくもんじゃないのか。
なんだこれは。
明らかに私のいた世界のほうが文明的に劣ってるじゃん。この世界の方々に知識面でも勝てる要素が見当たらないじゃん。
どうすんだこれ。
服装の文化が同じなようだから、この人混みの中でも目立ってないのが幸いか。
いや不幸か。私異世界人要素ゼロじゃん。
私ただの不法入国者じゃないか?
チートなし状況説明なし文明レベル激高の世界のどこかに放り出されなう。以上状況確認おわり。
……詰んだのでは?
いや、真面目にこれからどうするか。
今更これが夢だとは思わない。
人々の喧騒や肌に触れる風が、現実だと教えてくれている。
……とりあえず、お巡りさんを探してみるか。
状況を説明して取り合ってくれれば一番よし、不法入国者として捕まってもそれはそれでOKか。
さすがにこの文明レベルなら基本的人権とか自然法とかの概念はあると信じて――
「ちょっと!そこの君!」
――と、考えを巡らせていたら、後ろから誰かに声を掛けられた。
振り向くと、紺色のスーツっぽい未来的な服(なんか色々光ってる )を着た、背が高く犬耳しっぽを生やした男性が、例のステータスウィンドウみたいな謎端末を浮かせていた。
胸にはなんか光るエンブレム。これはもしやちょうど探していたお巡りさんでは?よかった助かっ――
「君の魔素反応はセキュリティベースに登録されていないようだけれど、ちょっと車の中でお話を聞かせてもらえるかな?」
――どうやら私は、やたらファンタジックな理由で警察のご厄介になるようだ。
本当に、これからどうなることやら。