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第三十九話

やっと想定していた主人公一味が接触……。そしていざという時のご都合主義設定「特訓で得たスキルです」がやっと完成した……。

「さぁ、着付けは終わったよ。後は仮面を付ければ準備は完了ね」


 ショーの開始10分前。アマンダさんに着付けをして貰い、最後に仮面を付けいつでもステージに上がれる状態になる。リーノルーノの二人もドレスアップを既に済ませいつでも行ける状態だ。元から整った顔立ちをしている二人は化粧もしたことで幼さの中にも大人びな印象を受ける。

 

「準備が出来たようですね。調子はどうですか?」

「そうですね。ヘマしたらボコられるんだろうなぁって思うと手の震えが止まらない程度にはリラックスできてますよ」

「フフ。今回は会場を使っての公演ですからね。お仕置きは前回の比ではありませんよ? 失敗したら……分かってますね?」


 様子を見に来たクロ座長に軽く忠告を受けた。前回の路上公演の時は本当に大変だった。ジャグリングをミスって落としたら、公演終了後にお仕置きと称して猛獣との鬼ごっこ、実験台、投げナイフの的、サンドバックのオンパレードだった。昨日はその反省としてログイン中ずっとジャグリングさせられたし。クロさんも悪ノリしてジャグリングした状態でメイカーの街一周するようなコースでお使いさせるし、周りの目が本当に痛かった。

 だけど、昨日一日ずっとジャグリングに触れていたせいかもうジャグリングなら呼吸と同等レベルに出来る様になった。何ならDEX補正がないリアルでも出来ると思うし、ジャグリングでの失敗はないだろう。そう信じたい。


「だけど、この公演が成功したら坊やも一人前ね。もう坊やなんて呼べないかねぇ?」

「そうだね。特訓の卒業試験がこの公演の成功。僕としてはメイ君には黒猫サーカス団にいて欲しいんだけどメイ君にはメイ君の道があるからね」


 そうなのだ。今日の公演は俺の試験を兼ねているのだ。今回の公演でショーが成功したら無事卒業。ちょっとでも失敗して観客が白けようものならまた地獄の特訓が延長される。だから絶対に成功したい。俺の平穏の為に。平穏の為に!

 しかも座長の意地の悪いことにメンタル面も試験するとかで滅茶苦茶立地の良い会場での公演。さっきカーテンからチラッと見た感じ、軽く路上公演の数倍はあろう人が集まっていた。心臓がバクバクだし現実の方の手も震えてる。リアルの方なんて手汗で手がダラダラだ。

 

「吾輩としては失敗しても良いのである! そっちの方が実験台として多くの仕掛けが試せる故に!」

「それが嫌だからこんな緊張してるんですよ! ちょっとは察してくださいよ!」

「どうせ失敗して」「ずっと黒猫に残ることになる」


 ロベールさんは楽しそうに、リーノルーノの二人は若干不機嫌そうに不吉な事を言う。サーカス団に残って欲しいという気持ちは伝わってくるのだが、その理由が嫌すぎる。もう少しアットホームな職場だったら揺らいだんだろうが、おもちゃ同然に扱われるのはもうたくさんだ。

 

「そろそろ時間です。メイさんとリーノルーノは指定の場所で待機していてください。私はステージに向かいます」


 座長に促され待機室からステージ横に移る。ビーっとブザー音と共にカーテンが開き観客の暴力的な拍手が響き渡る。今から披露する身としてはこの拍手の期待が重圧となって重くのしかかってくる気になる。

 そろそろ座長がトークを終え、出番が回ってくる。今更になって思うが、新人を一番最初の演目に置かないでほしかった。なんだか胃が痛くなってきた気がする。流石に俺の緊張が目に余ったのかリーノルーノが小突いてきた。

 

「一番楽なポジションの癖に」「がたがた緊張しすぎ」

「そ、そうは言ってもこの観客の数はビビるって……」

「観客を気にするから」「緊張する。だいたい」

「「特訓でちゃんと仕上げたでしょ?」」


 そう言われてこの一週間の事を思い出す。ボロ雑巾の様になりながらもひたすらに喰らいついた日々。ゴブリンが可愛く思える猛獣たち。仕掛けを知らされていないまま行われる試作マジックの実験台。一番の難敵に感じていたウサギの群れの突進ラッシュすら霞むようなナイフのラッシュ。どんなに逃げてもボコられる鬼ごっこ……。

