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第七十二話~魔族領・迷宮編~

書いてて思った。生産職をダンジョンに連れてくる展開って実際ネトゲ上でありえるの? 


「次は前からゾンビ2体、後ろからスケルトンが3体ですね~」

「後ろのスケルトンの方は僕が行くよ?」

「わかった! なら前のゾンビの方は任せてくれ!」


 ロゼさんの追加で現れたダンジョンモンスターを報告を聞き、俺とミツバは更に攻撃の手を強める。

 ゾンビ系のモンスターは耐久力は高いが、動きが鈍く攻撃力もそこまで高くない。慣れてしまえば手数を稼ぎやすく俺と相性がいいと言える。

 反対にスケルトンは微妙に動きが早い代わりに打撃に弱い。ミツバにとっては物足りない相手かもしれないが、相性はすこぶる良い組み合わせだ。


 ゾンビの腕を振り下ろす攻撃に合わせる様に横にずれて回避し、すれ違いざまに短剣を振るう。ここに来るまでの間に何度も戦闘が続いているので【成功】の連鎖は既に十二分に高まっている。大ダメージが狙える首周りをクリティカル攻撃できたことによってゾンビはそのまま死に絶える。

 さらに続けて他のゾンビも短剣で斬りつけ前方の敵は全て片付いた。


 ふぅと息を一息つき、後方で戦っていたミツバの様子を見る。既にスケルトンを全滅させたミツバは飄々とした様子で俺を待っていた。


「はーい。センパイがゾンビを倒すまで五分かかったよ?」

「校長先生か? それなら“静かになるまで”じゃないのか? それに五分もかかっていないだろ?」

「むぅ……センパイノリが悪いよ?」

「ふふふ。お疲れさまでした~。二人とも強いですね~」


 ダンジョン内でも変わらずぽわぽわとした雰囲気のままに俺達をねぎらう。ダンジョンに入ってしばらくたつが、ロゼのレベルは既に20程上がっている。元々生産ジョブだったからレベルが低い事もあるが、ここのダンジョンモンスターも中々強く得られる経験値もそれなりに高い。目に見えてレベルが上がっているのでロゼさんもホクホク顔だ。


 反対にミツバはそこまでテンションが高くない。人型だからそれなりに楽しんではいるようだけど、スケルトンは殴りがいがなく、ゾンビは殴ったときの感触が気持ち悪いらしい。

 海賊と戦ってたときはどうなのかと聞いたら、あっちはまだフレッシュだったそうだ。なんだフレッシュなアンデッドって。


 この【棄てられし者の揺り籠】というダンジョンはアンデッドの巣窟だった。ロゼさんが相性が悪いといったのは、ロゼさんのアウラウネの種族スキルは生者系にしか効果がなくアンデッドには効果がないかららしい。しかも農家ジョブのスキルで戦闘に使えそうなスキルは皆無とのこと。

 俺もせっかく即死効果が発覚したというのに、既に死んでいる扱いのアンデッド系には即死系の効果は効かないとのこと。普通に戦うしかないのだ。


「一応私も薬草の類や調合済みのポーションも持ってきましたが、お二人とも全然ダメージを負いませんね~。私、本当に足手まといですね~」

「そんな事無いですって。ロゼさんが支持してくれているんで俺達は戦闘に専念できるんですから。それに、今回はロゼさんの毒草を貰う為にロゼさんのレベリングをしているんですから気にしなくていいですよ」

「そういってもらえると助かります~。何故か前にここに来た時よりもエンカウント率が高かったので~ちょっと気にしてたんですよ~」


 あ~……それはたぶん俺のせいだろうな。道化師ジョブの常時効果のモンスターに狙われやすくなる効果があるからな。そのせいでアンデッドが寄ってきているのだろう。

 なんだかマッチポンプだな。あえて言ったりはしないけど、もう少しレベリング頑張るか。


 ダンジョンの中は入り組んでいて、分かれ道が多くある。それでいて似たような道も多くある。ロゼさんが通り道に農家スキルで花を咲かせて目印を作ってくれるから帰り道に迷うことはないけど、これがなかったら出口がわからなくなってしまいそうだ。

 

