第九話
ぶっちゃけこんな使用が実際あったらギスギスすぎて酷いと思いますが、そこは突っ込まないでほしいです。それでも良ければお付き合いください。
送り元不明の郵送。覚えの無い当選。ありえない技術力の、聞いたこともないVRゲーム。怪しさMAXのゲームにも関わらず誘惑に負けてプレーしていることをすっかり忘れていた。いや、ウサギとの闘いに集中してたからね? 仕方ないよね?
「この場であまり長話はちょっとな……。 あと二匹だしすぐ終わるだろ?」
あぁ確かにすぐっぽいよな。でもそう言う事を言った後って大抵フラグが成立するような…
「やべぇやべぇ! ゴブリン歯が立たねぇ! 誰か! 誰か何とかしてくれデスペナとかプライドが許さねぇ!」
「木の棒の癖に何プライドとか言ってんだよ! うわ!こっち来るな! 死ぬ死ぬ死ぬぅ!」
「タゲ移ったぁ!? チクショウとばっちりじゃねぇか!」
ドタドタと不格好な走り方をしながらさっきのクレクレの人が走ってきた。数匹の緑色の小人みないなのを後ろに引きつけながら。あれがゴブリンか? 棍棒を持ってウサギとは一線違うって感じがする。うわ~迷惑なトレイン行為じゃん。
巻き込まれてゴブリンに狙われた不幸なプレイヤーのHPががんがん減っていく。ウサギの攻撃パターンと異なってヒト型の分皆苦戦していた。俺たちとはまだ距離はあるものの、念の為短剣を取り出しておく。
あ、クレクレの人がHPが0になった。デスペナドンマイ…ってあれ? 消えずにその場に残ってる。本人も死んだと思ってたのか、困惑している。
「ッチ。やべぇな。LPゲージが発生しやがった。お前ら! このゲームでまだ遊びたいなら死ぬ気で避けな!」
アニーが初めて焦った様子で叫びつつ剣を構える。あの武器屋においてあった長剣よりも数段は輝きが違うそれを一閃すると、風が舞い斬撃が飛んだ。流石ゲーム飛ぶ斬撃じゃん! クレクレの人や周りの人がアニーの声を聞き必死にかがみ斬撃を回避する。かがんでいなかったゴブリン達はその斬撃に当てられ一気にHPが0になった。ワンパンかよ…
「おい、そこのお前ら。ステータスを確認してみろ。表示がHPからLPに変わってる奴はいるか? 悪いことは言わねぇ。今すぐ町に戻ってログアウトしろ。ログアウトしないにしても、少なくとも日付が変わるまでは戦闘行為はするな」
「な、なに言ってんだ。このLP?とかいうの100もあるじゃねぇか。俺のHPの十倍はあるんだぞ! 今やらなくていつ戦うって言うんだよ!」
ゴブリントレインに巻き込まれた何人かも同じように首を縦に振っている。結構な人数が喰らっていたらしい。でもなんでLP?が出てる奴は戦ったらいけないんだ? 何かあるのか? アニーはため息をつきつつ、続けて説明をし始めた。
「はぁ。ネトゲ本来の死に戻ってデスペナを受ける流れが無かった時点で警戒してもいいと思うんだがな。…いいか? そのLPってのはライフポイント。つまりは命の残数だ。当たっても問題のない残数を表すHPとは訳が違う。あぁ、別にどっかのラノベの様にデスゲームよろしくお前本人が死ぬんじゃない。死ぬのはお前のそのアバターさ」
アバターが、死ぬ? その言葉の意味を理解できずに周りのプレイヤー達がざわつく。先輩プレイヤーによる有力情報だ。皆真剣に聞いてその真意を考察し始める。
「言い方が悪かったか。HPが全損するとLPゲージへ表示が変更される。ここまではいいな? LPはレベル差種族差無く、全て平等に100で固定されている。俺がお前ら位の駆け出しだった頃、今のお前の様にLPが出てもゴブリンと戦っていたパーティーメンバーがいた。それでゴブリンに手も足も出ずにそいつはLPすら0になって光の粒子となって消えた。その時俺もどうせ始まりの町に死に戻ったんだろうと思ったが続けてこんなアナウンスがなったんだ。
『プレイヤー【ニッキニキ】のアバターはデリートされました』ってな。」
「死に戻りのアナウンスにしては妙だし、そいつはいつまでたっても戻ってこない。パーティーメンバーの欄を見ても名前自体が無くなっていた。そこで俺らはLPはアバターの命を表すんだって仮説を立てたんだよ」
「は? キャラクターデータの削除…… 馬鹿な事言ってんじゃねぇ! そんな…そんなのゲームとしておかしいだろうが!」
「いや待て。という事はある意味キャラのリセマラし放題じゃないか? ほら。魔族だけはスタートの種族がランダムだったろ?」
「でたよ。システムの穴を突こうとする奴。アナウンスも自信満々に何が「選んだ責任は取っていただきます」だよ」
「でも実際問題それならヒューマンとかやってらんねぇわ。吸血鬼あたりヒューマンの上位互換だろ」
「バッカ 吸血鬼は神聖系統に弱いってのがお決まりだろ? 必ずしも完全上位互換ではねぇよ」
アニーの告げたLP全損によるデータ削除。それはプレイヤー達に大きな衝撃を与え混乱を招いた。それぞれが口々に自分の考えを語り収集がつかなくなる。確かにデータ削除って言うのは信じられない。例えば携帯ゲームで徹夜したおかげでレベルがやっとカンスト、達成感のままに寝落ち。目が覚めたら充電が切れており、ぶっ続けでやっていたからセーブは後回しにしていて…あ、ダメだ想像しただけで鳥肌が立ちそう。それが通常使用、デフォルトのオプションのゲーム? いやもうね。アホかと。時間をかければかける程に死ぬに死ねなくなるのかよ。
「落ち着け。で、そのデータが消えた【ニッキニキ】って奴は俺のリア友だったから連絡を取ってみたんだ。そしたら電源を入れなおしてもアカウントを変えようとしても、キャラクターメイク画面を開けなかったそうだ。代わりに解禁まで99日23時間ってカウントダウンがされていたそうだ。つまり百日間このゲームができないんだと。約三か月ちょい。お前ら得意の効率とやらは、この期間を許容できるのか?」
そこでプレイヤー達は静まった。
「冗談じゃねぇ。百日もできないなんてやってられっか! あぁ、助言ありがとな。おとなしく今日は町の散策に戻ることにするわ」
「三か月ごとにガチャ一回はソロバンが合いませんわ…。黙ってヒューマン続けまーす」
「いや、俺はむしろロマンに賭ける!!」
「「「言ったな? 言質とったかんな?」」」
そんな感じで無理はしない。しゃーないなぁって空気は和んだ。一人博打に出る奴のおかげで笑いも出てきたし。まぁ外れても強く生きろ。皆一度町へこの話を持ち帰ることにしたらしい。
トレイン引き起こしたクレクレ君も顔を真っ赤にしながら町の方へ帰っていった。かわいそうに。この場にいる全員彼の事は白い目で見てた。これは後々パーティー組むのが大変だろうな。
こうしてゴブリン騒動は終了した。
「ところでお前。ウサギはどうした?」
「あっ」
俺だけはまだ帰れないようだ。
次からは一話づつのペースになると思います。やれたら明日出します。