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第六十八話 ~魔族領・宝島編~

展開を巻きで書いたから話の展開が急に感じたらごめんなさい。


「オォォォォォォォォォォォォン!」


 海の悪魔が産声を上げる。


 リザードマンのボスが呼び出したと思われるクラーケンは、一本一本が大木程はありそうな白い触手をウネウネと蠢かせ水面から顔を出す。

 湖の面積は洞窟の中のとは思えない程の広さなのだが、クラーケンが大きすぎるせいで水たまり程度にしかないのではと錯覚するほどだ。


「コットンさんコットンさん! イカです! でっかいイカです!」 

「ハハハ! 落ち着くんだサブカル文化の勉強不足な相棒よ! これはイカに見えるがクラーケンっていうれっきとした伝承上の化け物なんだぜ? それもドラゴンみたいな人の身じゃどうしようもない系の伝承だ。おかげで笑いしか出てこないぜこんちくしょう!」

「大きいねぇ。あの要竜? と同じくらい大きいんじゃないかな?」


 あまりにもデカすぎるクラーケンを相手に、コットンが自棄になったように乾いたわらいをこぼす。

 リザードマン相手では全く動じず楽しんでいたミツバも、流石にこの大きさに目を丸くしているくらいだ。要竜クラスと言うミツバの言葉も納得だ。

 大きさだけなら多分あれと同じ大きさレベルに感じるのだ。水面上でそれなら、触手を含めた全長は上回るんじゃないか?

 

 一応短剣を手にしてはいるが、これでは爪楊枝代わりにもならないように思える。いや、ゲームなのだから数値としてHPは減るんだろうけど、そもそも湖の中にいるのだから攻撃できないのだから同じような物か。


「オォォォォォォォォォォォォン!」

「シャア!?」

「シャコタン!?」

「クラーケンがリザードマンを捕まえている……? 味方同士って訳でもないのか?」


 巨大な触手を器用に振るい、まだ半数近く残っていたリザードマンが次々と湖の中に引きずり込まれていく。

 種類が違うからか、同じ敵モンスターと言えども連携して俺達と戦うってわけでもないらしい。あれだけの大きさの敵と一緒にこの数も相手にしなければいけないのは大変だったからこっちとしては助かるけど、あのリザードマンをこうもあっさりと消していくのか……。


 呆然としながらただ見ていると、あれだけいたリザードマンは一匹残らずいなくなってしまった。ここで簡単な問題。引きずり込む対象がいなくなったら次は何を狙うと思う?


 俺達だ。



「あれに捕まったらどう考えても終わりだ! 逃げに徹して立ち回るぞ!」

「はいコットンさん!」

「ハッ! ……うぇ、ヌルっとして拳が滑るよ?」


 俺達に向かって伸びてきた触手に対し、コットンが退避指示を飛ばす。ミツバが牽制がてら触手を殴ってみたが、ぬるりと滑りダメージらしいダメージは見られない。打撃に対する耐性が高いのか? これじゃ、これまでダメージソースだったミツバの攻撃が殆ど通らないな。

 粘液が生理的に受け付けなかったのか、ミツバも顔を顰めて嫌そうにしながらジョンドに続いて触手から逃げる。

 魔法に強い要竜の次は打撃に強いクラーケンか。エリアボスってやつはつくづく面倒だな。ここは斬撃のできる俺とジョンドが中心になって戦うことになるか。

 ミツバの様子を見て俺と同じ結論に至ったのか、ジョンドの肩の上からコットンが叫ぶ。


「メイ! その短剣の他に剣系統の武器は持っているか!?」

「俺の持っているのは予備含めてこの短剣だけだ! 他の武器じゃSTR値的に持つことができない!」

「そうか……相棒! パターンCだ!」

「あれですね! わかりました!」


 そう言うと、コットンはおもむろにジョンドが持つカットラスへと纏わりついた。まさか、本当にCってカットだったのか!? スライムとは言え、他プレイヤーの武器にまとわりついて大丈夫なのか!?

