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五十九話

連投ドーン

自分でもなんでこうしたのか覚えてないですけど、これは五感のフルダイブVRではありません。PS4VR的な視覚と聴覚だけです。



「それじゃ、要竜討伐を祝って乾杯!」

「「「乾杯!」」」

「でもこれ、味を感じるって訳じゃないよ?」

「ミツバちゃん。それは言っちゃいけないわ」



冒険者ギルドの横に設置された酒場のようなスペースで、俺たちはエリアボスであるゲートキーパー・キードラゴン__長いから通称要竜を倒した祝勝会のようなものをしていた。

 VRゲーム内の祝勝会といっても、ミツバの言うように味気はない。いくらこのゲームが脳波やら何やらを読みとれるとはいえ、これは視覚と聴覚しか存在しない。ラノベによくある感覚をすべて電脳世界に移動させるなんてできないのだから。いや、これでも物凄いリアリティだから不満はないんだけど。


 ジュースの入ったコップを口に向けてみるが、当然それは画面上に映る光景であるため味も感覚もあるわけでもない。だけど、雰囲気だけは味わうことができるから祝勝会を楽しむことはできる。

 


「いや、しかし本当に倒せるとはな」

「倒したといっても、ほとんどメイちゃんの一人勝ちよね」

「それでも勝ちは勝ちだよ! 誰もできなかったことをやった事に意味があるんだから!」

「物は言いようって言っても限度があるよ? お姉ちゃん」



 サオリはこう言っているが、モルガーナの言う通り価値は勝ちだ。それにパーティーで挑んだんだからみんなの勝ちって言って全く問題がないだろうし。

 そういえば、パーティーは組んだままだったな。ってことは経験値はみんなに配られたとは思うけど、いったいどれだけ上がったんだ? 倒した時には俺、【演目設定】スキルの失敗ペナルティでDEXは0になってたよな。倒した時、DEXステータスの効果の経験値量の上昇は適用されていたんだろうか?


「なぁ。要竜を倒して、みんなのレベルはどれだけ上がったんだ?」

「「「!?」」」



 俺の一言で皆が思い出したかのようにステータス画面を開きレベルの確認を取る。ミツバだけはそういえばそんなのがあったなぁといった気楽な感じだったけど、ガチ勢的なほかのメンツにとってレベルの上昇は重要事項だ。みんな真剣な表情で確認している。

 一番最初にリアクションを取ったのはやっぱりというか、モルガーナだった。


「レ、レベル137!? スゴイよ! 元々レベル75だったから一気に62も上がったよ!」

「お、俺は、146だ……。元が86だったから60の上昇とは……考えられない」

「あら、アタシは120ね。ってことは70近く上昇してるわね。上昇率がアニーちゃんたちより上なのは元のレベルが二人より低かったからかしら?」

「えっと、こうかな? あ、ボクもサオリちゃんと同じ120だよ? 元のレベルは……いくつだっけ?」


 自分のレベルを忘れていたミツバにちょっとガクッと脱力してしまったけど、大体みんなレベルが50以上も上がっている。いくらあの要竜が強いといってもそれだけの経験値が普通の状態で手に入るなんて考えられない。たぶん俺の経験値が上昇する効果がちゃんと適用されていたって考えたほうが自然だろう。

 

 俺も自分のレベルを確認するためにステータスを開く。


【メイ】 Lv.199

ジョブ 中級道化師

HP 10

MP 10

STR 5

DEF 5

AGI 20

INT 5

DEX 282



「レベル……199………」

「「「はぁ!?」」」

「おわーやっぱセンパイのレベルやたらと高いよ?」



 ミツバのせいで軽く感じるけど、そんな軽い話じゃない。どのゲームでも共通して言えることだけど、レベルが上がっていけば総じて必要な経験値量が上昇したりしてレベル上げは困難になる。だけど、俺のレベルは199。アニー達要竜を討伐したメンバーは兎も角として普通のプレイヤーを遥かに上回ってしまった。……レベルだけで戦闘力で言ったらほかのプレイヤーよりも低いけど。

 

