閑話・人外プレイヤーの愉快な冒険物語
前に書いた魔族領プレイヤーの話の続き。特にメインの話とは関係ないですが、新しく作る程のストックも無いので閑話として出します。ぶっちゃけ読まなくても問題ない話です。
ジョンド
種族:アンデットヒューマンの少年。リアルでは病弱で、学校に行けずに入院と退院を繰り返してる。小柄でショタっ子。
コットン
種族:スライムのプレイヤー。なんだかんだでジョンドと仲良くなった人。相棒兼保護者な立ち位置。見た目は青色の粘体の為性別不明。いい人。
魔族領・始まりの町の外、海までの通路にて
「コットンさんコットンさん。僕たちは確か海に向かってた筈ですよね? 」
「おうそうだな! 我が足替わりたるジョンドよ!」
「コットンさんコットンさん! 結局僕たちはどうして逃げてるんですか!?」
「それは簡単さ!我が最後の生命線たるジョンド! プレイヤーじゃなくてモンスターなゴブリンに追いかけられているからさ!」
ランダムで選ばれる魔族の中で人型でキャラクタークリエイトに成功した魔族プレイヤー【ジョンド】は、現在エンカウントしたモンスターであるゴブリンの群れに追いかけられてきた。偶然にも早い段階で気付くことが出来た為今はまだ距離が開いているが、アンデッドヒューマンというアンデット系の種族である彼のSTRとAGIでは逃げ切ることはできず段々と距離は狭まっていく。
このままではじり貧だと感じたスライム種のプレイヤー【コットン】が、ジョンドの肩の上でポヨポヨと弾みながら叫ぶ。
「ジョンド! どうせこのままだと追い付かれる! 俺を置いてお前だけでも逃げるんだ!」
「嫌です! せっかく友達になったコットンさんを置いてなんていけません! それに、楽しいんです! これまで一人病室で外を眺めるくらいしかなかったのに、こうやって友達と外を走るなんて夢のようなんです!」
そういって笑顔のまま走る事を止めないジョンド。例えこれがゲーム機のディスプレイに移る映像でしかなく実際に走っている訳ではないのだとしても。
今、この瞬間。ジョンドは確かにこのゲームの世界で友達と一緒に走っているのだ。ジョンドはこれまで身体が弱く走るなんて事は言語道断だった。また、入院や学校の早退が多かったジョンドに友達は少なかった。例えゴブリンに追われているとしても楽しいものは変わらなかった。
ジョンドのその様子、病室や一人といった言葉の端々に何か深刻そうなものを感じたコットンはなんとなく彼の現実の状態を悟ってしまう。
「ジョンド……。仕方ねぇな! どうせこのまま逃げても勝ち筋なんて無いんだ! なら二人で立ち向かってやろうぜ!」
「はい! コットンさん!」
そう言って逃げる事を止め、ゴブリンに向かい拳を構えるジョンド。しかし、一年のほとんどを病室か自室のベッドの上で生活しているジョンドに戦闘なんて荒事の経験がある筈も無く、腰の入っていないへっぴり腰な構えだ。
それを見かねたコットンはスライムの身体をぷよぷよさせて周囲を見回し何か武器になりそうなものを探す。
「っむ! ジョンド! あの木の棒を拾え! 丸腰でゴブリンの群れ相手に素手で戦うよりマシな筈だ!」
「はいコットンさん!」
言われるがままに木の棒を拾い、テレビでみる時代劇や海賊映画を思い出しながらそれっぽく構える。ゴブリンとの距離は既に詰められ、戦闘が始まる。幸いなことにゴブリンの大半は素手の個体。こん棒を持ったゴブリンは2体だけだった。
ジョンドは手にする木の棒を振り回し、ゴブリン達をけん制する。素手であるゴブリン達達は警戒し近づいてくるのを躊躇っている様子だ。だが、近づかないという事は当たっていないという事。ジョンド達はダメージを負ってはいないが、与えられてもいない。
「コットンさんコットンさん! 攻撃が当たりません!」
「あっはっは! 当たり前だよへっぴり腰でお茶目なジョンドよ! そんなにぶん回すだけだで攻撃が当たったら苦労はしねぇさ! じゃ、ちょっと俺が手助けしてやるよ!」
へっぴり腰で振り回す様子がツボにハマったのか、プルプルがブルブルに変わり全身で笑いを表現するコットン。笑いながらではあるが、スライムの身体を触手の様に伸ばし、最も近くにいたゴブリンを拘束させる。身体の大きさや形状の違いから多くのプレイヤーが行動不能の状態にいた中、コットンは粘体という超高難度の形状を使いこなしているといえた。
「すごい! コットンさん凄い!」
「悪いが長くはもたねぇ! 今のうちに攻撃してくれ!」
流石のジョンドでも動かない敵に対してなら攻撃を当てる事は安易だ。木の棒を振り上げて拘束されたゴブリンに思い切り振り下ろす。動くことのできないゴブリンは何もすることが出来ないまま頭部を思い切り打たれスタン状態に陥った。
