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第三十六話

ちなみに時間的には主人公の特訓イベントが始まって約一週間後の話です。


 ミツバ達二人とアニー達二人が出くわす数分前にさかのぼる。


 学校から直帰しゲーム欲求がピークに達していた斉藤教諭は、速攻で自室に駆け込みヘルメットを被っていた。

 そして自分の教え子兼フレンドでもあるメイがいるであろうメイカーの都市に行こうとしてふと問題に気が付いた。第一にそこの都市まで行った事が無かったために安全な移動ルートを通れないであろうこと。第二に自分のステータス的に長距離の移動が困難であった事。

 AGIにも1たりとも割り振っていなかった為、流石の斉藤教諭__モルガーナも万が一の場合逃げ切る事も出来ないという事は避けたかった。


 どうしたものかと考えた時にふと思い出したのがちょうどいい肉壁……もといアニーの存在だ。自分とはソリが合わないがあれでも一応トップレベルのプレイヤーだ。丁度メイとも接点があって都合が良い。

なによりも剣士として前衛としての能力が優れていると言える。





「という訳で、一緒に来てもらうよ!」

「という訳でじゃねぇよ。いきなり呼び出したかと思ったらなんだ急に?」


 始まりの町の冒険者ギルド内にて、あからさまに嫌そうな顔で突っ込みを入れるアニー。嫌々ではあってもなんだかんだ言って話を聞くアニーは面倒見がいい。苦労人気質ともいうのだが。


「メイ君だよ! メイ君! 今メイカーの町で特訓中らしいでしょ? 絶対面白い展開になってるって筈だよ! 私も見に行きたい!」

「特訓イベ……確か一時期生産職連中がこぞってやってた奴だよな。結局戦闘した方がレベルは上がるって戦闘職連中は流してた。確かにアイツが森に行く前にメールしたきりだったそんなことになってたのか。で? 噂だと単純作業で飽きるし苦痛だって聞いたがそれでも見に行くのか?」

「当然だよ! 前の戦闘で思ったけどメイ君ステは兎も角身体動かすのは上手でしょ? なのに道化師の特訓ですっごいバテてたの! これは絶対に何かあるって! 身に行かなきゃ損だよ!」


 興奮して捲し立てるモルガーナの様子に若干引きながらも、アニーはメイの事を思い浮かべる。確かにメイは自分が目を付ける程に最初から器用に操作していた。実際に戦闘をさせてみても問題なく戦えていた。それどころか対人戦闘ではDEX特化という戦闘にはおよそ不利であろうステータス構成で圧倒して見せた。

 こと仮想世界のゲームにおいて身体能力は現実のものと同一。それが古参プレイヤー達が模索した結果の総意である。例えDEXがキャラの操作性を向上させるとしてもメイ本人のセンスが無ければ一撃でも当たれば一瞬でHPが無くなる等と言う博打がそうそうできない。少なくとも自分には真似できないとアニーは思う。

 そのメイが四苦八苦する様な特訓イベント。そう言われて見ると一体どんな事をしているんだと興味が湧いてしまう。


「確かに気になる。……が、あいにく今日は人と会う予定があるんだ。悪いが今日行くなら一人で行ってくれ」

「えー! それは困るよ!」

「いや、ヒューマンの始まりの町まで来れる癖に何言ってんだよ……」

「それはマナポーションがぶ飲みで間に合う距離だから出来るのであってメイカーの町までの距離になると厳しいんだよ」

「お前そうやって来てたのか……だいぶリスキーな事してたんだな。まぁ頑張れや」


 モルガーナのコスト度外視の方法に軽くアニーが引いていると、ムッとした顔になる。が、実際にリスクのある行動をとっていただけに反論が出来ない。

 話はすんだとばかりに立ち去ろうとするアニーだったはついでとばかりにギルドの酒場で注文した食事(若干のバフ有)の代金を払う。さらりとモルガーナの分も払う所がアニーらしいともいえる。が、諦めきれないモルガーナは最後の抵抗とばかりにアニーの腰に掴みかかる。


「いーやーだー! 今日行くいま行くこれから行こう! 報酬はちゃんとだすよ!」

「はあ!? だから今日は人と会う予定があるって言ってるだろ! あーもう! 周りに迷惑だ! 一回外でるぞ!」




===

回想終了


「流石にそれは……お姉さんに非があるわね……」

「お姉ちゃん。一発殴っていい?」

「わー! ちょっと待って! 反省はしてる! 反省はしてるから殴るのは勘弁してよ」!


