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第六十四話 ~魔族領・宝島編~

全力でガチャを回したらやっと推しが来てくれました。これで私もママ友の仲間入りです。

ゼミ旅行が終わっても推しを愛でていたら、投稿することをすっかり忘れていたことを謝罪します。





「カニがいなくなってますよコットンさん!」



 そんな声を上げるのは、おそらくミツバと同い年くらいの少年の姿。狩場を取られたことを怒っている、というよりも単純に狩ろうとしていた対象がいなくなっていることに驚いているだけの様子だった。顔をよく見てみるけど、人族プレイヤー……だよな? 


 魔族領というくらいだからプレイヤーもオークやゴブリンといった人外魔境だと思っていたけど、彼も魔族プレイヤーなのだろうか?

 確かに若干顔色が青白すぎるようにも見えるし、人族のプレイヤーが単騎で俺たちの他にいるとは考えにくいし。

 取り敢えず狙っていた狩場を俺達が先に荒らしてしまったようだし挨拶だけはしておくことにする。

 

「すまない。誰もいないようだったから勝手に戦ってた。もしかしてここの狩場をよく使っていたのか?」

「あ、そういう訳ではないんです。ただ、ちょっと事情があってあまりレベルアップを狙う機会が多くないんですよ。だからちょっと声が大きくなっちゃいました。こちらこそごめんなさい」


 そういってその少年は頭を下げる。だけど、どうみてもガッカリしたといった様子でシュンとしていたので少しだけ申し訳ない。


 レベルアップを狙えないってあまりゲームをプレイできる時間がないとかだろうか? だとしたら短い楽しみの時間を奪ってしまった事にならないか? そう考えたらなんだか罪悪感がわいてきた。


幸いなことに少ないながらも多少カニはリポップしている。黙っていてもらったら多少は手を貸してもいいんじゃないかな。


「詫びと言ってはなんだけど、少しの間パーティーを組んで戦わないか? たぶんレベルアップを手伝えると思う」

「え? 良いんですか!? ……っと、ちょっと待ってください」


俺の言葉に一瞬嬉しそうに顔を明るくさせたが、なぜかその後に後ろを向いて黙ってしまった。ちょっと警戒させてしまったかな? だけど、一度パーティーで戦ってもらえたらその分俺のDEXの効果でレベルアップを手伝えると思うんだけどな。

1.2分ほどたつと、少年は考えがまとまったのかこちらに笑顔で振り返る。


「お待たせしました! パーティーの話、お願いします! 申請だしますね?」

「あぁ、わかった。こちらこそよろしく頼む」


 受け入れてくれたようなので、メニュー画面を表示しパーティーの項目を開き、パーティー申請を受け入れる。これでパーティーメンバーが俺、ミツバ、彼と三人になった。彼の名前は……


()()()()、でいいんだな? 」

「はい! その名前で合っています!」

「わかった。俺はメイ。まぁ短剣使いだと思ってくれていい。こっちの胴着の子はミツバだ」

「コットン君よろしくね。 ボクは格闘家だよ?」

「メイさんにミツバさんですね? よろしくお願いします。! 僕は剣士です!」


 

 そう言ってコットンは元気よく頭を下げる。なんというか、元気いっぱいの人懐っこい犬みたいな印象だな。自分でいうのもなんだけどいきなりパーティーを組まないかって結構怪しいぞ? ちょっとは考える警戒心はあるようだったけど少しだけ心配になるな。まぁ、ソロで戦えるくらいなんだし大丈夫か。


「ところでコットンは魔族プレイヤーなのか? あ、俺たちは人族のプレイヤーだ」

「コットンさん? ……あ! そうです! 魔族プレイヤーです! メイさんたちは人族だったんですね! 昨日のアナウンス聞きましたよ! 僕の種族は……見てもらったほうが早いかもですね」


 そう言うやいなや、コットンはリポップしたカニへと走り出した。コットンが取り出したのは、大きく刃が湾曲し、持ち手には手を保護するような護拳が備えられた剣。アニーの持つ長剣がロングソードに対し、確かカットラスというんだったか。コットンの種族を見せてくれるってことだから今は参戦せずに見ていたほうがいいのだろう。

 たぁ! と勇み良く突撃したコットンはカニの懐へ潜り込み__


 カニを殴りつけた。



「「は!?」」


流石にこれには驚いたのか、ミツバも疑問の声を上げる。カットラスなんて武器を手にしているのだから剣で戦うのかと思ったのに、どうしてわざわざ殴り掛かったんだ? 

