閑話・Believe In Your MuscleS 前編
ツッコミ不在です。オネェ口調難しいけど楽しい。
「頼む! もっと詳しい情報を教えてくれ!」
「ちゃんと情報量は払う! 要竜の攻略法を教えてくれ! 場合によってはそのジョブが環境になる!」
「素材! 要竜の素材を何卒!」
「だーかーらー! 前に全部話しただろ! 素材に関しては売るくらいなら自分で使うし、転売プレイヤーに売るつもりはない! それくらいなら自分で使う!」
今日もアニーちゃんの周りには要竜の詳細を求める情報屋や素材目当てに集まってくるプレイヤーが集まっている。あの自称攻略組が数週間挑み続けても倒せなかったあのエリアボスを倒したのだ。数日たった今でもその熱狂はやむことはない。
アニーちゃんは殆どの情報屋が知っているほどの認知度のある古参プレイヤーだし、彼が討伐のカギを握っていると判断されているのだろう。本当は戦闘職でもなければDEX以外初期値のままのプレイヤーがほぼ圧勝の状態で倒したとなれば一体このプレイヤー達はどうなるのだろうか?
『環境は道化師一択! DEX極振りが正義!』
『戦闘職での戦闘はもう古い! これで誰でもチートプレイヤー!』
こんな感じかしら? 的外れすぎて笑えてくるわね。
確かにメイちゃんのステータスビルドで戦闘が成り立つのはあの奇想天外なスキル群によるものが大きいのは事実よ。だけど本当に彼が凄いのはそれらを使いこなし、かつ一度も失敗は許されない状況下でも戦い抜ける戦闘センスに起因するわ。
一撃でも受けてしまえば、一度でもスキルが失敗すれば、あの【成功】スキルは途切れてしまう。ノーダメージどころかノーミスが前提だなんてアタシですら遠慮するわ。
ミツバちゃんにも一度勝っているのが良い証明ね。あの子は本物の格闘技の天才だわ。あれだけ身体を自分の物として支配出来ている人間はそうはいない。普段の歩き方レベルでその片鱗が現れるなんて、最初見た時は本当に中学生なのか内心疑ったものだわ。時代が違えば女武将として教科書に載っていたかもしれないレベルなのだもの。
そのミツバちゃんに勝てるのはスキルやジョブのお陰だけじゃない。メイちゃんだからこそなのでしょうね。
「そこの人! あんたも要竜討伐パーティのメンバーなんだろ? 何か秘密とかないのか? 例えば……誰も知らないスキルとか」
アニーちゃんが頑なに口を割らないので今度はアタシの所に情報屋の一人が話し掛けてきた。コソコソと隠れる様にしているし、他の情報屋を出し抜こうとしている考えが見え見えね。
でも、案外言っている事は的を得ているのよね。道化師ジョブのスキルだなんて誰も知らないだろうし。かく言う私もメイちゃんのスキル群を正確に把握しているわけでは無いし。多すぎなのよ。道化師ジョブのスキル。
「そうね。知らないスキルって言うのは正解よ」
「本当か!? やっぱり、何かチート級に強いスキルがあったからあの化け物を倒せたに違いねぇ___」
「だってあなたたち、タンクと魔法使いのスキル以外知らないでしょう?」
アタシの言葉にその情報屋だけじゃなく、アニーちゃんの周りに群がるプレイヤー達全員が注目を向けてくる。
静かになるのを待って更にアタシは言葉を続ける。
「あの攻略組がタンクと魔法使いだけの構成になってから、貴方たち情報屋はその2種のジョブのスキル情報ばかり集めて他のジョブなんて全くのノータッチだったわよね? 碌に調べもせずに不要と断定して」
「お、俺はちゃんと調べたぞ! 結局大して強くねぇじゃねぇか」
「あらそう。言っておくけど、私達が組んだパーティは五人中4人がタンクでも魔法使いでもないわ。大して強くないって何を持って結論付けたのかしら? 使った結果使いこなせないから弱いです~だなんて冗談は聞きたくないわよ?」
アタシがそう言うと、反論してきたプレイヤーは黙ってしまった。結局使いこなせなかったのかしら? 恥をかかせちゃったかしらね。
「結局、貴方たちはその程度なのよ。長い物に巻かれるだけ。環境になりそうなものに流される。人に聞く前に自分たちである程度調べてほしい物だわ。アタシの言葉を情報として売りたければ原文のまま伝えなさい。これからの時代は多様性よ。一辺倒に偏るから相性の悪い敵には勝てないのよ。剣士、格闘家、弓、魔法使い、タンクなんでもいいわ。兎に角、お互いの強みを相乗し弱みを打ち消し合うのよ。分かったら散る!」
一部不満そうな顔もあったものの、集まっていたプレイヤー達は解散していった。ずっと質問攻めにあっていたアニーちゃんは疲れた顔で一息ついた。少しは役に立てたかしらね?