 町通りの片隅。モルガーナは正座の姿勢で説教を受けていた。周りからすると大仰な服装のエルフが説教を受けている構図な為プレイヤーはもちろんNPCからも好奇の目線で見られている。時折首をつっこもうとしているプレイヤーもいたが、近くにいるサオリに気が付くとすぐさま立ち去って行った。

 説教をし多少溜飲が下がったミツバはアニーに深々と頭を下げる。


「うちの愚姉が迷惑かけました」

「お、おう。妹さんは姉妹なのか疑いたくなるくらいちゃんとしてるのな。いや、仕事柄こういう絡まれ方をするのは慣れてるからな。気にしなくていい。それよりもニッキー……今はサオリだったか? サオリと知り合いになっていることに驚きだな。いつ知り合った?」

「ちょうどキャラクリして最初に始まる場所よ。ネトゲとかに疎そうだったし、悪漢に絡まれちゃいけないと思ってナンパしちゃった♡」

「ナンパされちゃいました~。あ、サオリちゃんとは友達になりました。ボクも正直勝手がわからなかったので助かりました」


 バチコン! と音がなりそうなウィンクをして嬉しそうに答えるサオリ。180越えの身長の男性のしなを作ってするウィンクはインパクトが強烈な為通りすがりのプレイヤー達は顔を青ざめる。アニーは慣れている為、ミツバは気にしない性格の為特に顔色を変えないが耐性のないモルガーナだけはこらえようとはしたもの通りすがり達と同様顔を青くする。

 モルガーナは説教が一段落した所で今度は自分の疑問を口にする。

「それよりも! ミツバはどうしてこんなところにいるの!? 今日は道場は無かったっけ?」

「今日は休みだって朝言ったよ? ゲームは家に帰ったらなんか届いてたんだよ。怪しいとは思ったけどお姉ちゃんがどんな事してるのか気になって初めて見たの。最近のゲームってリアリティとかすごいんだね~」


 脳波や生体電気を正確に読みとるVRゲームなどというどう考えても未だオーバーテクノロジーであろう事はゲームに疎いミツバは分かっていなかった。むしろ似た形状のゲームがあったしこれくらいあるんだろうな、と言う程度の認識であったが詳しく言っても話しがややこしくなるだけと判断した三人はあえて黙っていることにした。普段は残念であってもこういう時だけは空気が読めるモルガーナである。

 幸いその部分にあまり興味がないミツバはすぐに話題転換を行った。


「ところで お姉ちゃんは何であんなに頼んでいたの? えっと……」

「あぁ、自己紹介がまだだったな。俺はアニーと言う。ジョブって言って分かるか? ゲーム内での役割は剣士だ。よろしく頼む」

「ちょっとフレンドのいる町に行きたかったんだよ。コイツにはそのかb……ゴホン。護衛を頼んでたんだよ。ってそうだ! 約束の人ってこっちのサ、サオリ……さん? でしょ!? どうせ皆知り合い同士なんだから一緒に行こうよ!」


 どうせなら皆巻き込んでしまえとばかりに提案するモルガーナ。サオリの名前を呼ぶときだけはビビッてどもってしまったが、180cmオーバーのマッチョなオネェなのだからビビっても仕方が無いともいえる。

 さんざん説教をされたのに全く懲りていない様子にミツバは目を細めるが、幸か不幸かモルガーナは自分の名案にテンションが上がり気付かない。実際に問題はなさそうだが、質問されたアニーは難色を示す。