 

「剣が纏うは、鉄をも溶かす溶解液!」 

「結果が被れば斬鉄剣も過言じゃねぇってなぁ! 【アシッドドリップ】!」

「「これが必殺! カットラスライム!」」


 コットンが被ったカットラスで触手を斬りつけると、バターでも切り分けたかの様に触手を切り裂いた。ネーミングは兎も角、すごい攻撃だ!

 パターンAが臨機応変な戦闘スタイルだとするなら、これは剣に特化した戦闘スタイルだろう。ミツバの攻撃では全く反応を示さなかったのに、ジョンドの斬撃を喰らったクラーケンはうめき声をあげ触手を縮めた。


「どうだ! 【アシッドドリップ】の効果で防御力を下げてダメージ増加!」

「何故か二人分の攻撃力で更に威力アップ! これが僕達の切り札です!」



2人分の攻撃力……? それバグ技じゃないのか!? カットラスを振るうジョンドと実際にモンスターに接触するコットンの分で加算されるなら仕様なのか……?

何はともあれダメージが増えるなら突っ込まなくていいか。


俺も負けじと【ステップ】スキルを使って触手を避けつつ、短剣を使って斬りつける。ジョンド達ほどの攻撃力はないが、ミツバの様に滑って攻撃にならないという事にはならずに触手に通る。やはり、純粋に打撃が効きづらい性質があるんだろう。

 続けざまに短剣を振るい、一閃、二閃、三閃。捕まりそうになったのでステップスキルを使用し離脱。離脱の間際に【ダガースロー】で短剣を投擲してさらにダメージを稼ぐ。

 触手の攻撃を回避できたので再びステップスキルで距離を詰め、投げた短剣を回収して更に斬りつける。


「オォォ……オォォォォォォォォォン!」



 触手の先を斬りつけられて怒ったのか、クラーケンの攻撃が激化した。

 触手を地につけガリガリと地面ごと横薙ぎに払う。巻き込まれたら触手に捕まったどころのダメージではないだろう。

 触手の一番近くにいたミツバは、走り高跳びの要領で迫りくる触手の上を跳ぶことで回避。攻撃をすることはできなくても攻撃を受けてしまうという心配はなさそうだ。

 


「コ、コットンさん!? 僕あんな高くジャンプできません!」

「相棒! 全力でガードだ!」


だけどジョンド達はそうはいかない。アンデッドであるジョンドは受けて耐えることはできても回避する事は不得手の筈だ。いくら高耐久と言えどもこの触手に巻き込まれたらひとたまりもないだろう。

 【ハイステップ】スキル、さらに続けてセカンドサードと続けて使い急ぎジョンドの元へと走る。


「間に合ぇ! 【ジャンプ】!」


 ジョンドを抱えてジャンプスキルを使い思い切り跳躍。リザードマン戦から重ね続けた【成功】スキルによって俺のステータスは軒並み一般プレイヤー以上に高まっている。

 同じくコンボを重ねて上昇させているミツバ程ではないが、今の俺のSTRステータスであれば、ジョンド一人くらいなら問題なく抱えて跳ぶことができる。

 跳躍した俺は触手の上空を通過し、何とか薙ぎ払いを回避する事が出来た。


 コットンがスライムでジョンドにくっついていたのが幸いしたな。もしもコットンも普通の人型のプレイヤーだったら、2人を抱えて跳ぶことは不可能だったかもしれない。


「ありがとうございます!」

「すまねぇ! 助かった!」

「あぁ! それよりもこいつをどうやって倒す!?」

「考え中だ!」


 短くやり取りを交すがコットンもどう攻略していくかまだ何も考えついていないらしい。こんな時にモルガーナがいれば、作戦の一つや二つ考えてくれるんだろうけど、ない物ねだりをしても仕方がない。


 せめて湖から引っ張り出すことができれば、触手でなく本体を叩くことができるんだけど……引っ張り出す? そうだ!