「助かった。正直お手上げだった」
「フフフ。少しは役に立てたかしら?」
「あぁ最高だ。特に多様性を押して別のジョブを促してるところが良い。これでもう少しタンク魔法使いオンラインがなくなってくれるといいだけどな」
「アタシたちでできる事はやったわ。後は運営がどれだけ対策をとるかね。他のジョブの操作を簡単にするとかしてくれれば良いんだけど……モンスター側の調整で終わらないわよね?」
「は! 面白い冗談だな」
本当にそんな事をしていたら簡悔精神丸出しだと思われるし、アニーちゃんの言う通り流石にないわよね。
「それでアニーちゃんはどうするのかしら? まだ剣士の布教活動を続ける気?」
「あぁ。剣士系統のジョブが増えないのはリアルで剣道未経験だったり運動と無縁の奴が多いからだからな。多少指導して身体の動かし方さえわかれば、あとはゲーマーらしく勝手に成長していくだろ」
アニーちゃんがそのつもりならアタシはどうしようかしら? 格闘家ジョブの普及は個人的にもう十分だし、始まりの町の周囲は経験値もおいしくないしねぇ……
ちょっと遠出してみようかしら? ドワーフはメイカーの街でみたことがあるから、次は獣人を見てみたいわね。
「ちょっと獣人領の方に遊びに行ってくるわ。」
「そうか。ついて行ったほうが良いか?」
「心配ご無用よ。アニーちゃんはそのまま剣士指南を続けていていいわよ」
「わかった。無理はするなよ」
軽く手を振り獣人領へと進む馬車へと向かう。長距離の移動で馬車が使えるのは救いよね。仮想世界でこれが無かったらずっと歩くことになるのだし。
馬車に乗り走らせること数分。到着するよりも戦闘が始まる方が早かった。五匹ほどの群れでやってきたゴブリンのせいで馬車が止まってしまった。
馬車を降り、まずは手始めに一番近くにいたゴブリンの顔へと拳をお見舞いしてあげる。そこまで始まりの町から離れていないこともあって、ゴブリンのHPは一瞬で0になる。続けて腕を薙ぎ払うように振るい残りの4体をまとめて吹き飛ばす。
やはりゴブリンはそれだけでHPが0となり戦闘は一瞬で終わってしまった。
やっぱりSTR極振りだと火力が段違いね。筋肉こそが至上!
他人に押し付けるつもりはないけどこれだけは譲れないわ。どこか優越感にも感情に浸りながら獣人領へと向かい馬車を走らせる。
到着した獣人領の街は当然だけど動物の耳や尻尾を生やしたプレイヤーが多々いるわね。一部には全身が毛におおわれた獣率の高い獣人もいるけど、これはランダムなのかしら? それにしても到着したはいいけど獣人領に何があるのか調べてきてなかったわね。
近くを通りかかった犬耳を生やした青年に聞いてみるとしましょうか。
「ちょっと失礼。初めて獣人領に来たのだけれど、ここは何が有名なのかしら?」
「え? 初めて? ………あぁ! ヒューマンのプレイヤーさんか! んー、そうだな。獣人領の首都の【ユーエス】に行けば統括王っていう王様的なNPCがいるんだけどな。ライオン頭の。まぁ【モフモフ同盟】ってやべぇクランもあるのが首都の残念な所か。ここでって話なら賢人の森ってのが良い狩場ってくらいだな。運が悪ければ変なNPCがいるし」
「変なNPC? ちょっと興味があるわね。どういうことかしら?」
若干アタシがヒューマンだという事に間があった事が気になったけど、それよりも変なNPCというほうが重要ね。運が悪ければっていうのが引っかかるし、もしかしたら面白そうなイベントが発生するかもしれないし。
「時たまゴリラ型モンスターに混じってゴリラ獣人のNPCがいる時があるんだよ。どこの原住民だって感じの腰ミノを付けてるから辛うじて獣人ってわかると思うんだけど。そいつ、話し掛けるといきなり襲いかけてくるんだよ」
「あらやだ。物騒ね。襲ってくるだけで終わりなのかしら?」
「いや、それがそうでもないんだ。キレてますかー! とか、仕上がってますかー! とか訳わからん事を言いながら近づいてきて、いきなり怒り出してお前のバルクはその程度か!って言って襲ってくるんだ。わざわざ装備新調して完全武装で挑んだ奴もいたんだけどそれでもダメ。結局声が聞こえてきたら逃げるってのが最近の定石だな」
「へぇ……なる程ね。ありがとう。楽しそうだし、行ってみるわ」
気を付けてなーと笑いながらその犬耳の青年は去っていった。中々面白そうな話を聞けたわね。しかも、とってもアタシ向きのNPCみたいだし。
そのNPCの求めるライン、アタシならクリアできるかしらね?
獣人領に来たことを幸運に思いながらその賢人の森とやらに足を進める。