 あれ? 本番より特訓の方が怖くね? そう考えると別に拍手の重圧なんてどうでもよくなった。むしろ玉転がしに引かれた時の重圧を思い出すわ。彼女たちなりの励ましのお陰で楽になった。

 

 「ありがとうな。二人のお陰で緊張が解けたよ」

「……別にメイの為じゃないくて」「ショーを成功させるため」


 まさかこの二人がデレる時が来るとは思わなかった。この一週間でどこでそんなフラグ立てたっけ? デレた事を弄ろうと思ったが、ちょうど座長のトークが終わった。俺たちの出番がくる。


「さぁ、開演の時間だ」


 俺は道化師。おどけてふざけて笑われる事が仕事だ。出来るだけ大袈裟に、ふざけた感じで舞台入りする。真ん中に立ち深く一礼。そしてまずは手始めにジャグリング。5つのボールを右、左、右、丁寧に、それでいて大胆に。規則性をもって手の中を行き来するボールは10秒、20秒、30秒過ぎてなお綺麗にくるくると回りキャッチまで綺麗に決まった。この一週間で一番の出来だ。嬉しさの余り決めポーズまでしてドヤ顔を決める。仮面越しだから伝わらないだろうけど。

 自分の中では滅茶苦茶綺麗に決まったのだが、二人からすると不満だったらしく思い切り蹴られてしまった。観客に聞こえない程度の声で棒立ちでジャグリングしてもつまらないと怒られてしまいぐうの音も出ない。だけど結局笑いは起きているのだから良しとしよう。

 次は綱渡りだ。先に二人が渡り、その途中で跳ねる飛ぶといった動作を入れ観客を飽きさせない。渡り切った瞬間大きな拍手が巻き起こった。次は俺の番。台本シナリオ通りに小芝居を挟んで綱に足をかける。ドラムロールが鳴り、観客にも緊張が伝播していく。

 道化師らしく時折フラついてみたりもたついてみたりと混ぜてみる。そして中心辺りで敢えて足を踏み外して見せ更に緊張を演じる。一応台本通りのミスの為落ちついて綱を手で掴み大丈夫だと手を振って見せる。実際に観客が息を飲む声まで聞こえてきてちょっとしてやったり感があって気持ちが良い。ちょっとSッ気を刺激される感じだ。気を良くして観客側を見回しているとなんかすっごい見覚えのあるとんがり帽子と背の小さいエルフが見えた気がしたが、気にしない。気にしたら負けだ。綱のたわみの勢いを利用して再度立ちあがる。ドラムロールも続行されたところで、気を取り直して渡り直しだ。


 順調に渡っていき、あと少しで渡り切るといった所でまさかの裏切りが起きた。リーノルーノの二人が妨害のつもりなのかひたすらにボールを投げて来た!? しかもジャグリング用のグラブ(ボウリングのピンみたいなアレ)やナイフまで投げて来た。身体を捻ったりしてなんとか躱そうとするが流石に不安定な綱の上じゃ避け切るなんて出来なかった。結局バランスを崩して落ちてしまった。

 このまま落ちたらただじゃ済まない。だけど受け身や衝撃の逃がし方ならこの一週間で嫌って程学習した。なんなら座長直々に指導してくれたし。落下する身体を捻って足を地面に向けることに成功する。そして地面に着地した瞬間に重心を身体の真ん中から横にずらして膝の横を地面につけ、流れに任せてもも外、背中と地面と接している箇所をずらしていき、身体をずらしながら最後に肩に衝撃を流す。結局ゴロゴロと転がってしまったが、落下ダメージはほぼ0に収めることが出来た。綱から落ちたことに対する空気を読んでかドラムロールに変わって失敗した時に流れるテンションが下がる系の効果音が流れる。ホワンホワンホワ~ンって感じのアレだ。

 あの双子のやつ……。結局このとっさのBGMに助けられたのか観客の方は笑っていてくれたけど、一歩間違えば大惨事で白ける所の騒ぎじゃ無かっただろうに。


 その後行なったマジックショーや猛獣ショーのアシスタントに関しては卒なくこなしたが、綱渡りの失敗がどういう扱いになるのか気が気じゃなかった。


===


「リーノルーノ! どうして妨害してきたんだ!?」


 ショーが終了した後、双子に問い詰める。もしあれで俺が着地を失敗していたらショーは大失敗に終わっていた筈だ。なのにどうしてそんな真似をしたんだ?

