第三十一話
脳が悲鳴上げて気絶するくらいの負荷がかかる特訓ってどんな特訓でしょうね?
作者の想像力だとこれが限界です
回想――弟子入り1日目
「跳べ♡」
このお姉様は一体何を言っているんだろう。轟々と炎の燃える輪っかの前でそう思った。サーカスの猛獣ショーの火の輪潜りだ。これ多分ダメージ入るよな? 俺のステータスだと致命傷間違いなしなんだけど?
「いや、無理です」
「跳べ♡」
「どう考えても無理で「跳べ♡」
録音した声を再生でもしてるんじゃないかってくらい同じトーンで無慈悲な命令が繰り返される。異論は許されないっぽい。
黒猫サーカス団に連れられて(というか拉致られて)着いた場所は柱に綱が張られていたり天井にブランコが設置されてる練習場だった。
弟子入りイベントは地獄だってレプラが言っていたが、最初はジャグリングとか玉乗りの様なよくある芸から始まると思ったらいきなり難易度が違った。と言うか火の輪潜りって普通ライオンとか猛獣がやる奴だよな? なんで俺が跳ぶんだ? せめて跳ばす側じゃないのか?
助ける様に団長のクロさんの方を見ると微笑を浮かべながら助け舟を出してくれた。
「フフ。最初の指南者がアマンダなのは仕方が無いのです。彼女が一番生かさず殺さずが上手ですし、なによりアーティとロベールでは貴方を殺しかねない」
「「心外である(だな)!」」
「この二人そんなにヤバいですか……。というか助け船を出してくれるわけではないんですね」
異議を唱える二人の事は置いておいて団長をジト目で見る。すると団長は微笑を意地の悪い笑みに変化させる。この団長礼儀正しく見えるけど絶対性格悪いよな。
「フフフ。確かに初見で火の輪と言うのは酷ですかね。であればせめて手本を見せましょう。リーノ、ルーノ」
「これくらい」「らくしょう」
二人でそう呟いた白と黒の少女たちは軽く助走をつけて輪を跳び潜って見せた。ご丁寧に体を捻り回転を付けた綺麗なフォームと跳び方で。着地しポーズを決めるとドヤ顔でこっちを見てくる。なまじ可愛い分イラッと来るな。
「さぁ、手本は見せました。ご要望にはお答えしたのですから、これくらい出来るでしょう? あんな小さい子にも出来るのですから」
いやいやいやちょっと待ってほしい。いくら小さい子供と言っても曲芸とかを担当している子達の筈だろ。それをDEXにしか振っていないもやしステータスと比べられても困る。
まだ躊躇していたらアマンダさんがいつの間にか鞭を取り出していた。跳ばなきゃ鞭打ちですか。そうですか。
「もうどうにでもなれ! っせい!」
助走を勢いよくつける為走り出す。そして足のバネを、腕の振りを、身体の全てをフルに使って高く飛びあがり火の輪を、潜り抜ける!
やけくそでやったのが逆に功を成したのか、俺の身体は吸い込まれるように輪の中に入り、そのまま地面に着地する。ジャンプの勢いを消すため数度前転をしてあまり綺麗とは言えない着地だったけど、言われた通り火の輪は潜った。十中八九まぐれだね。
団長が手を叩きながら近づいてくる。
「フフ。おめでとうございます。どうやらアマンダの目に叶ったようですね」
「あぁそうさね。この坊やは尻に火が付けば大体の事はやれるだけの素質はあるようだ」
「跳び方は泥臭いけど」「まぁ及第点」
アマンダさんは笑みを浮かべて褒めてくれてるっぽいが、リーノとルーノ。お前らは一言余計だ。
「だが、逆に言えば尻を叩いて貰うまで出来なかったとも言える! 新人よ! まだまだ精進が必要であるぞ!」
「うぅん。僕としてはメイ君はアマンダのノルマを一つクリアしたんだし素質は評価しても良いと思うけどね。早くアマンダのノルマを全部クリアして僕のノルマに入って欲しいよ」
「ん? ノルマを全部……? まさかこの他にもノルマがあるんですか?」
最初から火の輪潜りとか無茶ぶりしてくるんだ。この後にやらされるノルマとか言うのもどうせ碌でもないに決まってるぞ。
身構えているとアマンダさんは朗らかに笑う。なんか嫌な予感が……
「ほ、他にもやる事あるのか?……いや、あるんですか?」
「まさか輪っか一つ潜っただけで終わりだとでも思ったのかい? そんな甘い訳が無いだろう。まぁ安心しな。次のはタダの玉乗りだよ。うちの可愛い子たちと一緒にね」
アマンダさんの指さす方にはいつの間にかクマやライオンがいた。
こっちを見つめるこいつらが涎垂らして無かったらまだ、仲良くなれそうって希望が持てたんだろうなぁ……
ーーー回想終了
「ほんと昨日は酷い目にあった……」
昨日の扱きを思い出しながらログインをする。よくゲーム許してもらえたなって? まぁ確かにゲームのやり過ぎで白目剥いて気絶してたら普通なら没収とか禁止になるだろう。だけどうちの場合、そこらへんは寛容なのだ。自己判断での結果は全て自己責任らしい。
