第二十九話
「さぁ行きますぞ! 確かこっちが芸能職の通りですぞ!」
そう言って前を行くレプラの後を付いて行く。レプラは一度このメイカーの都市で修行していたせいかある程度この都市に詳しいらしい。
歩きながら辺りを見てみると、路上でポーションや道具を売っている人物が少しずつ減っていき、その代わり路上で歌や踊りをする人物が増えてきた。
「なんだか人種というか、職層が変わってきたな。これが芸能職の通りってやつか」
「そうですぞ。まぁ小生の修業時代と同じならば、芸能系ジョブのプレイヤーは商売人や生産職プレイヤーの1割以下の筈でしたがな」
芸能職の奴少ないな! 戦闘職と非戦職が多く見積もって半々として、その半分から1割以下って5%以下って所か? どうしてそんなに少ないんだ? 吟遊詩人とかRPGでも支援職としてありそうなものだけど。
「メイ殿考えてみるのですぞ。キャラの操作はプレイヤー本人の運動神経やセンスに作用されるのですぞ。誰が好き好んで不特定多数のいるネトゲの中で自分の歌やダンスを披露するのですかな?」
「あ~確かにそれは恥ずかしいな。公衆の面前で歌うどころかダンスするとかどんな罰ゲームだって感じだな。そりゃあ誰もやりたがらない筈だよ」
武具作りや商売ならそこまで恥をかくことなんて無いもんな。それならその職層も納得だ。って事はこの路上パフォーマンスしてる人たちはNPCって事か? それはそれですごいリアルだな。あの歌ってるエルフなんてプロ顔負けだぞ。
「それで今は向かってるのは、何処なんだ? サーカス団のNPCって言ってたけど、そんなのもいるのか?」
「いますぞ? 昔、大通りにて路上公演をしているのを見かけましたからな。普段は芸能職ならばこちらにいる筈ですが……おぉ! 見つけましたぞ!」
レプラの指さす方を見ると、奇抜な衣装の女性やタキシードの男性たちを中心に人だかりができていた。
「さぁさぁ! お次の演目は眉目秀麗なるジャグラーによるジャグリングショー!」
「おぉ! 6つ以上のボールってすげぇな! 流石は黒猫サーカス団だな」
野次馬に混じってそのサーカス団を見てみると、イケメンのタキシード男性が野球ボール位の玉を6つ以上流れよくジャグリングしていた。視線はほとんど観客側に向けていて、余程慣れているんだろうと感じる。
その後ろにいる奇抜な衣装の女性は近くに虎を控えさせていた。って虎って猛獣じゃねぇのか!? 危ないな。大丈夫なのか?
別に虎が暴れ出すとかそういった事も無く、ショーはつつがなく進んでいき終幕を迎えた。サーカスなんて生では見たことがないが、NPCだとか抜きにしてショーはどれもレベルが高く、見入ってしまった。
「ショーはこれにてお開き! またのお越しをお待ちしております。出来ればおひねり持参でお願いしますよ」
軽い冗談交じりに終わりの挨拶を済ませ、人だかりは解散していった。
「おや? ショーは終わりましたが、どうかされましたか? ……あぁ! おひねりでしょうか? それなら有りがたく頂きますがねぇ?」
ショーの最中、司会の様に進行していた男性が近づきながら話しかけてきた。男性の見た目はスラっとした高身長のタキシード姿で、今は帽子を入れ物代わりにしてにこにことおひねりを催促してきている。
一応ショーを見てた身だし、払った方がいいのかな? 相場が分からないけど1000くらいでいいか? レプラもそれくらいっぽいし。
「貴殿がこのサーカスの座長殿ですかな? いやはや素晴らしいショーでしたぞ」
「フフッ。ありがとうございます。ワタシはこの黒猫サーカス団の座長を務めております【クロ】と申します。以後お見知りおきを」
そう言って右手を胸の位置にもっていき深々と礼をする座長のアクロさん。柔和な笑顔をして礼儀正しいって印象だ。レプラが話を続ける。
「よろしくお願いしますぞ座長殿。お話に少々お時間をよろしいですかな? いや、実はこちらの彼を鍛えて欲しいのですぞ。彼は道化師になったは良いモノの芸の出来ない未熟な人物でしてな。貴殿の団の様な優秀なサーカス団ならば安心して任せられるのですが、どうですかな?」
レプラが俺の代わりに話を交渉してくれるようだ。クロさんは口元に手をやり上品に考え込んでいる。
「……ふむ。確かに身のこなしは悪くは無さそうですね。いいでしょう。ちょうど盛り上げ役に1人欲しいと思っていた所だったのです。道化師、でしたか。名前は何というのですか?」
