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第四十六話

VRゲームで剣士ジョブって、どれくらいの人がなれるんでしょうね?

ゲームじゃよくあるジョブですが、いざ使うとなるとどれだけの人がトッププレイヤーになれるんでしょう?



 

 冒険者ギルドへ向かい歩くこと数分。他の建物同様白を基調とし星を模したレリーフが施された冒険者ギルドへとたどり着いた。やっぱり、宗教色が強い国だけあってギルドも同じようなカラーリングだ。恐らく周囲への配慮だろう。いや、ゲーム的な見栄えの問題って言ってしまえば元も子もないんだけどね。


 ギルドの中に入り、サオリを先頭に受付へと進む。中身は乙女?なものの、外見は高身長で筋肉質なマッチョ体系なサオリを見て、偶然ギルトに居合わせたプレイヤー達はぎょっとした様子を見せる。何なら一瞬武器を取り出そうとしたプレイヤーもいたほどだ。気持ちは分からなくもないが既に低レベルのゴブリンの頭部を片手で握り潰せる程のSTR数値を誇るサオリを敵に回すのはやめておいた方がいい。……豪快に笑いながら両手に持ったゴブリンを握りつぶすサオリはマジで怖いから。

 受付嬢さんは、始まりの町の冒険者ギルドの受付嬢さんとは全く異なる容姿をしていた。ゲームであればある程度はNPCのデザインを使いまわしたりするのだろうが、驚いたことに一度も同じ容姿のNPCを見た事がない。これだけ広いゲーム世界にあふれるNPC全員を作ったのだとすれば、ある意味狂気を感じる。これ、個人で作ったにしては無理があるよな?


「いらっしゃいませ! 冒険者ギルドへようこそ!」

「わっ! こ、こんにちは。……えっと、サオリちゃん?」

「うふふ。ミツバちゃんは初めてだものね。ここはアタシに任せて頂戴。受付さん? アタシたち二人のギルドの登録を頼めるかしら?」

「ギルド登録ですね! 少々お待ちください!」


  サオリのその言葉を聞いて、周囲でガン見していたプレイヤー達は目を丸くする。自分でお金を稼げる生産職と違って戦闘職プレイヤーの資金稼ぎの手段と言えば、敵を倒してドロップしたアイテムを売るか、ギルドに登録して依頼をこなすかのどちらかくらいだ。どうせモンスターを倒すのであればギルドに登録して依頼として倒した方が圧倒的に効率がいい。ここは一応前線らしいし、ここまできてギルド登録するプレイヤーなんてそうそういないだろう。

 周囲のプレイヤーの話に耳を傾けると、ギルドの事を知らずにここまで来た無知なプレイヤーなのか、それともここまで高レベルプレイヤーに守って貰った寄生プレイヤーなのかと勝手に議論し始めているようだった。むしろギルド登録してないあの二人が率先して戦ってたし、寄生プレイヤーはどちらかというと俺の方なのだから耳が痛い。俺、ずっとくっ付いてきただけだしね?


「お待たせしました。ギルドの原則により初めはRookieランクからになりますが、お二人のレベルは高水準の為、多少依頼をこなせばすぐにランクが上がると思います。」

「ありがとう。あぁそれと、アタシとこっちの娘のジョブチェンジもお願いしたいのだけど」

「了解しました。では直ぐにご用意しますね」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

「あら?」


 呼び止められた方を向くと、そこには巨大な盾を持つ盾職らしき人物と魔法使いらしいローブに杖といった格好の人物の二人組が立っていた。盾持ちの方はフレンドリーな感じで、魔法使いの方は何故か不機嫌そうで言っちゃ悪いが態度が悪いといった印象だ。

 アニーが露骨に嫌そうな顔をする辺り、例の自称攻略組とかいう連中だろう。どうやらミツバとサオリに目を付けたらしいが、一体何の用だろうか?