 飾り? 剣なんてただの飾りなのか!? 偉い人じゃなくてもそんなのわからんわ!


 コットンの謎の行動に驚いていると、殴られたカニの動きが散漫としたものになり苦し気な声を上げ始めた。振られる蟹爪もキレがなく、コットンはカットラスを使ってきれいに蟹爪を受け流す。カットラスは攻撃の為というよりも攻撃をパリィして受け流すようなのか? 


 しかし、動きが遅くなったカニだけ相手をしていると、他のカニがコットンの周りに集まってきた。集まったカニは、その蟹爪を振り上げコットンへと振り下ろす。


「!? 危ない!」

 

 焦って忠告したが、間に合わずコットンは蟹爪に切り裂かれ、または貫かれてしまった。このままでは不味いとナイフを取り出したが、コットンは焦っている様子がない? むしろニヤリと笑って自分を現在進行形で貫いている爪を抑えている。 

 あれだけの攻撃を受けてまだ余裕があるのか?


 

「つーかーまーえーた! 」


 楽し気にそう叫ぶと、今度はガンガンとカットラスでカニを攻撃する。カニの殻のせいで斬るというよりも殴るに近い気もするが、それでもマウントを取ったかのように止まることなく攻撃する。


「キ、キシャァ!?」


 流石のカニもまさか胴に爪が刺さった状態のまま猛攻ともいえる反撃をしてくると思わなかったのか困惑するような鳴き声を発する。刺さったままの状態って永続的にダメージ受け続けるよな? なんであんなに平気そうなんだ? これが魔族プレイヤーの__いや、コットンの種族の特性なんだろうか?

 そうこうしているうちに最初に攻撃を仕掛けたカニが力尽きかのように動かなくなり粒子となって消える。残るは三匹だが、本当に手を出さなくても大丈夫なのだろうか?


「……ぐぉ!? なんだこれ?!」

「え? 誰だ?」 


 一瞬知らない声が聞こえた気がしたが、辺りを見回しても誰もいない。いるとしたら、これまでよりも一層声を大きくさせて戦うコットンの姿くらいだ。気のせいかな? 

 気を取り直してコットンの戦闘を見直す。カニは変わらずに攻撃を繰り返すが、コットンは特に無理をしてでも回避するといった様子はない。むしろ、直撃で大ダメージとなるもの以外はほぼ全て無視して戦っている。どれだけ傷ついても、気にする事無く立ち上がり攻撃の手を止めることはない。まるでゾンビの様だ。……ゾンビ?


 もしかして、コットンはゾンビのようなアンデット系の種族なんじゃないか? てことはアンデットの種族の特性か何かであれだけの攻撃を受けても戦えているとか。

 そんなことを考えていると、いつの間にか残るカニも最初のカニと同じように苦しみだして動きが散漫としたものにかわっていた。まるで毒に侵されているかのようだ。

 動きの鈍ったカニたちはコットンに対し決め手を出すことができず、攻めあぐねている間に力尽きたようにこと切れて行った。これで戦闘は終わりかな?


 何故か独り言を呟いているコットンの元に近づき、俺は口を開いた。


「お疲れさん。どうだ? レベルの方は上がったか? 」

「………はい。はい。わかりました……メイさん!」

「お、おう?」

 

 独り言を呟くコットンは振り向くと勢いよく俺を呼ぶ。え? 俺何か不味い事でもしただろうか?

 意を決したようなコットンが続ける。


「騙していてごめんなさい! 実は、僕はコットンさんじゃないんです! 」

「な、なんだってー! って、どういうことだ?」


 意を決したような顔をしていた割にはよくわからないことを言い出した。いや、でもパーティーの欄に並んでいる名前にはちゃんとコットンって書いてるよな? なのに、コットンじゃない? さっきあたりを見回したけど他に誰もいなかったのに、他に誰かいるのか?

 困惑していると、どこからか笑い声が聞こえてきた。それはさっき聞こえた驚いたような声と同じもので、どこからかと見回しているとコットンの懐から何かが飛び出してきた。


「あっはっは。 相棒のあわてんぼうめ! 流石にそれだけ言っても相手につたわらないぜ! 騙すような事言って悪かったな! 俺が本物のコットンだ!」 

「ス、スライム!?」


 懐から飛び出してきたのは一匹の小さなスライムだった。表情はわからないが、自分をコットンと名乗ったスライムはスライムが喋った!? ていうか、最初からいたのか!? 俺はどこから突っ込めばいいんだ!?






