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第六十五話 ~魔族領・宝島編~

キリが悪かったので今回割と長いです。ごめんなさい。


「改めて自己紹介させてくれ! 俺はコットン! 見ての通りスライムだ! 念のため言っとくけど、ちゃんとプレイヤーだ」

「嘘ついていてごめんなさい。僕の名前はジョンドです。種族は戦闘を見てもらった通りのアンデッド系。【アンデッドヒューマン】っていう種族です。」



 そう言って二人は俺達に頭を下げた。コットンの方はプルプルしているだけだけど、おそらく頭を下げているのだろう。

 嘘を付いていたというのも、まぁ俺達が怪しかったのが原因だからな。実害があったわけでもないし、流してしまってもいいだろう。


 コットン改めジョンドは思った通りにアンデッドだったようだ。しかもゾンビやスケルトンじゃなく、死んで間もない人族の死体のアンデッドという割とレアな種族らしい。うん。違いが判らん。

 コットンの方は見ての通りスライム。見た目はそのまま動く液体って感じなんだが、驚いたことに身体を触手状に伸ばすことも可能らしい。どうやって操作してるんだろう。それに性別も全く分からないし。声も高いっちゃ高いが男性と言われても不思議に思わない中性的な高さだし、流石に性別を聞くのはセクハラになるか? いいか。黙っていよう。


 それはそれとしてせっかく教えてもらったので俺も正直にジョブとかを教えたいんだけど、その前に経験値のことを口止めしておかないと。


「いや、俺達もいきなりパーティーを組んでくれだなんて怪しまれても仕方がないことをしたからな。気にしないでくれ。あの、経験値のことなんだけど……」

「あぁわかっている。 これだけの経験値アップなんて訳ありなんだろ? 口外はしないと約束するよ」

「助かるよ。俺のジョブは短剣使いじゃない。道化師だ。経験値の上昇は俺のステータス構成によるものなんだ。……悪いけど俺から言えるのはここまでだ」

「そりゃそうだろうな。あれだけの上昇量なんだ。簡単に人に教えていたらむしろ俺が怒っていたぜ」

「そうです! 海の男は細けぇことは気にしねぇ!です」 


 流石に全部を全部言ってしまうのは色々問題があるから詳しくは言えなかったけど、2人はそれで納得してくれていたらしい。ちょっとホッとした。

 ところで、種族はわかったけどジョブの方は何なのだろう? 海の男とジョンドは言っていたけど、船乗りとかだろうか? 海の方から来ていたし。


「二人の種族はわかったけどジョブは何なんだ? というか、コットンの方はジョブがあるのか?」

「ん? あぁそうか。人族領側だと普通はジョブの方が重視だもんな こっちだとジョブは種族ほど重視されないから忘れてた。俺は一応【魔法使い】だな。といっても、魔法自体はからっきしだ。基本的にスライムの種族スキルしか使わないからあまり使わない」

「僕は【海賊】です!」


 ジョンドもコットンに釣られて元気よくジョブを教えてくれる。そうか。海賊か……って海賊!? 


 一瞬、警戒してしまったがこの人懐っこい笑みを浮かべるジョンドが悪い事をするのはちょっと考えられない。盗賊ジョブの人だって全員が悪人って訳じゃないし似たようなものだろう。

 そうだ。海賊ってことは海を行くんだよな。それなら船に乗せて行ってもらえば楽に魔族領のプレイヤーが多くいるところに連れて行ってもらえるんじゃないか? 浜辺に沿って行くよりもずっと早いだろうし。


