第八十六話 ~指輪の謎編~
正直ここの流れは自分でも気に入っていないので、後々変えるかもしれません。
芸能エリアは相変わらず、楽器を演奏したり、踊りや唄を披露したりする人物が多く存在していた。わざわざ自分の歌や踊りを披露するようなプレイヤーは少ないからなのか、その殆どはNPCであるが。
心なしか前よりも楽器を演奏しているNPCが活発に演奏を行っているような気もするけれど、今の目的は黒猫のサーカス団に行く事なのでスル―する。
久しぶりのサーカス団のテントに入り団員たちの練習エリアへと移動する。中にはちょうどマジシャンであるアーティさんが練習していた。
「お久しぶりです。メイです」
「おぉ! 久しぶりであるな! どうしたのだ?」
「ちょっとメイカーの街に来る用事ができたので、ついでに立ち寄ってみました。座長はいますか? それと、リーノとルーノの二人も。」
「何を言っている。双子たちなら後ろにいるであろう」
「え? うぉ!?」
「久しぶりに会ったのに」「良い度胸」
いつの間に現れたのか、リーノとルーノの二人が後ろから現れた。突然後ろから現れておいて驚いたら不機嫌になるのは理不尽じゃないだろうか。
まさか双子の他にも座長もどこかから現れるんじゃないかと辺りを探してみるが座長の姿は見えない。まだ他のメンツはいないか?
「誰をお探しなのですか?」
「決まってますよ。座長がどこかにいるんじゃないかと探してるんですよ」
「クフフ……私を探しているのですか」
「そうです。貴方を探して……え?」
さっきから話し掛けられていた方を向くとそこには意地の悪い笑みを浮かべた座長であるクロさんの姿が。心臓に悪いったらない。
「気配を消して近寄らないでください!」
「クフフ。すいません。この程度ならすぐに気付いていただけると思ったのですが、どうやらそうでもなかったようですね」
「こんなに近くにいるのに」「察せない方が悪い」
「ぐっ。それを言われると確かに……はぁ。もういいです」
この3人に口で勝てる気がしないのであきらめる。気配察知系のスキルを持っていないことも事実だし。アーティさんが爆笑してるけど突っ込まない。突っ込まないぞ!
「お遊びはこのくらいにして……今日はどのようなご用事ですか?」
「可及的速やかに」「キリキリ吐け」
「えぇと……近くに来る用事があったので久しぶりに顔でも出そうかと」
「クフフ……そういう事でしたか。私はてっきり、その指輪の事で何か聞きに来たのかと」
座長の言葉に思わず肩が撥ねる。この人はさらっと確信を付いてくるから油断ならない。ゲーム的な補正効果だから座長たちに聞くのは良くないのかと思っていたけど、あちらから直接聞いてきてくれるのならば話は早い。
「……はい。実は、この指輪に付いて聞きに来ました。この指輪は凄い力がありますが、まだ他にも力を秘めていると思うんです」
「成程。そういう事ですか。確かにその指輪はまだ力を秘めています。もっとも、それはプレゼントした本人に説明した方が適切なのですが……」
「半人前に」「教えてやらない」
リーノルーノの二人はそろってプイと横を向いた。そんなところまでシンクロしなくてもいいんじゃ……いや、それよりもまだ俺は半人前なのか。前の特訓イベントで一人前になったばかりだと思ったんだけど……
「一応、前に弟子入りした時に半人前を卒業できたとおもうんだけど」
「口の」「きき方」
「………思うのですけど」
「後ろにいた私達にも気付けないんじゃ」「いつまでも半人前のまま」
だから気配察知系のスキルを持っているわけでもないのにこのメンツの接近に気付くのは難しいって。俺が二人に一人前って言われるのはいつになるのやら。
俺の様子を見たリーノルーノがコテンと首を傾げる。
「指輪の力」「そんなに欲しい?」
「そう、ですね。せっかくリーノとルーノの二人からのプレゼントなんです。ちゃんと引き出してやらないと二人に申し訳ないじゃないですか。まぁ、結局自力で出来なかったのでこうして聞きに来てしまったわけですけど」
「「……そう」」
二人はそれだけ呟くと、座長の後ろに隠れてしまった。俺の答えが気に喰わなかったのだろうか。確かに指輪の補正効果が欲しいも本当だけど、今言った通りこの最高のプレゼントをくれた双子にも申し訳ないってのが一番大きいからな。
正直に言ったつもりだけどきに食わなかったのだろうか。
「指輪の力の秘密教えてくれないか?」
「半人前には」「教えてやらない」
「うぅん……やっぱりダメか」
「「けど」」
芳しくない二人の答えに肩を落としかけたが、2人は更に言葉を続けた。
「クロと戦って」「クロに勝って」
「クロに認められたら」「指輪の秘密」
「「ちょっとだけ教えてあげる」」
「座長に勝ったら!?」
座長に勝つ? いつも余裕綽々で他のメンツと同等の芸を披露していたあの座長に? というか、あの座長を追いつめられるイメージが全くわかないんだけど。
「おや? 私が戦うのですか? それはそれは……楽しそうですね」
座長がそれはそれは楽しそうに笑みを浮かべる。このドS、絶対楽しんでるよ……
「いい機会です。ついでに黒猫の名の継承試練も行いましょう。元々次に戻ってきたら課すつもりだったのです。一応上級道化師に、辛うじてなれているようですし。ではこちらへ移動してください」
「ちょ、ちょっと座長__」
不穏なセリフを問い詰めるよりも早く座長はステージへと移動していった。なんだ継承試験って!? もしかして、いやもしかしなくても黒猫のサーカス団関係のすごく重要なイベントじゃないのか?