「あ、ハイ。俺はメイって言います。まだダガースロー……っというか、ナイフ投げくらいしかできませんけど、よろしくお願いします」
「フフ。道化師なのにナイフ投げだけですか。面白い方ですね。いいでしょう。うちの団にて存分に技を盗むと良いですよ」
【クエスト発生!】
【サーカス団への弟子入り】
ピコンという音と共に視界にこんな文字が浮かんだ。まさか、クエストとして扱われるとは……。だけどこれで弟子入り出来たって事でいいのだろうか。
「それではメイさん。まずは団員の紹介をしましょう。こちらのジャグリングをしているのが、アーティ。次にこちらのシルクハットの男性がうちのマジシャンのロベール。そして、こちらの女性は猛獣使いのアマンダです。」
「やぁ新入りくん。よろしくね。」
「まさかうちの団に入るもの好きがいるとはね。歓迎するよ新人よ!」
「道化師なんだって? まぁ大変だろうけど頑張りな坊や」
紹介された三人が、それぞれジャグリングを見せる・帽子から花を取り出す・手にしてた鞭をパチンと鳴らすといったパフォーマンスを見せつつもクロさんの紹介に顔を出してくる。
アゼンダさんだっけ? 道化師が大変だけどってどういう事だ? 何となく嫌な予感がするようなしないような……。
「わたしたちも」「いるよ」
そういって服の裾を引っ張られた。引っ張られた方を見てみると、中学生くらいの子が2人俺の裾を引っ張っていた。同じ顔で双子のようだけど、衣装は白と黒で印象が真逆だった。
「あぁ。この子たちの紹介もしないといけませんね。この子たちは曲芸師兼他のパフォーマンスのアシスタントを務めています。黒い衣装の子がリーノ。白い衣装の子がルーノ。メイさんは恐らくこの子たちの下、ということになりますね」
「黒が」「リーノ」
「白が」「ルーノ」「よろしく」「後輩」
互いを交互に指さしながらお互いを紹介する2人。色以外まったく違いが見つけられないけど、一応リーノから話し始めるって流れなのか? 後ろでレプラが「あ、可愛いですぞ。いやしかし、小生にはマリーという心に決めた人が……」とか変な事を呟いているのを無視しつつ、団の皆に頭を下げる。
「メイです。これからよろしくお願いします」
「フフ。歓迎しますよ。メイ。それでは……」
「「「ようこそ、黒猫サーカス団へ!!」」」
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「これで小生の役目は終わりましたかな。小生はこれからマリー殿に……コホン。チャック殿の店がどうなったのかを確認してきますぞ。それではメイ殿。頑張るのですぞ」
「あぁ。レプラには色々世話になったよ。装備もそうだし、今回も俺のスキルの為にここまでしてもらって。そのうち礼は絶対にするから」
「いやいや、メイ殿の情報だけで十分ですからな。礼はお気持ちだけで十分ですぞ。(それに弟子入りイベが始まったらそれどころじゃない筈ですからな……)」
え? なんてった? 最後の部分が小さくてよく聞こえなかった。弟子入りイベって何かあるのか?
それを聞こうと思ったら、アクロさんとロベールさんにガッと肩を捕まれた。
「フフ。それでは早速練習としますか。大丈夫です。うちでは質の良い回復ポーションを支給していますから、いくらケガをしても大丈夫ですよ。いくらでもね。フフフフフ……」
「次の公演に間に合わせるつもりで行くぞ! 何も心配することはないぞ新人よ。多少の技術不足は体を張って補うといい!」
は? 技術不足は体で補えって、めちゃくちゃ嫌な予感がするんだけど。というか、アクロさんの笑顔すげぇ怖い! 笑ってるのに目だけがすごい企んでるって目してる!
「ちょ、まだ心の準備が……。ってレプラ! お前この流れ知ってたのか!?」
「いやぁ、小生も弟子入りイベントが始まった瞬間職人の方に地獄のように扱かれましたぞ。まぁ流石に死ぬまでは無いとは思いますが、頑張るのですぞ☆」
「頑張るのですぞ☆ じゃねぇぇぇ!!」
そうして俺は叫びながら団の人たちに引きずられていった。ポーションが必須の特訓っていったい何されるんだ? どう考えても命の危険がある奴だろ! そもそもレプラの弟子入りイベントって仕立て屋としての弟子入りじゃねぇか!
連行されていく最中。アーティさんと目が合ったとき、「ご愁傷様」と苦笑いをされたのがとても印象的だった。
4月11日
サーカス団座長の名前をアクロからクロに変えました。




