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第七十四話~魔族領・迷宮編~


「次はちょっと強いボス部屋です! ルナに任しとけです!」

「流石ルナちゃんですね~。よろしくお願いしますね~」


 魔人の僧侶プレイヤー【ルナ】がパーティーメンバーに入ってから、俺達のダンジョン進行は劇的に速度を速めた。

 何せ、ルナはこのダンジョンを拠点にレベリングをしているからダンジョンの中を熟知している。更に、本人はアンデッド系のモンスターに対してめっぽう強い。何せ、持ち前の高いDEFと武器である十字架の特防効果のお陰で敵の攻撃は一切効かない上に僧侶である為アンデッドに対して有利な攻撃が出来るのだ。

 しかも、パーティーに入ってからは順調にレベルが上がって防御力は既に数割増しになっている。アンデッドに対してはもはや無敵といってもいいだろう。

 先陣をきるルナも、まるでゲームを始めたばかりの時のような速度で上がっていくレベルにすっかり上機嫌だ。

 元々このレベリングの主役でもあるロゼさんも同じく楽し気だ。最初は相性が悪く手出しができなかったロゼさんであったが、レベルが上がり新しいスキルが増えてからはゾンビやスケルトンに対してなら戦闘に参加できるようになった。見てるだけじゃやっぱりつまらなかったのかもな。


 反対にミツバは不満気だ。この階層、物理攻撃が効かないゴースト系のモンスターが出てくるんだけど、殴っても蹴ってもすり抜けて攻撃が当たらないから魔法じゃないと倒せない。しかも、狙っているかのようにゴーストたちはミツバにターゲットを合わせてくるので、ストレスが溜まっているのだろう。……まぁ、アンデッドのダンジョンなのだから仕方がないとは思うけどな。

 不満げなミツバを見ていると、何かを思い出したようにメニュー画面を開き何かを確認する。


「あー、ごめんなさい。明日は朝早いからボクはこのくらいでやめておくよ?」

「あら? もうそんな時間だったかしら~?」

「明日はちょっと強い所が来るらしいから、寝る前に精神統一だけでもしておくの。これルーティーンっていうか、日課なんだよ」

「あぁ~なるほど~。よくわかりました~」



 そういえばミツバはリアルで格闘技をやってたんだっけ? それならどうして今日もゲームをやっているんだ? 普通は前日の練習は特に厳しいようなイメージだけど。

 俺と同じことを思ったのか、ロゼも不思議そうに首を傾げている。


「それなら、なんでゲームなんてやってやがるですか? なんか練習とかしねーんですか?」

「やらないよ? 前日に怪我でもしたら大変だから、感覚を忘れない為に少し身体を動かす程度に済ませるの」


 そう聞くと確かに下手に怪我をするよりリラックスしてから挑んだほうが良く聞こえる。それに、身体を思いっきり動かすのであればこのゲームの中ならけがをすることも無い。感覚的にも殆ど現実と変わらないこの中はある意味うってつけの練習場所ともいえるかもな。

 しかし、どうするかな。パーティー一番の高火力アタッカーがいないとなると、エリアボスに進むのは止めておいたほうが良いかもしれない。


「ミツバがログアウトするなら、俺たちもここでやめておくか? ミツバがいないのにエリアボスに挑むっていうのもちょっとな」

「ボクに合わせてくれなくても大丈夫だよ? 」

「そうです! まだまだいけるです! それにどうせエリアボスはゴーストだからミツバねーちゃんは役に立たねーです!」


 ルナのナチュラルな毒舌にミツバがピクリと反応する。だけど、物理攻撃が効かないゴーストに何もできないことは事実である為、ミツバは何も言わない。

 

「それなら~、ゴーストがエリアボスのここは私たちに任せてもらって、物理技の効く相手が来た時にミツバちゃんに頑張ってもらいましょう~」

「そ、そうですね。なんてったってこの中で一番強いのはミツバなんですから」

「センパイ。ボクセンパイに負けてるんだけど、嫌味?」 

「う゛っ」


 フォローを入れたつもりだったのに、ミツバのジト目が俺に突き刺さる。思わず背中に冷や汗が流れる感覚があるが、ミツバはクスリと笑ってジト目を辞めてくれた。


「冗談だよ? センパイはいつかやり返すから、ノーカンで。それじゃねー」

「なんか最後に爆弾落としてったな……それじゃルナ、ボスについて教えてくれるか?」

「はいです。ボスの名前は【揺り籠の守り手】。さっきも言った通りゴースト系のボスで、エルダーゴーストって種族です。前に戦った時は、ルナがガチで守ってもちょっと体力減ってヤバかったです。あと、範囲攻撃が多いから気を付けるです!」


