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第三十二話


「溺死、爆死、斬殺、はりつけ、好きなのを選ぶがよい!」


 サーカス団弟子入りイベント二日目にして早くも死刑宣告を受けた。おかしいな……サーカスならスキルをたくさん得られると思って始めただけなのになんで殺されそうなんだろう。

 いやその選択肢の中に一体マジックの要素が欠片でも入っているのだろうか?


「……全部死ぬんですか?」

「そんな訳が無いのである! 下手したらそうなると言うだけで至ってよくあるマジックショーの特訓である!」


 下手したら死ぬって俺の知ってるマジックショーとは違うようだ。


「なら百歩譲って大丈夫だとして、溺死を選ぶとどうなりますか?」

「身体を拘束して水槽の中にぶち込むのである!」

「……爆死を選ぶとどうなりますか?」

「身体を拘束して箱の中に監禁し、爆破するのである!」

「……斬殺」

「箱の中に閉じ込めて剣でめった刺しに「碌なのがねぇ!!」


 全部死ぬじゃねぇか! 全部身動き取れねぇじゃねぇか! 大体町のはずれと言ってもダメージは負うんだぞ。HPは0になるしそうなれば当然LPゲージにうつる。前のクレクレ君とのpvpだって一歩間違えばメイのキャラクターデータが消えてたかもしれないんだから。

 俺のステータスのHPもSTRもDEFも一切割り振っていない。爆破だろうが剣めった刺しだろうが一瞬で死ねる自信がある。むしろ自信しかないね。


「そうはいってもこれらはマジックショーの花形であるぞ? 脱出ショー、瞬間移動、切断ショー。新人も一度は見た事があろう?」

「言われてみれば確かに!」


テレビでよく見るマジックショーでは、切断とか爆発ものとかよくあったような気がする。いやでも実験台とか言いかけてたし、今一信用ができない。

 それにロベールさんが滅茶苦茶良い笑顔してるのも不安を煽る。

 でも選ばないと話が進まないか。この中で逃げようがない溺死は後に回すとして、一番危険が無いのは爆発だろうか。一見危険性が高い分トリックや安全装置もしっかりしてそうだし。


「じゃあ、爆発の奴で……」

「ほう! ほうほうほう! 爆発の芸術を選ぶとは新人はなかなかに趣味が良いな。さぁ! 新人も美しい芸術と散るのだ!」

 

 嬉しそうにぐにゃりと口角をあげる。あれ?選択肢間違えた? 散るって死ねって言われてるよな。と言うかこいつも爆発狂かよ。たぶんせんせーと会わせたら碌な事にならないだろうな。火に油どころか喜々としてガソリンを注ぎそうな予感がする。

 そんなことを考えていたら突っ込むタイミングを逃してしまった。いつの間にかリーノとルーノが鎖を体にまき始めていた。うん。君らさっきまでいなかったよね? 


「面白そうな所には」「だいたい首をつっこむ」


 そう言って軽く流し、既に準備を終えているらしきロベールの元へ引っ張っていく双子たち。一応抵抗はしてみるけど、俺のSTRが低いせいか抵抗虚しくどんどん引っ張られていく。中学生程の女子に力負けする男子高校生って構図だ。なんとなく悲しくなるね。……こんなステ振りしたの俺だけどさ。

 処刑台、いや処刑箱?の中に詰め込まれ閉められる。外から鎖のようなジャラジャラとした金属音とガチャリという音が聞こえて来たから、恐らく箱にも厳重にロックがされているのだろう。


「さぁ! 準備は整った! 新人よ、準備は良いか!?」

「きたねぇ花火」「ドキドキワクワク」


 ドキドキと言うにはあまり弾んでない声が外から聞こえてきて背中がヒヤッとした。昨日の猛獣との特訓で分かったけど、この双子は喜怒哀楽は分かりにくいけど悪ノリと笑えない冗談が大好きだ。この二人が出張ってきてこんな事言い出すって事は絶対碌な事が無い。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! タネ、タネはあるんですよね?! どっかに脱出口とかあるんですよね!?」

「カウントダウン! 3、2、1___」


 ヤバい。とにかく抜け出さないとマジで死ぬんじゃないか? DEFもHPも一切振って無いし大ダメージどころで済まない筈だ。とにかくまずはこの鎖から抜け出さないとどうしようもない。どうにか抜けだろうと身体をよじるけど拘束は頑丈にされていてとても外せそうにない。あいつ等絶対殺しにかかってるって。

 ロベールさんのカウントが0になる瞬間、足元がガコンと開いて落とし穴の様に下に落ちる。

 その瞬間、爆音と共に大きな振動が響いた。助かった、のか? 

