第七十三話~魔族領・迷宮編~
HP初期値(めっちゃ低い)だけど防御力はめっちゃ高いってそれ何処のはっこうポケ〇ン?
「全部DEFってやつに突っ込んでるです! すげーかてーです!」
ちょっとこの子の状況を整理しよう。
この子の種族はまじん__魔人。ロゼさん曰く闇魔法には高い適正はあるが、反対に聖魔法を使う適正は低いとのこと。
だが、この子の選んだジョブは僧侶。バリッバリの聖魔法の使い手だ。確かにここのダンジョンに出てくるモンスターはアンデッド系ばかりだから、有効な手段ではあるだろう。だがそれは、あくまでもこのダンジョンの中での話だ。ここから出たら低い適正が足を引っ張ってしまうだろうから、有効ではあっても最良のジョブとはいいがたい。
これでも、僧侶であれば回復や補助のような支援系魔法も使えるだろうからパーティーメンバーとしてなら引く手数多だったかもしれない。
致命的なのがステータス振りがDEF極振りであることだ。
現在活動休止状態である攻略組を始め、今いるタンクはDEF≧HP>STRの三点振りだ。どれだけDEFに割り振っても、強敵を前にしてダメージを0にするのは難しい。であればHPポーションの消費量が増えるのは自明の理だ。だからこそ、タンクはHPのは高くしようとする。1:1か2:1か……とにかくHPとDEFに割り振るのはタンクにとって必須項目だ。
そして、更に堅さを追求するにはそれに見合った防具を付ける必要がある。ダメージカット効果やDEF補正の高い防具は総じて要求STRも高くなる為、タンクたちはSTRにも割り振らなければならない。
このゲームにおいてステータスを上げる手段は現状、レベル上昇毎に手に入るステータスポイントを割り振るだけ。タンクはこの三点をどんな分配にするかで大きく性能を左右するし、そのプレイヤーの技量が見えるというのが今の環境なのだ(アニー曰く)
何が辛いって僧侶のステータス補正にはDEFとHPの補正はない事だろう。なにせ後衛の支援ジョブなのだ。MPやINTへの補正の方が高い。
さらにさらに、さっき見た限りこの子の戦い方は身の丈程もある十字架を振り回すパワーファイターだ。DEFどころかINTもMPも全く関係ない。
つまりこの子は、種族・ジョブ・武器、すべての要素が綺麗に噛み合っていないのだ。
普通のゲームならリセットして最初からやり直せってアドバイスするのだろうが、あいにくこのゲームではその理屈は通じない。
キャラクターデータはメインデータ一つだけ。キャラクター削除の度に長いペナルティ期間が付くので気軽にそんな真似はできない。
それに、まだ小さなこの子にそのステ振り弱いよなんて言うのは気が引ける。
DEX極振りの色物中の色物プレイヤーが何を言ってるんだって感じだが、だからこそ変に辛い道を行ってほしくない。
「あー、でもDEFだけだと何かと不便じゃないか? 」
「確かに最近はちょっとつれーです。レベルが全然上がんねーです。始めたばっかりの時はポンポン上がったのに、ぶっちゃけつまんねーです。」
「いや、そうじゃなくて戦闘面での話なんだけど……ところでルナのレベルっていくつなんだ?」
そういえばまだレベルを聞いてなかったな。DEF特化なら火力不足で泥沼になりそうなイメージだけど、どうなんだろう? スケルトンとの戦闘では割と圧勝しているようだったけど、ここはまだ浅いところらしいし。
俺の素朴な疑問にルナは楽しそうに答えてくれた。
「62です! この武器おっちゃんに貰ってからここの敵がスゲー戦いやすいです! 」
「あら~。やっぱり戦闘職はレベルアップが早いですね~。私の倍もあったんですね~」
「ふふーん! ルナはロゼねーちゃんよりつえぇです! ルナがロゼねーちゃん守ってやるです!」
「……どうしよう。ロゼちゃんと戦いたい欲求とちっちゃい子に手を出す罪悪感が戦ってるよ……」