「メイは元々俺たちよりも遥かにレベルが高かったからな。にしても199か……」

「確かに高いけど、99ってところが悩みどころだよ。純粋に経験値が上がってそこで止まったのか、それともそこがレベル上限なのか……」

「さすがに199だと中途半場だし、普通にそこでレベルアップが止まったんじゃないかしら? ま、それはそのうちわかるでしょう?」


 サオリの言う通り199だと半端っていうのもわかる。レベル100以上はいったのだから999とか、それこそ9999とかになってもおかしくはないだろうし。レベルアップしやすいことが取りえなんだし、これはすぐにわかる問題だろう。



「にしても199か……。そろそろDEX以外に割り振らないのか?」 

「いや、これからもDEXに割り振ろうと考えてる」


 アニーの質問を聞いてモルガーナがロマンを捨てるなんてトンデモナイ!? とでも言いたそうな顔になったけど、俺の言葉を聞いて満足したようにドヤ顔になった。なんでそこでドヤ顔になるんだ?

 

 確かに他のステータスに割り振ったほうが安定するのかもしれないけど、それは普通のジョブ。剣士や魔法使いとかだったらって話だ。俺の場合、攻撃のための行動も、防御の為の行動も、移動も、すべてスキルに対する依存度が大きい。しかも、道化師のスキルにはDEXが必要になるものが多い。例えば、ミツバの攻撃をノーダメージで凌いだ【オーバーリアクション】。このスキルは受けるはずのダメージに対してDEXが一定値以上高くないと失敗になってしまう。要竜に踏みつぶされた時に使った【スタンプスタント】も同様だ。……今考えたらよく成功したな。今になって背中がヒヤッととしてる。

 このことをみんなと話すとアニーも納得してくれたようだ。


「なるほどね。道化師として強くなるには他ジョブとしては弱くあり続けないといけないと。……難儀なジョブね」

「本当にな……。後になってからたくさん弱点が出てくるな」

「弱点を喋らないのは当たり前だよ! むしろ、他にジョブチェンの機会を失う背水の陣って感じがしてすっごいロマンだよ! 我が道の為ならば他の道など脇目も振らずって、あれ?」


 モルガーナが途中で話を中断してどこかを見る。そっちの方を見てみると、攻略組の苦労人、バロンがいた。それともう一人、知らない顔だけど、モルガーナの装備よりも質が高そうなローブと杖を装備した魔法使い然の青年の姿があった。


「バロン?」

「おう。まずはおめでとうを言わせてくれ。それと、すまないが会わせたい人がいるんだが、時間はあるか?」

「あるにはあるが……そっちの人は?」


 アニーが聞くと、バロンの後ろにいたその青年が一歩前に出る。


「俺は、クラン【YSO攻略組】リーダー。マーリンだ。今回は君たちがあのエリアボスを倒したと聞いてな。しかもバロンと知り合いと聞いたからこうして彼につないでもらった」

「へぇ。あの空気の読めない彼のクランのリーダーが、何の用かしら?」


 あのイワンとかいうプレイヤーを本気で嫌悪しているらしいサオリが底冷えするような声でマーリンに尋ねる。正直横で聞いているだけの俺も怖いって思うくらいだ。

 小声で私のフルネームと被るとかうなっている奴はスルー。今はそれどころじゃない。

 ただ、サオリのその言葉を聞いて身に覚えがないのか、マーリンという人物は首を傾げた。



「空気の読めない? 何のことだ?」

「とぼけるつもりかしら? 貴方のクラメン、だいぶマナーの悪い勧誘していたわよ? 正直、だいぶ面倒だったわ」

「はぁ……すまない。攻略以外には無頓着なんだようちのリーダーは。マーリン、少しは他のことに目を向けろっていつも言っていただろ? 苦情の報告を聞かないからこうなるんだ」



そう言ってマーリンにイワンの話を説明するバロン。まさか把握すらしていないとは思わなかった。確か古参の連中がどうって言ってたけど、これリーダーの性格にも問題があったんじゃないか?