もしも弟子入りイベントからの派生イベントとかならば、ジョブ的にもすごく重要なイベントだと思うんだけども。
有無を言わせない座長の後を追っていく。さっきまで一緒にいたリーノ、ルーノとアーティさんの3人は、いつの間にか客席側へと移動していた。
「では継承の試練を始めましょう。本来の試練であればアーティやハリー達全員に認められてから私が最後に確かめるのですが……残念ながら丁度ハリー達は出払っているので省略という事で」
「え? そんな簡単に省略して良いんですか?」
「その分厳しく行くので問題ないでしょう」
「あ、ハイ」
藪蛇だった。聞かなければよかった。
だけど、弟子入りイベントが終わってから俺だって色々戦闘は積んできたんだ。要竜を始めとして、クラーケン、アンデッド、そして蛇使い座の隠しボスアスクレピオースと戦ってきた。
いくら座長とはいえ十分に戦える余地があるはずだ。
「__成程。リーノとルーノが半人前という訳ですね。道化師の心得が生っていない」
「道化師の心得?」
「えぇ。今のあなたには慢心が見られますね。これではとても継承させられることはできません」
慢心と言われて自分を振り返る。確かに、これまで何とか勝てていたから座長との戦いも何とかなるとは考えていた。だけど、慢心と言われる程酷くはないはずだ。
内心ムッとしながら短剣を取り出す。ロゼさんから貰った新しい俺の力、麻痺毒のついた黄色の短剣とダメージ毒のついた紫色の短剣だ。
いくら座長とは言え、すべての攻撃を回避し続けるのは難しいはず。ここまで言われたらあるものをすべて使ってでも絶対に勝ってやる。
「おやおや……やはり道化師の心得も流儀もちゃんとできていないですね。これは私がしっかりと伝えられていなかったからでしょうか? 」
「流石にそこまで言われるとカチンときますね。絶対に合格して見せます」
「クフフ……そうですか。頑張ってくださいね。ではアーティ。合図を」
「承知したのである!」
どこか呆れを含んませながら座長はアーティさんに合図を任せる。3,2,1とカウントし、0になる瞬間マジックで爆発を起こした。
「__0! 始めである!」
「では、さよならです」
始まった瞬間、俺の目と鼻の先に座長が現れる。ステップで横に避ける、いや、それよりも【オーバーリアクション】のスキルで打撃から身を守ったほうが__
ここまで考えた所で、俺の目の前は真っ黒になった。
「___はっ! ここは!?」
「練習場です。残念ながら継承の試練は失敗ですね」
やられたときのことを思い出す。確か、始まりと同時に距離を詰められて、そのまま負けたんだっけ?
あまりにあっけなく負けてしまって情けなさすら覚える。座長は手ぶらの状態で、かつ俺は成功スキルを一度も発動させていない状態だった。あの状況だったら一瞬の悩みも必要せずに【オーバーリアクション】で物理攻撃を無効にするのが正解だった。
いや、それ以前に頭に血が上って考えが単調になっていた。
「半人前なの」「わかった?」
「……はい。こんなにあっさり負けるなんて思いませんでした。いえ、正直勝てる描写しかイメージしてませんでした。これじゃあ半人前って言われても仕方ありませんね」
「クフフ。分かりましたか? 道化師は常に笑みを浮かべていなくてはいけない。ましてや観客の煽りに表情を変えるようでは二流もいい所です。つまり、私の挑発に乗り『絶対に勝つ』などと意気込んだ時点で、半人前という事ですよ」
「……ぐうの音もでません」
今思えば、半人前って言われてムキになるなんて、それこそ半人前の所業だった。まさか、ゲームの中のジョブのイベントで、ここまで心得や在り方を要求されるとは思わなかったな。だけど、一度負けて伸びた鼻も折れたし心に余裕もできた。
次に戦うときはもっとうまくやってやるさ。
忘れている人の為に
・黒猫のサーカス団
メイが道化師ジョブのスキルを得るために弟子入りしたサーカス団。
・クロ
黒猫のサーカス団団長。含み笑いをよくするが、様々な芸技術に精通する謎多き人物。
・リーノとルーノ
黒猫のサーカス団、アクロバットショー担当兼アシスタント担当の双子。一つの文章を二人でリレーして話す。黒い服装がリーノで白い服装がルーノ
・アーティ
黒猫のサーカス団、マジック担当。爆破はロマンと豪語する爆発狂い。爆発を使うマジックではいつもよりキラキラしている。