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第五十七話

何故サーカス団で弟子入りイベントなんてしたのか……

何故一週間のうち最後の数日を描写しなかったのか………


全ては今この瞬間 ご都合主義全開の俺ツエーをするためだ!




【レディース! アーンド ジェントルマン! ウェルカムトゥー サーカスショー!】


 スキルの発動を宣言した瞬間、周囲の景色が変わっていく。俺を中心して円形のステージとして地面が浮き上がり、ステージ外は座席が設置されていく。

 そして開催宣言をしたことによって、拍手のBGMが鳴り響く。これでスキルは完全に発動状態になった。周囲をぐるりと見まわす。

 野外ステージのせいか、半径は10mと大きいが要竜とアニー達はステージ外の座席エリアにいるのが見える。好都合だ。

 今もモルガーナに敵意を向けている要竜のヘイトを一度俺に戻さないといけない。まずは第一幕のオープニングトーク。 【ヘイトスピーチ】を発動。

 


「コホン。【ヘイ! 図体ばかりのトカゲさん! ショーが始まるのに余所見をしていてイーノカナー!?】」


 ありったけウザく、イラッとするような話し方を意識してドラゴンに挑発する。スキル【ヘイトスピーチ】は注目を集めるだけのスキル。ヘイトスピーチの名に乗っ取って、敵を挑発するように言わないと効果が得られない代わりにタンクのヘイトスキルよりも効果が高い。

 言葉の意味こそ伝わらないだろうが、馬鹿にされているのは伝わったのだろう。モルガーナを狙っていた要竜が振り返り、俺を睨む。


「【ケッコーケッコーコケコッコー! 観客の注目を集められない演者程悲しいものはないからねー! さぁさぁ、これから始まるサーカスショーをどんどん楽しんでもらいまショー!】」

 

 最後ちょっと声が裏返ってしまった。なんでこのスキルを使う為にキャラを作らなければいけないんだ。慣れないハイテンションに顔に血が上り赤くなるのを感じる。

 視界の中に目を丸くするアニー達の顔が遠巻きに見える。あぁ、これだから使いたくなかったんだよ。後で絶対に弄られる。モルガーナとミツバの姉妹は特に面倒ないじりをしてくるのが目に見えてる。今からでもログアウトして枕に顔を当ててあ゛ー!って叫びたい。


 思わず頭を抱えそうになっていると、要竜に動きが見える。大きく息を吸い込んで口からチロチロと炎が漏れ始める。アニーを吹き飛ばしたあのブレスを放つのだろう。オープニングトークでは火をどうにかする様な行動スキルはとれない。でも、ブレスを止める事なら話は別だ。

 人差し指を口元に寄せ、嘲笑交じりに囁く。


「GRRAAAAA!!!」

「おっとお客様? 唐突に叫ばれると他のお客様のご迷惑が掛かりますよ? 【ご静粛に】」


俺がそう言った瞬間。ブレスを吐こうと今まさに口を開いた要竜の口がバクンと閉じる。要竜本人も予想外だったようで目を白黒させている。さっきからそうだけど、煩わしそうにしたり怒ったり、感情豊かなエリアボスだな。モンスターとはいえNPCと同様にコイツも感情というかAIが詰まれているのだろうか。むしろそっちの方が煽ったせいかが出るから助かるんだけどな。


「G___! ___!?」

「___? ___!? ___!!」

「おやおや? 観客の皆さま、私のいう事を素直に聞いていただけるなんて非常に助かります! せっかくのトークなのに勝手に話をされては困りますよね~?」

「___! ___!! ___!!!」



 クスクス…… クスクス……



 さっきまで鳴っていた拍手のBGMの代わりに、小さな笑い声が聞こえ始める。まだ()()()()()はそこまで高くない。マジックショーまでに最大に上げておかないと。


 ちなみに要竜が唐突にドラゴンブレスを止めたのは、別に要竜が急に調子が悪くなったとかそういう事ではない。俺がさっき煽りトーク交じりに発動させたスキル。【ご静粛に】の効果だ。

 効果はそのまま観客に静かにしてもらう事。それはギャラリースペースにいる者全ての口・音を用いた攻撃、スキル、魔法の一切の行動の使用禁止を意味する。


 無茶苦茶強力な効果に見えるかもしれないが、実際そこまで使い勝手はよろしくない。さっきも言った通り、この効果の対象はギャラリースペースにいる者だけ。俺の立っているステージ上にはこの効果の対象外だ。そしてギャラリースペースを作る為には【演目設定】スキルから始めてステージを構築しないといけないから通常の戦闘においては使用する事が出来ない。しかも静かにしてもらうのは、今のオープニングトーク時点のみ。制約が多すぎるのだ。