「海賊ってことは船があるんだよな。それなら魔族プレイヤーのいるところまで連れて行ってくれないか?」

「あ? あ~、乗せて行ってやりたいことは山々なんだけど……相棒?」

「みんなで一緒に航海ですね! 船長に言ったら許してくれると思います!」


 よし! これで先に早く進める。試しに行ってみるものだな。ジョンドはそう言うと浜辺においてある船の方に走っていこうとして……コットンに止められた。


「コットンさんコットンさん。止められると船長に聞きにいけないです! あと引っ張られると痛いです!」

「待て待て待て! ちゃんと説明をしろ! メイ。確かに俺達には船がある」

「お、おう」



コットンが必至な感じでコットンを止めると、俺に何か確認をするように聞いてくる。さっきまでのテンションと違いかなり真剣な様子だ。


「あるにはあるが、別に俺達の船って訳じゃない。俺達はあくまでも乗組員なんだ。」

「乗組員? どういうことだ?」

「船の持ち主はジョンドの海賊の“師匠”。そして船長から乗組員まで全員種族的にはジョンドと同系統だ」


 ジョンドと同系統。つまり、アンデッドによる海賊船ってことか? それどこのパイレーツ? カリブ海辺りにいそうな感じの海賊じゃないのか?

 で、師匠ってことは俺と同じ弟子入りイベントと同じ絶賛地獄の特訓中ってことか。


 え? それ一緒に乗っていい要素0じゃないか? 少なくとも俺が黒猫のサーカス団で特訓イベントをしていた時にそんな余裕なかったんだけど。

 なんとなく察した。コットンはそれを先に言ってくれているらしい。


「それ、俺達乗っていいのか?」

「大丈夫ですって! 船長さんはとってもいい人なんですよ!」

「あれを良い人って捉えられるのはお前だけだぜ相棒!」


 どう考えても大丈夫なように感じないんだがこれ本当に言っても大丈夫だろうか……








「で? 何か弁明は?」

「ひひゃいへふへんひょう(痛いです船長)」

「何言ってんだか分かんねぇよ!」


 理不尽なことを言われながらジョンドは両頬を摘ままれビヨーンと引っ張られる。ただ、頬を引っ張っている人の顔はニヤニヤと楽しそうな顔をしているため多分ジョンドで遊んでいるだけだろう。


 俺達は今幽霊船の中にいる。無人で漂う船って意味じゃない。本当に幽霊達が操舵している船って意味でだ。

 スケルトンやゾンビ、グールといったアンデッド達が俺達を囲むようにして剣を抜いて構えている。ジョンド達が必死に説得しているが、これ説得に失敗したら俺達死んだんじゃね? いや、死んだら乗組員に迎えられるかな? ハハハ。

 こんな状況になってもミツバは全く恐れているような様子はない。むしろ「殺っちゃう? もう殺ッちゃう?」 とうずうずした顔をしているくらいだ。頼むから大人しくしていてくれ。話をややこしくしないでくれ。


「……はぁ。また小僧がやらかしおった……。手を焼かねばならんのが若一人から二人に増えるとは困ったものだ」

「俺が一体いつジジイに迷惑かけたよ。まぁいいや。おいコットン。ジョンドが何言ってるか分かんねぇからお前が説明しろ」

「へんひょ~」

 いつの間にかジョンド達の近くにいた老人が大きくため息とついて呟くと、頬を引っ張っていた人物がコットンに話しかける。もちろんジョンドの頬からは手を放す気はないらしい。

 

「それは頬から手を離せば……何でもないです。船長。この二人は相棒の友達です。始まりの町周辺まで行きたいって事だったんでどうせなら乗せて行こうと……相棒が」

「ならぬ」


そこまでコットンが説明するとジョンド達の近くにいる老人がそういった。声はそこまで大きな声でないにも関わらず、威圧感をたっぷり含んだ重く強いものだった。


「この船はこの爺が木っ端の下っ端の時よりこの海を縄張りとする由緒ある海賊船である。同胞たる死霊の類であるならまだしも、このような生者を乗せるなどあってはならぬ」

「まぁジジイの言ってることは一理あるな。付け加えるならばこれは俺の船だ。誰を乗せ、誰をぶっ飛ばすかは他でもない俺が決めることだ」


 老人に続けて船長と呼ばれたその人物は、ジョンドをポイっと横に投げ捨てると頭をがりがりと掻きながら投げやりに言った。その声で海賊たちはにやりと笑って一歩前に出る。念のため何時でもナイフを取り出せるように警戒だけはしておく。ミツバ。お前は拳を握るな自分から攻撃しようとするな! 

