第六話
ギィッと、軋む扉を開けると剣や槍といった武器が並べられたまさに武器屋といった店内であった。すうっと息を吸うと鉄と煤のにおいが……まぁしてくる筈がないけど、そんなにおいがするような錯覚を覚えた。
「さぁ、ついたぞ。メイ、どんな武器がいいんだ?」
「そうだな~。長剣に短剣、槍、弓、ハンマーもあるのか。いろんなのがあるんだな」
店内に並べられた武器は多種多様。中世チックで洋風の癖に日本刀やらインドチックな風変わりな形の剣まで置いてあった。…インドの剣なんて最初に選ぶ奴いるのか?癖が強すぎだろ。
「アニーのお勧めは何なんだ?」
「俺と同じ長剣だとスタンダードで結構扱いやすいし、俺もある程度は教えられるぞ。まぁ日本刀と違って切るよりも叩き切るって感じだから、とりあえず振っときゃダメージが入るんだよ。
ま、個人的には別の武器を選んで貰った方がパーティーとしてのバリエーションが増えてありがたいんだけどな」
冗談めかしてアニーがそう言う。流石に今すぐパーティーを組んでも俺寄生プレイヤーになるだけなんだけどな。と言うかそもそも俺所持金なくね?
「なぁ、そういえば俺所持金0で買いようがないんだけど」
「これくらいの値段なら俺が出すわ。有望な新人への先行投資だよ。大いに感謝して後で二倍三倍にして返してくれ。なんならパーティー組んだ時の貢献でもいいんだぞ?」
思わず目を丸くする。え、マジで? アニーまじ兄ぃだわ。漢の中の漢だね。後々の利息が怖いけど。
「そういう事なら今回はありがたく貰っておくよ。あんまり将来に期待するなよ?」
そうアニーに告げつつ武器を物色する。多種多様に物があると選ぶのも一苦労だ。ふとアニーと同じ長剣を持っ……重い。鉄の塊でも持ってるみたいだ。いや、鉄の塊だけども。たぶんSTRの値的にどうとか そんな所だろう。これ振り回すのはキツいな……。他の武器を探そう。
店内を一回りした辺りで、小さな短剣を一本手に取りアニーに渡す。
「いいのか?短剣も確かに使いやすいと言えばそうだが、一撃のダメージが少ない分手数を稼ぐ必要がある。手数の多い分消耗も速い。初心者にそれは荷が重くないか?」
「いいんだよ。長剣はレベル1のステータスにはちょっと重そうだし。それなら一撃が軽くてもしっかり持てる物を持ちたい」
更に意趣返しって訳じゃないけどニヤリとアニーに不敵に笑う。
「それに、アニーの一撃の後に追撃とけん制するなら長剣よりもこっちの方が都合がいいだろ?」
遠回しにパーティーメンバーに加わることをほのめかして伝えたことを察したアニーはクックックと喉で笑う。
「オーケー未来の相棒。そうゆう事ならサービス追加だ。手数武器はその分消耗が早い。予備にあと2本余分に買っといてやるよ」
会計を済ませたアニーが三本の短剣を俺によこす。ええと、一本350ガメツで1050ガメツ? 長剣一本と同等らしい……って事はやべ。もしかして予想以上に一撃が弱い? ミスったかも。 というか金の単位ガメツって何。がめついから来てんのか? じゃあ金持ちになるほどガメツイ奴ってか? やかましいわ。
「装備の仕方は分かるか? メニュー画面のアイテム欄があるだろ?そこから短剣を選んで装備することを意識するんだ。出来たと思ったらステータス画面を開いてみな」
【アイテム一覧】
・鉄製の短剣
・鉄製の短剣
・鉄製の短剣
持っているアイテムは貰った短剣三本のみ。で、このうち一本を装備することを意識して……こうか? あ、手に持ってたナイフの一本が腰に移動した。これが装備状態ってやつか。
【アイテム一覧】
・鉄製の短剣
・鉄製の短剣
一覧の中の短剣が一本無くなってるな。これで装備されたってことか。じゃあステータス画面をチェックと。さっき見た時は無かった【装備▲】の文字があった。補正詳細の三角マークの時の様に意識を向けてみる。
装備▽
武器:鉄製の短剣
村人の服
麻のズボン
ただの靴
補正詳細▽
装備補正:鉄製の短剣
攻撃時、STRの値+5
常時、DEXの値+1
おお。STRの値がほぼ倍になった。でも威力の少ない短剣でこれって事は三倍の値段がした長剣は+値15? うーんそれだと手数武器の方が強い気がするし、もう少し高いのかもしれない。
「STRの補正は攻撃するときだけなんだな」
「あぁ。今プレイヤー達の調査の結果分かっているのは、STRはストレングス。つまりは筋力の値を示すってことになっているらしくてな。攻撃する時はSTRを参照に色々計算されてダメージが計算されるらしい。攻撃力の参照の他に持つことのできる重量にも関係があるらしい。攻撃時だけなのは、常時上昇だと重い剣を持ってるだけで重いものを持てるようになるのは変だからじゃないか?って考えられてる。
こうゆうことも説明が無くてな。自称攻略組が躍起になって調べているよ」
そういうものなのか。アニーは初めて一か月って言ってたし、攻略組? に追い付くことを考えるよりも既出情報をもとに自分のステータスを伸ばした方が得策かもしれないな。
「アニー。取りあえず今の状況でどれくらい通用するか試してみたい。町の外でモンスターとかと戦闘することはできるか?」
その為にもまずはレベルを上げたい。