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第四十四話

お久しぶりです。長い間失踪していた羊です。ゼミのレポート課題提出日が近づいてまいりました。困った羊の行動は、「なろうに逃げだす」です。

 ちょっとご都合主義とチート展開気味ですが、話の展開上許してください。


「ところで、前線って何処にあるの?」


荷馬車での移動中、暇を持て余したミツバがぼそりと呟いた。よく考えてみたら、前線前線と言ってはいたが、俺も良く知らない。前線って何処にあるんだ? 

 この疑問に正確に答えられるのはアニーくらいだろうと顔を向けると、辺りへの警戒を解かぬまま口を開く。


「そういえば詳しく話した事は無かったな。手持ちに地図が無いから口頭で説明するぞ? まず人族の始まりの町とエルフ領が近い事は分かるか?」


 そういえばそんな事一回聞いたな。確か始まりの町から次の町へ向かう為の森に入った時にエルフ領と隣接しているから気を付ける様に冒険者ギルドの受付嬢のNPCから言われた気がする。元々このゲームをやっていたサオリとそもそもエルフ本人であるモルガーナは知っている様子であるが、ミツバだけ知らなかったようで「へー」とつぶやいている。


「俺たちが今いるこの国はエルフ領とドワーフ領の間にあるらしいんだ。元々仲が悪くいざこざが多かった二種族の間に仲介として人族が入り、懸け橋の役割を担ったのがこの国の始まりらしい。で、ドワーフ領からは鉱石や鍛冶。エルフ領からは薬草等の植物素材を相互に渡し合う役になってちゃっかり商人や加工者が集まり国になった。メイカーの街からも分かる通り、生産や商業の盛んな国だな」


 ちなみにこの国の名前はルラシオン。首都がリアンというらしい。初めて知ったが、まさかそんな歴史があったなんて知らなかった。どおりでドワーフやエルフが多かったわけだ。

 

「ふうん。確かフランス語でつながりと絆を意味する言葉だよ。なんでそんな名前なのかと思ったらそんな設定があったんだね。って事は首都のほうが腕の良い生産職がいた可能性も微レ存……? いや、首都=最先端技術っていうのも偏見だし、メイカーの方がいいのかな」


「そうだな。恐らく服装備だったらレプラがトップだろうし、実は立地的にも交易ではメイカーの街が優れているから一概に首都の方が良い装備が手に入るとは限らないだろうな。話を戻すぞ? この国は生産や商業に秀でた国だ。じゃあ、これから向かうもう一つの国は、どんな国だと思う?」

「ここで質問か? えっと、ゲームなんだし普通に考えて更に強い敵が出てくると考えて……戦闘に秀でた国、とかか?」

「半分正解だ。戦闘に秀でたNPCもいるが、その国のテーマは宗教国家だ。」


 宗教国家ってゲームでやっていいのか……。でも、宗教国家なら戦闘とは関係ないんじゃないか? それなのにどうして半分正解? 


「この国。魔の森という魔族領に行く為の森の近くにあるんだ。強力な魔物が出る分強くならざるを得なく、NPCのレベルも総じて高め。そして、その振りかかる魔物の脅威から逃れる為に宗教が発展した、という設定らしい。前線の拠点となるのがその国で、前線っていうのがこの魔の森という場所だ」


 なるほど。危険な魔物が現れる地域にいるからこそ、その不安感から解放される為に宗教って所か。宗教に逃げるくらいなら別の場所に逃げろと言いたいが、世の中に宗教が生まれた過程を見てもそういった恐怖心から逃れる為なんだしそんなものか。

