第七十一話~魔族領・迷宮編~
翌日、再度農園にて集合した俺とミツバ、そしてロゼさんは例のダンジョンへ向かい歩いていた。一度ダンジョンに行ったことのあるロゼさん曰く、もう少し歩かなければダンジョンにつかないらしい。
これまでは特に気にしていなかったけど、いちいち移動で歩きとなるのは面倒だな。リアリティを追求したゲームなのは分かるけど、実際に移動時間までリアルに再現されるとゲームする側にとっては若干辛いものがある。
メイカーの街から攻略前線だったあの聖都に移動したときは馬車のような移動手段があったけど、こっちにはそんなものはないのだろうか?
「移動手段ですか~? あるにはありますよ~。おすすめはできませんが~」
「お勧めできない? どういうことですか? 」
「そっちの領地ではどうなのかは知りませんのでアレですが~、こっちでは乗り物に乗ったり派手な動きをすると戦闘が増加するみたいなんですよ~。それも、地味に高レベルのモンスターですね~。最初は「効率だ~経験値だ~」って他のプレイヤーのみなさんも喜んでいたんですけど、肝心の戦闘の方がまだ未熟ですから~」
あぁ、そうか。そういえば魔族のプレイヤーって元の身体と違う分操作の難易度が桁違いなんだっけ。レベリングには良さそうに思えたけど、不慣れな操作で安全マージンを超える敵と戦うのは下策か。操作に慣れてきたらまた変わってくるんだろうけど、パーティーを組んでまだ試しもしてないのに高レベルのモンスターを相手にするのは控えたほうが良いか。
約一名残念そうな顔をしているが、今は安全を優先してバトルジャンキーは放っておこう。
と、そんな話をしていると何処からか数匹のゴブリンが現れた。ゴブリンはゴブリンだけど……なんだか人族領のゴブリンとちょっと違うな。
手にしている武器が粗末な棍棒ではなく普通にロングソードや木の杖だ。それに、一回り程ゴブリンは大きい。ゴブリンの上位個体なのだろう。言うなればホブゴブリン・ソードマンとホブゴブリン・ウィザードといったところか。
多少強そうなゴブリンではあるがやることはいつもと変わらない。トランプを取り出して手裏剣よろしく投げつけ、【フラッシュポーカー】を発動。怯んだゴブリンに瞬時にミツバが距離を詰めて連続パンチ。
俺もステップスキルを使って距離を詰めて、【的確急所】を使いクリティカル発生率をあげてから……斬る!
【クリティカル:成功!】【連鎖!】
「グギャア!」
「おっと! 」
【パリィ:成功!】【連鎖!】」
カウンターと言わんばかりに振るわれるロングソードの一撃を短剣で受け流す。やはりと言うべきか、大して【成功】スキルが発動していない状況では大してダメージをらしいダメージを与えられないようだ。……それだけじゃないな。上位個体ホブゴブリンだけあってその分DEFやHPが高いのかもしれない。
フラッシュポーカーのスキルによる怯みは一瞬だ。不意打ちでダメージを稼げなかったからここから先は純粋な戦闘になる。チラリとミツバを見るとゴブリンが振るう剣撃を紙一重で避けては一撃を入れるヒットアンドウェイで翻弄している。口角が上がっている所を見ると余裕があるのだろう。あっちは問題ないようだな。
俺もステップスキルとパリィを駆使して攻撃をいなし、隙を伺う。一応これだけでも【成功】スキルは発動するから、ホブゴブリンのステータスには確実に近づいている。しかし、ホブゴブリンは一体や二体ではない。後ろの方では杖を持ったホブゴブリンが詠唱を始めている。流石に後方からも攻撃があるとなれば厄介だ。トランプを片手で取り出して投げ、【フラッシュポーカー】で怯ませることで詠唱をキャンセルさせる。
マズいな……。ジョンドといったクラーケンのいる洞窟や砂浜で戦ったあのカニはそこまで苦戦しなかったけど、内陸側に少し寄っただけでだいぶモンスターのレベルが上がっている。これが魔族領の基本なのか?
生産職である農家ジョブのロゼさんを守りながら戦うのは厳しいかもしれない。これは少し見誤ったか?
「あらあら~。多勢に無勢ですね~。微力ですが~私も加勢しますね~」
「な!? ロゼさん!? あまり前に出たら危な……え?」
不意にロゼさんが前に出た為慌てて引き留めようとしたが、驚いたことにその心配は無用だったしい。ロゼさんが何か粉のような物を振りまくと、ロゼさんを襲おうとしていたゴブリン達は一斉に動きを止めた。これは……スタン?