「むぅ……イワン、か。レベルは高水準だが指示を聞かない奴ということしか記憶にないが……そんなことがあったとは。すまない。興味がなかった」

「興味って……はぁ。いいわ。それでなんの用だったのかしら?」

「あ、あぁ。俺たちが全く歯が立たなかったあのエリアボスをどうやって倒したんだ? パーティー構成は? レベルは? ジョブは? 戦略は? いや、一番大事なことを忘れていた。他のメンバーはどこに? あと何人で倒したんだ?」

「待て待て待て! そんな一度に言われても困る。他のメンバー? 何の話だ?」

 

 矢継ぎ早に質問を繰り返すマーリンを慌てて止めるアニー。他のメンバーっていうのは俺も気になる。なんで他にメンバーがいるって思っているんだ?

 疑問に思ったけど、マーリンはキョトンとした顔で首を傾げた。


「他のメンバーは違うところにいるのだろう? 数十人単位で戦闘する俺たちが勝てなかったんだ。たった五人で勝てるはずがないだろう」

「心外ね。アタシたちはこの五人で倒したわ。それと、さっきの質問はすべて黙秘をさせてもらうわ。デメリットしか感じないもの。」

「なっ!? たった五人であのエリアボスを倒したというのか!? そんな馬鹿な!」

「事実よ。アナタの否定したパーティー理念である突出した個人の力を合わせた結果、とだけ教えてあげるわ。」


 確かに攻略組の戦い方はもしかしたら効率の良い勝ち方かもしれない。堅い前衛と強力な後方火力。それに数の暴力を加えて多くのエリアボスを倒せた実績があるのかもしれない。負けないため。死なないためには最高の効率かもしれない。


 だけど、これはゲームだ。


勝てる戦いだけじゃつまらない。量産型のような戦いじゃつまらない。俺や、モルガーナ。サオリやミツバ。そしてアニー。攻略組が否定した剣士や格闘家といった、それぞれ違う個性を皆で合わせることが楽しいんじゃないだろうか? 


「俺のやり方が間違っていた……? いや、このゲームの仕様からするとこの戦い方が一番安全と効率を両立できる戦法の筈……」

「マーリンといったか? 確かにあんたの戦法は理にかなってる。だが、俺たちの性に合わなかったってだけの話だ。考え方の違いだよ」

「むぅ……いや、しかし個人の力か……。そっちからのアプローチは無意味だと切り捨てていたが、一考の余地があるな。わかった。参考にさせてもらう。バロン、しばらく一人で試してみたい。クランの活動を休止するように任せた」

「はぁ!? ちょ、待てよ! ったく、アニー、メイ。それと他のみんなもお疲れさん! とりあえずこっちは任せてくれ! 」



 そう言うとバロンは先に出て行ったマーリンを追いかけて走っていった。イワンやアニーを貶めてたあの迷惑クランのリーダー、なんか嵐のような人だったな……。

 突然来て、突然質問攻めにしたと思ったら、クランの活動を休止にするといって帰ってしまった。

 というか、あの感じからするとまたバロンが苦労する役になるんだろうな。ご愁傷様……。


「えっと、これどういうこと?」

「これからはタンクと魔法使い以外のプレイヤーも増えるかもしれないってことだよ!」

「戦いがいのある人が増えるってことよ」

「わかったよサオリちゃん」

「私は!?」


 モルガーナの方が正しい事を言ってるはずなのにサオリの説明で理解するのはバトルジャンキーのミツバらしいかもしれない。

この冒険者ギルドのなかを見回しても、現状はほとんどが大盾を持ったタンクか魔法使いだ。これが多種多様な様々なジョブになったら、きっと楽しいだろうな。

 そんなことを考えていると、アニーが口を開いた。


「あーすまない。マーリンの話を聞いて俺もやりたいことができた。」

「え? アニー、も魔族領に行くんじゃないの? 魔族領だよ魔族領。ロマンの塊だよ!?」

「あら? アニーちゃんを名前で呼ぶなんて珍しいわね。それにアニーちゃんも。やりたいことというと何かしら? 」

「あぁ。せっかく攻略組が活動を休止するといっているんだ。その間にしばらく剣士プレイヤーの普及に力を入れたい。それに……始まりの町の方に面白いやつを見てな? 性根を叩けばいいプレイヤーになりそうなんだ」


