第八十三話 ~指輪の謎編~
久しぶりの投稿な気がする。
ロゼさん達と素材集めをした次の日の放課後、さて帰ろうとかばんを背負ったところにモルガーナのリアルこと担任の斎藤先生が俺を呼び止める。
「あ、メイ君__じゃない。辻君。ちょっといいかな?」
「だから生徒をプレイヤーネームと間違えるのは……はぁ。なんですか?」
「ごめんごめん。ちょっと三つ葉のことなんけど、あぁミツバはちゃんとリアルでも三つ葉だから大丈夫だよ。今日はあの子もすぐにログインできると思うから。というか、これから暫くの間はずっとあのゲームにログインできると思うよ」
「あれ? 確か三つ葉って道場を掛け持ちで習ってましたよね? 空手とか柔道とか。そっちの方は大丈夫なんですか?」
「あー……うん。道場の方も一応大丈夫だよ。詳しくは本人に確認してみて」
いつもと違いせんせーは歯切れ悪く、お茶を濁すような形でそう言った。まさか三つ葉に何かあったのか? いや、それだとゲームの方にログインも無いだろうし、いったいどうしたんだろう。
気になるけど、聞くなら本人にって言ってたし今日は帰ったら早めにログインしてみるか。
「それと、辻君! 今は魔族領側にいるんだよね? どんな感じかな!? やっぱり弱肉強食の世紀末のような場所なのかな!? 」
「いったいどんなところイメージしてるんですか。確かに出てくるモンスターは強いとは思いますけど、他は人族領側と大差ないですね」
「ふむふむ。やっぱりそっち側の方が経験値が良いのかもしれないよ。それならば! 辻君! 次に会うときには更なる力を得た私を刮目して__」
「斎藤先生?」
「ひゃい!?」
あ、教頭先生が来た。眼鏡の位置を直していつも通りの冷静さの様にも見えるけど、額に青筋が浮かんでる。これはせんせーが怒られるパターンの方のいつも通りだ。
変な声を上げて返事をしたせんせーが、錆びたロボットのようなぎこちない動きで振りかえる。
「きょ、教頭先生……どうしましたか? 今日の職員会議の時間はまだの筈ですが……」
「確かに職員会議の時間はまだです。時間を把握できるようになってきたのは良い事です。ですが……この階の廊下に響き渡る程の大声を上げるのは教育者としてどうなのでしょうね?」
あー、やっぱり廊下にも響いてたか。だんだん話していてテンションが上がってきたのか声のボリュームが大きくなってきていたとは思っていたけど、まさか見回り中の教頭先生に聞かれていたとはせんせーも運がない。この階、運動部連中も文化部連中も使わないから放課後は生徒は殆どいなくなるんだけどな。案外せんせーの奇行を監視するためだったりして。……流石にないか。
冷や汗をかきながらしどろもどろに弁明をするせんせーに若干同情しつつもかばんを背負い直し、その場を後にする。
「教頭先生。学校の見回りお疲れ様です。それでは俺は失礼します」
「はい。帰りは寄り道せずに気を付けて帰ってください」
裏切られた!? と言うように目を見開いているせんせーをスルーしてその場を後にすある。残念ながらせんせー。俺は一度も叫んだりしていないのですよ。
ミツバの事も気になるし、今日は教頭先生の言う通り家まで直行して帰ろう。
ログインをしてロゼさんの農場のマイハウス内で目を覚ますと、既にロゼさんとルナがログインしていた。
「メイにーちゃん! 昨日ぶりです!」
「おうルナ。昨日振り。二人ともはやいですね」
「農場の様子が気になりまして~。ベテラン農家はすごいですね~。もう少しでステータスドーピングができる種が完成しそうなんですよ~」
「本当ですか!?」
それが出来るようになれば快挙といってもいいんじゃないだろうか? なんて言ったって、現状ではステータスを上げる手段がレベルアップか装備を纏うくらいしかない。これでドーピングでも出来るようになると一気に戦い方が楽になるはずだ。特にこれまではタンクしかいなかった近接職の敷居が下がるかもしれない。アニーの剣士普及活動も一層はかどるな。
驚きの内容にテンションを上げていると、ロゼさんがテーブルの上にコロンと赤い色をした植物の種を一粒転がした。まさか、これがそのドーピングアイテムなのだろうか?