「そこのお嬢ちゃんと……お兄さん? 」

「お嬢さん二人よ」

「お、おう。お嬢さん二人は転職するところなのか?」

「えぇ、そうね。ここに来る過程で転職できる程度にはレベルが上がったから、早めに変えておこうかと思ったの」


サオリの言葉に魔法使いの方は何故か一瞬眉をひそめたが、反対に盾職の人物は嬉しそうに声をあげた。


「そうか! いや、間に合って良かった。二人は見た所格闘家って所だろう? という事は前衛の経験はあるよな? それなら悪い事は言わない。今からでも遅くないから、重戦士や重騎士に転職した方が良い」

「「は?」」


 ちなみに二人の着ているのはエルフの生産プレイヤー、レプラ作の白い道着だ。小さい子を愛してやまない彼がリアルJCであるミツバの為に全力で作ったため、若干おかしな性能をしているらしい。聞くのが怖いから詳しくは聞いていない。何が彼をそこまでさせるんだろうな?

 重戦士や重騎士というと、HPやVITが高い盾職だよな? それに転職しろって事は、2人にタンクになれって言ってんのか? 言っては難だがこの二人守るより殴り合いの方が性に合ったバトルジャンキーだぞ? 明らかに安全マージンが取れていないモンスター相手に喜々として殴りかかりに行く奴らだぞ? そんな二人に耐え忍ぶのが役割であるタンクが務まる訳がない。……一瞬二人がこっちをチラッと見た気がするが、気のせいだろう。

 こっちが困惑しているのを知ってか知らずか、盾職の人物は更に言葉を続ける。


「このゲームは驚くほどに自由度が高いよな? それこそ、リアルなプレイヤースキルが全てを左右するほどに。まぁ、君たちの様に格闘家の様なネタ職やそっちの剣士の様な不遇職を選ぶのも仕方の無い事だ。だけどこのゲームの真理は別の所にある。そう! 圧倒的防御力を誇る盾職と圧倒的攻撃力を誇る魔法使いによる役割分担だ!」

「わぁい。何この人。超面白いよ? サオリちゃん、殴っていい?」

「……ふぅ。落ち着きなさいミツバちゃん。あれでも善意で言ってるっぽいわ。だけど盾職さん、アナタ名も名乗らずに言いたいことだけ言って失礼じゃないかしら?」


 俺より年下で煽り耐性の低いミツバはもとより、普段は寛大なサオリ更には唐突に飛び火したアニーも怒りを隠しきれていない様子。サオリに至っては腕の筋肉が若干膨張してピクピクしている。あと少し何かを言われたら絶対に切れる。自分は馬鹿にされていないからってアニーをニヤニヤした顔で見ているモルガーナは気にしない。

 その盾職の人はよっぽど鈍感なのか、二人の様子に全く気付いていないようでむしろ俺が怖い。


 「おっと。そういえばまだ名乗って無かったな。俺はイワン! ジョブは重騎士で見ての通りタンクをやっている! ほら、お前も!」

「……バロン。ジョブは見れば分かるだろ? 魔法使いだ」

「そう。それで、どうしてアタシたちにタンクを薦めるのかしら? ご察しの通りアタシとこっちの娘は格闘家で “ネタプレイ” を楽しんでいるんだけど?」

「それはもちろんそんな “ふざけた職” なんかじゃこの先の前線でうまくいく訳がないからな! “そんな事”でプレイヤーが減るなんて忍びないし、悪い話じゃないだろう? 第一格闘術なんて “素人” がやっても “粗末な” だけだろう? それで火力も魔法使い以下の “ゴミ職” なんだから、タンクをやらない理由がない!」

「うわぁ……」


 このイワンって人、どうしてそこまでサオリを煽るんだよ!? そもそも二人ともリアルでも格闘技を嗜んでるらしいし、それを素人とかゴミとか、馬鹿なのか!? というか空気を読んでくれ! もう二人の怒りが殺意に変わり始めてるから! なんか背後に般若みたいなのが幻視()え始めてるから!

 流石に二人に様子には気付いている隣の魔法使いに訴える様な目を向けると、関わりたくないとあからさまなため息をついてフォローを始めた。


「誤解が無いように言っておくがイワンが言っている事は最初期から戦ってきた古参のプレイヤー達が、これまで何度も考察や議論を繰り返して出した極論にして現在最も有力な結論だ。コイツが礼儀知らずで空気が読めないバカで無礼以外の何者でも無いのは謝るが、内容に関してはフォローしない。実際俺も同じことを考えているからな。これに関しては今の流行に真っ向から逆らっているそっちも理解してくれ」

「……ま、実害があった訳じゃないし、ここはアナタに免じて忘れといてあげるわ。前線の風潮は今に始まったじゃないのはアタシも理解しているしね。だけど、自分のやりたい事が多数派の意見と異なる人物だって少なからずいるって事は覚えていて頂戴」