「湖から引っ張り出せるかちょっと試してみたいことがある! これからちょっと黒歴史晒すけど、絶対に突っ込まないでくれ!」

「黒歴史? 一体何をやるつもりだ?」

「あ! センパイあれやるの? れでぃーすえーんどじぇんとるめーん?」


 既にミツバが煽ってくるが気にしない。この子は今に始まった事じゃないし。

【演目設定】発動。


「1.【オープニングトーク】 2.【ナイフショー】 3.【アクロバットショー】 ハイライト【アニマルショー】!」


【プログラム セットアップ! Are You OK?】


設定が完了し、スキルが確認を取ってくる。もちろんOKだ。ボルテージを稼いで適度に攻撃することができるようなシナリオレール。最初に自分へヘイトを集めることも忘れない。

 手を広げ、この場の全てのギャラリーに聞こえる様に大きく開幕を宣言。


「レディース! アーンド! ジェントルメン! ウェルカムトゥー サーカスショー!

 さぁ! ショーの始まりだ! だけど、その前に一つ言わせてもらいましょう!【触手展開なんてR指定に引っ掛かることをしてくれるな! このイカ野郎!】」

「オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ン!?」


宣言したことで洞窟内にショーの舞台と観客席が現れる。好都合な事に、クラーケンのいる湖はちょうど観客席に位置している。

ヘイトスピーチのスキルによってクラーケンは俺に煽られ怒りを向けてくる。俺が気を引き付けている間にコットンらが何か作戦を考えてくれることを願おう。更に続けて口を開く。

 

「【手だけ伸ばして美味しい所を掻っ攫う? それはちょっとバッドマナー! バッドマナーはイカンなぁ! おや? 怒りに任せて手を出しますか? やっぱり所詮はイカ頭! プギャー!】」

「オ゛ォォォォン!」

「やだなぁ! ショーはまだ始まったばかりですよ? だからまずは……【ご着席下さい】」


 俺に向かって伸びてきた触手が俺の一言でピタリと止まる。座ることが優先されて触手を伸ばすという着席と関係のない行動が阻害されているのだ。良かった。水中だと意味がなかったらどうしようって内心心配だったんだよな。

 俺を攻撃したくても何故かできないクラーケンの滑稽な動きによって、ボルテージが若干上昇した。ハイライトまでにもっと盛り上げておかないと。



「【イカ耳はあっても聞く耳は持たないお客様のようなのでお次のショーへ移りましょう!】 お次は道化師による【ナイフショー】!」


 左手に短剣を指と指の間に挟むように4本持ち、利き手には一本持ち、掌の中でくるくると回す。

 安い最初期の短剣だからそこまで大きなダメージは期待できないが、大事なことはこれでボルテージを稼ぐことだ。

 うねうねと動く触手に一本投擲。


「的が大きくていまいち手応えがありませんネー! 口? 鼻? 目玉? もっと投げ買いのある的の提供をお願いしますよ!」

「オォォ……オォォォォン!」


 もうヘイトスピーチは使っていないというのに、よほど頭に来ているのかクラーケンは触手だけでなく胴体部分の殆どを水上へと持ち上げてきた。ありがたい。

 わざわざ狙いの的になる部位を見せてくれたのだから。


 もう一度【ダガースロー】を使用し、手持ちのナイフを更に投擲する。回転しながら真っすぐ進むナイフは、クラーケンの魚類故に感情の読みない大きな眼球に突き刺さった。 


 初心者が買えるほどの初期の短剣。しかし、ここまで積み重ねて発動させ続けた【成功】スキルの連鎖。そして、弱点部位であろう部分へとクリティカルダメージ。


 ダメージに繋がらない訳がない。


「オォォォォォォォォォン!?!?!?」


「ジャストヒィィィット! さぁ! 眼球真ん中ドストレート! 残る三本も当てられるか!?」


 クラーケンが痛みに悶えているうちに残る三本も続けさまに投擲し、再度アイテムボックスからナイフを取り出す。そろそろストックがなくなってきた。手に持っている分と合わせて9本しか残っていない。魔族領で補給できるかもわからないし、節約して投擲しないと。


 投擲された三本は右目・左目・右目と突き刺さった。弟子入りイベント時にアーティさんに鍛えられた投擲センスが冴えてるんじゃないか? 