 同じくギャラリースペースにいる皆も同じように声が出せないようだ(正確に言えばマイクとスピーカーが機能しなくなっている状態)。モルガーナが必死に声を出そうとしているのが見えるけど、今は放っておこう。

 それよりも、ブレスを封じられた要竜が今度はステージ上の俺に直接攻撃をしようと腕を大きく振り上げる。薙ぎ払い攻撃はちょっとマズイ。オーバーリアクションのスキルだと吹っ飛び過ぎる。

 

「おぉっとお客様? いくらショーが楽しみだからって、ショーに乱入するには早すぎやしませんか? まだまだトークショーの最中ですので【ご着席ください】」

「___!?!?」


 俺のその一言によって要竜がドシンと座り込む。体格的には西洋調のドラゴンらしいドラゴンなのに座り方はなぜか犬のお座りの形なのが少し意外だな。

 ちなみにその後ろでは四人が普通にギャラリーに設置された座席に座っている。木製の質素な椅子だけどどうせ五感のあるVRじゃないんだ。座り心地なんて無いんだから許してほしい。


 ちなみにこのスキルもトークショー段階でしか使えないスキルだ。ギャラリーの者全てに座って貰う。このスキルも効果自体は理不尽なんだけど、いかんせん発動できるのがトークショー段階だけだしな……。


演目設定で設定された各演目は、それぞれに該当するスキルが解放されたり、強化される効果もある。

トークショーで言えば、喋って注目を集める、相手の動きを阻害する、といった効果の一部のスキルが使えるようになるし、その効果を強化する効果もある。その代わり俺自身もその他のスキルを使えなくなるという制約を抱えてしまうデメリットがある。

もう、ね。せっかく敵を妨害できてもそこから先の行動ができないんだから痒い所に手が届かない。


 だから次のショーに移るんだけどな。


「それでは観客の皆様が落ち着いた所で、次の演目に移りましょう! お次はジャグリングショー! とびかう道具たちの舞をお楽しみください!」


 ジャグリングショーに場面が移った事でさっきまでの【ご静粛に】、【ご着席ください】の効果は失われた。だけど、そんな事を知っているのはスキルの使用者である俺だけだ。

 要竜が警戒して静かにしている今が好機。


 ナイフを三本取り出して軽く投げる。そして投げたナイフをキャッチする前に他のナイフを投げる。キャッチ、投げる、キャッチ、投げるの繰り返しの基本的なジャグリングだ。

【ジャグリング】スキルによって一定回数のジャグリングが成功する度にDEXが上昇していく。ジャグリングショーではその効果が強化されているから、上昇値は通常時よりも高い。


だけど、それよりも肝心なのは【ジャグリング】スキルが“成功”したという事だ。スキルが成功すれば……

 

【スキル:成功!】【連鎖!】

【スキル:成功!】【連鎖!】

【スキル:成功!】【連鎖!】


【成功】スキルでステータスが向上していく! DEX以外が三分の一に下がっている俺が戦う為にはこうやって下準備をしなくてはいけない。要竜が動ける事に気付く前にもう少し稼いでおかないと……。


「さぁさぁどうです! 空を行き交うナイフの舞! これぞまさにジャグリングショーの十八番!」



ohhhhhhhhhhhhh!



BGMのクスクスとした笑い声が感嘆の声に変わるが、まだ小さい。もっとボルテージを上げないと。

ジャグリングの回転率を上げて更に【成功】スキルを稼ごうとしたけど、要竜が動き出してしまった。


「GRRR……GRAAA!!」

「おっとぉ! ここでトカゲ野郎のお客様が飛び入り参戦だ! いったいどんな芸を見せてくれるというのでしょうねぇ! ブレスだけの一発屋だったら赤っ恥だぁ!」



HAHAHAHA! 




