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第四十九話

夏休み終了のお知らせ


「次! 右からホラビ3!」

「そっちは任せて頂戴! ぬぅん!」

「左から来たウサちゃんズはボクが行くよ?」

「私! 私が魔法を打つ機会は!?」

「「「ない!」」」

「酷いよ!?」


 空気の読めないタンクことイワンとの戦闘が終わった後、問題なくサオリとミツバのジョブチェンを終えた俺たちはそのまま前線へと挑戦していた。


 前線。プレイヤー達が攻略した最も進んだエリアだ。そして前線というのが【断裂の森】と呼ばれる森だ。なんだか俺の進む場所のほとんどが森の様な気がする。気のせいだろうか?


 アニーの指示の元、右から突撃してきたホラビ(ホーンラビットの略)をサオリが握り潰し、元々左にいたホラビにはミツバも流れる様な動作で対応する。喜々として魔法をぶっ放しを提案するモルガーナに対しては満場一致でキャンセル。さっきファイアが山火事になって全員死にかけたばかりだというのにどうしてもう一度やろうとしているのだろうか。せめて火属性以外を使って欲しい。

 ちなみに俺は皆の真ん中でトランプを投げている。プレイヤースキルの塊達による乱戦の中に入るのは気が引けるし。ちょっとミツバの方のホラビの数が多いかな? 山札から適当に一枚とって手裏剣の様に投擲する。そしてタイミングを見計らい、指を鳴らしてスキルを宣言する。


「【フラッシュポーカー】!」

「「キュゥ!?」」

「あ、先輩ナイス」


【スキル:成功!】 【連鎖!】


 【フラッシュポーカー】のスキルによって動きが仰け反ったウサギに対してミツバが思い切り蹴り上げて吹き飛ばす。吹き飛ばされたウサギはそのままHPが0になり動かなくなる。ジョブチェンジして更に磨きが掛かった二人の善戦によってなんとか均衡状態にあるが、なぜかモンスターが次々と現れ続けて終わる気配がない。しかも、何故かウサギばかりが襲ってくるし、時折アニーらを無視して俺に向かってくるときもある。


「アニー! 前線ってこんなにエンカウント率が高いのか!? 」

「んな訳あるか! 大方お前のヘイト集めるスキルのせいだろ!」

「ねぇねぇ! 私は? そろそろ私の魔法の出番じゃないかな!?」


 魔法を打ちたくてうずうずしているといった様子を前面に押し出したモルガーナがうざい。リアルだと自分の学校のせんせーだと分かっていてなおうざい。

 だけど、現状前衛三人の能力が高いお陰でなんとか均衡を保てているが、本来ミツバとサオリはここのエリアの適正レベルよりも低い。もしもっとモンスターの数が増えれば多分直ぐに瓦解するだろう。俺も成功スキルをそこまで積めてないし。その点INT極振りの馬鹿みたいな火力のモルガーナならこのウサギの群れを一掃できるはずだ。

 アニーに視線を送ると、俺と同じような考えに至ったのか若干苦い顔をしながらもアイコンタクトを返してくる。


「やむを得ねぇ! だが山火事になる火属性以外で頼むぞ!」

「え~。火属性が一番見栄えがいいのに」

「お姉ちゃん……いい加減にしないと後でボコるよ?」

「と、思ったけどたまには他の属性も味わういい機会だよ!」


 アニーの指示に難色を示すモルガーナだったが、ミツバがボソリと呟くと一気にやる気を示した。一応姉の方は社会人なんだけど、姉妹のパワーバランスがおかしい。

 一瞬だけ火属性以外で何を使うかを悩んだ様子を見せたが、すぐに考えを纏めて詠唱を始めた。


「ごめん! 詠唱時間で数秒耐えて!」

「分かったわ! アタシの筋肉にかけて耐えきってアゲル!」

「これでも唯一の盾持ちなんだ。それくらい楽勝だ!」


 そういってメンバー全員気を引き締める。だけど、確かに詠唱時間まで持たせるだろうけど、周囲に散ったホラビ全部に当たるのは流石のモルガーナでも厳しいだろう。

 たぶんこのメンツで一番ヘイトを集められるのは俺だろう。ならばと思い、前衛の三人の間を抜け前へと飛び出し、手に持っているトランプを一気にばら撒いた。


「「「は!?」」」

「【フラッシュポーカー】!」

「「「キュゥ!?」」」

 【スキル:成功!】


 一度に全選択して起爆してしまえばリキャストタイムは関係がない。そして一気にすべて爆発した事によって周囲のホラビ全てが怯み、一時的に足を止める。さぁ、ここからが勝負時だ。