 そういってアニーはにやりと笑う。攻略組が活動を休止するといっても、始めたばかりのプレイヤーは戦うどころか右も左もわからない状態だったはずだ。面倒見のいいアニーならしっかり教えてくれるはずだし、何より剣士の人口も増やせるかもしれないしな。

 先を見据えて動くのであれば、アニーの行動は大事だろう。じゃないと、また攻略組のようにジョブが偏ることになるはずだ。第二第三の攻略組を増やすのはあんまりいい気分もしないし。


「そういうことならアタシもアニーちゃんについていこうかしら。剣士だけでなく、格闘家とか他のジョブも普及させないと意味がないでしょう?」 

「ん? そうだな……確かにサオリも一理ある。なら俺たちは一度始まりの町に戻るか」

「そうか。なら俺も一緒に始まりの町に__」

「駄目だよ! せっかくエリアボスを倒したんだからメイ君は魔族領に行くべきだよ!」


 アニーと一緒に始まりの町に戻る。そう言おうとするとモルガーナがそれを止める。行くべきと言われても、アニーとサオリがいないとすると紙装甲であるミツバと俺。そして火力特化のモルガーナの三人で行くことになる。モルガーナと同じ火力特化のサオリは兎も角、攻防ともに安定して司令官としても優れたアニーもいないとなると少し不安が残るな。


「さすがに3人だけで魔族領まで行くのは危険じゃないか?」

「3人? あ、私もしばらくこっちに残るからミツバと二人だよ!」

「「は?」」


 まさか人に行けと言っておいて自分が行かないと言い出すとは思わなかった。しかも、ロマン思考主義の権化ともいっても過言ではないモルガーナが? むしろ、率先して行きたがるものだと思ったけど。ミツバも驚いたようで目を丸くしている。


「お姉ちゃん? そんなにボクは気にしない方だけど、男子と二人きりを推奨って実の姉としてどうなの?」

「メイ君について行ったらもっと強いのと戦えるよ!」

「センパイ。よろしくお願いします」

「変わり身速いなオイ!? いや、別にいいけど」


 バトルジャンキーは強い敵と戦えれば関係ないらしい。いや、別に中学生相手に何しようってわけじゃないからいいんだけど、それでいいのか? こう、女子として。

 ところで結局、モルガーナはどうして残るんだ?


「火力をずっと追求してきたけど、私の攻撃じゃ要竜には通じなかった。でもこれは私のロマン魂が足りなかったからだよ! 一度エルフ領に戻って何かエルフ的な強化フラグを踏めないか探してみたいよ! それじゃ、今日はこれでごめん! 先にいくよ!」

「ちょ、モルちゃん!?」


 そう言い残すと、サオリの静止の声も届かず風のようにギルドを走り去っていった。なんかついさっきも見たような光景だな。あんまりあのクランリーダーとやってることが変わらないような……。でも、そうか。エルフの種族的な強化って魔族領に行ってしまえば多分暫くできないだろうからな。アニーと同様、先を見据えての行動かもしれない。

 そんなことを考えていると、アニーも席を立った。二人ももう移動するのだろうか?


「アニー達も始まりの町に向かうのか?」

「いや、俺は流石にログアウトだ。流石にこれ以上は明日に響くからな。じゃあなメイ。とてもいい時間を過ごせた。……ありがとう」


そう言い残すと、アニーはログアウトをしてその場から姿を消した。メニュー画面を開いて時間を確認してみると、もうだいぶ遅い時間だった。確かにこれ以上は明日に響きそうだ。俺もそろそろログアウトしないといけない。


「あらあら。二人とも意外と素直じゃないのね。それじゃ、メイちゃん。アタシも落ちるわ。またね」

「あ、あぁ。サオリちゃんもありがとう。楽しかったよ。」


 返事を返すとサオリはウィンクをバチンとするとログアウトして消えていった。ちょっとウィンクは寒気がしたけど、それは黙っておこう……


 こんな感じで、前線に行ってみようと一時的に組んだ俺たちのパーティーは解散となった。そういえばパーティーネームすら決めてなかったな。……まぁいいか。

 たぶん、またこのメンバーで集まることがあるのだろうし。









主人公よりアニーのほうが口数が多かったのはわざとです。メイの特殊性が攻略組(笑)にバレない様にかばうためです。

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