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第八十四話 ~指輪の謎編~


「えっと、確かこの辺でログアウトしていたと思うんだけど……あぁいたいた。おーいミツバ!」


 ダンジョン【棄てられし者の揺り籠】の中でログアウトしたミツバを探すこと数分。白い道着を来た人影を見つけたので呼びかける。

 魔族領にあるダンジョンに潜る道着の人物なんてミツバ以外に考えられないし人違いはないだろう。

 あちらも気付いたようでこっちに近づいてくる。


「センパイ。こんにちわー。ロゼさんとルナちゃんもこんにちは」

「こんにちは~」

「ミツバねーちゃん! こんちゃです!」

「問題なく会えたな。モルガーナに聞いたけど、しばらくゲームにログインできるって言ってたけど何かあったのか?」


 俺がそう聞くとミツバは少しだけ不機嫌そうに眉を潜める。まさか本当に何かあったのか? もしかして、怪我でもしたのだろうか。


「それが、昨日道場に来た人と軽く自由組手をしたんだけど……ちょっとやらかしちゃって……」

「ミツバねーちゃん怪我したですか!? 大丈夫なんですか!?」

「ううん。ボクは大丈夫だよ? 問題はその組手をした相手の方だよ」

「へ?」


 相手の方が問題? ミツバの方は大丈夫って、まさか……


「ちょっと、トカゲ人間とかゾンビと戦ってた時のゲーム感覚のまま組手しちゃって……相手が都大会ベスト8の高校生って聞いてたから大丈夫だろうと思ってやったら思わず」

「あ~……。ゲーム内での感覚をそのままリアルにも持ち込んでしまいましたか~……。私も最初の頃はリアルで如雨露を持つとゲーム内よりも重くて筋肉痛になったものなのですよ~。お相手の方は大事ないのですか~?」

「ちょっと鼻血が出て軽く脳震盪起こした程度だったらしいから大丈夫だよ? 一応運び込まれた病院の精密検査でも問題なかったらしいし。ただ、中学生の、それもボクみたいなちっちゃい女子に秒殺されちゃってふさぎ込んでるらしくて……」


 病院送りって……それは凹むだろうな。その相手の人にはご愁傷様としか言いようがない。俺もミツバが強いのは分かっているけど、男としては瞬殺されたら精神的にちょっと……。

 でも、それがログインとどう影響するんだ? 結局ミツバは全くの無事なんだろ?


「それで、一応病院沙汰になっちゃったから訳だから謹慎処分になっちゃったんだよ。他の道場でも同じ事やっちゃったらいけないから、一応? 」

「ついって、地味に怖い事言うな……それなら、しばらくはミツバもしばらくゲームができる訳か」

「そうなるよ? それに、すっごい消化不良! せっかく強い人と手合わせできると思ったのにすぐに終わっちゃったし」


 不機嫌な理由が消化不良だからって、やっぱりモルガーナと血がつながってるんだな……。普段の言動はモルガーナと違って常識人な分、戦闘になると顕著に感じる。

 なんにせよ、ミツバを連れてここまで来た道を引き返す。マオさんとモフさんがいない今、もう一度ダンジョンボスを倒すのは難しいし、引き返したほうが安全だろうからな。




「それで、センパイたちは滅茶苦茶つよいのと戦ってたの? しかもちゃんと人型の楽しそうな奴と」

「相手が何が出てくるのか知らないし、そう言われても困る、って!」


 襲い掛かるゾンビとスケルトンと戦いながらも、羨まし気なミツバに弁明する。それに、俺を羨ましがられても困るって。 

 まるで鬱憤を晴らすかの様にアンデッド達を薙ぎ払っていくミツバ。俺も短剣両手に戦闘に参加しているが、殆どミツバが一人で対処してしまう。タンク兼ヒーラーのルナやサポート役のロゼさんも手を出せる様子がない。動きの遅いゾンビや脆いスケルトンでは明らかにミツバのサウンドバックとして役不足だな。