62ってことは、極振りのDEFは121ってことか。確かに高いけど、普通のタンクが職業補正や装備品で底上げ出来ている事を踏まえると同程度か少し上回る程度だろう。
やっぱり惜しいな……ちゃんと噛み合っていればトップクラスのプレイヤーに入れそうなのに。むしろSTR無振りのソロプレイヤーなのによくそこまで……いや待て。
ルナはさっきなんて言っていた? 武器を貰ってから戦いやすくなったって言っていたはずだ。誰に貰ったかは今は置いておくとして、ソロのDEF特化プレイヤーが戦る様になれるほどに強力な武器なのか? 聖職者系統ジョブのプレイヤーは装備条件が緩和されるような話もしてたし。
「なぁルナ。もしかして、その十字架は特殊な効果でもあるのか?」
「なんで分かりやがったですか? とにかく固くなるです。それとしりょーちょーとっこ―効果ってのと、しりょーちょーとくぼー効果があるって声だけのねーちゃんが読んでくれたです! あと、使った事ねーですけど回復まほーの効果が上がるらしいです。なんか英語でよくわからねーですけど、えくとら? えくとあ? とにかくとんでもねーくらいレアな武器らしいです!」
エくトラ……エクストラレアか! 聞いたことないレアリティだけど、兎に角相当レアな武器ってことは分かる。とにかく固くなるってのは分からないけど、超特攻効果と超特防効果。単純だけど強力な効果だ。
でも、そんなに強い武器があってもレベルアップの問題はどうしようもないか。手伝ってあげたいけど、これ以上俺のDEXの秘密を広めていいのだろうか。ジョンドの時は船に乗せてもらう為、ロゼさんは欲しい者の為に必要だと割り切っていたけど、今回はそこまでしてダンジョンの奥に進みたいという訳でもない。なんならロゼさんのレベリングは浅い階層でもいいのだから。
チラリとロゼさんの方を見ると、ロゼさんがこっちをじっと見ていた事に気付く。目の合ったロゼさんは何かを伝える様にコクリと頷いた。恐らく「ルナもパーティーに入れよう」といったところだろうか。
むぅ……どうしようか。口は悪いが根はいい子だし、あの事象攻略組のように人様に迷惑をかけているわけでもない。せっかくゲームを楽しんでいるプレイヤーだ。やっぱり力になってやりたい。
「そもそもなんでDEFに割り振っているんだ?」
「そんなの簡単です! ぜってー負けらんねーゲームなら、ぜってー負けねーようにすればいいだけです! どんな攻撃もきかねーようになれば、ぜってー負けねーです!」
思わずクスリと笑ってしまった。どうしよう。バカっぽいけど理由が面白い。モルガーナがここにいれば食いつきそうな理由だ。楽しそうに語るルナは、本気でこのゲームを楽しんでいるんだろう。ルナのこの言葉を聞いて、俺は決めた。
「なぁルナ。もし、レベルが一気に上がるとして、俺達の事を秘密にしてくれるか?」
「ん? どーいうことですか? ルナがいっぱい倒してもそんなにレベルが上がんなかったです。一気に上げるなんて、んなもんできっこねーです。……でも、ホントにできるなら、ルナはちゃんと約束は守れるです。」
「よし、決まりだ。パーティー申請を送るから、こっちのパーティーに入ってくれ」
メニュー画面を開き、ルナをパーティー申請を送る。同じくルナもメニューを開き申請を受託してくれた。これでルナは俺のパーティーメンバー。俺の得られる経験値が均等分配という形でルナの元にも流れ込むようになるという訳だ。
後は、実際に戦闘になれば、未だ半信半疑のルナに信じてもらう事が出来るとおもうんだけど……ちょうどいいな。
ルナが案内してくれていたダンジョンの奥の方からまたもやアンデッドが現れる。案内によってダンジョンの奥に進んでいるからか、今度のスケルトンはただのスケルトンではない。手ぶらでなく、ちゃんと防具を纏い武器として剣を手にしている。ソルジャースケルトンって所か?