 普段はなんとなしに投げているけど、こうして的だと思って投げてみると上達していることを意外にうれしく感じている。

 軽く隙の時間が空いたのでジャグリングをしつつもう一度煽る。


「的がでくの坊だと狙いやすくてありがたいですねぇ! これならよそ見をしてても当てられそうでゲソ!」

「オ゛オ゛ォォ……オ゛ォォォォォォォン!!!」


 怒髪天とでもいえる様子のクラーケンが有する触手全てを駆使して俺を狙う。ヘイトを一心に集めていることでジョンド達には一切狙われいていない。どんな会話をしているかは聞き耳を立てる余裕はないけど、できればあまりこの事をいじらないでほしいな。


 流石にナイフショー下ではこの触手の乱舞を回避する事は難しいので、次のショーへと移る。


「お次は道化師が飛び交う【アクロバットショー】! 飛び入り参加のイカ野郎様とコラボした、空を踊る道化師の乱舞をご覧ください! 【ステップ】、【セカンド】【サード】。【ジャンプ】」


 右へ左にステップで移動し、横薙ぎの攻撃に対してはジャンプで対処する。空中で身動きが取れない状況で更に振るわれた。身を捻る程度では回避しきれそうにないので【オーバーリアクション】を発動させることにする。


「ぐぅ……! 倒したと思った? 残念! 無傷でした!」


 確かにダメージは0だ。だけど、思い切り吹き飛ばされたので視界が揺れる。目が回りそうなるが必死にこらえる。

 これ以上吹き飛ばされては敵わないので【失敗】スキルを使って【オーバーリアクション】の効果をキャンセル。

 更に振るわれる触手をもう一度【ステップ】スキルを使って回避を繰り返す。避けて、避けて、時折ジャンプで上へと逃げるのループだ。

回避際に手にするナイフで軽く触手を斬りつけることも忘れない。こういう所で小さくダメージを稼いでおかないといつ倒し切れるかわからないしな。


「す、すごい……メイさんってあんなに速く動けるんだ……」

「すごいのは分かるが、相棒? もっと気になるところがないか? ほら、あの口調とかとくに……」

「プクク……でたよセンパイの黒歴史アタック。後で絶対弄ろ♪ 」

   



 後ろから物凄い不吉な声が聞こえた気がするが今はスルー。流石にこれだけの触手連打の前によそ見をしている余裕はない。


Hhuuuuuuuuuu!



 ある程度回避を続けていると、歓声の大きさがボルテージの高まりを伝えてくれた。これくらい高まれば大丈夫だろう。弟子入りイベントクリアの選別としてアマンダさんからもらった猛獣使いの鞭を装備して次の宣言。

 

「お次は本日のハイライト! 危険厄介な猛獣ショー! いきなり花形から行きましょう! 【スルーホープ】!」


 俺のスキル発動宣言によって、舞台上に巨大な輪っかが出現する。猛獣ショーでライオンやトラが潜り抜けるアレだ。

 イカ相手にそんなものを出しても意味がないって? 何も輪潜りをするのは哺乳類だけじゃない。イルカやシャチといった水生生物でも輪潜りがあるだろう? 

 要竜戦では、俺のテイムしたモンスターもいないし、ドラゴンと猛獣ショーの関連性がなかったから使えなかった。それに、輪潜りの強要は舞台上の者にしか指定できない、だけど!

既に触手の殆どが舞台上へと侵入している今、出演者判定で輪潜りを強要できるはずだ!