 一度怯ませてしまえば元々の職業補正のヘイト補正も相まって周囲のホラビ全てが俺に目を向けてくる。短剣を構え攻撃に備えていると、案の定突進で攻撃してきた。


「【オーバーリアクション】! って、ぐへぇ!」


 ミツバと戦った時にも使ったスキル【オーバーリアクション】によって、大きく吹き飛ぶモーションになる代わりに打撃系統の物理ダメージを0にする。これでダメージを無視しいて攻撃を受ける事が出来るようになったけど、いろんな方向から一斉に突進してきたせいでモーションの挙動がおかしい! 


「うわ、先輩の動きが気持ち悪い。なんていうか、ピチピチって活きの良すぎる魚みたいな?」

「ミツバちゃんと戦った時のスキルでしょうね。にしてもこれは……」

「いや、なんにしてもありがたい。ホラビ全部がアイツに集まってるぞ」



左から突っ込まれて右に吹き飛びそうになった瞬間右から突進が来て吹き飛びが左方向に塗り替えられ、その次の瞬間には正面から突っ込まれ後ろに吹き飛びが塗り替えられる。それが延々と続き視界がまるでジェットコースターの中の様にグニャグニャと曲がって気持ちが悪い!


【スキル:成功!】【連鎖!】 【スキル:成功!】【連鎖!】

【スキル:成功!】【連鎖!】 【スキル:成功!】【連鎖!】

【スキル:成功!】【連鎖!】 【スキル:成功!】【連鎖!】……


 一度吹き飛ぶ度に成功スキルに判定が入り連続でスキルが発動する。アナウンスラッシュと視界の変動で本当に吐きそうになってきた。


「メイ君! もう大丈夫! 離脱できる!?」

「分かった!」


 急ぎ【失敗】スキルを発動させ【オーバーリアクション】のスキルを強制キャンセル。さらにそれと同時にステップスキル全てを発動させて全力でアニー達のいる場所まで逃げる。吹き飛びまくった時に増えた成功の積み重ねによって上がったスピードによって瞬時に逃げ切ることが出来た。


「速っ!? でもメイ君ナイスだよ! これで楽に一掃できるよ! 【ウィンドカッター】!」


 モルガーナが魔法を発動させると、俺が一か所に集めたホラビに風の刃が吹き荒れた。風に当たる度にウサギが千切られていき、もはやR⁻18指定されてもおかしくないくらいのグロテスクな状態になってしまった。それどころか、被害はウサギだけで済まず、そのまま周囲の木々が切り倒されポッカリと空間が出来上がってしまった。

 余りの光景に絶句している面々をよそに、この光景を作り上げた張本人は意気揚々と小躍りを始めた。


「気持ちいぃぃ! 火属性の方が派手だったから好きだったけど、風魔法も森の中ならすごい被害が出てすごい快感だよ! しかも一気に細切れになるホラビの群れ! メイ君ナイスアシストだよ!」

「お、おう……俺も風魔法でここまで被害が出るなんて思わなかったよ……」

「やっぱりモルちゃんの高火力は魅力的ね。ファイアボール相当の初級魔法でこれだけの被害を出すんだもの……」


もはや語る言葉も無いといった俺たちの様子をみてモルガーナは更に気を良くしたのかドヤ顔で胸を張る。アニーに至っては、周囲への影響がデカいと苦言を言いたいが実際に成果を出してるから深く追求できないといった葛藤した顔をしている。その顔をみて更にドヤ顔になるんだから残念なんだよな。


「……はぁ。ナイスだモルガーナ。流石はパーティ最高火力だな。メイの機転も中々よかったな。だが、次から前に出るのなら行ってくれよ? 」

「分かった」

「あら? 意外とモルちゃんを素直に褒めるのね? もしかして、イワンに怒ってくれた事モルちゃんに惚れちゃったのかしら?」


 サオリが茶化すように呟くと、何故かミツバが食い付いてクワっと目を見開いてアニーに近寄る。


「アニーさんそれホント? それなら早めに貰ってやって欲しいよ? お姉ちゃん、この通りゲームが恋人って人種だからお母さんも貰い手を気にしてるんだよ? アニーさんならいい人そうだし、ちょうどいいからお姉ちゃんあげるよ?」