「そこまで長くは拘束できないので~今のうちにお願いしますね~」
「は、はい。分かりました……」
動かない敵であれば普段は使わない攻撃系のスキルを使っても問題はないな。スタン中のゴブリンに対して【ショートスラッシュ】で攻撃する。攻撃モーションが固定される代わりにスキルによる攻撃のほうが通常攻撃よりもダメージが稼げる。クリティカルも発動すれば、それなりのダメージになるだろ!
スキルのリキャストタイムを待ってもう一度【ショートスラッシュ】。更に少し待って【ショートスラッシュ】、【ショートスラッシュ】、【ショートスラッシュ】……。
攻撃系のスキルはこれしかないけど、初期スキルだけあってリキャスト短い事とリキャストタイム短縮系のスキルが相まって連続での仕様が可能だ。
【スキル:成功!】【連鎖!】
【クリティカル:成功!】【連鎖!】
【スキル:成功!】【連鎖!】
【クリティカル:成功!】【連鎖!】
【スキル:成功!】【連鎖!】
【クリティカル:成功!】【連鎖!】
【スキル:成功!】【連鎖!】____
一撃毎の与えるダメージが目に見えて上昇していき、まずは一体目のゴブリンを討伐した。更に続けてもう一体、と思ったら今度は一撃でゴブリンのHPが吹き飛んだ。
【デス:成功!】【連鎖!】
デス……即死か? 即死が成功したから一撃で倒せたってことか。でもなんで即死が……あぁ! 【鬼才】の効果か! 確か鬼才の効果はこうだ
【鬼才】 EXスキル
常時効果:DEXの反映領域の拡大。(元々の効果である生産スキルの効果上昇・経験値取得量上昇・クリティカル確率上昇・操作性向上に加え、MP消費量、魔法詠唱速度、即死確率、回避確率の追加)
起動効果:一定時間,DEXの反映効果を大きく上昇させ、認識能力を上昇させる。(負担が大きい為注意)
この常時効果に含まれる即死確率。恐らくこれが発動したのだろう。鬼才のスキルを手に入れてから結構戦闘しているけど、即死が発動したのはこれが初の筈だ。DEXにこれだけ割り振ってもこれくらいの発動確率ならそこまであてにはできないけど、すべての攻撃でも即死で倒せる可能性があるっていうのは大きいな。モチベーションが上がった所で攻撃を続けよう。
ロゼさんの支援のお陰もあってホブゴブリンの群れは全滅させることが出来た。生憎、レベルが三ケタ台に乗っている俺とミツバはレベルが上がらなかったが、ロゼさんは3つもレベルが上がったらしい。上位個体といえどもゴブリン相手にレベルがあがったロゼさんは嬉しそうにコロコロと笑っている。
「すごいですね~本当にレベルアップしちゃいました~。本番も~よろしくお願いしますね~。私も出来るだけサポートしますね~」
「俺もダンジョンでは戦った事ないんで、案内よろしくお願いしますね。ところで、さっきのスタンは農家ジョブのスキルか何かですか?」
「あれはジョブのスキルじゃなくて、種族スキルの方ですね~。【痺れる花粉】っていう範囲系のスキルですよ~。大体数秒程度の麻痺ですが~」
種族スキルってことはアウラウネであるロゼさんの固有のスキルってことか。痺れさせる他にも眠り粉とか毒の粉とかもありそうなスキルだ。
ダンジョンではロゼさんの支援を主軸にしてミツバがメインアタッカー、それが遊撃ってところかな?
と思ったが、ロゼさんは残念そうな顔をしてため息をついた。
「たまに農園に紛れ込んでくるゴブリン程度であればこれで事足りるのですけどね~如何せんあのダンジョンとはすこぶる相性が悪くて~……。ダンジョンでは足手まといになってしまうのでよろしくお願いしますね~」
「相性が悪い? スタン系が効かない敵ってことですか?」
「スタンというか、アルラウネの種族スキル全般ですね~。状態異常に強いので~」
残念な事に現実はそう甘くないようだ。だけど、レベリングだけなら安全マージンを十分にとって戦うわけだし、特に問題はないか。即死効果も現実に発動することが分かったのだし、そうそう危険な事になることはないだろう。
そう思っていた俺の想像はすぐに覆されることになった。何故なら俺達のたどり着いたダンジョンの名前は【棄てられし者の揺り籠】。
アンデッドモンスターたちの巣窟だったのだから。
この作者毎回移動描写とかで一話使うけど、これ絶対蛇足だよね無駄だよね←