「さぁ! 本日の山場! 飛び入り参加のクラーケンは、見事頭上に設置された輪っかを潜り抜けることができるのか!? ドラムロール!」

 

 緊張感のあるドラムの音が辺りに鳴り、俺が鞭を振るった瞬間シンバルがけたたましい音が爆ぜた。


「跳べ! このゲソ野郎!」

「オォォ!? オォォォォォォォ?!?!?」



 狙い通り、スキルの強制力によってクラーケンは頭上の輪っかへ向かって跳躍していく。あまりの巨大さのせいでまるでスローモーションに見えるような錯覚を感じつつ、きれいに輪を潜り抜ける事に成功したクラーケンはそのまま地面へと落下した。


【大! 成! 功!】 【EX連鎖!】


「おおっと! ここで大技を大成功! クラーケンもうれしさのあまり地面の上でビタンビタンと跳ねている! え?嬉しくなさそう? 気のせいでしょう! 」


 大声援の中、スキルが【大成功】とアナウンスを知らせてくれる。そういえば【成功】の他にも大成功なんてスキルがあったな。連鎖もエクストラって何か変わったようだし何か効果が変わったのか? 予想外にスキルが発動したことに驚きながらもショーの仕上げに移ることにする。ここまでかき乱しておいてなんだが、このクエストの主役は俺じゃない。そろそろマイクは返すころだろう。


「これにてショーはお開き! 御覧の皆様、祝砲と共に閉演と致しましょう! 」


 祝砲。俺がそう言うと輪っかが消え、代わりにこれまた巨大な砲台が現れる。砲台の向きはクラーケン……の奥にいるジョンド達だ。


「道化師の役目はこれにて終了! 後は任せたぞジョンド達! 【エンド・オブ・ステージ】!」


パァーン!


 俺の合図とともに祝砲が小気味良い軽快な怒号を響かせ中身が飛び出る。

カラーテープや紙吹雪。パーティーの主役に向けて放たれるクラッカーの様に、キラキラとした様々なものがジョンド達に降りかかる。


「わぁ凄いよ? 前はこんなのなかったのに、ハデハデだよ?」

「あ、コットンさん見てください! ステータスが軒並み跳ね上がってます!」

「なにぃ!?」

 

 その通り。ショーの最後には観客たちに祝福と笑顔をプレゼントするのがサーカスだからな。【演目設定】スキルの最終演目終了後のみに使えるスキル【エンド・オブ・ステージ】。

効果は、最終的なボルテージ量に準じた全ステータスバフを祝砲を浴びた対象に付与する事。効果時間もそれなりに長い。

いくら強力なエリアボスと言えど、最大値まで上げたボルテージのバフなんだ。ジョンド達の力なら圧勝てるだろう。


「コットンさん! 行きましょう!」

「……そうだな相棒! ここまでお膳立てして貰ったんだ! これで勝てなきゃ海賊じゃねぇ!」

「ヌルヌル、もとい人型以外は専門外だけど、ボクもちゃんと頑張るよ?」


 三人が一気にクラーケンに向かい走り出す。クラーケンは有名な海の魔物だけど、こうやって陸上に引っ張り出してあげればその力は大きく削がれる。

 事実、自重に負けて触手を動かすのが精いっぱいのようだ。

 コットンによってコーティングされたカットラスを、ジョンドが本体へと斬りつける。バフの効果で、元々高かったジョンドの耐久力は更に強化されている。もはや触手がどれだけ自分を攻撃しようがお構いなしだ。


 海賊コンビだけじゃない。

 打撃では有効打が与えられないのは承知の上でミツバもクラーケンへと攻撃を繰り返す。よほど触手のヌルヌルが嫌だったのか素手で殴らずに足技だけど、まぁ女の子だしそれくらいは仕方がないか。


