第八十二話~指輪の謎編~
ウサギの話は端折ります。手抜きです(開き直り)
殿下ことウサギの王子様の頼みを聞いて、俺達はウサギ王国の王位継承権争いに巻き込まれたのだ。
武装したラビットで構成されたウサギ兵団に追いかけられたり、虹色に輝くニンジンを食べてヴォーパルバニーへと進化した第一王子との戦いと色々な事があった。
特に、世界中のウサギを使って世界征服をたくらむ第一王子とウサギたちの幸せと平和の為に王になることを決意した殿下の舌戦は熱い。
イベント最後の殿下の父親の29代兎王が命を懸けてヴォーパルバニーになった兄の攻撃から殿下を守った所も感動的だったな。父親の死と兄を手にかける決断を下すことにより王になる覚悟を決めたのだし。
まぁ、これらのストーリーは全部ウサギたちだから若干シュールだったのは否定できないけど。
そうそう。このイベントをクリアしたことで俺達三人とも新しいスキルを手に入れることが出来た。【兎の魂】というスキルで、様々な効果を複合されたスキルだ。
【兎の友】~ウサギ王国にいつでも入れるようになる称号
【白兎】~AGIを強化する
【脱兎】~逃げる際にAGIを大きく強化する
【狡兎】~DEXを強化する
【跳兎】~ジャンプ力を強化する
兎の魂というだけあってウサギの名を冠するスキルがたくさん含まれていた。ありがたい事に、ウサギ素材を使った装備と同様にAGIやDEXを強化する効果に優れたスキルばかり。上級道化師になってステータスの減少が増えてしまったから助かる。
気を取り直して本来の目的である、装備作りに使えそうな素材集めに移る。殿下の話ではこの辺りにウルフ系のモンスターが出てくるはずなんだけど……あぁ、いたいた。
人族領で戦った事のあるウルフとは違って、額に一角が生えていて体格も二回り程大きい。どう見てもウルフの上位種だ。グレーターホーンウルフって所か?
「まずはルナが先に行くです!」
「いや、最初は俺がスキルで怯ませるから__」
「あ~大丈夫ですよ~」
のほほんと笑いながらロゼさんがそう言うと、ウルフの群れは植物の蔓で拘束され身動き取れずにいた。これならルナや俺がわざわざ前に出る必要もない。……流石農家ジョブ。仕事が早い。
麻痺毒の短剣でウルフを痺れさせて更に拘束時間を伸ばしルナと二人でウルフを攻撃。死霊相手ではないから十字架で殴りつけてもダメージは微々たるものだが、敵が全く動けないのだから関係ない。
結局ウルフは何もできずに討伐された。
避けタンクができる俺、タンク兼ヒーラーのルナ、拘束サポートができるロゼさん。全員モンスターを引き受ける事に長けているから、強敵が出ても安全に戦うことが出来る。
火力は多少足りないけどピンチになることはない。
「レベルアップって大事ですね~。バインド系のスキルの拘束力がここまで変わると思いませんでした~。戦闘面でこれだけ変わったのですから、本職の方も期待が持てますね~。今から農園に戻るのが楽しみです~」
喜ぶロゼさんだが、バインド系のスキルはあくまでもアウラウネの種族スキルであって、実際の生産の為のスキルの方は農家ジョブのスキルだ。どれだけ効果があるのか分からないけど、まぁベテラン農家になったのなら同じことか。
アイテム欄の中のグレーターホーンウルフ(ほんとにその名前だった)の素材を確認してみると、人族領で戦ったウルフの毛皮よりも遥かに品質が高かった。やっぱり魔族領側は難易度が高い分品質が高いのだろう。
この調子なら他にもレベルの高い素材が得られるかもしれない。
「良い感じですね。これなら知り合いの生産職が強力な装備を作ってくれるかもしれないです」
「生産職のお知り合いがいるのですか~? それなら~私の装備も作ってほしい所ですね~。フルダイブになってから胸がキツくて~」
「そ、そうですか。うーん……どうでしょう。そいつ性格的に装備を作るプレイヤーを選ぶから。あぁ、ルナの装備なら快く作ってくれそうだな」
「? ルナのですか?」
ルナはまだ小学生で小さいし、レプラの性癖……じゃない。レプラの性格ならむしろ頼まれなくても作りそうな気がする。
反対にロゼさんの装備作成は渋りそうだけど、ルナが頼めば大丈夫か。
「子供には優しい人だから、ルナがいれば大体の融通は聞いてくれると思いますよ」
「……それは~もしかして~、ロから始まってコンで終わるアレでしょうか~?」
「根はいい人なので警戒しなくても大丈夫なはずです。多少言動はおかしいし偶に暴走はしますけど、悪い人ではないはずなので」
「安心できる気がしないのですが~……」
言っておいて自分でも安心できる要素感じないなこれ。本当に大丈夫だろうか? いざとなったら責任をもって俺がなんとかしよう。
「まぁ、いざ時は俺がなんとかするので、ロゼさん達の装備品も頼んでみますよ。腕はいいので。腕は」
「そうですか~? メイさんがそういうなら、信用しますが~……」
不満交じりのロゼさんを宥めながらも素材となるモンスターを探して森を探索していく。しばらく歩いていると森に差し込む光量が減っていき、段々と印象が変わってきた。そういえば、ガムがエリアが変われば毛皮系の素材から糸系の素材をドロップするモンスターに湧きが変わるって言ってたけど、それが原因か?