「……俺だってそれくらい分かってるさ。ただ、クランのリーダー格の奴らは最初期からの古参で意見しずれぇし、下の奴らは考察もしないで教えられたテンプレを盲目的に信じ切ってやがる。今更他のプレイヤーを見下すなって言ったとしてもいう事を聞かねぇんだよ」

「中間管理の立場の悲しみね……クランから抜ければいいんじゃないかしら?」

「俺だって抜けられるなら抜けてるさ。だけど、うちのクランのルールに従ってMP・INTだけにステを振り続けたせいで、今更ソロ活動なんてリスク犯せねぇんだよ。それに、既にうちのクランは増長しきってやがる。誰かがストッパーにならないとNPCにすら潰されかねないんだよ」


 こ、この魔法使いの人、めっちゃいい人だ! ずっと嫌そうな顔してたし相方の態度が悪いからこっちの人もそれなりに酷い性格してるのかと思ったら、良識と自己犠牲の塊だった! だけどこの人、ゲームの中で上と下に板挟みの中間管理の立場をやってちゃんと楽しめてるのか? それにこの人の入ってるクランってのは……

 

「お姉ちゃん。クランって何? パーティと違うの?」

「久々に会話に混ざれたよ! えっと、クランっていうのは、プレイヤー達の派閥とか集まりの事だよ。パーティっていうのは私やミツバ、サオリちゃん皆の様に実際に戦うチームの単位って感じ。学校で言ったらクランが運営委員会や保健委員会。パーティがその中の○○係とか○○担当みたいな感じ、になるかな?」

「ふうん。バロンさんてそんな中でゲームやってて楽しいの?」

「嬢ちゃん意外と傷抉ってくるのな……。まぁ、こんなリアルなVRゲームなんて市販じゃ売ってないしな。突然家に届いたときは怪しんだが今更普通のゲームじゃ満足できねぇよ。ま、仲間が出来たらしいそっちの剣士さんが羨ましいとは思うがな」

「っち。やっぱ気付いてるのか」

「「「え?」」」


 今まで不機嫌そうに無言を貫いていたアニーにバロンがいきなり話を振る。もしかしてアニーはバロンと面識があったのか?

 

「まさかまた仲間を集めてるとは思わなかったぞ。クラン【剣の王道】創設者さんよ?」

「まだ攻略組にいると思わなかったぞ。もう【クイックバロン】は名乗るのを止めたのか?」

「えっと、アニーの知り合いなのか?」

「あぁ、昔ちょっ「あぁーー!!! 思い出した!」」


 できる漢同士の久しい再開って感じで格好いい雰囲気を出していた二人に水を差すようにイワンが叫びだした。このKYタンク、二人に昔何があったのかをこれから話してくれそうなところだったのに邪魔しやがって。目を見開いたKYタンクはアニーに指を差し、唾を飛ばすような勢いで叫び始めた。


「お前、【負剣士】のアニーか!? クランメンバー全員うちのクランのタンク隊に引き抜かれて結局ソロになって、1人で全役こなそうと必死になった挙げ句どこかに消えた、負け犬剣士の【負剣士】アニー? アッハッハ! こりゃ傑作だ! また地道に失ったクラメン集めしてたのか!」

「ッチ。おいイワン。流石に空気読めなさすぎだ。少し黙ってろ」

「なんでだよ? 絶好のクラン勧誘チャンスなんだぜ? 君たち、悪い事は言わないからうちのクランに来た方がいい。そいつはアタッカー剣士なんて不遇職を必死に普及した挙句にクラメン全員に愛想付かされた無能だぞ? ついて行っても時間の無駄だ。うちのクランに来た方が絶対に良いって!」

「イワン!」


 イワンの言葉にバロンが制止の声を荒げる。しかし、その制止も届かず、ひたすらにアニーへの暴言を繰り返す。曰くクランメンバーに対しての剣術指導がゲームの度を超えていた。曰く、結局ソロになったアニーはクランを維持できずに前線から姿を消した。周囲に他のプレイヤーもいるというのに、それを気にする訳でも無く大声で。これを聞いた周囲のプレイヤー達はイワンの態度に眉を顰めつつも、剣士であるアニーに対しての小さな笑い声が聞こえてくる。