若干笑い声が大きくなったことを確認しつつ、【適格急所】のスキルを発動。オープニングトーク以外は他のスキルも使える様になるから大分かわるな。

 流石に強固な鱗に攻撃してクリティカルが出るとも思えないし、狙うなら【ダガースロー】のスキルを使って斬撃が効いた眼球をだろう。


「それではトカゲ野郎さまにはアシスタントをお願いしましょう! このナイフをキャッチできるかなっと!」


【ダガースロー】のスキルによって、普通に投げるより強く投げられたナイフは一直線に跳んでいき、吸い込まれるように右目に突き刺さる。


「GRAAA!?」


【スキル:成功!】【連鎖!】


 【ダガースロー】スキルで投げたナイフがヒットした事によってその分の【成功】スキルが加算されたけど、クリティカルは発生しなかったな。目を守る膜に阻まれてそこまで深く刺さらなかったのだろうか。

 目に異物を投げつけられて更に怒りを増した要竜が今度は薙ぎ払いではなく踏みつぶすべく腕を振り上げる。

 本当なら踏みつぶされてぺちゃんこになってしまうのだろうが……生憎と踏みつぶされるのは慣れている。

 ジャグリングショーからアクロバットショーに場面を進めた瞬間、要竜の腕が俺に振り下ろされた。


「「「メイ(君)(ちゃん)!!!」」」

「センパイ!」

 

 遠くからみんなの叫びが聞こえてくる。要らない心配をかけてしまったかな。俺を踏みつぶした張本人のグルルと誇らしげな唸り声が聞こえてくる。多分他愛もないといったニュアンスの唸りだろう。

 ゆっくりと振り下ろした腕をあげるとそこには……当然のように無傷な俺の姿。



Hhhhhhhhhhh!!!!!!



 ボルテージも今の俺の無傷の生還に大きく上昇してくれた。この調子ならこの調子なら行けるはずだ。

 爬虫類ではあるが、要竜がバ、バカな!?って顔をしているのが良くわかる。自身の体格から繰り出される踏みつぶし攻撃がどれだけの威力かなんて本人が一番分かっているのだろう。

 だけど、踏みつぶしなら、リーノとルーノ__サーカス団の双子の少女たち__になんどもやられてきた。玉乗り用の大玉に潰され、巨大一輪車に潰され、よくわからん四角い箱に潰され……潰され潰され潰され続け、その果てに得たスキルが【スタンプ・スタント】。


 効果は巨大な物体に踏みつぶされた時にノーダメージで生還するスキル。


 巨大な物体に踏みつぶされる機会なんてあの双子におもちゃにされている時くらいしかないと思ってはいたけど、まさかこんな所で役に立つとは人生何が起こるか分からないものだ。


「はーい! 曲芸ショーの始まりは、図体だけは自身があるらしいトカゲ君に手伝ってもらっての捨て身のスタント! ご覧ください! 全くの無傷の生還です! さぁ、トカゲ君は次にどんな攻撃をしてくるのでしょうか!?」


「GRRRAAAAA!!!」

「【ジャンプ】」 


 馬鹿にするな! とでも言いたげな要竜が今度は前足を使って薙ぎ払ってくる。オーバーリアクションでは吹き飛ぶリスクが大きすぎる。だけど、【成功】スキルでステータスが向上し、更にアクロバットショーの場面の補助効果で移動系・曲芸系に該当するスキルが軒並み強化されている今、スキルの【ジャンプ】で大木のように太い要竜の腕でも難なく飛び越える事が出来た。

 頭に血が上った要竜が続けざまに二回、三回とむやみやたらに腕が振り回してくるが、それも予想済み。【ステップ】と【ハイステップ】のスキルを使って移動。または【ジャンプ】。

はたまた下にある隙間を【転倒】スキルを使ってスライディングしてすり抜ける。スライディングした後は【()()】スキルを使って【転倒】スキルをキャンセルしてすぐさま体制を戻す。ミツバと比べると素の身体能力では劣るけど、スキルに依存すれば何とかこのレベルでも回避出来る。ギリギリだけどな!


 どれだけ振るっても当たらない事に腹を立てた要竜がブレスを吐いてきた。トークショーから場面が進んだ今、【お静かに】のスキルはもう使えるタイミングではない。だからブレスに対しては【ステップ】、ならびに【ハイステップ】を連続で発動させて範囲から逃れる。

 

【スキル:成功!】【連鎖!】

【スキル:成功!】【連鎖!】

【スキル:成功!】【連鎖!】

【スキル:成功!】【連鎖!】

【スキル:成……



 更に【成功】を積み重ね、素の移動速度だけでも充分なまでにステータスが上がった。やられっぱなしっていうのも気に食わないし、今度はこっちから攻撃に出るか


「それでは、ささやかながら次の芸を! これからこの山の如き巨躯を、見事頂点まで昇って見せましょう!」


 【ジャンプ】のスキルで腕に上り、その後は【ステップ】と【ハイステップ】を交互に使って最高速度で移動をしていく。それぞれセカンドからフォースまでも使っているから、五歩ずつ毎に入れ替えるって形だ。本来はこんな真似は出来ないんだけど、双子から貰った指輪の効果。中級道化師のジョブ効果。そしてこのアクロバットショーによるスキルの強化によって、今この状況だけならこれが可能になる。