【サイド:コットン】


 困ったことになった。まさか人族プレイヤーがこんな早く魔族領に来るとは。


 いつもと同じように船長に許可をもらって浜辺に来た俺とジョンドだったが、浜辺のカニはたった二人のプレイヤーによってすべて倒されていたらしい。それも、2人ともかなりのレベルの筈だ。特にあの胴着のプレイヤーの方の動きはステータスの補正にしたって洗練されすぎている。おそらく、リアルでも格闘技の心得があるのだろう。

 魔族プレイヤーと人族プレイヤーはまだ一度も接触したことがない。昨日エリアボスを討伐したというアナウンスが流れたが、そうは言っても実際に会うのは当分先だろうとは思っていた。さっきまでは。

 でもどうして他の魔族プレイヤーですらまだ来たことがないような辺鄙な浜辺に人族プレイヤーがいるんだ!? ここ人が来ない俺達のレベリングの穴場だったんだぞ!?

 そもそも普通は真っすぐ陸地側の道を行くだろう!


「あー! カニがいなくなってますよコットンさん! 」


 我が天然の入った可愛い相棒よ。まだ相手が敵か味方なのかもわからない内に自分たちの存在を教えるような大声を上げるのは感心しないぜ?


 わざわざ魔の森なんて攻略ポイントを作ってまで分断していたんだ。この手のテンプレートと言えば魔族とその他のプレイヤーによる戦闘イベントとかが鉄板であろうことはすぐに察せる。

 もしあのプレイヤー達が魔族=おいしい経験値だなんて危険思考のプレイヤーだったら流石にヤバい。正直女性の方の技量は相棒では相手にならないほど卓越してるし。プレイヤー倒して経験値が入るのかわからないけど警戒しておくに越したことはない。


 そんな感じで警戒していたんだが、男性の方は予想外にも素直に謝ってきた。あれ? 普通にいい奴じゃないか? 年下のジョンドに対しても普通に頭を下げているし、侮りのような雰囲気は一切感じない。


 いやいや! しっかりするんだ参謀担当。純粋すぎて騙されやすい相棒がちゃんとゲームを楽しめるよう頭を使うのが保護者的ポジションの役目じゃねぇか! 


 良い人そうな顔をしているがお詫びにパーティーを組もうだなんて言い出した。レベリングを手伝う? 早速ボロを出したな! 

 パーティーメンバーが増えればその分配当される経験値が減る。にも関わらずパーティーを組むことが詫びになるなんて怪しすぎる。

 おそらく幼気なショタっ子である相棒とパーティーになってよからぬ事を考えているに違いない。度し難い変態だな!

 俺? 俺は魂が魅かれあった漢と漢のコンビだから良いんだよ。


 冗談はこの辺にしておいて、実際パーティーになってしまうとフレンドリーファイア扱いになってお互いに与えるダメージは大きく減少してしまう。もしも彼らに伏兵でもいれば、こちらからの攻撃は彼らを盾にしてしまえばあとは伏兵が俺らを倒してチェックメイト。なかったとしてもなんらかの攻撃手段がないとは否定ができない。俺はいつの間にかパーティー申請しようとしている相棒を止める。


「ちょっと待つんだ。相棒。ここは相棒がパーティー申請したように見せかけて俺がパーティー申請を出す」

「え? どうしてですか?」

「ちょっとあの二人が怪しいからな。万が一の保険だよ。もしも彼らが敵対行動をとったとしても、俺がパーティーになっていれば、フレンドリーファイアのダメージ減少が発生しない。お前が戦うことができる」

「海賊は簡単には手を組まないって奴ですね。わかりましたコットンさん」



 よくわからん解釈の仕方だがまぁわかってくれたならいいか。相棒は、あたかも自分がパーティー申請を出しているかのような仕草をとる。天然ではあるが、一度乗り気になってくれたらこの子はこの手の演技とかをとてもうまくこなしてくれる。たまに天然すらも演技なんじゃないか?って不安になるくらいだ。まぁある程度一緒に行動するとその不安が気のせいってわかるけどな。


 相棒のお陰でうまく申請を誤魔化せたようだ。男性は相棒のことをコットンと思ってくれたらしい。どちらも俺の存在には全く気付いていないようだし、こういう時はスライムって便利だな。

 ふむ。男の方がメイで女性の方がミツバね。ミツバのほうは相棒と同じくらいか? にしては格闘慣れしていたが。



 種族の説明をするといって相棒は一人でリポップしたカニに挑む。指示したわけじゃないがナイスだ相棒。種族名がバレているかそうでないかでは情報戦において有利に立てる。特に魔族プレイヤーの場合は種族による得手不得手が極端だからな。


 さて、こうやって一人で戦って見せてるんだ。明確な隙を見せてやれば何かアクションを見せてくるはず。さぁボロを見せやがれ!