 俺も負けてられない。鞭をしまって短剣を取り出して俺もクラーケンへと向かう。せっかく大成功とEX連鎖なんてのが発動したんだ。使っておかないと損だろう。

 【ステップ】スキル群を使って距離を詰めつつ【的確急所】を発動。そして触手に向かって短剣を振るう。


【スキル:成功!】 【EX連鎖!】

【スキル:成功!】 【EX連鎖!】

【スキル:成功!】 【EX連鎖!】

【スキル:成功!】 【EX連鎖!】

【クリティカル:成功!】 【EX連鎖!】

 

 連鎖はEXのまま? 大成功の後は連鎖の効果が変わるってことなのか? EXってくらいなんだし、強力になっているのは変わらないだろう。

 どうせ打ち上げられたイカなんだ。空いている手にも短剣を取り出し、手数でクリティカルを稼ぐ! 

 一閃、二閃、三、四、五__。しばらく全員で攻撃していると、クラーケンに変化が訪れる。


「オ゛オ゛オ゛オ゛……」

「な、なんだ!? いきなり暴れだした!?」


 まるで最後の抵抗とでもいうようにひとしきり暴れたクラーケンは、糸が切れたかの様にパタリと動きを止め崩れ落ちた。お、終わったのか?

 

 

「あっ」 

「今度はなんだ相棒!?」

「と、討伐完了って表示が出ました!」

「ていうことは……」


 コットンの言葉に、嬉しそうに明るい声で返事を返した。


「やっと終わりです!」

「終わったぁ!」


 エリアボスを倒せた! これで俺達は二回目のエリアボス討伐だな。ステータスを開いて確認する。221レベル……リザードマンとエリアボスを含めて19くらい上がったか? 要竜と比べると上がり幅が低いけど、あれは例外だったのかな?それに、ここまでのレベルになると必要経験値もその分増えるか。

むしろたった一回の戦闘でこれだけ上がることの方が異常だって考えたほうが良いだろうな。

ジョンドとコットンはステータス画面を開いて固まってるっぽいし。

 

「ふぇ……? ひ、100レベルを超えてる……」 

「お、俺もだ……嘘だろ? こんなに一気にレベルが上がるなんて……喜びを通り越して引くわ」


 二人のレベルは相当上がってるらしい。出会った当初は5,60くらいだったのがそれだけ上がったのなら十分な成長だろう。ステータスで騒いでいるとまたもや異変が起き始める。いったい何度目だ!?


「今度はなんだ!? 地震か!?」

「……違います! 壁が崩れて、奥から何か……!」

「壁だけじゃないよ? 湖の方もブクブク泡が出ているよ?」


 ジョンドの言う通り、洞窟が揺れたかと思うと壁が崩れて奥に隠された何かの姿が見える。きらびやかに輝く金貨の山。そしてそこに埋まるようにして宝箱がいくつか見え隠れしている。これが船長の言っていた持ち帰る財宝なのか?

 湖の方を見るとミツバの言う通り気泡が浮かんできている。まさか第二第三のクラーケンでも出てくるのかと警戒したが、湖の底から飛び出してきたのは一隻の船だった。

 それも小船なんてレベルじゃない。不屈の海賊団の海賊船に匹敵するのではないかという程の立派な帆船だ。



「す、すごい……もしかして、これ全部宝島の財宝なんでしょうか?」

「財宝よりも気にするべきは船の方だぜ相棒。あれも持って帰るべき財宝なんじゃないか? でもこれどうやって持って帰るんだ?」

「あ! 湖の方の壁も崩れてるけど、その奥が水路になってるよ?」


 都合のいい事にちょうど船が通れるほどの水路が湖の奥にできた。この辺のご都合主義はゲーム基準なんだな。クラーケンが自重で苦しむ辺りは無駄にリアルなのにありがたいことだ。


「船まで宝物にあるなんて驚きです! 宝物は全部あの船に積んでいきましょう!」


 突然現れた船にテンションが上がったジョンドが元気よく駆けだして宝物を運び始める。崩れた壁の向こうの、見上げるような宝物の山。あれを船に積み込むのか。……そこはゲーム基準じゃないのか。