 開園の前から時折不機嫌そうな様子を見せていた二人だが、今は眉間にしわを寄せてより一層不機嫌な様子で無言を貫く。ちょっとデレたと思って様子を見かねたのか座長達が助け舟を出してきた。


「あ~あ、もう! 見てられないねぇ。メイってば乙女心が分ってないじゃないかい」

「フフ。メイさんは意外と鈍いのですねぇ」

「……え? この流れ俺が悪いのか!?」

「リーノ達は、単純に寂しかったんですよ。この子たちもメイさんに団に残って欲しかったんですよ。だから敢えて失敗させようとしたんですよ」

 

 そう言って二人の頭を撫でる座長。リーノルーノは顔を座長に埋めてぐずってしまった。まだ中学生くらいの二人だが、それはまだ甘え盛りの子供ということであった。今までボコられ過ぎてすっかり頭から抜け落ちていた……。

  

「薄情者の顔なんて」「もう見たくもない」

「いや、別にクリアしたらハイさよならなんてつもりは無かったからな? この街にはちゃんと来ると思うから、その度一応顔は出すつもりだったからな?」

「わかりやすい嘘は」「求めてない」


 うっ。正直に言ってしまったら本来最初の目的はスキルの数を増やす為の特訓イベントだけの筈だったから、終わってしまったらもう来ないだろうと思っていた。だから嘘と言われるとちょっと口ごもってしまう。だけど、一週間もこうやって過ごせば嫌でも親近感が湧いてくる。正直もうNPCとか関係なく普通に接していた。だって普通に会話が通じるし。

 だから、特訓イベントが終わったらとか関係なくこの街に訪れたらみんなの様子を見に来たいと思っていたのは本当の事だ。というか、泣かれるなんて思わなかったからちょっと挙動不審になってしまう。


「というか、そもそも綱渡りを失敗した訳なんだし多分試験は落ちてるから、な? だからそんなグズらないで欲しいっていうか……」

「あぁ、試験でしたら合格ですよ?」

「え? 本当ですか?」


 予想外の座長の言葉に思わず聞き返してしまう。いや、絶対特訓の日々に逆戻りだと思ったのに。

 

「えぇ。確かに綱渡りは失敗しました。ですが、着地は綺麗に成功していましたし結果として観客も喜んでいましたし。というか、リーノ達の反応でそれ位想像がつきそうなものですけどねぇ」

「あ~そっか。……察しが悪くてすいません。ってアマンダさんはそんな笑わなくてもいいじゃないですか!」

「いや、悪いねぇ。女の子泣かせてそこまで狼狽えるとは思わなかったからねぇ」


 そう言って抑えきれなくなったのか思い切り笑い出すアマンダさん。それにつられたのか他の皆も笑い出した。助けを求める様に座長を見るが、苦笑を浮かべるばかりで助けてくれそうな雰囲気ではない。……もう俺が泣きたいんですけど?


「フフ。メイさんを揶揄うのはこのくらいにしておきましょう。……メイさん。黒猫サーカス団座長の名において、特訓の終了を宣言します」

「頑張ったねぇ。アタシからの選別はこれ、テイマー用の鞭だよ。好きに使うといいよ」

「吾輩からはこのトランプと簡単なマジックの仕掛けである!」

「僕からはジャグリング道具くらいかな? おめでとうメイ君。あ、でも時々僕のジャグリングのパートナーを頼めるかな?」


 クロさんが宣言をすると皆がそれぞれ合格祝いなのかアイテムをプレゼントしてくれた。ヤバい。ちょっと感動で泣きそうだ。あ、でもジャグリングは遠慮しておきます。アーティさんとのジャグリングはスキルと命がいくつあっても足りないので。