 それで前線も森なのか。またイモムシに囲まれたら……いや、今はパーティを組んでいるし余程の事が無い限り大丈夫だろう。


「ふ~ん。じゃあ、その国の宗教に入信しないと駄目なの?」

「いや、そんな決まりはないな。ただ、NPCに宗教に対して否定的な事を言うとアイテムを売って貰えなくなったりするから注意が必要だ」

「異端者には排他的って所かしらね。でもそんな情報が出回っているって事は誰かが既に経験済みなのかしら?」

「ご名答。一部のマナーが悪いプレイヤーがやらかしてな。他のプレイヤーに飛び火しない様に、今じゃその件を知ってる奴は出来る限り注意喚起するようになってるんだ」


NPC相手でもあれだけ反応が人に近いんだから悪口を言えばどうなるか少し考えてみれば想像がつくだろうに……。なんにしても一応気を付けないとな。

 話が一段落したところで、アニーが馬車を止めた。多分またウルフあたりが出て来たんだろう。


「またウルフの群れの登場だ。前回同様、俺とメイで奴らのタゲを取るからその間に攻撃してくれ!」

「来た来たぁ! ずっと移動時間なんて退屈過ぎるよ! 私はもっと経験値と戦闘を所望するよ!」

「はいはーい。魔法使いのお姉ちゃんは大人しく後ろで待機してー」

「まぁ前衛のアタシ達から出た方が安全よね。それじゃタゲとりの二人にはお世話になるわ」


 先に前に出たがるモルガーナを押さえて格闘家二人が出る。って、タゲ担当の俺より先に出たら二人も同じだろうに……。まぁこの2人なら問題なく戦えそうではあるが。

 俺も外に出ると、今度は五匹と少ない数のウルフの群れと既にアニーが交戦していた。前線に近づいてきたせいか、アニーも前回の戦闘より若干苦戦しているように見える。フォローの為に俺も前に出る。

 既に前に出て集まってしまったミツバ達のヘイトをこちらに集め直す為、短剣ではなくあえてロベールさん仕込みのトランプを取り出す。そして一枚だけ取り出して指に挟み、手首のスナップで手裏剣の様にウルフの群れの中へ投げ、指を鳴らしスキルを発動させる。



「【フラッシュポーカー】!」

「「キャイン!?」」

「ナイスよ! メイちゃん! ぬうん!」


 驚かせ、仰け反らせるだけのスキル、【フラッシュポーカー】。戦闘用ではない芸能スキルだが、ほんの一瞬でも隙を作ることができれば、絶大な火力(STR)を誇るサオリが攻撃を決めてくれる。STRに特化したステータスであるサオリであれば容易くウルフのHPを削ることが出来る。サオリだけじゃない。ミツバも目にも止まらぬ速さでウルフの頭部に膝、踵、蹴りを繰り返している。うん。膝で顎に一撃入れた次の瞬間に踵落としって意味が分からない。

 目立つ二人程ではないがアニーも同様に手堅くダメージを与え一体を倒したようだ。順調に数を減らしてはいるが、三人が思った以上に大立ち回りをする為俺に注意が向いてくれない。俺もウルフとの混戦の中に入った方が良いかと思い短剣を取り出したところでモルガーナが合図の声を叫けんだ。


「五秒後にプチ・ファイアだよ! 退避して!」

「って、俺の出番はなしかよ!」


 三人がウルフの群れから離脱した瞬間、モルガーナの魔法が放たれる。プチであるにも関わらずその火力の高さは異常そのもので、ウルフの群れはその一撃で全滅してしまった。俺、トランプ投げつけて怯ませただけだったんだけど、これでいいのだろうか? モルガーナも火力が高すぎて毎回離脱しないといけないのが課題かな?


「グッジョブだ。流石は歩く厄災だな。一撃で全滅とは恐れ入るぞ」

「ふふん。もっと褒めてもいいんじゃないかな!」

「流石よモルちゃん。それと、アタシとしてはメイちゃんも良い仕事していたと思うわ。あのスキルによって確実に攻撃のチャンスを作ることが出来るのは凄いと思うわ」

「ありがとうサオリ。ところで、ミツバはどうして蹴り技主体だったんだ? 空手とかだったら拳のイメージがあったけど」

「あーそれは、蹴りの方が威力が出るっぽいからだよ?」


 そう言って拳を握りジャブをして、次に蹴りを見せるミツバ。どちらも空気を切る音が聞こえる程の速さだけど、心なしか拳の方が速くて反対に足の方が重い音な気がする。

 

「足を腕並に器用にするか、腕を足並みの力にするかって言葉があって、 足の方が三倍は強いって言われてるんだよ? で、試してみたらゲームの中でも足技の方が威力が高いみたい。だから、満足いくステータスの高さになるまでは足技で力の弱さをカバーしようと思ったの」

「へぇ。そんな所までしっかり反映されてるんだな。レベルに関しては今の戦闘で多少は上がっただろうから、確認しておいた方がいいな。どうだ?」

「あ、上がってるよ? パーティ組んでてもいっぱいレベル上がるんだね」

「ん? どういうことだ……って、俺もレベルが上がってるだと?」


 ミツバのレベルがたくさん上がったという発言に疑問を持ったアニーも、同じようにレベルが上がっていたらしい。逆に俺は珍しくレベルが上がっていないようだけど、なにか驚くようなことがあったのか?

