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第二十七話

PVが増えているのが嬉しかったので夜に投稿予定だったものをフライングします。


「わあ! 服屋のお兄ちゃんすごーい!」

「はは! そうでしょうそうでしょう! 更にこんな事まで出来ますぞ!」


 荷台の上にてレプラがものすごい速度でクマのヌイグルミを縫いあげ、更にそのクマに洋服まで作ってしまう。作る過程を見ていたマリーちゃんは声をあげて驚いていた。

 今、俺とレプラは三人の引っ越しの護衛として馬車の中に乗っている。何故か俺がレプラのクエストに巻き込まれた形だ。別に移動するのは構わないけど、護衛が護衛対象とただただ遊んでいるのはどうなんだろうか?

 

「そんな遊んでばかりでいいのか? なんか護衛って感じがしないけど」 

「む? 小生は別に遊んでばかりという訳では無いですぞ? 馬車の後ろは見ていますかな?」


 言われたとおりに後ろを確認してみる。するとゴブリンや狼といったモンスター達が動けなくなって列の様になっていた。一体何時の間に!? 

 そう思ってそのモンスター達をよく見てみると、影に一本づつ待ち針が添えられていた。俺たちの乗っている馬車は屋根が無いタイプだったけど、まさかヌイグルミを縫っている途中で待ち針を投げて刺していたのか? 

 アニーはスキル名を口で言わずに発動させるのはちょっとした上級者の技だって言ってたけど、こんなところでまた見れるとは思わなかった。


「マリー殿に戦闘現場などという残酷な描写は見せられませんからな。こうやって注目する一点を作ってあげれば、まぁこれくらいならできますぞ。確かミスディレクションでしたかな? それにしても中々数が多くて骨が折れますな。普段はこんなにエンカウントしない筈ですぞ……」


そう言われて思い出す。そう言えば道化師のジョブって常時挑発効果がついてたような……。もしかして今一番足を引っ張っているのって俺じゃないか? 

 ずっと遊んでいたと思っていただけに、なんだかレプラに負けた気がする……。


「それに小生はタダのヌイグルミ作りというのはだいぶ昔に卒業していますぞ。このヌイグルミは所持者のHPを数秒ごとに微回復する効果の付属された、れっきとしたアイテムですぞ。小生はもしもの時の備えくらい考えていますからな」


 ただの負けじゃない。惨敗だった。まさかそこまでしているなんて……。隅々まで気を配って、これがロリコンの本気だとでもいうのか。この人だけは敵に回したくないな。

 なんとなく気まずくまったので御者をしている父親の方に声をかける事にする。たしか、チャックさんだったかな?


「チャックさん。レプラとはどういう繋がりなんですか? 確か糸屋と服屋の間柄だったような……」

「そうですよ。えぇと、どこから話しましょうか。初めてお会いした時、彼は高名な魔法使い様でした。それなのに私たちが仕事中、娘の相手をしてくれるようになりまして、何時からかうちに弟子入りしたいと言い出したのです」


 確か【製糸】のスキルが必要なクエストをクリアしようとしていたんだっけ。そのスキルを得る為にその子の親に弟子入りとは、本末転倒な様な策士の様な……。


「クロウスの町は製糸が盛んな町ですが、それは『スタート』の町からやってくる駆け出しの冒険者に対してちょっとした防具を作る為です。人によっては、なぜか着の身着のままで来る人もいらっしゃいますからね。ですので、盛んと言えどもそこまで技術は高くはありません。その時の私は弟子入りを断りました。何せ魔法使い様に教えるような事は何一つありませんでしたから」

「そこから先は小生が話しますぞ」


 マリーちゃんがヌイグルミ遊びに夢中になってしまった為、こちらの話にレプラが入ってきた。話に入ってきながらも、近づいてくるモンスターに待ち針を投げ動きを止めるという無駄にレベルの高い技量を見せている。


「弟子入りを断られた小生は、1度メイカーの都……今から向かう都市へ赴き技術を磨きましたぞ。そして一通りの教えをマスターしてからクロウスの町に戻ってきたのですぞ」


ここまでは話しましたな?と一度話をきるレプラ。ふと手元を見ると、今度は何故か亀のヌイグルミを作り始めていた。


「チャック殿と小生の関係は言うなれば作り手と売り手の関係ですな。作成した糸や服を糸屋を営むチャック殿の店に卸し、代わりに売って貰っているのですぞ。まぁ手数料として売り上げの60%はチャック殿へ渡していますがな」

「私は1割くらいでいいって言っているんですけどねぇ」


そう言ってチャックさんは苦笑いを浮かべていた。売り上げの60%を相手に渡すってこの人は一体何がしたいのだろうか。いや、恐らくはマリーちゃんの為なんだろうけど、そこら辺のストーカーより性質が悪い気がする。