 …………あれぇ? 


 あの二人全く手を出してくる様子がないぞ? それどころかソロで戦う相棒を感心するような様子さえ見える。まさか、本当に善意でパーティー申請をしてきたのか? 


 首を傾げている(スライムなので比喩表現)と相棒がカニを一匹討伐した。相棒は触れた敵を一定確率で毒状態にすることができる。アンデッドであるため耐久に秀でた相棒はその毒と耐久を生かした戦いによって、この堅い甲殻に覆われたカニを倒してきたんだ。

 普通に戦ったら殆どの場合この甲殻に阻まれて断念するからな。だからこそこの狩場は穴場なんだけど。


 ところでレベリングを手伝うとか言ってたけど、一応ステータスだけでも確認しておくか。まぁ一体倒したところで何が変わるわけでも……!?


「ぐぉ!? なんだこれ?!」


 っと危ない。思わず声が出てしまった。バ、バレてないよな? 機転を効かせて声を大きくしてくれた相棒のお陰で何とか誤魔化せたようだ。流石は俺の相棒。

 

 もう一度ステータスを確認する。やはり、間違いなくレベルが2つ上がっていた。たった一匹倒しただけでだ。

 自分でいうのもなんだが、俺達二人は魔族プレイヤーの中ではかなり上の部類だ。なんせ操作に四苦八苦していた他のプレイヤーを置き去りにしてスタートダッシュを決めたのだからな。

 上がる前の俺のレベルは61。間違ってもカニを一匹倒しただけで2レベルも上がるようなレベル帯ではない。


 普通にやっていてはどう考えてもこの経験値量は考えられないので、状況から考えてあの二人が何かしたってのが妥当だろう。

 でも、こんな経験値爆上がりなんて方法を教えるか? 下手をすればその情報をめぐってプレイヤー間で戦争が起きても不思議じゃないレベルだぞ? こんなのよほどのお人好しでもないと教えるような真似なんて……。


 そこまで考えてやっとわかった。この二人。多分相棒と同じ人種なんだ。人の悪意とかそういうのなんて顧みない。純粋にゲームを楽しんで、他のプレイヤーを敵や商売敵と見ないで同じゲーム仲間として接する。そういう人種。

 

 ずっと警戒していたが、これがわかっただけで一気に警戒心がなくなった。こんな情報をお詫びなんていって提供してくれるんだ。それをそんなに疑っていては沽券にかかわる。相棒風に言えば海の漢のやることじゃねぇってやつだ。


 というか、この二人魔族領でやっていけるのか? 魔族領のプレイヤーはどれも一癖も二癖もある変人と物好きばかりだぞ? なんたって種族のランダム決定なんて地雷を嬉々として踏みに行くんだから。

 そんな魔境に行ったら間違いなく面倒毎になる。いうなれば、動く学習装置とでもいうような奴、あいつらなら絶対に利用しようとするに決まっている。


 相棒が残るカニも片づけてしまう。たった4,5匹のカニを倒した程度で一気に8レベルも上がってしまった。若干乾いた笑いが洩れているのを感じながら、相棒に演技を止めても大丈夫と告げる。すると、うれしそうに、しかし騙していたことに罪悪感を感じているような顔で自分がコットンじゃないことを告げる。

言葉足らずのせっかちな相棒め。それだけ言っても伝わらないだろうに。ほら、メイも困惑しているじゃないか。

 

相棒の様子に癒されながら俺は高らかに宣言する。



「あっはっは。 相棒のあわてんぼうめ! 流石にそれだけ言っても相手につたわらないぜ! 騙すような事言って悪かったな! 俺が本物のコットンだ!」 


 

 新しい冒険の予感がした。




  










コットンさんは保護者枠。アニーと同じポジションですね。

なお、相棒には甘々過保護な模様。

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