「ちょーどいいです。メイにーちゃんがホントの事いってやがるのか試してやるです!」
十字架を構えたルナが勢いよく突撃する。ルナを支援するためトランプを投擲し【フラッシュポーカー】を発動させてスケルトンを怯ませる。アンデッドが爆発に驚くのかはいささか疑問だが、実際に怯んでるから気にしない。怯ませる効果のスキルだなんてメタっぽい事は考えない。
まるでハンマーで殴るかのように十字架でソルジャースケルトンを殴りつけるルナ。死霊超特攻効果があるせいなのか、STRに全く割り振っていないルナのその一撃でもスケルトンは苦し気な様子を示す。
だが、スケルトンたちもただやられるだけではない。他の個体が剣を振りかぶりルナに反撃を繰り出そうとする。といっても結局はスケルトンだ。いくらDEF特化のルナといえども急げば避けれる程度の……あれ? そのまま突っ込むのか?
「喰らいやがれです!」
「ちょ、ちょっとルナ!?」
慌てて【フラッシュポーカー】を使おうと思ったが、間に合わずにスケルトンの攻撃はルナに直撃してしまう。初期値であるルナHPがへってしまう所を想像してしまったが、想像とは裏腹にHPは一メモリたりとも減少するような様子は見えない。まさか、ノーダメージなんて可能なのか!?
いや待てよ? あの十字架、死霊超特防効果もあったよな? モンスターの攻撃を盾で守りもせずに0に抑えるなんて攻略組のタンクでも不可能の筈だ。それを、僧侶ジョブでノーダメージに出来るなんて、それだけ特防効果が高いのか?
「くたばれです! ……ひょわ! ホントにレベルが上がってるです!? やべぇです!」
そんな事を考えている合間にルナはたった一人でソルジャースケルトンを倒してしまった。今はレベルが上がったことが嬉しいのかぴょんぴょんと跳ねている。
これは考えを改めないといけないな。今の戦闘の慣れた動きを見た限り、戦闘経験は一度や二度ではないのだろう。一切の回避動作を取っていないのはそれだけ自分の防御能力に自身があったから__ではなく、ソルジャースケルトン程度の攻撃ではノーダメージであることを知っているから。
よく考えたらDEF極振りなんだから一撃くらいでうろたえる必要はなかったな。自分が紙装甲のせいで一撃食らえばヤバいから感覚がずれていたのかもしれない。
考えを改めないといけないな。この子は種族が噛み合っていない地雷プレイヤーなんかじゃない。専用武器というピースがあって初めて全てが噛み合う絶対死霊殺すマンって訳だ。今はまだその防御力はアンデッド系のモンスターにしか効かない。でも、もしもレベルが上がってさらにDEFが上がれば……。俺の様に極振りによって何か新たなスキルが手に入れば……
「何ボサッっとしてるです!? もっと奥に行けばつえー奴がもっといるです! 早く言ってレベル上げるです!」
いつの間にか、テンションが上がったルナは更に先へと進んでいた。俺達もルナを追うように先へと進む。
レベリングすべき人が一人増えたんだ。さぁ、もっとたくさん戦おうか。
余談。または雑談
「ところで、その武器、人から貰ったって言ってたよな。そんな強い武器くれるなんてすごい豪快な人だな」
「そうです! 迷子のめっちゃつえーおっちゃんと鎧の人がくれたです。ちょー感謝してるです」
「強い人? 今強い人って言ったよね?」
「ミツバはそこに反応しない。……にしても、迷子? このダンジョンの中でか?」
「ですです。その人たち、帰り道探してるっつーて、奥に進んでったです。ウケるです! 」
「あらら~。それはそれは変わった人ですね~。もしかしたら、その内出会えるかもしれませんね~」
「会ったらお礼言ってやるです!」