 

「ま、待ってください船長! メイさん達は悪い人じゃないんです! 」

「話を最後まで聞け。乗組員を決めるのは俺だ。つまり俺が乗せるなら問題ないな?」



 予想を反してニヤリと笑う船長は俺達を乗せるような旨を口にした。え? いいのか?

 ジョンドや老人も驚いたのか、目を見開き口を開けている。ただ、コットンだけは面倒くさそうといった様子でダラんと身体をふやけさせている。


 改めて船長と呼ばれる人物をよく見る。体の線は細いが、背丈は俺よりも頭一つ分くらいは高いおそらく180センチはあるであろう長身。海賊帽子とでも言うべきか、つばの大きなキャプテンハットをかぶり後ろに長髪を流している。顔も不健康そうな青白い顔色をしているものの、美麗という言葉がふさわしい程に整った、八重歯が特徴的なイケメンだ。

 これだけ言えば多くの女性が黄色い声援を上げそうな男性アイドルのような風貌だが、俺が一番目を引かれたのは彼の目だ。まるで新しいおもちゃが手に入ったことを喜んでいるようなよく言えば子供らしいキラキラとした。悪く言えば隠しきれない欲望が見え隠れする嗜虐的な目の光。俺はこの目をしっている。サーカスで地獄のような特訓を施しておきながら、自分はそれを楽しんでみていたドSの化身のような人物。団長の目と全く一緒に感じられた。あぁ、これ絶対穏便に片付かない奴だ。

 納得がいかなかった老人が船長に詰め寄って問い詰める。


「な!? 若! 由緒あるこの不屈の海賊団にたかが人間を乗せるとでも「ただし!」」


 老人の言葉を制止し、三日月のように不吉な笑みを浮かべ続きを宣う。


「ここの乗組員を全員黙らせたらだ。」



「「「ヒャッハァァアア!!!!」」」



 

 その一言でスタンバイしていた海賊たちは一気に突撃してきた。やっぱりこうなったよちくしょう! 

 【ジャンプ】スキルを使って包囲網から抜けだし、マストを支えるロープへ捕まる。そのままロープからロープへと猿かオラウータンの様にジャンプと綱渡りを駆使して船頭へと移動していく。

悲しいことにこの手のロープ等ギミックがたくさんあるところは、俺の得意エリアなのだ。なんせサーカスで嫌になる程仕込まれたからな!


 チラリとミツバを見てみると……あぁ大丈夫そうだ。嬉々として海賊たちと殴り合ってる。海賊もノリが良いのか剣を捨ててステゴロで挑んでいるし、何か通じるものでもあったのだろうか?


「野郎ども! こんな小便くせぇような嬢ちゃんがステゴロで戦うってんだ! そこでノらねぇ野郎はいねぇよなぁ!?」

「ヒャハハハ! 身体が腐っても海の男の矜持までは腐ってねぇぜ! このガキは俺がふっとばブヒェエ!」

「あはははは! 海賊ってみんなノリがいいよ!? もっともっと遊ぼう!?」



 ……うん。俺とは別の人種の会話が語られている。この調子なら放置していても問題ないだろう。

 気を取り直して船の最も先端。船頭の位置に到着する。後ろは海。まさに背水の陣だ。先に【的確急所】だけは発動させておく。


「馬鹿が! 自分から退路を断つなんて突き落とせ「馬鹿はお前だ!」ばッハァ!?」


 突っ込んでくる海賊ゾンビの攻撃を最小の動きでかわし、背中を押して海へと突き落とす。ゾンビだからか腐った肉でも触ったような感触が手に伝わったが気にしない。後で洗えば汚くない。

 