 さて、どうせダンジョンに来たのだから踏破してみたいという思いもあるが、今の目的はロゼさんのレベリングだ。あまり奥に進まない方が良いだろう。

 とりあえず、どれくらい進んでも大丈夫かロゼさんに確認を取ったほうが良いか。


「だいぶ奥まで進んできましたけど、そろそろ戻りますか? それとももっと奥まで行ってみますか?」

「そうですね~。私もだいぶレベルが上がりましたし、もう少し進んでも問題ないと思いますよ~」

「ボクもさんせーだよ? もっと奥に行けばもう。少し戦いやすいのがいるかもしれないし。それで、次はどっちの道に進むの?」

「さぁ~? どっちでしょうね~?」


どっちでしょうね~って……そこで首を傾げられるとこっちも困るんですけど……。いやまぁ生産ジョブのプレイヤーが戦う場所であるダンジョンの奥にまで入ることはないだろうし仕方がないか。

 ならどっちに進もうか。下手に進むのは危ないだろうし慎重に進んだほうがいいんだろうけど……



____たぁ! てゃ!


「ん? いま何か言ったか?」

「私じゃありませんよ~。気のせいじゃないでしょうか~」

「ボクでもないけど、声がしたのは確かだよ? 多分、他の人が戦っているんだと思う。声のしたほうからするとこっちの方向だよ?」


 どうやら俺の気のせいじゃなかったらしい。感覚が鋭いのか声のしたほうを正確に把握して道案内を始めるミツバ。良かった。ここのダンジョンに慣れたプレイヤーがいるなら正しい道を教えて貰えるかもしれない。

ミツバの案内に従って進んでいくと、ミツバと同じか少し年下くらいの少女とその少女を囲むように集まるスケルトンの姿。一瞬加勢に入ったほうが良いかと思ったけど、よく見るとそれは杞憂の様だった。


その少女は身の丈程の大きさもある十字架をぶん回してスケルトンを殴りつけている。しかも、たった一度殴られたスケルトンはそれだけで身体をバラバラにして倒れていく。それだけ威力が高いのだろう。あれだけ大きな十字架を振り回せているのだし、おそらく相当STRに割り振っているんじゃないだろうか? まさか、STR特化のプレイヤーじゃあるまいな。あぁ、あの子もそのうち「ぬぅん!」とか「ブラァ!」って野太い声を出すようになるのだろうか……


「これで……ラストォ! ふー! いい汗かいたです! 辺りにはもうスケルトンのヤローはいない……って、誰ですか貴方たちは!?」


 頭によぎる姉木肌系筋肉隆々のSTR極振りプレイヤーの姿をどうにか振り切っている間にその少女は戦闘を終わらせてしまっていたらしい。黙ってみていた俺達をみてその子は驚いている。どことなく口調が変わっている事が気になったが、よく考えたら口調が変な知り合いは少なくなかったから置いておこう。

 それよりも黙ってみていたこっちがマナー違反だったわけだし、謝ったほうがいいか。


「あぁ、すいません。ダンジョンで進む道に迷っていたら戦闘の音が聞こえたので気になって見に来たんですよ。不快だったなら謝ります。」

「け、敬語でやがりますか!? スゲーです! カッケーです! ……あっ! このダンジョンの事だったらルナがいっちゃん詳しいです! 奥に行くなら案内してやってもいいです! この前もおっちゃんと鎧の人案内してやったですから道案内は慣れてるです!」 

「そ、そうですか……助かります」


 ゲームの中だし謝るなら年下でも丁寧に言ったほうが良いかと思ったが、思った以上にこの子変な所に喰いついたな。敬語に憧れているのか? それにしては少し荒々しいような気もするが……まぁいいや。この子には丁寧な口調で話したほうがよさそうだ。


「俺はメイといいます。こっちはミツバとロゼさん。よろしくお願いしますね」

「え? センパイどうして敬語なの? この子ボクより年下っぽいよ? あ、ボクはミツバだよ? よろしくね~」

「あらあら~。先に紹介されちゃいましたね~。紹介された通り、私はロゼといいます~。案内、よろしくお願いしますね~」

「お~! にーちゃんもねーちゃんも敬語使えやがるんですか!? まじパネェです! カッケーです! ルナはルナっつーです! 任せろです!」


 目をキラキラさせながら敬語に食いつくルナは意気揚々と案内を始めた。身の丈程の重そうな十字架を引きづりながら足早に歩いて行くルナを見ると、何処か不自然というかゲームらしいと思えてしまう。

 ルナの案内によって順調に奥へと進んでいく。ゲーム内で年下に出会うのが珍しいのか、ミツバは頻繁にルナへと話し掛けている。


「ルナちゃんって敬語が好きなの? その割にはちょっと荒っぽいよ?」

「当り前です! ミツバねーちゃんしらねーですか? 敬語を使えんのは大人の証です! 今のルナの超トレンドです! ちゃんとした大人です! ルナの喋り方変か?……あ、ですか? ルナのじじぃの喋り方が抜けねーからです。しゃーねーです 」

