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第八十五話 ~指輪の謎編~


「スゲーです! こんなに人がいるですか!? ルナのいたあっち側と全然違うです!」

「それはそうさ。ここは生産職の聖地メイカーの街。素材や生産物、そしてそのアイテムを買いに来る戦闘プレイヤーが集まるんだから。それに、プレイヤーの絶対数が魔族とは段違いだからな」


 メイカーの街に到着した俺達は、エルフの生産職レプラの工房へと足を進めつつルナに街について色々説明する。

 プレイヤー人口が少ない魔族領からきたルナにとっては、この人混みが新鮮だったのだろう。ルナははしゃぎながらキョロキョロと忙しなく辺りを見渡していて、微笑ましさから思わず笑みが浮かぶ。。

俺が初めてメイカーに来た時のことを思い出すな。あの時のレプラはこんな気持ちだったんだろう。

 そんなルナとは反対にミツバは不満げな様子だ。


「むぅ~。見事に何もなかったよ……。センパイと一緒なら絶対何か起こると思ったのに……」

「だから人をトラブルメイカーみたいに言うなって。俺は普通……の筈だ」

「海に行っただけで海賊と一緒に船に乗ることになったり、森に入っただけでウサギたちの争いに巻き込まれる人に言われたくないよ?」

「海賊に巻き込まれたのはミツバもだろ!?」


 変な事に巻き込まれるのは俺のせいじゃないと思いたい。そもそも俺が向かったところはガムが進めた所だからあの情報屋の掴んだ情報が悪いのであって……待てよ?

 厄介ごとに巻き込まれるのって全部ガムのせいじゃないか? あいつの示した場所場所で何かしら起きているし。今後あいつの情報は信じない方が良いかもしれない。



「おや? もしかしてメイ殿ではありませんかな? これは久しぶりですな」

「思ったより早く会えたな。久しぶりレブラ」


 探し人は思いのほか早く見つかった。話し掛けてきたのは、腰のポーチに針山や糸を整理して入れた、背の低いエルフ族プレイヤー。そして、論者調の変わった口調、間違いなくレプラだ。


「そういえばアニー殿から聞きましたぞ。要竜攻略、おめでとうございますぞ。流石ですな。」 

「アニーから? もしかしてアニーがここにいるのか?」

「今はいませんな。始まりの町にて初心者講習に力を入れているとのことでしたぞ。前に一度、防具の依頼と攻略の真相とその口止めを兼ねて、いろいろあったのですぞ」

 


 話によると、要竜の装備を使った装備作成の依頼をレプラに頼んだ時に、その攻略の真相と口止めも一緒にされたそうだ。口止め料代わりに要竜の素材を融通してもらったらしく、レプラはホクホク顔をしていた。


「でも、意外だな。レプラが男に……というか、自分の趣味をまげて装備作成をするなんて」

「確かに小生、野郎の為に時間を割くのはまっぴらごめんですが、流石にあの要竜の素材を貰える機会をどぶに捨てたりはしませんぞ。何せ、口止め料の他にも装備作成の報酬でも要竜の素材を貰えるとあれば、断る理由にはなりませんぞ」

「へぇー。アニーも同じことを考えていたのか」

「ほほう」


 何気なく呟いた俺の言葉に、レプラの目がきらりと光る。これだけで俺の事情を察したのだろうか? いや、そっちの方が話が早くて助かる。


「同じ、ということはメイ殿も素材持ち込みで装備作成の依頼ですかな? 確かにメイ殿のその装備は小生作。ですがそれはメイ殿が新しい装備作成の方向性を見出してくれたが故の事。いかにメイ殿が数少ない我が友とはいえ、素材持ち込みでの依頼であれば、生半可な素材では小生は動きませんぞ? それに、メイ殿は小生の友である故門前払いには致しませんが、男の依頼などお代は一切値引きしませんぞ? 」

「話が早くて助かる。今回俺が持ち込んだのは、解放されて間もない魔族領の毛皮素材、糸素材全20種類。全部レプラに提供するよ。その代わり、俺たちの装備を更新してほしいんだ。」

「ほう! メイカーの街の生産職でさえ未だ誰も所持していない魔族領の素材ですかな!? それならば小生が動かざるを得ませんな! ……それにしても、俺たち? ミツバ殿の他に誰かいるのですかな?」


 そういえばまだ紹介していなかったか。レプラなあればすぐに反応すると思ったけれどな。他にこっちに注目しているプレイヤーはいないし……別にここでも大丈夫か。ルナを前に出して紹介する。


「この子は、魔族領のプレイヤー【ルナ】だ。種族は魔人で、ジョブは守護僧侶っていう、いわばヒーラーとタンクの兼任したようなジョブだ。この子の装備も作ってもらおうと思ってな」

