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第七十話~魔族領・迷宮編~


「農園……だよな」

「農園……だね」


 ガムのアドバイスに従って進んだ先にあったのは、綺麗に区画整理された畑に生えた薬草や野菜といった数々の植物。かなりの規模で広がるそれはどう見ても畑にしか見えなかった。

 俺、ガムに火力不足を解消することが出来るかもしれないって言われたからこっちにきたんだけどな。なんで農園についてるんだ? あれか? おいしい食べ物を食べて身体を作るってか? ゲームでそんな事出来るか! ……ん? ステータスが上がる系の食べ物のシステムとかならありえるのか?


「どうする? 中に入ってみるか?」

「ボクは入るのは賛成だけど、勝手に入ってもいいの?」

「それもそうか……すいませーん! 誰かいますかー!」


 

 NPCの土地であれば勝手には入っては友好度が下がってイベントフラグが発生しないかもしれないし、プレイヤーの所有する土地であればそのままPKか泥棒と判断されてガチバトルが始まっておかしくはない。ゲームオーバー=データ消失のこのゲームにおいてPKが忌避されているのは人族領側のプレイヤーの暗黙の了解であって、魔族領も同様にそうであるとは限らないしな。

 一応畑の向こうまで届くように大声で呼びかけてみる。マナーは守ったほうが良いだろうからな。


 少しだけその場で待っていると、畑の向こうから誰かがやってきたのが見える。恐らくこの農園の持ち主だろうな。どんな人だろ……なん、だと…!?



「あらあら~ ちゃんと挨拶をくれる方が来たと思ったら~、ずいぶんと可愛いお客様ですね~」


 おっとりとした喋り方とかお姉さん属性が強いとかそういう事はまずおいておこう。メロンだ……メロンがそこにある。一歩歩くたびにメロンが弾み、母性の象徴が大きく揺れてやがる……! 

 マズい。どんな頑張っても目が胸元から離れねぇ……殺気!? 


 急激に背中が凍り付くような感覚に襲われて隣のミツバの方をむくと、害虫でも見るようような嫌悪感全開の目で俺を見ていた。人はここまで人を嫌悪できるのか……いや、冗談をいって現実逃避している場合じゃない。悪いのは俺なんだから急いで目をそらさないと。


 気持ちを改めてもう一度メロンの人……じゃない。その女性を見る


 着ている服は農園に似合った作業着のような服。緩いウェーブのかかった緑色の長髪と、同じく透き通るようなきれいな緑色の肌。恐らくそういった肌色の魔族の種族なのだろうけどいったいなんだろう。ゴブリンにしては背が高いような気がする。

 顔立ちは碧眼のタレ目でおっとりとした印象を感じる。大人のお姉さんという感じを強く感じる。

 モデルのような長身で、特に胸部装甲でいえばミツバの戦闘力の数倍……これ以上はやめておこう。俺の命が危なくなる。

 俺がその人物を見ている間にミツバが女性に話し掛けた。


「ボクはミツバって言います。お姉さんは何をしている人ですか?」

「これはご丁寧に~。私は~ロゼといいます~。見ての通り農家ジョブのドリアードですね~。もっと砕けた口調で大丈夫ですよ~」

「突然押しかけて申し訳ない。俺はメイ。ヒューマンで、ジョブは短剣使いという事にしてくれ。実は__」


 ここに尋ねた理由を話すと、ロゼさんは困ったような表情をうかべる。

 

「困りましたね~。確かにステータスをドーピングする植物アイテムの研究はしています~。でも、まだ何も成果がないんですよ~。申し訳ありません~」

「そう、なんですか。いや、勝手に押しかけた俺達が悪いんです。気にしないでください。……それにしても植物アイテムの研究ですか。すごい事をしてますね」

「あらら~褒められちゃいました~」


 自分のやっている事を褒められたのが嬉しかったのか、ロゼさんは頬に手を置きコロコロと笑っている。

 いや、話を聞く限りこれが本当にすごいんだ。


 はじめは単純に薬草を増やせば魔族プレイヤー達が安全にレベリングできると思って生産していたらしいけど、農家ジョブにドはまり。

 【植物研究】という農家ジョブの固有スキルという手に入れてからは、回復量の高い薬草や生産量の多い薬草に品種改良を加えたりといろんな事を手広くやっていて、今では薬草だけでなく様々な植物で試行錯誤をしているらしい。

 ちなみに今一番力を入れているのは永続的にステータスを強化できるようなドーピングアイテムとのこと。



「褒められておいてなんですが~、ドーピングアイテムだけはなかなか上手くいかないんですよ~」 

「装備やスキルは兎も角として、直接的にステータスを上げる事が出来るのはレベルアップするくらいしか手段がないですからね。もしかしたらその他のステータス強化っていうのはシステム的な規制が厳しいのかもしれません」

「やっぱりその線が怪しいですよね~。永続的な強化どころか、制限時間付きのステータスバフのある植物アイテムですら失敗判定になっちゃうんですよ~。不思議ですよね~。それと~メイさんも砕けた口調でいいんですよ~?」

「いや、それはちょっと……」


 アニーやサオリと違って、ロゼさんには独特の雰囲気というか、フランクに接しがたい感じがするんだよな。あのおっとりとした空気がそうさせてるのだろうか。モルガーナには敬語を使わないのかって? 何をいまさら。

 そこまで数秒程度のバフが付くだけでもだいぶ今の環境が変わるだろうに、それすら失敗になっているのか。いや、環境が変わってしまうからこそ難易度が高く設定されているのか? 