 続けて攻めてくる海賊(骨)の足を引っかけ海へ突き落とし、または海賊ゾンビの片足を切り落としバランスを崩したところを海へ蹴り落とす。

 アンデッドというだけあってか、思ったよりも柔らかい。カニの甲殻を切った後だとなおさらそう感じる。そういえばジョンドもカニの攻撃で貫かれたりしていた割にぴんぴんしていたな。カニがDEFの高さで耐久が高いのに対して、アンデッドはHPの高さで耐久が高いといえば伝わるだろうか。


 時折避けきれないような攻撃も来るが、それはステップスキルを発動させながら短剣を軌道をそらすようにして当ててやりパリィ。受け流した時の勢いを押してやって一回転して海へと押し出す。

 

「す、すごいですよコットンさん! これならメイさん達も絶対にクリアですよ!」

「そうだな。優しくも楽観的な相棒よ。だけど、本当にそう簡単にいくかな?」

「へ?」



 視界の中にそんな会話をしている二人の様子が入ってくる。うれしそうなジョンドではあるが、後ろに忍び寄っている船長には気付いていないようだった。

 船長は、ジョンドの首根っこを掴むと俺の方へとぶん投げる。そうか~乗組員だもんな~。そりゃあジョンドも含まれるよな~……。


「てめぇもだ水玉! さっさと行きやがれ!」

「だからって蹴るんじゃねぇ!?」


 ジョンドをぶん投げた船長は、続けてコットンをサッカーボールの様に蹴りつけた。粘体のスライムであるにも関わらず、蹴られたコットンは勢いよく飛びジョンドと共に俺の前に墜落した。


「痛た……。コットンさんコットンさん。これってどういうことですか?」

「簡単な事さ相棒。俺たちの手でメイたちの実力を証明しろってことさ。ったく。無理難題を言ってくれるぜあの船長は!」


 コットンがジョンドの方でプルプルと怒ってますとでも言うように震えている。ジョンド達が勝ってしまったら俺達は乗ることができない。かといって俺達が勝てる様に手を抜いてしまったら今度は二人のその後の特訓が厳しくなるのだろう。

あの船長はうちの団長と似ているからわかる。確実に特訓の難易度を上げてくる。具体的に言えば二段階くらい。

 だからあの二人は勝たない程度、手を抜きすぎない程度に手を抜くといった微妙な位置で戦闘をしないといけない。確かにこれは無理難題としか言いようがないな。

 


「仕方がねぇ! 相棒! 全力だ!」

「は、はい! やぁやぁやぁ! 遠からん者は音に聞け!」

「近くば寄って、殴られろ!」


 意を決したのか、2人は息を揃えて口上を述べてジョンドが剣を構える。変わらずコットンは肩に乗っているが、思い返せば俺はスライムと戦った事がそんなにない。どんな攻撃法があるのか気を付けないとな。

 にしても酷い口上だな。普通は「近くば寄って目にも見よ」じゃないのか?


「コットンさんコットンさん! パターンAです!」

「おうよ! いつでもいけるぞ!」


 カットラスを取り出したジョンドがコットンとそんなコンタクトを取る。カットラスを取り出してはいるが、信用してはいけない。なんせカニと戦闘してるときにあのカットラスを出しておきながら拳で攻撃していたくらいだからな。

 それに加えて確か、ジョンドは接触すると毒状態になるらしいし、物理攻撃は極力注意しないといけないな。まぁ俺の耐久自体一撃食らったら終わりなんだけど。


 先に何かアクションを取られても対処できるかわからない。【ステップ】スキルを使って先手を取るべく距離を詰める。

 

 アンデッドなのだから多少攻撃しても大丈夫だろう。懐に潜り込んでナイフを胸に突き立てる。


「甘いぜメイ! 【アクアショット】!」

「なっ!? 【ステップ】!」


 突き立てようとした瞬間、コットンの使用した水魔法によって阻まれてしまった。気を付けていたはずなのに、肩に乗っているコットンが攻撃してくるなんて予想がつくだろ!