「妹が姉に厳しいよ!」

「いや、でもな? ネットで会っただけっていうのにそういう事はちょっとな……。まぁ確かに俺の為に怒ってくれたのは嫌では無かったが」


ミツバに詰め寄られたアニーはお茶を濁すように目を逸らした。なんとなく顔も赤いし、これはひょっとしたらひょっとするのか? 身近な人物の恋バナという事でミツバとサオリがキャーキャー言い始めたが、当の本人たるモルガーナはキョトンとした顔をしている。


「私がコイツと? 有り得ないよ! そもそも半端剣士を庇った覚えはないし」

「え? でもお姉ちゃん、あのイワンって人に怒ってたよ?」 

「あれはあのタンクの人が剣士を馬鹿にしてたからであって、別にこの半端剣士だからって訳じゃないよ。だって剣士! 舞い踊る剣と剣! 誇り掛けられし剣のぶつかり合う甘美な響き! 悪竜に勇猛にも単身で立ち向かう剣士! あぁなんたるロマン! 」

「せんせー……こんなんで婚期大丈夫なのか……?」

「……あ、なんか冷めたわ……。ハァ……ロマンバカは放っておくとして格闘家二人は新しいジョブの調子はどうだ?」


 冷めた目でモルガーナを一瞥した後、切り替える様にアニーが二人に尋ねる。フラグが1つバキバキに折れて、格闘家二人はそれぞれ困ったような顔、モルガーナを汚物を見る様な顔をしながらアニーの質問に答える。どっちが汚物を見る様な顔でモルガーナを見ていたかは言うまい。


「ええと、ジョブの方はバッチリよ。最初こそAGIの補正が無くなった事の違和感が多少あったけど、元々の数値が低かった分微々たるものだしね。むしろ更なるSTRになってホクホクよ」

「うちの愚姉がごめんなさい。戦闘の方は問題ないよ? ボクの方はDEFの補正?が無くなっちゃったけど、攻撃に当たっちゃいけないって思うとちょっとゾクゾクするし」 


 バトルジャンキーの少し危険な発言があったような気もするが、2人とも概ね満足のようだ。

 ちなみに二人は格闘家からそれぞれ違うジョブに転職した。STR特化で攻撃力を重視したサオリは重格闘家。AGIの補正が無くなった代わりにHPやDEFの補正が高まり、派生の中で最もSTRの高いジョブだ。

 ミツバは軽格闘家。DEFとHPの補正が無くなり、STRの補正も大きな変化が無い代わりにDEX、AGIの補正が高いジョブ。機動力と手数による技巧派のミツバと敵の防御をものともしない重い一撃で決めるサオリ。相反するがお互いに互いを補う合うようなジョブに転職したといえる。

 ただしジョブチェンジして二人の性能が上がったものの、始めたばかりの二人は適正レベルに満たしていないのも確かだ。今は何故かエンカウントしたモンスターが最下級のウサギ系だけだったけど、それでも前線に見合うレベルのあるウサギの為戦況は拮抗状態ともいえた。もしこれがもっと強い種類のモンスターだったら結構ヤバかったんじゃないだろうか?

 

「一度戦ってみたがどうする? 」 

「そうだな。取りあえずパーティ戦での前線の戦闘の感触は掴めたし、一度戻るか?」

「えー!? ここまで来たんだからもっと進もうよ!」

「でもモルちゃん? そろそろ良い時間だし明日に備えた方が良いんじゃない?」


 サオリが戻るようにやんわりと諭す。だけどモルガーナは納得がいかないような様子だ。そろそろ日付も変わる筈だし社会人三人は明日も早いのだろう。一人社会人と呼ぶのが怪しい人物もいるけど。

 

「お姉ちゃん? 明日も学校だよ? 明日はボク道場があるし、それにもう眠いんだけど?」

「明日も仕事だし、皆! キビキビ帰るよ!」

「お約束になりつつあるがお前ら姉妹のパワーバランスおかしくないか?」


俺には姉妹がいないから分からないけど兄弟姉妹ってそんなものなのか? そうこう考えながらも、満員一致で今日のログアウトが決まった。



やたらとウサギが襲ってきたのは主人公の持つ称号にウサギに狙われやすくなるものがあるからです。正直書いてる本人も忘れてる称号でしたが、せっかくなので役に立たせてみました。本当に役に立ってるかは深く考えてはいけません。

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[一言] 先生の妹、初めてでここまでやったとなると最悪死にそう
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