 

 




「全部持ち帰ってきたのか。それも船まで」

「はい! メイさん達のお陰で全部運ぶことができました!」

「運んだと言ってもただ往復しただけだけどな」


 宝を全部積み込んだ俺達は、湖から現れた船に乗って洞窟の外へと脱出し不屈の海賊団と合流した。今はジョンドが嬉しそうに船長へと報告をしている。

 

 ちなみに、宝の山を積みいれるのはそこまで大変な作業にはならなかった。宝がアイテム扱いだったお陰で、アイテムボックスをフル活用してひたすら船と宝の山を往復するだけで済んだ。もしアイテムボックスが使えなかったら、五感が完璧に再現されているこの技術のせいでひたすら重い荷物の運搬という地獄を味わっていただろう。

ジーク船長はにやりと笑ってジョンドの頬を引っ張る。


「ペーペーの癖に頑張ったじゃねぇか。合格だ!」

「あいがほうほじゃいまふへんひょう(ありがとうございます船長)!」

「一人前の海の男になったんだ。その船で自分の団でも作るんだな」 

「……はい! 頑張ります!」


 船長が今回手に入れた船を指さし、自立の許可をだす。弟子入りイベント同様、合格したことで自立する許可が出たようだ。

 海賊としてジョンドが独り立ちするらしい。ここまで戻ってくる時も船の操舵は全く問題がなかったし、海賊ジョブとして問題なくプレイできるだろうな。レベルも高いし。

 船長だけでなく、他の乗組員たちもこぞってジョンドを祝福してくれている。


「おう兄弟! やったじゃねぇか! 」 

「まさか船長が独り立ちを許してくれるとはな! 寂しくなるぜ!」

「てめぇはパシる奴がいなくなるからだろ! 困ったことがあったらすぐに言えよ! 船長が跳んで行って助けブラァ!?」  

「てめぇは余計なことを言うんじゃねぇ」


 一部船長の暴力的なツンデレの被害を受けているが、感極まっているジョンドは突っ込む様子はない。あのスケルトンは泣いていいと思う。


「船長……フランさん……皆さん……ありがとうございます! 僕、頑張って海の男になります!」  

「相棒のことは任せてくれ! 俺がしっかり面倒を見るからよ!」

「ばーか。肩に乗せてもらって面倒見てもらってる癖に何言ってんだ。」

「「「ちげぇねぇ!」」」

 

 明るいアンデッド達に見送られ、俺達はジョンドの船へと移る。始まりの町まではジョンドの船で行くことになる。

 全員が乗り移った所で、ジーク船長はジョンドに自身のキャプテンハットを投げ渡す。特に何か励ましの言葉をかけるわけでもなく、それだけ渡すと不敵な笑みを浮かべたまま船長室へと戻っていった。

 神妙な表情で恐る恐るキャプテンハットを被ると、舵輪を握りカットラスを取り出す。自分がこれから船長になることに思うところがあるのかもな。部外者が口を出すことでもないか。


 新たなる船長は、手にするカットラスを掲げて高らかに門出の宣言する。


「全速全身! 僕達の冒険はこれからです!」

「相棒!? それは打ち切りフラグだから言っちゃいけない奴!」

「ジョンド!? それは洒落にならないから止めておけ!」





【大成功】

大技を成功させると成功の度合いは大きくなる。

~【演目設定】下に使える特定のスキル等、一部の条件を満たすことで発動。【成功】スキル継続中DEXを1.2倍にし、【成功】スキルの増加量をプラス1からプラス2に変更になる。【成功】の効果が切れるとこの強化効果も切れる。

【EX連鎖】

連鎖ボーナスを全ステータス+1から全ステータス+1%に変更する。【成功】の効果が切れるとこの強化効果も切れる。


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