 呆然としていると落とし穴の上が開き、満足げなロベールさんと少し不満げな双子がのぞき込んできた。


「うむ。成功であるな」

「道化師の癖に」「このくらいの拘束も解けないの?」


 自分では何もできなかった手前反論がしにくい。いや、俺も頑張ったんだけど? だけど『鍵外し』とか「罠抜け』みたいなスキルがある訳でも無いし、一般的な男子高校生にそんな事デフォルトで出来る訳ないだろう。針金の類もないし。


「おやおや。なんの騒ぎかと思えばロベールでしたか。メイさんの調子はどうですか?」

「新人は実験台にちょうど良いな! 新型の仕掛けの具合も良好である。次の公演は期待してよいぞ」

「仕掛けはすごい」「でも後輩は何もしてない」


 爆発の音が聞こえたのか、クロさんも習練場に現れた。クロさんは俺の調子を聞いてるはずなのにロベールさんは仕掛けの調子を答えるし双子は辛辣なダメ出しだ。クロさんは微笑を浮かべているだけで特に追及とかは無いらしい。……俺の立場低くない? いや、実際何もできなかったけどさ。


「クロさん。だけど俺だって一応は抜け出そうと頑張ってたんですよ? でもいきなりこれは難易度高すぎませんか?」

「フフ。拗ねなくとも大丈夫ですよ。それに派手好きで頭の螺子が外れていますがロベールは爆発系に賭ける情熱だけは高いのです。恐らく一番安全だったのはこれでしょうから気にしていてはもちませんよ。あぁ、それとメイさんは一応弟子入りの身ですから、私の事は座長とお呼びくださいね」

「ロベールは頭おかしいけど」「腕はいい」

 確かに鎖はほどけなくても助かったし、安全だったんだろうけど実際に爆発するって言われて箱詰めにされてみると本当に焦る。他の選択してたらヤバかったんだろうか。斬殺だったら箱に刺される剣を自力で避けろとか? 考えたくも無いね。

 と言うか双子の辛口さってクロさん、いや団長に似たんじゃないか? 何気に団長毒舌だし。

 

「兎にも角にも大体の要領は掴めたであろう? 次は串刺しのマジックショーの練習をするのである!」

「えぇ……もう心臓バクバクなんですけど。まだやるんですか?」

「フフ。そんな事を言っている暇があるんですかね?」


 クロさんが意味深な含み笑いをしてそう呟く。まだ何かあるのか? 


「今日の進行次第では明日の特訓相手はアーティになります。アーティの辞書に加減どころか常識の文字が無い。自分の常識を前提に話を進めてくるので私にもどのような特訓になるのか想像がつきません」

「うむ。嗜虐至高の座長とアマンダは限界ギリギリのところを加減して攻めてくる。リーノとルーノは加減は出来るものの面白がってあえて加減をしない。しかしアーティは自分に出来る事は他人にも出来るという前提で話をしてくるのである。」

「アーティのアシスタントは」「まじ鬼畜」


 双子も若干顔を青くしてそう呟いた。そんなに長い間付き合いがある訳じゃないけど初めてリアクションを見た気がする。物腰柔らかくて落ち着いた印象がある人だったから想像がつかない。でもロベールさんもそんなに常識的じゃ無い様な気がするけど。


「吾輩は自分が楽しければそれで良いのである」

「自覚がある上で俺の身をスルーって尚更ひどくないですか?」

「そんなことよりも次の仕掛けのじっけ……特訓である!」


 俺の身の安全はそんな事で流されるレベルか。しかもこのイカレマジシャン実験って言いかけたよな!? いい加減泣くぞ。

 ジト目で見る俺を軽く無視して、どう見ても刃が潰れてなさそうな長剣を準備するロベール。心なしか準備を手伝うリーノとルーノも楽しそうにしている。


「私たちも」「剣さしたい」

「「口の周りに黒で髭を書こう」」

「って黒ひげ危機一髪じゃねぇか!」


 俺もうあのビール樽で遊ばない。あのとぼけた黒ひげの顔の裏には恐怖と諦めがあるに違いない。

 この後ひたすらマジックショーの特訓。もとい三人の玩具にされた。座長はただ見て笑っているだけだった。



テレビで見る体が2つに別れるマジックってどうなってるんでしょうね。

まるで魔法のように思います。

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