 ううむ……範囲攻撃が多いのは困るな。普段はステップ系スキルでギリギリの回避をしてきていたけど、範囲攻撃は問答無用の攻撃が多い。

 今回はルナに守ってもらうことが多くなりそうだけど、前回はダメージを負ってしまったと言っていたし、大丈夫だろうか。HPが初期状態のままという事は、大体10とかそんなものだろう(種族の違いはあれど)。だからこそ、ルナの場合ダメージ0とダメージ1では意味合いが大きく変わってくる。

レベルが上がり更にDEFが強化されている筈だから、今回の戦闘ではノーダメージになることを願おう。



 ミツバが抜けたことにより、俺・ロゼ・ルナの三人でエリアボス【揺り籠の守り手】のいるというボス部屋へと入っていく。


 ボス部屋の中はそこまで広くない。エリアボスの立ち位置次第では範囲攻撃で逃げ道が亡くなってしまうかもしれない。気を付けないとな。

 部屋の中心にたたずむ黒い影。足がなく宙に浮いていることを見るに、あれが【揺り籠の守り手】なのだろう。手ぶらで宙に浮く守り手は、俺達が部屋に入り切るとエリアボス特有の長い長いHPバーが表示されると、ゆっくりと顔を上げた。


「怨怨怨怨怨!」

「うるせーです! 【退魔の祈り】! てやぁ!」

「殴ったぁ!?」


 ゴースト系統モンスターであるが故に物理が効かない筈の【揺り籠の守り手】を、十字架をハンマーの様に殴りつける事で攻撃した!? しかもダメージ受けてるっぽいし、なんでだ!? 

いや、これまでは【ターンアンデッド】のようなアンデッド系に特攻効果のある魔法攻撃で倒していた。それなのになんで今回は物理攻撃なんだ!?

 驚いている間にもルナは十字架を使って揺り籠の守り手を殴っていく。


「ル、ルナ!? 物理攻撃は効かないんじゃなかったのか!?」

「これは別です! 【退魔の祈り】でルナだけは物理で殴れるです! こいつ足がねーくせに動くのがはえーです! 狙うくらいなら先に殴り掛かったほうがはえーです!」

「うーん……とりあえずどうしましょうか……【ルートバインド】~。……やっぱりダメみたいですね~」


 ルナが無茶苦茶な事を言い放つ中、ロゼさんは冷静にスキルを守り手に試す。ロゼさんが使った【ルートバインド】は、地面から根を飛び出させて対象を拘束するアウラウネの種族スキルだ。ここまでくる道中では、この拘束スキルでゾンビやスケルトンといったモンスターの動きを止めて戦闘を有利にしていた。だけど、守り手はゴースト系のモンスターであり、物理が効かない。縛り付ける根は守り手を通過し空を切って消えてしまった。


 物理が効かない以上は短剣を取り出していても仕方がない。トランプを取り出し、一枚守り手に投げつけて【フラッシュポーカー】を発動。小さな爆発に驚いた守り手は大きくのけぞり一瞬の隙が生まれる。


「怨怨怨!?」

「隙ありです! てやぁ!」

 

 怯んだ守り手にルナが十字架をぶつける。……が、減少するダメージは少ない。いくら死霊に対する超特攻効果があると言えども、DEF特化のルナのSTRは初期値のまま。加えて膨大なエリアボスのHPを考慮すると、そのダメージは微々たるものなのだ。


 俺もただ支援するだけでは足りない。【的確急所】スキルを発動させ、唯一使う事の出来る魔法【魔力弾】で攻撃していく。【鬼才】スキルの効果によって、魔法である魔力弾の消費MPは極めて少量だ。加えて発動までのキャストタイムも尋常じゃなく短い。これによって、魔力弾を連続攻撃を叩き込む。


【クリティカル:成功!】【連鎖!】

【クリティカル:成功!】【連鎖!】

【クリティカル:成功!】【連鎖!】___


 これもこの攻撃でも与えられるダメージは微々たるものではあるが、それでも確かなダメージが蓄積されていく。

 このままいけば簡単に勝てるか? と思ったがそうは簡単にいかなかった。怯みから立ち直った守り手が距離を取る。

 追い打ちがてらルナが【ターンアンデッド】を放ったが、避けられてしまう。


「!? 来やがるです! ルナの後ろに隠れるです!」


 指示に従い、俺とロゼさんは十字架を盾の様に突き出したルナの後ろに身を隠す。十字架越しに守り手を見ると纏ったローブが膨張し、黒いオーラが放たれる。これが全体攻撃か!?