「ふーん。そうなんだ。……ところでルナちゃん。敬語ってです付ければいいってものじゃないよ?」

「それ、じじぃも同じこと言って笑ってやがったです! その割にホントの敬語教えやがらねーです!」


 なんかこの子面白いぞ? そのお爺さん(もしかしたらお父さん)絶対面白がって揶揄ってるよな? なんか揶揄ってやりたくなるオーラが出てるというか……ロゼさんに至っては母性をくすぐられるのかうずうずしている。むしろ母性本能発揮し始めたロゼさんを見るのが目の毒です。気をそらすために俺もルナと話をしよう。


「ところで、その十字架……重そうですけど、大丈夫なんですか?」

「まったく問題ねーです。これ、せーしょくしゃけー?ってジョブの奴が持つとめっちゃ軽いです」


 せーしょくしゃけー……あぁ聖職者系ね。つまりルナは僧侶とか神官とか、そんな系統のジョブについているのだろう。特定ジョブにだけ重量ペナルティの軽減が発生するとかか? 聖職者であればアンデッドとは相性がいいだろうな。ここのダンジョンに詳しいのもうなづける。


「ルナちゃんは僧侶さんなのですね~。かっこいいですね~。私は農家のジョブなのですよ~。アウラウネって種族ととっても相性がいいのですよ~? ルナちゃんはなんの種族なのですか~?」

「わぷっ。ロゼねーちゃんおっぱいでけーです。頭が重いからどけやがれです。えっと、ルナはまじんって種族の魔族だって始めた時の声だけのねーちゃんが読んでくれたです。このゲームクッソおもしれーですけど、漢字がムズイのばっかです。読めねー時は時々声だけのねーちゃんが教えてくれるです」


 ルナの頭にメロンが乗っかってる!? 直視するのはハラスメントに引っ掛かる以前に後ろのバトルジャンキーに粛清されそうなので視線を逸らす。

 声だけのねーちゃんって、キャラクタークリエイトの時のナビゲーションAIの事か? 漢字を読んで教えるくらいなら子供用に簡単な感じだけに表示変更できるようにすればいいのに。システム変更よりもAIに読ませたほうが楽なのだろうか?

 変わらず後ろからルナを抱いているロゼさんが不思議そうに首をひねる。


「あら~? 魔人の種族って確か排出率5%くらいの割とレアな種族ですよね~。でも、確か闇魔法の適正は高い代わりに聖属性の適正は低かったと思いましたが~……」

「え゛? それじゃあなんでルナは聖職者なんだ?」

「簡単です! ここで出てくる奴は皆たいま?の力に弱いってガムってにーちゃんが言ってたです。ここで戦うならこれが一番です!」


 んん~~~? 今すっごい聞き覚えのある名前聞いたぞ? あいつ、こんなところにも首突っ込んでたのか? さらっとここに来ることを仄めかしていたくらいだからおかしい話ではないけど、だからってこんな子に種族相性の悪いジョブ薦めるか? 俺と話をする時もどこか面白がっているような雰囲気があったし、おかしな話ではないけど。


「で、でも、退魔ができるジョブってことはそれなりにINTとMPが必要なんじゃないか? STRにも割り振って、前衛ならHPも必要だろうし、ステ振りの方は大丈夫なのか?」

「む。メイにーちゃん敬語やめちまったですか? それに、ステ振りってステータスですか? ごちゃごちゃ考えんのは好きじゃねーです。全部同じところに突っ込んでるです。」 

「…………ん?」


 なんでだろう。今すごく聞き捨てならないことを聞いた気がする。ステ振りは同じところに突っ込んでる? つまり、俺やモルガーナ、サオリと同じような一点特化の極振りプレイヤーってことか? 同族に出会ったような気分だ。

 肝心のルナは丁寧口調を辞めたことに不満そうだけど今はそれどころじゃない。


「ち、ちなみにどのステータスに割り振ってるんだ?」

「全部DEFってやつに突っ込んでるです! すげーかてーです!」


 魔人種族と相性が悪い聖魔法を使う僧侶ジョブで、MP・INTに割り振らずにDEFに振って、十字架でぶん殴る系の少女。


………俺達と同じ地雷じゃねぇか!





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