流石に他のゴブリンが邪魔に入り、ジョンドに対し殴りかかってくる。ジョンドは思わず目を瞑ってしまうが、コットンが機転を利かして拘束しているゴブリンをぐいっと引き寄せる。スタン状態で動けないゴブリンは簡単に引き寄せられて、丁度良い盾となりゴブリンの攻撃を防いでくれた。
「ジョンド! 目を瞑ってちゃ避けられる攻撃も避けられないぞ!」
「ご、ごめんなさい。気を付けます!」
気を付けるといったは良いものの、今更ながら怖気づいてしったのか木の棒を握る手が震え動けなくなってしまう。その様子に気付いたゴブリン達はニヤリと笑ってジョンドを拘束に掛かる。
「うわぁ! こ、コットンさん! どうしましょう!?」
「こいつらっ! ッ! ックソ! スライムじゃダメージにならねぇ! ジョンドを放しやがれ!」
触手のように伸ばした身体をまるで鞭のようにしならせてジョンドを押さえるゴブリンに攻撃をするコットン。しかし、拘束する事は出来てもSTR値の減少補正のあるスライムではそれほどのダメージを出す事ができない。
コットンの抵抗も虚しくゴブリンに抑えられたジョンドは何度も何度も殴られてしまう。頑張ったのに駄目だった! コットンさんごめんなさい! と心の中で呟くジョンドであったが__
HP 40/50
「あれ? そんなに減ってない?」
「……あ、そういやジョンドってアンデット系なんだっけ……」
元々HP二倍の補正があり、LV1の状態でもHP50という破格のHPを持つジョンド。それだけでなく、毎秒HPが少しずつ回復していくアンデットの固有スキル【既死者の体】のお陰でHPの減少は極めて緩やかだ。受けるダメージが大したものではないと分かったジョンドとコットンは安心して反撃にとりかかった。
「「はーなーせぇーーー!!!」」
触手による鞭で戦うコットンと異なりジョンドの攻撃は掴まれた腕をジタバタと振り回すだけの、所謂駄々っ子パンチ。攻撃の当て方、当たり方でもダメージが変動するこのYSOでは、そんな攻撃で与えられるダメージは微々たるものだ。だがしかし、なぜだか攻撃の当たったゴブリンのうちの一匹が突然顔色が悪くなる。それだけじゃない。
「「「ゲ、ゲギャァ……!?」」」
その一体目を筆頭に次々とゴブリン達の顔色が悪くなっていく。その答えはジョンドの持つもう一つのパッシブスキルにあった。
アンデット系統の持つもう一つの固有スキル「瘴気の手」。その効果は直接攻撃してきた敵、または直接攻撃された相手を一定確率で毒状態に変えるものだ。
御都合主義ここに極まれりといった感じではあるが、拘束する為にジョンドに触っていたゴブリン二匹、殴りかかっていたゴブリン、駄々っ子パンチの当たったこん棒を持つ二匹のゴブリン。全てのゴブリンがもれなく毒状態に陥り満身創痍な様子になった。
結局満身創痍で動きの鈍ったゴブリンに止めを刺して回るだけという、なんとも雑な勝利で終わってしまった。
「コットンさんコットンさん! なんだかよくわからないですけどやりましたね!」
「あー、おう……ナイスファイトだったな。ドジっ子属性に追加して天然属性まであるジョンドよ……」
状況をしっかりと理解してしまい、全てのゴブリンを一気に毒状態にしてしまったジョンドの強運に驚くコットン。だが、驚きながらもしっかりとジョンドを褒めるのを忘れない。出来るスライムは違うのだ。当の本人であるジョンドは、コットンの内心を知ってか知らずか喜色満面の様子でステータス画面を開きながら雑談を楽しむ。
「そういえばコットンさん、体動かすの凄かったですね。あの体を伸ばすのってスキルなんですか?」
「ん? いや、あれは単に体を触手状に伸ばして操作していただけでスキルじゃないな。慣れてるんだよ。自分の身体じゃない物を操作するのって……そんな事より! ステータスの方はどうだ? 」
「あ! コットンさん! レベルが4つ上がってました! えっと、8pステータスに割り振れるらしいですけど、どうしましょう?」
「それなら、今はHPかDEFに多めに振って少しだけをMPに振るを薦めるぞ。ジョンドの場合STR上げて自分の攻撃で攻撃するよりも、耐久力を活かしつつ【瘴気の手】スキルで毒勝ちを待った方が安全の筈だ」
「分かりました! 所でコットンさんはどんな感じですか?」
「俺か? ふふん。俺みたいなスライムはちょっと特殊なんだよ」
そう言うとコットンはジョンドの肩を飛び降りて討伐したゴブリンの上に着地した。そして何やらプルプルモソモソと蠢くと、次の瞬間にはゴブリンの死体が跡形もなく消え去った。
「え? ゴブリンが消えた?」
「そう! ジョンドがHPが回復して敵を毒にするような固有スキルが有る様に、俺にも固有スキルがあるんだよ。それこそがこれ!【捕食】スキル! 討伐したモンスターの死体を喰らう事で新たなるスキルを得る事ができるスキルだ!