 さらにステップスキルを使って船頭のギリギリまで下がり二人を分析する。そうか。別にジョンドがどんなスキルや行動をとろうが、肩に乗ったコットンはあくまでも別プレイヤー。ジョンドの行動に左右されずにスキルや魔法を使えるに決まっているか。


 さしずめ自動迎撃システムって言ったところか? なまじ呼吸のあったコンビだと厄介だな。

 攻めあぐねる俺の様子に満足したような顔でジョンドがドヤる。


「どうですかメイさん! これが僕とコットンさんの超完璧なコンビネーションタッグです!」

「相棒? 誇らしいのは分かるが、これで倒しちゃったらメイたち船に乗れないんだからな?」

「そうでした! どうしましょう!?」 

 

  さっきまでのドヤ顔とは一転。コットンに突っ込まれたジョンドは慌てたように眉をハの字にしてうろたえる。あの、これ隙だよな? せめて大丈夫か?


「ひゃあ! いきなり攻撃するのはズルいですよメイさん!」

「相棒! 海賊を正々堂々を説くのはどうなんだ!?」

「それはそれこれはこれです!」


 隙をついてジョンドは体勢を崩してしまうが、コットンが水魔法でけん制し攻撃のチャンスを潰してきた。さらに、伸ばした触手でジョンドの身体を支え、すぐさま復帰できるように補助もしている。

思った以上にコットンが厄介だ。ジョンドの欠けている所をきれいに補って穴を埋めている。


 まずはコットンから何とかしたほうがよさそうだ。もう一度ステップスキルで距離を詰め、続いてセカンド、サードのステップで回り込みコットンを狙う。

 やはりというべきか、今度はジョンドがカットラスを振りけん制してきた。これに対して後ろにステップすることで回避。そして【ダガースロー】のスキルでナイフを投擲。


「コットンさん!」


 コットンに当たることを避ける為か、ジョンドが手を伸ばしてナイフを受け止める。だけど、これも予想通り。次はトランプを取り出してコットンに向かって投げつける。そして、指をパチンと鳴らして【フラッシュポーカー】発動。


「と、トランプ? うぉ!? なんだ?!」

「体が勝手に!?」


 短剣で追撃してくると思っていたのであろうコットンは一瞬対応が遅れ、俺のスキルによって怯んでのけぞってしまう。これで二人の動きは一瞬ではあるが完全に止まった。


 予備のナイフを取り出し、【ダガースロー】のスキルでナイフを連投。コットン、ジョンドと共に投擲されたナイフが突き刺さっていく。だけど、これでもアンデッドのジョンドへのダメージはそこまでではないだろう。

 

 ステップスキルで距離を詰め……【転倒】。


「へ? うわぁ!」


  ジョンドを巻き込む形で転んだ俺は、【失敗】スキルによって自身の【転倒】スキルをキャンセル。これでジョンドよりも早く転倒状態から復帰した。


 ジョンドに馬乗りになって動きを止め、ナイフをコットンに突きつける。【成功】スキルでステータスが上昇している今、ジョンドを抑えつける程度のSTRは確保できている。



「これでチェックメイトだな?」

「…………あぁ。完全にマウント取られたな。相棒、ここらが引き時だ」

「そ、そんなぁ~……」

 


「っち。ここらが潮時か。野郎ども! そこまでだ!」


 船長がそう声を上げ、急遽起こった船上戦は幕を閉じた。ミツバの方はどうなったのかとそちらを見ると、死屍累々の死体に囲まれた中満足げに背伸びをしていた。

 まさか一人であの数の海賊片づけたの? ていうか、海賊死んでない? 元々死んでるなら大丈夫なのか?