ぶっちゃけ俺も今日はログインせずに休もうかと思ったけどあのサーカス団で一日サボったと知られたら冗談抜きに死ぬ可能性がある。特に座長のクロさんとアマンダさんはお仕置きと称して何をしてくるかわかったもんじゃない。
「メイ殿ではありませんかな? 昨日はどうでしたかな?」
論者口調のする方を見てみるとそこには金髪少年エルフの姿。俺をあそこに引き合わせた張本人、レプラだ。
ニヤニヤ笑っているところを見ると弟子入りイベントの様子を想像しているんだろう。いくら美形ショタのアバターでもイラッと来るな。
「どうもこうもねぇよ。まさかいきなり火の輪潜りさせてきたり猛獣と仲良く玉乗り練習させられるとは思わなかったぞ。HPが残り1や2になる事なんて何回あったか数えれないし、その度に回復ポーションで延々と復活する事になるし」
「ほう! 猛獣と玉乗りとはまた豪気ですな。ゲーム内に動物がいるとは聞いたことが無い故、恐らくモンスターではないですかな? ウサギすらモンスター扱いでしたし。よく生きていましたな」
本当に良く生きてると思う。俺が玉から落ちた瞬間とか本気で俺を仕留めに来たし。あの時アマンダさんが止めてくれなかったら今ここに俺いなかったはずだ。
まぁ仕掛けたのもアマンダさんなんだからプラスマイナスで0だけど。
と言うか猛獣使いってあれモンスター扱いなのか? それならビーストテイマーじゃなくてモンスターテイマーだな。
猛獣系のモンスターの攻撃なんて本当に俺良く生きてるな。
「生きていて何よりですな。まぁ、ゲームなのですから気楽に行きましょうぞ。LPが0にならない限り消えることは無いのですからな」
「LPまでは減らなくても精神はガンガン削られてたけどな」
「それはそれこれはこれですぞ。小生だって特訓初日は延々と糸通しをしてそれを外し手を繰り返したのですぞ? 」
一日ずっと糸通しって……それもうゲームじゃなくて拷問だろ。囚人に穴を掘らせて埋めさせを繰り返すって刑があるってどこかで聞いたぞ。それと同じ匂いがする。
拷問に比べたらまだ俺の方が……いや、マシではないな。
「では小生はマリー殿に今日の分の品を届けに参るのでこれで失礼しますぞ」
「マリーちゃんの『親の店に』だろ。それじゃあな」
これぞ生きる喜びとでも言う様な滅茶苦茶良い笑顔を浮かべてレプラは立ち去って居った。
アイツそのうち捕まるんじゃないか?
ーーー
サーカス団の練習所のある町のはずれまで歩いて行く。レプラとも話したけど、あの連中加減と言うか容赦が無いんだよな。最初の試練からして猛獣ショーの火の輪潜りだったし。俺は動物と同列なのか。
アマンダさんでまだ序の口って
行ったら行ったで地獄だし、かといって行かなかったら殺されそうだし今から足が重い。何処の梁○泊だよ。
習練所の扉をそっと開け、忍び足で中を歩いて行く。いや、別に忍び足の意味は無いんだけど、怖いじゃん?
幸い広い習練所の中にはまだ誰もいないようだから今のうちにスキルの確認を___
「よくぞ来た新人よ!!」
「うわっ!」
後ろを振り向くとシルクハットにマント付きのタキシードといった、まるで怪盗然の男性の姿。その顔には良く言えば自信に溢れた。悪く言えば傲慢ともいえる笑みを浮かべている。黒猫のサーカス団のマジシャン。ロベールさんだ。
気配と言うか物音1つしなかったのにいつの間に後ろにいたんだ?
「脅かさないでくださいよロベールさん……」
「甘い! 甘いぞ新人! 道化師たるもの背後の気配の1つや2つ察知出来ぬようであれば大成することなど出来ないのである!」
「もうそれ道化師じゃないですよね? どこの達人ですか」
「細かいことは良いのである! そんなことよりも今日は吾輩のおも……実験だ……吾輩の奇術を体験してもらうのである!」
「今おもちゃって言おうとしましたよね? てか言い直した後も実験台って言おうとしたよな?! 流石に誤魔化せてないぞ!?」
昨日は動物と同類だったけど次はモルモットかよ! せめて人扱いくらいはしてほしい。
いやそれよりも今日の特訓だ。実験台扱いって事はアマンダさんよりも扱いが酷い筈だ。何をさせられるか分からない。奇術って事はマジックショーだよな? でもマジックならタネありきの筈だから安全は保障されてるんじゃないか? だからまだ希望は持てる筈……
「溺死、爆死、斬殺、はりつけ、好きなのを選ぶがよい!」
幸せにはなれそうもないかなぁ……。
実際に火の輪を跳んだのは主人公(人)なので動物愛護が云々というのは勘弁してください。
でも猛獣の火の輪潜りというのは物語のサーカスとかでは聞きますが現実ではそんなに聞かないですよね。作者も見たことありません。サーカス自体生で見たこと一回しかありませんが。