ふと上を見上げると巨大なクモの巣が張られている。これは、モンスターのクモの巣か?
「上を見てくれ。上にクモの巣が張ってある。たぶん、ポップするモンスターが虫系に変わったかもしれない」
「虫系であれば、私の毒系の攻撃は効かないかもしれませんね~。注意しておきましょう~。でも、クモの巣があるのにその蜘蛛はどこに行ったんでしょう~?」
「言われてみればそうですね。ルナはどう思う……ってルナ? 」
気が付いたらいつの間にかルナがいなくなっていた。 一体どこに? 慌てて辺りを見回して探してみると、糸をぐるぐる巻きにされてクモに捕まったルナの姿を見つけた。
「「ルナ(ちゃん)!!」」
「___!___!!」
クモはポニー程度の大きさの化け蜘蛛で小学生のルナを問題なく引っ張っていく。このままじゃルナが危ない! ステップスキルを使って一気に距離を詰める。クモも俺達に気付き逃げ出そうとするが、それよりも先にロゼさんが【ソーンバインド】で動きを封じる。
【的確急所】を発動させ、クモが動けない内に紫と黄色の短剣で化け蜘蛛にラッシュをかける。
【クリティカル:成功!】
【クリティカル:成功!】【連鎖開始!】
【クリティカル:成功!】【連鎖!】___
「キィー!」
「毒は……効いてないか!」
クモだから耐性が強いのか、麻痺にも毒にもなる気配はない。ロゼさんも事前に言っていた通り毒系のスキルは使わず、拘束スキルに専念している。まだ拘束が解ける様子は見られない。
いったん攻撃を止め、ルナを助ける方向に切り替える。
万が一を考えて毒ポーションを塗っていない短剣に持ち替えて、ルナを縛るクモの糸を切断していく。クモの糸の癖にこれが思っていた以上に切れ難い。
焦る気持ちを抑えて一本ずつ丁寧に切断していく。残り二本!
「拘束解けます! 注意してください!」
「了解です!」
ロゼさんも切迫しているのかいつもほどおっとりとした口調ではない。急がないと……よし。斬れた!
「ぷは! 死ぬかと思ったです……」
「ルナ! 一度離れるぞ! 【ステップ】!」
ルナを抱き上げて化け蜘蛛から距離を離れる。離れた瞬間、化け蜘蛛は自身を縛りあげていた茨の蔓を引きちぎり激しく暴れ始めた。もう少し離れていたらあれに巻き込まれていたな。本当にギリギリだった。
「ルナ。糸を使うあいつに対して受け止めるルナでは相性が悪い。今回は余り前に出ないほうが良い」
「わ、分かったです。でっけー虫に食われそうになるのはコリゴリです……」
「ルナちゃん。私の後ろへ~」
顔を青くするルナの頭を一度ガシガシと撫でて、短剣を握り直す。ロゼさんが庇うようにルナの前に出るのを確認すると俺はステップスキルを使って前に出る。
化けクモは糸を吐き俺を捕まえようとするが、今度はハイステップを使って回避。更に片手にトランプを取り出し投げつけ、【フラッシュポーカー】を使用。
「ギィ―!?」
「もう一度、【ソーンバインド】~!」
「ロゼさんナイス! 【的確急所】!」
フラッシュポーカーで怯んだその隙に合わせてロゼさんが化け蜘蛛を拘束する。短剣で斬るのは、甲殻の間の節目!
外骨格の宿命か、節目を思い切り斬りこまれたことでクモの脚は切り落とされる。更に続けて攻撃を続行。
最後に止めとして頭部に短剣を突き刺したところで、化け蜘蛛のHPは0になり、動きを停止した。
「焦った~……まさかルナが捕まるなんて思わなかった。HPは大丈夫か?」
「問題ねーです。いきなり後ろからぐるぐる巻きにされたときはビビったですけど、クモヤローの攻撃じゃHPは減らなかったです」
虫種族の攻撃もダメージ0ってマジか……。流石に耐性の高い死霊だけかと思っていたけど、そんなにルナのDEFは高かったのか。いや、レベルもダンジョン攻略の時点でかなり高い水準になっていたし、ジョブでもDEFに補正が掛っていたしそんなものか。なんにせよ無事でよかった。
アイテム欄から今のクモの素材を見てみる。【アサシンスパイダーの糸】って書いてあるから、音も無く近寄ってきたのはそのせいだろう。早い段階で気付けて良かった。
「ルナちゃん。もう大丈夫ですか~?」
「問題ないです! さっきのクモやローも、今度は油断しねーです!」
その後、注意して森を探索し、一日毛皮や糸と言った素材アイテムを集めることで時間を潰していった。
端折るくらいなら書くなというご意見には聞く耳を持ちませんのであしからず。