「私たちからは」「これを」


 リーノルーノの二人からから渡されたのは手に収まる程度の小さな箱。開けて見ると白と黒の二つのリングが捻れ合うデザインの指輪だった。不思議に思ってアイテム欄から名前を確認してみる。


【双星の祝福】※メイ専用アイテム

 黒猫サーカス団の白と黒の双星からプレゼントされた成長の祈りと友情の証。

スキルのリキャストタイムが1割短くなる。

称号【三流芸人】を所持している為更に1割短くなる。

称号【二流芸人】を所持している為更に1割短くなる。

称号【???】を所持しているなら追加効果解放。


 これは……俺にとっては滅茶苦茶壊れアイテムにならないか? スキルを使い続けなければいけない道化師ジョブにとってスキルの所持数やその再使用までの時間は重要な要素だ。それと【三流芸人】の称号スキル。正直空気にしか思えない称号だったが、まさかこんなところで必要になるなんて。【二流芸人】の方はここでスキルを会得していったら増えていたスキルだ。説明文の成長を祈りっていう所や流れを見た感じ、おそらくは【一流芸人】のスキルを会得したら更に1割短くなるんだろう。その先のスキルがあるかはまだ分からないけど、いずれ4割も時間短縮になったら下手したらずっとスキルをループで発動し続けられるぞ?


「リーノ、ルーノ。本当に良いのか?」

「うん。更に技を磨いて」「また、黒猫に来てね?」

「わかった。すごい指輪をありがとう。大切にするよ。絶対にまた来るから、約束な?」

「「約束」」


 最後に二人と指切りをして準備室を去ることにする。立ち去る時に座長が「最後にささやかな餞別です」と指をパチンと鳴らすと紙吹雪が吹きファンファーレのBGMが鳴り響く。そういう役割はマジシャンのロベールさんの仕事だと思うんだけどな。結局クロさんが一番謎が多かったな。座長としか話してくれなかったし大体の演目は担当できるとは言ってたけど本職だけは教えてくれなかったし。


【NPCのクリア認定を確認】

【サーカス団への弟子入り 終了をお知らせします】


 めったに流れないアナウンスが鳴り、クリアになった事を知らせて来た。これで特訓イベントが全て終わった。しかし終わったら次はどうするかな? あぁそういえば観客席にモルガーナらしき影があったな……。気は進まないけど一応探してみるか。

 



 皆に別れの挨拶をした後、会場の外に出て辺りを見渡す。まだショーが終わってそこまで時間がたっていないからまだ会場外にも人がたくさんごった返していた。

 やっぱり見間違いだったか? いや、あんな目立つとんがり帽子をしているプレイヤーがそうそういる訳ないだろうし……。


「いたー! メイ君 お疲れ! 凄かったよ!」

「ブラボーですな! いやぁとても楽しませて貰いましたぞ。特にリーノ殿とルーノ殿の美しく華麗な姿が空中ブランコで行きかう様はそれはもう心が震える程の__」

「熱くなるのはいいがNPCに衛兵を呼ばれるのだけは止めてくれよ……? っと、良いショーだったなメイ。久しぶりに会ったら予想の斜め上の成長をして驚いたぞ」


 大声で俺を呼ぶ声が聞こえてきて、そっちの方向を向くとピョンピョン跳ねるとんがり帽子の魔女の姿。人ごみをかき分け近づくと、ヨダレを啜りながら興奮した様子で騒ぐレプラと久しぶりに会ったアニーの存在にも気付けた。レプラとは同じ街にいる関係上時々顔を合わせていたけど、2人とは一週間ぶりに会う事になるか。 積もる話はあるが、アニーの隣にいる人物を見上げて顔が引き攣りつつも尋ねる。


「そっちの方は、誰のお知り合い?」


2m近い身長のマッチョって、一体一週間の間に何があったんだ!?




リキャストタイムを短縮が3割って結構大きいですよね。3分のリキャストタイムであれば180×0.3で54秒。1分であれば18秒も短縮できるのなら、スキル回しで色々悪さが出来そうです。

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