「す、すごいです! 流石ですコットンさん!」
「そうだろうそうだろう! ま、好きなだけスキルを得られる代償として初期スライムである俺のステータスは与ダメ半減、被ダメ二倍、移動速度半減の補正効果があるけどな! こんなクソみたいなステータスの奴なんてそうそういないだろ!」
どこかの道化師がくしゃみをしそうな話をしながら豪快に笑うコットン。スキルを好きなタイミングでいくらでも得られるようなスキルを持つスライムは、最弱でありつつも可能性の塊といえるだろう。
ちなみにゴブリンを捕食する事で得られたスキルは【群衆】【襲撃】。前者は味方の数が多い程ステータスが上昇するスキル。後者は自分から攻撃して戦闘状態に陥った際に一定時間ステータスを上昇させるスキルだ。
「それじゃあ、いつかコットンさんがもっとスキルをいっぱい手に入れたら技のビックリ箱になりますね!」
「おうよ! 期待していていいぜ『相棒』!」
「相棒? 僕がですか?」
「他に誰がいるってんだよ。我が節穴にして謙虚なる相棒よ。よく考えてみてくれ。俺はスライムだから足が遅いし体が小さく、そして弱い。代わりにいつかは多芸になる。相棒は人型だから行動力に不便しないし、頑丈でしぶとい身体を持っているが、ダメージソースに乏しいし、何より天然ドジっ子属性だ。二人が揃えばお互いの弱点を補い合える。俺が相棒の武器となり、相棒の行く道を切り開く。どうだ? そうなれば無敵なコンビだと思わないか?」
いつかという不確かな話。しかも触手をセルフで構築できる技量を持っている人物からの自分が弱い宣言。自分が武器になるという寄生にも取れる発言。さらに遠回しに辛い盾役を押し付けているとも取れる言い回し。聞く人が聞けば眉を顰める様なコットンの発言。
しかし、これまでずっと孤独に闘病生活を送って来たジョンドにとって、頼られるという事程甘美な言葉はなかった。
「……うん。うん! コットンさん! さいっこうですよ! それなら早く、僕と契約して最強のコンビになりましょうよ!」
「契約って、お前それ狙って言ってるのか?」
「?」
「……いや、それ魔法少女……いや、なんでもない。 っと、そんな事よりもだ! いいぜ契約だ! 今日から俺たちは最高最強のコンビだ! 見ろ! この海が祝福してくれてるぜ!」
そう言って粘体の一部を触手状にに伸ばし方向を示す。その先にはいつの間にか到着していたジョンド念願の海があった。波打つ海岸に飛び散る飛沫。日の光を反射しキラキラと輝く美しい水面。ゲームの画面から流れるただのグラフィックと一言で片付けるてしまうには余りにも持ったいないような光景だった。ずっと海に憧れていたジョンドにとっては、まさに言葉を失う程の。
「………すごい」
「っかー! そこまで感動するほどだったか!? それならもっと近くに行こうぜ!相棒!」
「うん! コットンさん!」
今はまだ自称である最強のコンビは日に照らされる海と共に結成された。
ぼくのかんがえたさいきょうのしゅぞくしょうかいコーナー(設定資料)
スライム
よくあるテンプレモンスター。固有スキル【捕食】によって食べたモンスターに近い形質のスキルを得られるという、万に近い可能性を秘めている。進化さえすれば物理攻撃や魔法攻撃を無効化するスキルを得られ、強力なスライムへ至れる。
反面、初期状態のただのスライムのステータス補正は与ダメ半減、被ダメ倍増、移動速度半減という馬鹿みたいな低性能。粘体内には核という分かりやすい弱点部位があるといったデメリットがある。また、人型とかけ離れた粘体の生物の為、操作性の難易度は魔族トップクラス。プレイヤーがスライムになったら最後、成長する前に死んでしまう。簡単に強くなられたら悔しいじゃ(ry
注)作中のコットンさんのスライムの粘体を触手状にして拘束したり、鞭のようにして攻撃したりといった行動は全て、スキルによらないプレイヤー本人の操作技術です。そんな便利なスキルこんな序盤で手に入りませんので勘違いしない様に。
アンデットヒューマン
種族がヒューマンだとがはっきりと分かるほど死にたてフレッシュな死体が、生への未練から蘇った魔物。死体が新鮮故にミイラやスケルトンとは一味違って進化の派生が少しだけ簡単。なにより臭くない。しかし死体である事には変わりないのでゾンビ系統の固有スキル【既死の体】【瘴気の手】を持っている。不死と既死の違いは、既に死んだ存在か死なない存在かというだけの違いで不死の方が格が上。ちなみに吸血鬼は不死の方。当然既死者より不死者の方が回復能力は高い。
ほとんどのアンデットが腐った死体・白骨死体・死体すらない(ゴースト)、である為、実は地味にレアな種族。
注)作中ではポンポンと簡単に毒状態になっていますが、【瘴気の手】の毒状態の確率は10%でそこまで高くありません。せんせいの爪やおうじゃの印と同じくらいです。壊れスキルでも何でもなく、ジョンド君のリアルラックとご都合主義によるものなので勘違いしないように