「確かにサオリと妹さんも仲良くなったらしいし、このままハイさよならってよりはいいと思うが……それでもまだ始めたばかりだろう? 流石に森越えは厳しいと思うぞ」

「あら? アタシは大丈夫よ? 一度ゲームオーバーになったとはいえ経験者なんだから、多少のステータス不足は腕と経験でカバーできるわ」

「確かにお前は大丈夫だろうが妹さんの方がな?」

「あ、たぶんボクも大丈夫ですよ?」

「は?」


 ミツバのセリフに素っ頓狂な声をあげるアニー。まさかゲーム自体の経験も疎く、レベル1のジョブ未設定の初心者が大丈夫と言い出すとは思わなかった。ポケ○ンで言えば博士から最初の一匹を貰って一切レベルを上げずに最初のジムリーダーないしライバルとの戦いに挑もうとするといった所か。しかし世の中体当たりで勝てるほど甘くはない。これには流石にアニーだけでなくサオリも目を丸くしていた。唯一モルガーナだけはなんとなく納得したような顔をしていた。

 自分がどんな大口を言っているかを気付いていないのだろうとアニーが諭すように告げる。


「いや、何か根拠があって言ってるのかもしれないが残念ながら厳しいだろう。いくら何でもレベル1の初心者が森越えしたってのは聞いたことがない」

「でもゲームって言ってもコントローラーピコピコなんてまどろっこしい戦いかたじゃないんですよね? 体を動かして戦うんだったら別に問題ないですよ?」

「あ~、ミツバだったら本当にだいじょうぶだと思うよ。この子リアルで柔道とか空手とかいろんな格闘術習ってる癖に何故か全部インターハイに出場してるとかいうリアルチートガールだから」

「は? 普通格闘技なんて浮気しながらなんてやってたらむしろ違いに違和感がでて身に入らないはずだろう? メイと言いアイツと言い最近の若い奴はどうなってんだ……。まあいいか。確かに実際問題体動かして戦う訳だしリアル経験者なら多少は戦えるか」


 コントローラーをまどろっこしいというあたり生粋の脳筋、いや格闘家なのだろうと適当に納得するアニー。その様子を見てモルガーナは目をキラキラさせて期待を寄せる。ちなみにモルガーナはいまだに正座をキープしている。残念なことに妹の存在にビビって現実の身体と同期した動きをしてしまっている為、現実の方でも正座している。そろそろ足が限界に近いがそれ以上に目先の喜びに意識が向いている。

 心配していた本人が大丈夫だと言っているし、一応自分も剣士としてはそれなりに強い自負がある。他にもなぜか復活した元経験者のサオリ、それに詳しい実力は知らないが一応は二つ名まで付いたプレイヤーのモルガーナもいる。このメンツであれば最初の森くらいなら抜けられるだろう。

 そう結論付けたアニーはモルガーナに軽くうなづいて見せる。それだけで小躍りする。しっかりした妹の方を見てからこっちを見ると残念具合が際立って見えてしまう。思わずクスリとアニーは笑う。


「決まったよ! それじゃあパーティ結成して早速出発って……痛!」

「お姉ちゃんどうしたの!?」


 立ち上がったかと思ったらすぐにうずくまるモルガーナを、心配そうに声をかけるミツバ。やっぱり危険なゲームだったのかと心配をしたが、震える声でモルガーナがつぶやく。


「ずっと正座してたから……足が、吊った……」



 パーティの出立はなんともグダグダしたものになった。




誤字訂正

「ところで お姉ちゃんは何でなあんなに頼んでいたの? えっと……」

修正後

「ところで お姉ちゃんは何でなあんなに頼んでいたの? えっと……」

誤字報告報告ありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
[一言] ページ下部 修正後 「ところで お姉ちゃんは何で"な"あんなに頼んでいたの? えっと……」 修正されてない。
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