第七話
「なぁ俺は町の外に行きたかったんだけど、これ町の中央側に向かってるよな? 今は何処に向かってるんだ?」
今は俺とアニーは町の中央部に向けて歩いていた。アニーの姿は初心者だらけのこの町では目立つ。みんな村人の服なのに一人だけバッチリ皮系の装備してるからね。他のプレイヤー達の視線を釘付けにしていた。一部のプレイヤーや先輩プレイヤーに伝授を受けようと話しかけては来ているが、
「わりぃな。今日は先約がいるんだ。後でまた来るから、その時にでも聞きたいことを言ってくれよ。俺で良かったら教えてやっからよ」
と、ただ断るのではなく後でちゃんと教えることを約束していた。兄ぃ、じゃなくてアニーは面倒見がいいようだ。そうやって流しつつ俺の質問に答えてくれた。
「っと、今向かってる場所だったな。このゲームって『基本的なこういうテンプレって大事だよね。』みないなノリがちょくちょく混じってるんだ。んで、剣と魔法の世界でのテンプレと言えば…… あるんだよな。冒険者ギルドってやつが。どうせ外出て戦闘するならついでに依頼を受けとけば金も稼げるだろ? だから、外に出る前にお前のギルド登録と依頼を受けてもらおうと思ってな」
そういう事か。確かにただレベルを上げるだけなのとレベルを上げつつ金稼ぎまでできるならそっちの方が都合が良いもんな。始めたばかりの俺と違って知識がある分そういった案もよく出るだろう。
「何、そこまで登録に時間はかからないから安心しろよ」
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ギルドの中は酒場と併設されているようだが、プレイヤーの数は少ない。むしろNPCのような人の方が多くいた。表情がしっかりあってNPC同士で会話していたり、まるで本当に人の様だ。建物の質感っていうか材質感っていうかCGとかじゃない生の物って感じがしてこのゲームのレベルの高さを感じる。でも辺りを見回しても獣耳もエルフ耳も見えない。
「ここまでヒューマンしか見てないけど他の種族は何処にいるんだ?」
「そういえば言ってなかったな。どうやら他の種族は別の場所で始まるらしい。もっとレベルの必要な場所に行けばちらほらとエルフや獣人のプレイヤーとも会えるんだけどな。ちなみにそいつらの話によるとエルフは始まりの森・ドワーフは始まりの洞穴・獣人は始まりの山岳・魔族は始まりの黒町って言うらしいぞ? 黒町ってそいつ曰く始まりの町が黒を基調にしたバージョンって話だ」
種族ごとにスタート地点が違うのか。確かに魔族に至ってはゴブリンやらそういうのになる可能性もあるらしいし。町中にモンスターがいたら違和感以前にビビるよな。
「『スタート』の町冒険者ギルドへようこそ!」
受付嬢がにこやかに話しかけてくる。そういえばNPCと会話をするのは初めてだ。ちゃんと会話ができるだろうか。少しの間躊躇っていると、横からアニーが受付嬢に話しかけた。
「こいつの冒険者登録をお願いしたい。ついでに俺とのパーティー結成も登録しておいてくれ。仮登録でいいから」
「かしこまりました。では、こちらの書類をお書きください。不都合のある項目は空欄でも構いません。」
そう差し出された紙には名前、職業、得意分野といった項目が日本語で書かれていた。これ手書きでいいらしい。なんとまぁ便利というかリアルというか。名前はそのままメイ。職業は、ノービスでいいのだろうか? 得意分野もまだ何も決めてないし。
「あぁ、名前以外は空欄にしておけ。一度書いたことはギルドの中でないと書き直せない。書き足しは出来るみたいだから、一度戦闘を経験した後に書くと良い。」
アニーにそういわれ名前以外は空欄で提出した。俺のランクはGランク。最下級らしい。この後にRookie、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSS、LEGENDと上がっていくらしい。ルーキーとレジェンドってなんだよ。アルファベット階級が二つだけ英単語って何それ。
「依頼はウサギ狩りでも選んで置け。経験上レベル1でゴブリンやスライムは荷が重い。下手に失敗ペナルティを出すリスクは避けた方がいい」
「わかった」
俺たちは依頼の受注を済ませ、ギルドを後にした。
【狩猟依頼】
ウサギ狩り
始まりの町周辺に生息するウサギの狩猟。
ウサギ肉を3体分ギルドへ持ち込むごとに1000ガメツ。
ウサギ肉を30体分持ち込むごとに依頼一つ成功扱い。(多い程に依頼評価上昇。30で評価S)
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「おお~ 見渡す限りの草原! 見事になにもねぇ~!!」
町の外は、地平線が見えるような広い草原だった。青々とした草が風に揺られサァッと爽やかな音が聞こえてくる。風は感じないけどね? リアルの身体は室内だし。でも草の一本一本まで綺麗に見えるなんてこのヘルメットどんな画質してんだよ。鳥肌立つわ。
「驚いたろう? 俺も最初見た時は驚いたもんだ。いや、今でもこの広い自然には感動をするな。こんなの海外旅行でも行かない限り見れないだろうからな」