「ルナです! よろしくです!」

「………ちょっと失礼。もしかして、そこな天使はプレイヤー……なのですかな? 」

「え? あぁそうだけど」

「qあwせdrftgyふじこlp!?!?」

「な、なんだ(ですか)!?」


 何を当たり前な事を言ってるんだと言おうとした矢先、突然レプラが発狂した。目がいってしまっているんだけど、GMコール……は、無いしどうすればいいんだろう。

 しばらく騒いだかと思うと今度は滂沱の涙を流し始めた。


「天使……ここに天使が舞い降りた……褐色シスターロリ……ここに世界の真理がまた一つ証明されましたぞ……」

「いや、真理証明って……さっきからずっとここにいただろうに」

「紹介されるまで、小生の妄想が幻覚となって見えているのかと思っていましたぞ」

「センパイ。とりあえずお巡りさんとか呼んだ方がいい?」

「変な喋り方……なんかコイツ、ウチのジジイと同じ匂いするです……」


 ちょっと待ってルナの家の人が気になるんだけど。それ大丈夫なのか? 危ない人? 

 しばらくその場でグダりながらレプラがまともに戻るのを待つ。ただ、ルナが何かしゃべるたびに奇声を上げるからだいぶ時間がかかってしまった。

 他のプレイヤーも白い目で見ているし、レプラに頼んだのは失敗だったかもしれない。

ルナとミツバのレプラに対する視線も厳しくなる中、コホンと咳を一つしてレプラが話を切り出す。


「失礼。少々取り乱しましたぞ」

「少々?」

「ミツバ。話が進まなくなるから」

「いやはや面目ないですぞ。で、本題に戻りますが、いくらでよろしいかな?」

「そうだな。俺達の出せる報酬はこれくらいの代金に__」

「そうではないですな」


 メニュー画面から払える金額を掲示しようとすると、レプラが首を振るう。でも、いくらって聞いているし、お金の話じゃないのか?


「小生はいくら払えば、その天使の衣装を作る権利が得られるのですかな?」

「「は?」」

「天使に献上する衣装を作る権利ですぞ? お金を頂くなんてありえない! むしろこちらが浄財を収め、頭を下げる崇高なる役目! そしてメイ殿! いくら払えば良いのですかな!? これくらいですかな!? それともこれくらいですかな!?!?」

「待て待て待て! 落ち着け! 」

「……やっぱりお巡りさんを呼んだ方が……」

「ミツバもそれは大丈夫だから!」


 レプラがまたもやヒートアップし始めるし、話が進まない! しかもレプラが掲示した金額は0が1つどころか2つ3つ多い。目が飛び出るような金額だ。

 金額が多い事に突っ込むべきなのかそれだけレプラが稼いでいたことを驚くべきなのか収集が付かない!


「別にレプラがお金を払う必要はないから! 俺達はただ装備を作ってもらえればそれでいいから!」

「む、そうですかな? であれば少々お待ちを。……例の魔族領の素材を活用できるかの精査する時間も込みで三日……いや、2日ほど頂けますかな? 小生の全身全霊の作品に仕上げてみましょうぞ」

「よろしく頼む。……はぁ。装備作成を頼みに来ただけなのに異様に疲れた……」

「はっはっは! 小生は活力みなぎっておりますぞ!」

「……まさか採寸するから活力がみなぎっているとか言わないよな?」


 本当にそうだとしたら流石に断らざるを得ない。だけど、この疑問に対してはすぐさまレプラは否定した。


「とんでもない! イエスロリータ! ノータッチ! 邪な気持ちを持ってそのような事を行うなど万死に値しますぞ! それに小生程になれば目視だけで寸分違わずに脳内保管できるので問題ないですな」

「そういえばボクの道着を作ってもらった時も採寸はなかったような……」


 それなら……良いのか? でも目視だけで採寸可能って近づくだけでも危ないんじゃ……これ以上は止めておこう。考えるだけ疲れるだけだし何より精神衛生的によろしくない。

 ルナのお陰で三人分の装備作成費用が無料になったんだ。それで良しとしよう。

 話が纏まるとレプラは急いで自分の工房へと走っていってしまった。なんだか嵐のような人だったな……


「センパイ。ボクはこの後サオリちゃんと合流するけど、センパイはどうする?」

「うーん。俺はちょっと行くところがあるからパスだな。ルナを任せてもいいか?」

「はーい」


 黒猫のサーカス団にいけばまたあの黒歴史増産現場を見られることになるからな。サオリが来るのであればルナとミツバを任せてしまっても問題あるまい。


 そうして二人と別れた後、俺は一人メイカーの街芸能エリアへと歩いて行った。


 



忘れている人の為に

レプラ

エルフの裁縫師プレイヤー。布系・革系の装備においては右に出る者はいないトップの生産者。ただし、実益より趣味を優先するため自分の作りたいものしか作らないので認知度は低く、レプラの作品はそこまで世に出回っていない。

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