「全く……若も突然の思い付きで動かれても困りますぞ。こやつらを修復する老骨の身にもなってくだされ」

「んだよ。楽しかったからいいだろう?」


 老人__ホロウの苦言に不機嫌そうに船長は吐き捨てる。こっちは一撃でも食らったら致命傷なんだけど、突然の思い付きで殺されかけるのはどうなのだろう。


 ちなみにミツバが倒した海賊たちは死霊術師であるホロウが現在進行形で修復している。通常の回復魔法ではそのままダメージを受けてしまうらしいアンデットは死霊術師の特殊な回復魔法でないと治癒できないとのこと。

 倒された海賊たちはミツバに何も思うところはないらしくカラッとした感じでからんでいる。


「ヒャハハハ! 嬢ちゃん、ちっこいのにすげぇ強ぇのな! まさか全滅しちまうとはおもわなかったぜ!」

「ボクも結構ギリギリだったよ? まさか骨を折っても気にせず突っ込んでくるなんて思わないもん」

「フハハ! どんなにぶっ壊れようが歩みを止めないのが俺達アンデッドだからな! それで負けてちゃ世話ねぇや!」 


 河原で殴り合って分かり合った不良達よろしく、海賊たちとミツバは驚くほど仲良くなっていた。バトルジャンキーの中身はやはり海賊たちゴロツキと同じような思考回路なのだろうか。

 突っ込んでも火に飛び込む虫になるのが分かり切ってるのでスルー。船長に向き合い口を開く。


「それで、俺達は合格なのか?」

「ん? あぁ。これだけの数やられちまったら仕方がねぇ。歓迎するぜお客人。俺は船長のジーク。ジーク・ヴァンピーア・フリードだ。始まりの町までは送ってやるよ」


 元々反対していたホロウは未だ不満げではあるが、船長であるジークは楽し気にそう告げてくれた。よかった。これで残る乗組員は俺だ! なんて展開にならなくて。

 ヴァンピーアなんて名乗ってる船長ってことは十中八九とても強い吸血鬼だろ? そんなのと戦うなんて正直勝てる気がしない。


「よかったですねメイさん! これで一緒に行けますね!」

「あぁ。色々あったが、なんとかなってよかった……。これからよろしくな」



 先ほど負けたというのにそれを引きずることなく嬉しそうにジョンドは喜んでくれた。他の海賊もそうだけど、このさっぱりした感じがジョンドのいう海の男って奴の在り方なのかな? みんなアンデッドなのにさっぱりした気概って何となく違和感を感じなくもない。


 だけど、喜んでいるのもつかの間。嬉しそうにはしゃぐジョンドの頭の上にポンと手を置く、満面の笑顔の船長の姿があった。

 この笑みもデジャヴを感じるな。団長が特訓メニューを厳しくするの時の表情だ。団長の笑顔を思い出したら背中がヒヤッとしたので慌てて考えを消す。


 「お~い~? せっかくこの俺が直々に鍛えてやったにも関わらずなんだあの戦いは。これはお仕置き決定じゃないか~?」

「やだな船長。あれだけ善戦したんだから十分花丸を痛い痛い痛い! 船長アイアンクロー痛いです! 僕アンデッドなのに痛いです!」



 船長のアイアンクローで吊り上げられたジョンドがジタバタと抵抗するが、抵抗むなしくその手はピクリとも動かない。カニに貫かれようとナイフが刺さろうと痛がらないと思ったら痛覚が他の種族よりも弱いのか? でも、そのアンデッドに痛みを与える船長って一体……。



「丁度いいからこの戦闘で最終試験にしてやろうと思ったが、辞めだ辞め。特別補習で二段階くらい難易度上げて再試験してやるよ。」

「さ、再試験!? それって、またメイさん達と戦えってことですかぁ!? 」

「バーカ。二段階上げるって言ったろうが。お前にはちょっとした物拾いをしてもらう。何、ちょっと宝島に言ってお宝を取ってくるってだけの簡単なお使いさ。あぁ悪いなお客人。あんたたちを送り届けるのはこのバカを島に放り投げてからにして貰うわ」



やっぱり一筋縄では終われないらしい。いったいどこで選択肢間違えたんだろうか……?


海賊の冒険と言えば宝探しですが、主人公の踏んだイベントフラグではない模様です。どうしてこうなった。

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