 スピードが徐々に上がっている事を確認しつつも、遂に頭部まで上り詰めた。これで登山ならぬ登竜は二回目だな。

 登り切ったことを証明して見せるように手を広げてアピールする。一見すると意味のない……というかただ四人に黒歴史を見せつけてるだけにみえるかもしれない行動だけど、意味はちゃんとある。


WOOOOOOOOOO!!!!!!!


 この、ボルテージが上昇するって効果が。さっきからボルテージボルテージと変な事を気にしているようだけど、このボルテージっていうのはクロさん曰く道化師だけの特殊なパラメータらしい。

 といっても常にそのパラメータがある訳じゃない。これも演目設定によってサーカスショーを開催している時にのみ発生するものだ。

 ボルテージとは熱狂度。スキルを成功させたりトークで面白いように場を茶化したりして上昇させる事ができて、反対にスキルを失敗させたり真面目にふるまって場を白けさせると低下してしまう。さっきからひたすら不快な黒歴史確定の喋り方をしているのはそのためだ。全くふざけたパラメータだろ?

 あ、さっきからなってる笑ったり叫んだりしてるBGMがそのボルテージね。


 最初は義理でやる様な軽い拍手だけ。そこから徐々に大きくなっていた歓声は、いまや大きく盛り上がっている。

 その利点は、ボルテージの大きさによって制限を解除できる特殊な大技の発動。


 要竜の頭部にて大きく宣言。


「さぁ! 舞台が最大級に盛り上がってきた所で本日の山場! 皆大好きマジックショーだ! 時間の都合上、大技1つで終わりにさせて頂きます! その代わりに最高のエンターテインメントを約束しますよ! さぁ刮目せよ! 【安心安全の断頭台】!」

「GRRR!???」

 

スキルの発動をキーに要竜の首が拘束され、それに伴って胴体も倒れて地に落ちる。

 

 断頭台。つまりはギロチンマジックだ。マジックショーでは目玉にもなる様な大きなマジックだ。拘束された首の上にはもちろん、キラリと鋭利な輝きを放つ巨大な刃がくくり付けられている。

 ……自分で使っておいて何だけど、要竜の巨体に合わせた断頭台だから本当にデカいな。


 拘束から逃れようと必死に体をよじるが、このスキルは一度発動したら刃が落ちるまでが予定調和だ。途中で壊れて中止になる様な白ける事はスキル的に有り得ない。


「さぁ、一世一代のギロチンマジック! 果たして首は無事なのか!? 観客の皆さまご安心ください。これはタネも仕掛けも満載のマジックです。 何かしらの要因でも無い限り成功率は100%!! 絶対に生存できます!! だからクレームは止めてくださいね?

 それでは、ドラムロール!!」


 緊迫感を促すドラムロールが鳴り響き、ボルテージが上がったことによって湧いていた観客歓声のBGMは鳴り止む。

 チラリと下を見ると、うわここめっちゃ高―い……じゃなくて。何かを察したのか目を丸くしてまさか、と口を動かしているモルガーナが小さく見える。たぶんモルガーナは気付いたかな? 俺のやろうとしてるトリック。

 指を鳴らして刃が落ちる合図をすると、高所をキープしていた刃が轟と風を切りながら落下する。


もちろんこれはマジックスキル。100%生存する事が成功して、最高潮のボルテージの限界を更に先まで上昇させるだけのスキルだ。本来であれば。



 刃が要竜の首に落ちる直前、【失敗】スキルを発動。ガヒョンと間抜けな音が断頭台からなって正規のマジックショーのルートが破綻した。




Boooooooo!!!!!


Booooooooooooooooo!!!!!!






予定通り、失敗する事が成功。


満場一致の大ブーイングの中、ゴロンと首が転がった。





絶対助かるスキルを失敗したら絶対助からないスキルになるという、ぼくがかんがえたさいきょうのわざ。


最後の一言を ドラゴンは、くひ゛を はねられた! にするか悩みましたが結局普通に書きました。



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