 これまでは不機嫌そうな顔や眉に皺を寄せた顔をしていたバロンは、今ばかりは申し訳なさそうな顔をしながら頭を下げる。この人は何も悪くはないのに、ホント良い人だ。むしろどうして終始不機嫌そうな顔をしていたのだろう。


「悪かった。このバカには俺が後で言い聞かせておく。本当にすまない」

「いや、遅かれ早かれお前らのクランに接触してたらこうなってただろうさ。お前は悪くねぇよ。……お前とは仲良くなれそうだったんだがな」


  そう言って今もしつこくタンクを薦めるイワンを引っ張って帰ろうとするバロンを寂し気に見送るアニー。正直前線にいるといっていたアニーがどうして始まりの町まで来てまで勧誘をしているのか、時々疑問に思うときがあったけどそんな経験をしていたなんて知らなかった。もしかしたら短剣使いから道化師になるって言ったときも、もしかしたらアニーはアニーなりに思う物があったのかもしれない。あのイワンとかいうKYタンクは腹立たしいが、こんな時になんて声をかければいいかなんて分からず、俺は声をかけれずにいた。




「「ちょっと待ってほしいよ(わね)」」



だけど、そんな俺とは違って待ったをかける人がいた。

 元々アニーとリアルでも知り合いで情に熱いサオリが、その剛腕を広げて道を塞ぎ、いつもアニーと反りが合わず、口喧嘩ばかりしていたモルガーナも今ばかりは普段の残念な様子も見せずに真剣に怒りを露わにしながら杖で道を塞ぎ意思表示をする。


「これでも大人やってるんだし、自分の事を多少悪く言われるくらいなら水に流すわ。自覚もあるしね? だけどね、ダチのメンツ潰されて、黙ってられる程オトナ気取ってねぇんだよゴラァ!!」


 自分の事を貶された時は殺意を漏らしつつも決して我を忘れる事は無かったサオリは、アニーを貶された今完全に切れて怒りを爆発させた。もはや、激昂ともいえる程の叫びだった。

 同じく道を塞ぐモルガーナはいつもの騒がしさも残念さを感じさせない、凛とした様子坦々と、静かに告げる。


「私もそこの半端剣士の事はあんまりよく思ってないよ。剣士の癖に、盾も魔法もって一人で全部背負ってやろうとして、結局全部中途半端になっちゃってるだけの癖に安定性重視なんて気取っちゃってさ。ひたすら1つを極めてハイリスクハイリターンと大火力を極めようなんてしてる私とは真逆だし。でも、剣士だって立派なロマンの1つだよ。自分の身体よりも大きくて強靭なモンスターにその身と剣だけで立ち向かうなんて、すっごいカッコいいじゃん。男のロマンだよ。それを、ちょっとした失敗で不遇とか負け犬とか、人のロマンを馬鹿にするな!」


 いつもアニーと水と油であったモルガーナでさえもが、イワンに対して怒りを爆発させた。まさかモルガーナがここまでアニーの為に怒るなんて思ってもみなかった。アニーも同じったったようで、モルガーナの様子に目を丸くして驚いている。

 だがしかし、ここまで怒っている二人を前にしても全く状況が分かっていないのか、むしろ困惑したといった顔をしている。コイツここまで空気読めないのか。


「ロマンもなにも、だって剣士だぞ? たかが金属の棒を振り回して攻撃するよりも魔法で攻撃した方が強いし早いだろ? せっかくすごいゲームなんだからそんなの時間の無駄じゃないか」

「うん。君にロマンを説いてもそれこそ時間の無駄ぽいっからもっと分かりやすい手段で行くよ。 勝負してよ。それで君が勝ったら私たちをキミたちのクランだろうが何だろうが入ってあげるよ。その代わり、私たちが勝ったら金輪際こっちに関わらないでほしいよ」


 モルガーナは凛とした雰囲気のまま高らかにそう宣言した。




次回、ロマンを馬鹿にする者には、ロマンバカが鉄槌を下す。

なんでこんな展開になったんだろう? アニーの過去設定とかこんなに後付けする予定じゃ無かったんですけどね。


9月10日

誤字修正しました。出来らたしいと出来たらしいの違いに気付けず誤字報告メール見て5分ぐらい悩みました。

気付いた報告者様スゲーです。ありがとうございます。

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