「【アンチ・ネガティブオーラ】です! おぉ! スゲーです! 全然喰らわねーです!」

「ムムム。また回復ポーションが無駄になってしまいました~」


 レベルが上がり飛躍的にDEFが高まったことで、エリアボスの攻撃をもルナはノーダメージに抑えてしまった。いや、流石に死霊超特防効果があるせいだとは思うけど、それでもすごい事だ。


 オーラの放出が終わったことを確認すると、ルナの後ろから身を出す。距離がありすぎると簡単に回避されてしまう事はルナの【ターンアンデッド】で既にみた。【ステップ】スキルを多用して距離を詰める。


 再度【的確急所】を掛け直し、【魔力弾】にて連続攻撃を繰り出す。これで【成功】スキルのステータス上昇はかなりのものになった。ヘイトが俺に集まった所で【ステップ】にて後ろに下がり、誘導する。


「怨怨怨怨怨怨!」

「ルナ!」

「ナイスです! 【ターンアンデッド】&鈍器でアタックです!」


 十字架を鈍器と言っていいのかはさておき、死霊に対して絶対的有利な相性を誇るルナの一撃だ。それも、所持している十字架の死霊超特攻により強化された死霊特攻の魔法である【ターンアンデッド】だ。いくら初歩の技でルナの無振りのINTといえども、死霊相手限定の代わりにその威力はトップクラスに匹敵する。。

 

 思惑通り、守り手のHPを大幅に削ることが出来た。


「怨怨怨怨怨!? 怒怒怒怒怒!!」

「な、なんだ!?」

「半分を切るとちょっとの間すっげー暴れやがるです! 早くルナの後ろに隠れやがるです!」

「そんな重要な事は早く行ってくれ!」


 慌ててルナの後ろへと戻る。体力の半分を切っていた守り手はやたらめったにオーラを放出する。守り手を中心に全体に放出されるそのオーラは、盾で守りを固めるルナの後ろ意外に逃げ場はない。それが延々と繰り返される。通常攻撃が全て全体攻撃なのか!? ルナがいるからいいが、俺一人だけだったらどうにもならなかった。最悪ゲームオーバーになっていたかもしれない。


「ルナ! 前もこいつと戦ったんだろう! こんな時はどうすればいいんだ!?」

「もう少しすれば元に戻るです! でも、一割を切ったらもう一度こうなるから気を付けるです! 前はスゲーつえぇおっちゃんが__」

「どうやら話している暇はないようですよ~? 」

 

 話している合間に、暴走状態ともいえるオーラの放出が泊まった。しかし、正気に戻った守り手がルナを回り込むべく移動を開始する。盾の内側に入ろうとしている……学習しているのか?


 慌ててルナも盾を動かそうとするが、それよりも守り手の方が若干早い。このままでは俺とロゼさんがもろにオーラを喰らってしまう! 


「間に合え! 【フラッシュポーカー】!」

「怨怨__ヲォン!?」

「ちょこまかしてるんじゃねーです! 【ターンアンデッド】! 」


 守り手がオーラを放つ前に何とか妨害することが出来た。ルナも守り手に対してもう一度ターンアンデッドで攻撃する。俺も魔力弾を放ちルナを支援する。

 

【クリティカル:成功!】【連鎖】

【クリティカル:成功!】【連鎖】

【クリティカル:成功!】【連鎖】___

 

 連続で繰り出した魔力弾がクリティカルを発生させ、更にステータスが向上していく。これによって、守り手へ与えられるダメージは加速度的に増加していく。ここまで連射して尚、MPはまだ半分以上残っている。これまではそんなに使ってこなかったけど、これは地味に使えるぞ?


 ルナと共に攻撃を繰り返し、守り手のHPは残り1割を切る。その瞬間、守り手の纏うローブはまたもや膨張し黒いオーラを吹き荒れる。さっきと同じ、暴走状態だ。


「残り一割! ルナ! 行けるか!?」

「これくらいなら、いけるです!」


 ルナは黒い暴風を耐えつつ、守り手ににじり寄っていく。タイミングを見計らいもう一度【フラッシュポーカー】を発動させ怯ませる。その怯んだタイミングに合わせて、ルナが【ターンアンデッド】を発動させながら十字架で殴りつける。


「悪霊! 退散! です!」

「オオオオオオン………」


 エリアボス【揺り籠の守り手】は、ルナの攻撃によって浄化されすうっと消えて行った。




通常攻撃がエリア全体範囲攻撃の癖に移動速度が無駄に早いエリアボスって実際いたら見てみたい。モン〇ンwのコラボのレーシェンが近い? どうでしょ

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