 その後もミツバは獅子奮迅の働きを持ってダンジョンを出るまで殆ど一人で戦い抜いしまった。どれだけ鬱憤が溜まってるんだ……。





「おいしー! ロゼさんお代わり!」

「はいは~い。まだまだあるので一杯食べてくださいね~」


 ダンジョンから抜けロゼさんの農場のマイハウスへと戻った俺達は、ロゼさんお手製パンプキンパイをまたごちそうになっていた。

 カロリー制限を気にしないで甘い物を食べられるとあって、ミツバもご満悦のようだ。ロゼさんに頼み込んだ甲斐もある

あのまま鬱憤が溜まった状態だったら俺とももう一度戦えって飛び火したかもしれなかったしな。戦闘欲求を食欲で解消してくれるといいんだけど。

 

「はぁーおいしかった! ロゼさん。ごちそうさまだよ?」

「はいは~い。お粗末様でした~」


 ホールで数個もパンプキンパイを食べたミツバは幸せそうな顔で口元に着いたパイ生地を拭く。一息ついたミツバは真剣な顔をして俺の方を向いてきた。


「センパイどうしよう。ボク、ずっとロゼさんの所にいたい。というか、お姉ちゃんをチェンジしたい」

「うん。一回落ち着こうか。まず、ずっとゲームの中に入れないし、流石にモルガーナが可哀そうすぎる」


 美味しいお菓子を作れるロゼさんと奇行が目立つモルガーナでは比べるのは分が悪い。いや、俺もどっちが姉になってほしいかでいえばロゼさんだけど、実の妹に言われたら

流石のモルガーナでも泣くぞ。

 どこ吹く風といった様子のミツバを見て軽くモルガーナに同情する。


「お腹もいっぱいになった所で、今日はどこに行くの? どうせ今日もいっぱい戦うんでしょ? センパイ絶対厄介ごとに巻き込まれるから面白い事にはなりそうだしついてくよ?」

「人を呪われているみたいにいうな……そんな事はない、と思いたい。それはそうと、まだ行く先を何も決めていないんだよな。特に行きたいところも無いし……ルナはどうだ?」

「ルナですか? んと……前に言ってた装備が欲しいです! 」


 そういえば前にルナにレプラの話をしたっけな。それだと人族領に戻ることになるんだけど……まぁ、いいか。魔族領の事で聞きたいことが出来たらあの神出鬼没の情報屋に聞けばいいし。


「私は~……遠慮しておきますね~。完全なドーピングシードもう少しで完成しそうですし、ロのつく方と会うのはちょっと~」

「あー、分かりました。研究頑張ってください。一応フォローを入れておくと、ロで始まるアレな人ですけど、一応根はいい人なんですよ。その内紹介するので会ってやってください。」

「はぁ~。やっぱりにわかには信じられないですね~。まぁ、同じ生産職とのことですし、善処します~」


 これは最初の俺の紹介が悪かったな。生産職同士だから何とかうまくやってくれるといいんだけど。

 ロゼさんはここに残るという事だから、人族領に戻るのは俺、ミツバ、ルナの三人か。マオさんとモフさんに挨拶せずに別れる事になるけど、何かあったらメールでメッセージを飛ばせばいいか。


「メイにーちゃん。メイにーちゃんの装備してるのも、その人が作ったんですか?」

「ん? あぁそうだな。俺がまだ初心者だった頃に作ってもらったんだよ。今でも使い続けられているし、重宝してるよ」

「へぇー! それじゃあその指輪もその人が作ったんですか?」


 ルナが俺がはめている指輪___黒猫のサーカス団の双子に貰った双星の祝福を指さして聞いてくる。

 あの時を懐かしむように指輪を軽く撫でて首を振る。


「いや、この指輪はレプラの作ったものじゃないよ。これは俺の師匠みたいな人の一人から貰った餞別なんだ。とっても大事な指輪なんだよ」

「へーそうなんですか! スゲーです!」


 例え補正効果が全くなかったとしても、この指輪は装備していただろうな。何せなんだかんだで弟子入りイベント中、あの双子にはずっとお世話に__お世話に? なっていたから。


 そういえば、この指輪に付いた三つ目の補正効果。手に入れた時からずっと???になっているんだけど、結局これは一体何なのだろうか? 

 上級道化師にジョブチェンジしたり色々スキルが増えたりしたけど、一向に開放される気配がない。

 そうだ。どうせメイカーの街に行くのであれば、一度黒猫のサーカス団にも顔を出すか。もしかしたら何か知っているかもしれないし。


 行くところが一つ増えた所で、メイカーの街へと俺達三人は戻ることにした。



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