ロゼさんに確認をとってから手に取って確認してみる。名前は【パワーシード】。使用効果は、一定時間の間STRの値+10。10という数値をレベルで換算すれば、STRに特化して5レベル分って所か。
「もう完成していたんですか!?」
「とんでもないですよ~。これはあくまで試作品。私が目指すのは一定時間ではなく永続的にドーピングできるアイテムなので~」
これでも十分に強力だと思うんだけど、ロゼさんの中では満足いかないらしい。確かに一定時間だけのドーピングと永続的な効果のあるドーピングでは天と地ほどの差があるか。
手にした種をロゼさんに返すと、今度は赤い液体の入ったポーション瓶を取り出してテーブルの上に乗せる。
「試しにポーション化もしてみたのですが、加算される数値が増えただけで求める効果にはなりませんでしたね~。失敗ではないですが、まだまだですね~」
「すでに色々試してたんですね。でも、気軽にステータスを上げる手段があるっていうのは大きいんじゃないですか? 今までそんなアイテムとかありませんでしたよね?」
「ありますよ~?」
「え!?」
「農場に野菜が生っているのはご覧になりましたよね~? あれを使って料理をすれば………ちょっと待っていてくださいね~」
そう言い残すとロゼさんはマイハウスの奥へと消えて行った。まさか料理のシステムもあったのか? いや、冒険者ギルドに酒場とかもあったから飲食もできるのは分かるけど、いつの間にそんな効果が?
軽く戦慄していると、奥からロゼさんが戻ってきた。戻ってきたロゼさんの手には食べやすい様にカットされたパイを持ってきた。かぼちゃの匂いがこっちまで漂ってくるから、パンプキンパイだろうか?
「お待たせしました~。出来立てでないのは申し訳ありませんが、食べてみてくださいな~」
「お菓子ですか!? いただきます! ムグムグ……めっちゃうめーです!」
「じゃあ俺も失礼して……うま!?」
口に入れるとかぼちゃの柔らかな甘みが広がってくる。出来立てじゃないって言ってたけど、そんな事気にならないレベルだ。いや、それ以前にここまでちゃんと味が再現されているのか?
ルナの頬をハンカチで拭きながらロゼさんが種明かしをしてくれる。
「そのパンプキンパイは~、食べると1時間の間土属性の魔法攻撃のダメージを2割減らしてくれる効果があります~。他にも、HPもある程度回復してくれる効果もありますね~」
「そんな効果が……ていう事は他にも料理で効果が?」
「その料理によって変わるようですね~。ちなみに~、野菜を使った料理は魔法攻撃のダメージを減らしてくれる効果が多かったです。私の場合は野菜を使った料理しかしたことがありませんが~、肉や魚では違う効果が得られると思います~」
そうか。農場で植物に触れることが多いロゼさんなら自分で食材を賄えるもんな。必然的に野菜料理が多くなるのか。
でも、料理でバフが付くのならもっと料理が普及してもいいと思うんだけど、俺初めて聞いたぞ?
「いつから料理でバフが付くようになったんですか? こんな効果初めて聞いたんですけど」
「料理自体は最初からありましたよ~。ただ、当時は視覚だけでしたし、バフもつきませんでしたからね~。食材アイテムも使い道がない割には割高でしたから、皆忘れられていても仕方がないとおもいます~。バフが付くようになったのは五感のあるフルダイブになってからですね~。フルダイブになっても満腹度なんてパラメーターがないので皆料理を忘れているようですが~」
無論、魔族領での話ですが~といってロゼさんは話をおえた。言われてい見れば、満腹度が無いな。小説とかだとフルダイブVRでは満腹度があって食べないとステータスにペナルティがあったりしていたけど。
生産職が盛んに活動しているメイカーの街でも料理を見かけたことがなかったから、本当に廃れていたシステムだったのだろう。これは後でアニーやレプラに教えておいた方がいいかもな。あの二人ならメイカーのプレイヤーの知り合いが多そうだし。
「ごちそうさまでした! ロゼねーちゃん! めっちゃうまかったです! 」
「お粗末様でした~」
「お腹もいっぱいになった所で、ミツバねーちゃんを迎えにいくです!」
「そうだったな。ロゼさんはどうしますか? ミツバを迎えに行くだけなのでダンジョンを再度攻略とかはしないと思いますが」
「勿論ご一緒しますよ~」
決定だな。俺達三人はミツバを迎えに【捨てられし者の揺り籠】へと向かった。