 サオリとモルガーナもステータスを確認しているが、その様子を見る限りアニー同様レベルが上がっていたのだろう。それに何か問題でもあるのだろうか。


「何かおかしなところでもあったのか?」

「おかしいも何も上がりすぎだ。さっきの戦闘でレベルが上がったばかりだったんだぞ? いくら前線に近づいていると言ってもこんな頻度でレベルが上がる訳がない」

「そうね……アニーちゃんは初期の頃からずっと続けている訳だし、レベルの上がり具合は下がっているはずよ。アタシやミツバちゃんは兎も角、アニーちゃんまで上がるのは流石におかしいわ。ゲームの不具合かしら?」

「……もしかしたら、分かったかもしれないよ」


 言われてみると不自然なレベルアップにミツバを除き三人は皆事の重大さに不信感をあらわにしていた。これがパーティを組む上での不具合なら、その条件さえ掴めればバランスが崩壊してインフレに加速が進むだろう。俺の様な例外を除いて多くのプレイヤーが渇望する様な事だ。でも一体何で俺は逆にレベルの上りが下がったんだ?

 不審がるサオリとアニーに対し、若干自信なさげに呟くモルガーナ。ミツバはキョトンとした顔をしているが、俺ら三人は真剣な顔で続きを待つ。


「たぶんこれ。メイ君のせいだよね」

「俺のせい?」

「うん。多分経験値の計算法が関係しているんだと思う」

 「ちょっと待て。まさか、一度パーティメンバーのステータスで経験値を精算してから全員に均等割りしてるって事か? そんな手抜き計算有り得るのか?」

「そうね……確かに今時のゲームなら経験値の算出法はもっと複雑な計算式でしょうけど、それ以外の理由はちょっと考え付かないわね」

「え? え? どういう事?」


 納得したようなアニーとサオリだが、俺とミツバは分からず二人を交互に見渡すしかできない。計算式がどうってどういう事だ? 俺のせい、パーティーのステータスで精算……あ。


「全員のステータスで一度取得経験値を清算してから、全員に分配って事はそれじゃあ俺のDEXの補正でパーティーメンバーの会得経験値が跳ね上がってるって事か?」

「おそらくね」


 いくら全員のステータスを集めてSTRやINTが高いって言っても、それ以上に俺のDEXが高いせいで経験値が増加した。それも各々がソロで倒した場合よりも多いくらいに。普通は分配になるから経験値が減る筈なのにそれが増加したとなると、俺が原因っていうのも分かる気がする。でもそんな都合の良い展開なんてあるのか? 


 「確かに、都合がよすぎるよな。これが仕様だったらメイのようなもの好きがいるパーティーのレベルが高くなってバランスが崩れるだろう」

「たぶんそこまで考慮してなかったんだと思うよ。DEX極ぶりのプレイヤーなんて戦闘プレイヤーでならそうそういないだろうし、仮に極振りにする人がいたとしても生産職プレイヤー。それこそ戦闘に参加する事なんてそうそうない筈だよ」

「パーティーで計算にしておけば寄生プレイでの経験値量を減らして抑制できるし、本来はそういう意味があったんだろうな」


 複雑そうな顔をしてそう結論付けるアニー。まぁ、異端的なスタイルをとっている自覚はあるし、運営も想定しない穴だったのだろう。まだわかっていないようだったミツバにそれを簡単に説明してわかってもらう。




「……つまり、メイ先輩がいれば手っ取り早く強くなれるの?」

「そうだな。メイ本人は多少、どころか大幅に減るだろうけど俺たちの恩恵はデカい」

「メイ君! 絶対に他の人とパーティー組んだら駄目だよ! こんな事広まったらメイ君がいろんなパーティーに引っ張りだこになっちゃう!」


 俺もそれは遠慮したい。遊ぶからには気ままに遊びたいのにそんな便利屋になるのはごめんだ。このメンバーだったらもう馴染みのメンバーだし、むしろ俺も純粋な戦闘力の弱さを補えるからありがたいから良いんだけど。出来るだけこの事は広まらない様に黙っていよう。

 レベルアップの謎が解け、さぁ残りの旅路を進もうという所でサオリが何かあるのか手を上げた。皆がそっちの方を向くのを確認すると一言。


「まぁ黙っているのは良いとして……もう少しレベルを稼ぎましょうか?」


全員力強くうなずいた。



 最近のポ◯モンの学習装置ってポケモンに持たせなくてもよくて手持ち全員に効果があって便利ですよね。そのうち特性で手持ちの会得経験値が上がるポ◯モンが出ないでしょうかね。主人公の立場がそれです。

 こうでもしないと始めたばかりの二人を高レベル帯のエリアに連れて行って無事な理由がこじつけられませんでした。流石にDEXに効果盛りすぎ感がありますがご了承ください。

9月8日

誤字修正しました 

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