俺の代わりに町外へ出る手続きを済ませてくれたアニーが遅れて外に出てきた。確かにこれは都市化や開発の進んだ狭い島国の日本ではなかなか見ることの出来ない光景だろう。でっかいどうと名高い北海道は平地より山とか森だし。
「これがゲームだなんて忘れてしまいそうなくらいの景色だな。これで風とか臭いとか感じられたら最高なんだけど」
「確かにな。結局はヘルメットから移されている映像だなんて、ちょっとしたオーバーテクにも思えるよ。ま、風とか臭いを感じたかったら部屋の窓でも開けるんだな。俺の部屋じゃぁ草の臭いなんて欠片もない排気ガスの臭いしかしなかったけどな。ほら、ウサギがいたぞ。逃げられる前に一発決めてこい。」
苦笑交じりにそう言うアニーの言葉にちょっと引っかかりを覚えたが、初戦闘が始まると気を引き締める。
短剣を抜き、自分なりに構える。そしてウサギへ近づいたところでふと思う。ウサギを剣で刺し殺すって、これ動物虐待じゃね? とか思ってたらウサギがこっちに突っ込んできた。ウサギって草食動物でしょ?! 普通逃げるよね!? テンパっていたら後ろでアニーが笑いながらこう言ったきた。
「普通のウサギだと思ってると痛い目みるぞ! 名前的にはウサギだが、そいつはれっきとしたモンスター扱いだ! 初期のステータスだと5,6回蹴られたらアウトだぞ」
「それを早く言え!」
飛びかかってきたウサギをおっかなびっくり回避して、距離を取ることを試みる。ウサギは地面に着地すると即座に体の向きを変えUターン。短い助走距離にも関わらずスピードをちゃんんと稼ぎ、そしてジャンプ攻撃とこの間わずか4秒ちょい。
「っく。思ってたよりも素早い!」
全力で動こうとしているけど、ステータスのAGIかDEXが引っかかっているせいなのかウェイトでもつけているかの様に行動が鈍い。普通に歩いてるときはこんな事なかったのに! 慌てて避けたせいか体制を崩してしまう。三度目の回避に間に合わない!
「くそ! いい気になるなよ小動物!」
右手のナイフを手放し両手を自由にして、突進してくるウサギを、捕まえる!
電極を貼っている部分がビリと痺れた感覚がして【Damage3】の表示が視界に移り込む。だけど体を張った甲斐もありウサギを捕まえることが出来た。よっしゃ! ってウサギが暴れる度に【Damage1】って出るんだけど! ヤバいヤバい!
耳の部分を掴んでウサギの蹴りが当たらないように遠ざける。残りHPが… 2/10? あっぶな~。
「ククッ ハハハハハ!!! 普通敵キャラを素手で捕まえる奴がいるかよ! わざわざっ 武器まで手放してまでっ あ~ダメだ!腹いてぇ! ハハハハハハ!」
後ろで見物してたアニーが腹を抱えて笑ってやがる。こっちは真剣にやってんですけど。他人事だと思いやがってちくしょう。
「フククッ… そう睨むなって。悪かったよ。フフッ 色んな奴のウサギ狩りを見たが素早いウサギをそうやって攻略した奴は初めてだ。普通はこの素早さに翻弄されて、初期のプレイヤーは苦戦するんだよ。ダメな奴らは闇雲に武器を振り回す。普通の奴らは動きに慣れるまで避け続けるし、センスのある奴・賢い奴はカウンターを狙ったり突進の軌道上に剣を構えて待ちを狙う。でも大抵の奴は操作に不慣れなのも相まってあと4,5回は回避して様子を伺う。なのにお前って奴は、ヒヒッ 三回目で捕まえるってなんだよ! お前やっぱ大物だわ」
笑いをこらえつつそう言うアニーに眉をしかめつつ、短剣で切りつける。耳を掴まれたウサギは反撃することも出来ずに切られ続けて生物から食用肉へと姿を変えた。
……10回以上切らなきゃならないって短剣そんなに弱いのね。
「そう怒るなって。これでも褒めてるんだぞ? いや、意外と本気でだ。例えダメージを負っても人並みよりも大幅に早い戦闘時間なんだ。効率が良ければ許される。ここらのエンカウント率だとその戦い方はなかなか高効率かもな。ほら、回復ポーションだ。飲むことを意識して飲む動作を取ってみろ」
そう手渡された緑色の液体の入った瓶を一息で呷る(様な動作をとってみる)。ステータスを開いて確認するとHPが全回復していた。流石序盤HP。少ないと回復量も多く感じるよね。そして視界的には飲んでるのに実際は動作だけだから変な感じするね。
「ま、それもこうやって回復手段がある場合だけどな。毎回そんなにダメージ喰らってる様じゃ経験値効率は合格点でもコスト面が赤点だぞ? 次からどんな手を取るか、楽しみに見てるぞ」
そう言って一歩下がるアニー。基本的に俺に全部任せてくれるっぽい。まるで教官だな。アニー教官。あれ?結構様になってる。鬼教官でないのが幸いかな~。
依頼完了に必要なのは最低あと二匹。がんばろ
学校のパソコンで投稿してるので休日投稿できないです。次は火曜あたりに投稿します。暇な人だけお付き合い下さい
11月27日
ギルドの説明にて、Bが抜けているとご指摘頂いたため 訂正致しました。ありがとうございます_(._.)_
自動字下げ?については やり方わかり次第実行する所存です。