 システム的に規制されているのか、単純に作成難易度的に失敗しているだけなのか。ううむ、今の状況じゃ憶測の域をでないか。

 

「ねーロゼさん。こっちの花も薬草なの? 鮮やかでとっても綺麗だよ?」

「あら~? ミツバさん、そっちの花は触っては駄目ですよ~。毒花なので~毒耐性系のスキルを持っていないと、大変な事になっちゃいますよ~」

「毒草!? そんなものまで作ってるんですね」

「はい~。これでも生産職側のソロプレイなので~防衛手段ですね~。この辺のモンスターならこれで倒せますね~」


 驚いたことに薬草の区画と同じくらいの量で毒草も育てているらしい。しかもダメージを与える毒の他にも麻痺のバッドステータスを与える麻痺毒や睡眠のバッドステータスを与える睡眠毒の類もあるらしい。

 楽しそうにコロコロと笑いながらそう教えてくれたロゼさんなのだが……何故だろう。楽しそうに毒花について語るロゼさんを見てたら恐怖を覚える。


 にしても毒か……状態異常系の攻撃が出来る様になれば単純にステータスを強化するよりも強力な手札になるはずだ。もしかしたらガムはこの毒草の事を言っていたのではない。 どうにか融通してもらえないだろうか?


「そういえば、ストーカー……もとい知り合いにこの辺でダンジョン? とかいうすっごい戦えるところがあるって聞いたけんだけど、ロゼさん何か知らない?」

「ダンジョンですか~。あるにはあるんですが~、あそこは相性が悪いので入ったことがないですね~」


何気ないミツバとロゼさんの会話を聞いてピンときた。ロゼさんのレベリングを手伝えば、その対価に毒草を多少譲ってもらえないだろうか。

 農家ジョブの本来のレベリングスタイルは分からないけど、これまでの経験上俺とパーティーを組んでダンジョンで戦闘をしたほうがレベルアップは速いはずだ。

 なんだか秘密にしたほうが良いってアニー達と話をしていたのにだんだんと知っている人が増えている気がする。いや、今回は取引なわけだから許容範囲だろう。


「ロゼさん。物は相談なんですけど、そのダンジョンでレベリングを手伝わせてくれませんか? その代わり、報酬としてあの毒花を貰いたいです」

「毒花ですか~? それくらいなら大して高価でもないので無償でも大丈夫ですが~……。そうですね~、正直レベリングはとっても助かるので~お願いしますね~」

「本当ですか!? それじゃ今からでも……って、結構いい時間か。すいません。明日もう一度ここに来ますね」

「はい~。お待ちしていますね~」


 内心でガッツポーズをしながら明日の約束を付ける。本当は今すぐにでも行きたいけど既に11時を回っているからな。ミツバはまだ中学生らしいからあまり遅くなるプレイはやめておいたほうが良いだろう。せっかく姉と違ってまともな性格をしているんだから、ひねくれさせるわけにはいかない。


「ふふふ~。お姉ちゃんがダンジョンはロマンだって言ってたけど、つまりダンジョンっていっぱい戦えるんでしょ? しかも強い奴と。 ジョンド君と一緒に行ったところはイカ相手で新鮮だったし、明日が楽しみだよ? 殴る? 蹴る? まだ一回も関節キメてないからちょっと試してみたいかも」


 ……前言撤回。姉とは別の方向で手遅れかもしれない。バトルジャンキーなのはこれまでも経験で分かっていたけど、モンスター相手に関節技決める計画立て始める程とは思わなかったな。年下だけど、やっぱりミツバを怒らせるのはやめておこう。


 ミツバとロゼさんに別れを告げて今日はログアウト。明日は初のダンジョンだ。




何処かのダンジョンの洞窟の中より


「ねぇーマオさん~? 次は~どっちに曲がる~?」

「そうだねぇ。正直どっちがいいのか全然わからないけど、とりあえず次は右に行ってみようか。次は出口があるといいねぇ」

「そだね~」


 マオと呼ばれた中年の男性とやけに話す速度の遅い甲冑の人物はそのような会話をしながら洞窟の中をさ迷う。気まぐれに入ったはいいが、出口を忘れてしまった二人は短くない時間をこのダンジョンの中でプレイしている。

 本来なら、未だ自身のキャラクターの操作に四苦八苦している者が多い魔族プレイヤーがこのダンジョンに回復アイテムの類も持たずに迷い込んでしまえばあっけなくLP0になりゲームオーバーになってしまう。だが、若干特殊な立ち位置にいるこの二人であれば問題なくさ迷い続けることが出来ていた。

 特にマオと呼ばれた中年の男性のステータス補正値は絶大であり、多少強い程度のモンスターではキャラクター性能でゴリ押せるのだ。

 本気で出る気があるのかわからない会話をしながら二人が進むと、その先にはまた別れ道とダンジョンモンスター。

 また出口じゃなかったね~とのんきな事を言いながらモンスターを倒し二人は先に進んでいく。ちなみに二人に襲い掛かったダンジョンモンスターは決して弱くはない。

2人は出口を探しているつもりでいるが、実際にはゆっくりダンジョンの奥に進んでしまっているので相応に高レベルのモンスターとエンカウントしている。にも関わらず談笑交じりに簡単に倒せているのは一重にステータスが高いせいである。


「それにしても、このレベル? っていうのは中々上がらないものだねぇ。これだけ戦っているのに僕のレベルはまだ15だよ」

「そだね~。オイラのレベルはーもう25になるのにね~。でも~マオさんはー元々強いから無問題ー(モーマンタイ)?」





 ステータス補正はチート級に高いがレベルが中々上がらないプレイヤーと、ステータスは低い癖にバグといっても過言ではないレベル上げプレイヤー。


方向性は正反対であるが、共にチートのような性能を有したプレイヤー達が出会うまであと少し___

 


 



今回推敲も添削もしないで投稿したのでミスあったらごめんなさい。

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