「本来ならば、婿入り道具の代わりに全額をあちらに渡してもいいのですが、お義父様が……失礼。チャック殿が受け取ってくれないのですぞ」

「はっはっは。レプラさんは冗談がお好きですねぇ」


全く相手にされずに流されているが、たぶんレプラは冗談を言っているつもりは無いんだろうな。やっぱり通報した方がいいんじゃないか? ゲームの中に警察がいるか知らないけど。


~~~


 馬車で移動し始めて2時間くらいたっただろうか? 現実ではだいたい夜7時だと思うけど、ずっと馬車に揺られているだけだと流石に飽きてきた。

 マリーちゃんも飽きている様でレプラ製のヌイグルミに囲まれて眠ってしまっている。たった二時間で山の様にヌイグルミが出来上がるとはやっぱりロリコンでも上級者プレイヤーなんだろう。いや、ロリコンだから上級者なのか? 

 当の本人は寝顔を見つつ、ストレッチをし始めている。まるで戦う前の準備みたいだな。

「メイ殿。そろそろスキルを発動させて成功を稼いでおくことを薦めますぞ」

「え? まさか、本当に盗賊でも来るのか?」


 驚いて聞き返すと、レプラはアイテムボックスから待ち針をポシェットの中へと移しつつ教えてくれた。

 

「そのまさかですぞ。2時間も何もなく馬車が移動できるなんて、そんなもの何かのフラグでしかありませんぞ。例えばそこそこ大きな盗賊に出くわす、といった具合ですな」

「でも、そんな出来過ぎた展開なんて早々あるものじゃ無くないか?」

「確かに現実でそんな展開はなかなか無いですぞ。しかし、これは引っ越しイベントですぞ。そんなもの、途中で盗賊に襲われるので注意してくださいと言っている様なものですぞ。ほら、来ましたぞ」

「え?」


 顔の横すれすれを何かが通り過ぎていく。レプラの見ている方を見ると、まだ遠くにしか見えないが複数の人影が見えて、更に空からは雨の様な矢が降ってきた。


「うわぁ! 【ステップ】! 【セカンド】、【サード】! 」

【スキル:成功(サクセス)!】

【スキル:成功(サクセス)!】【連鎖(チェイン)発生(スタート)!】

【スキル:成功(サクセス)!】【連鎖(チェイン)!】

「大体7、8人といった所ですかな。【ウィンドウォール】」


 レプラが魔法を唱えると、馬車が風の壁に包まれた。すると降り注ぐ矢のほとんどが風に阻まれて軌道を逸らしてしまった。

 まだ遠い距離にいるから、直接ぶつかるのはまだ時間が掛かるだろう。レプラの言葉のお陰で、ある程度余裕を持ちつつ俺は成功スキルの数を稼ぐことが出来る。


「チャック殿。念の為馬車の速度を上げて貰えますかな? それと、奥様は出来るだけマリー殿の近くによって欲しいですな。あと30秒ほどで壁が無くなりますぞ」

「「わかりました」」


 レプラの言葉に落ち着いて応対する二人。盗賊に襲われているというのにすごい落ち着きようだ。余程レプラを信頼しているんだなと、少しだけレプラを羨ましく感じる。


「レプラ。マリーちゃんは起こさなくていいのか?」

「とんでもないですぞ。盗賊なんてマリー殿の記憶に残す価値もありませんな。それに、もしもの備えは既に整えておりますぞ。亀のヌイグルミには【ウィンド・ウォール】を付加して自動防御を。犬のヌイグルミには連れ去られた時目印として発揮するマーキング機能を。そして羊のヌイグルミには【スリープ】の魔法を付加してある為、戦闘中に起きる事は万が一にもありませんぞ」


 他にも全てのヌイグルミが特殊効果を持っていますぞと、笑みを浮かべるレプラ。俺の予想を遥かに超える過保護だったらしい。割と本気でレプラだけは敵に回したくないな。【仕立て屋】ジョブ云々の前にプレイヤー本人が怖い。と言うかちょっと引く。


 まぁ、護衛対象が安全ならいいか。短剣を取り出し、ウィンドウォールの効果時間が切れるのを待つ。……3……2……1……今だ。

 飛んでくる矢の速度は確かに速いが、方向は全て同じだ。回避が簡単な矢だけあえて短剣で触れてパリィをしたという事にし、危ない矢はステップを使い回避する。


【パリィ:成功(サクセス)!】【連鎖(チェイン)!】

【パリィ:成功(サクセス)!】【連鎖(チェイン)!】

【スキル:成功(サクセス)!】【連鎖(チェイン)!】


「……小生からしたら、射られた矢の悉くを短剣で撫でて無理矢理パリィして成功スキルを稼ぐメイ殿の方がよっぽど恐ろしいですぞ……それでいてノーダメージなのが殊更に……」

「なんか言ったか!?」

「いえ、何でもないですぞ……」


 前からの矢にほとんど意識を向けているからレプラの声が聞き取れなかった。なんか俺が引かれている様な……なんでだ? 


「クソッ! 弓矢じゃ埒が明かねぇ! 野郎ども! 直接攻撃しな!」

「「「「ヒャッハァー!!!」」」」


 痺れを切らした頭の掛け声により、盗賊たちは弓矢を止めて剣を抜きこっちに突っ込んできた。正直に言うといつまでも遠距離攻撃なんてされていたら絶対に途中でミスが出ていた筈だから、近づいてきてくれるのはありがたい。

 アイテム欄の中には予備の短剣が5本。ダガースローのスキルを使った後に回収できない事を考慮して入っている。敵の数は7,8人だから、少なくとも2人はレプラに任せなければいけない。しかも外してしまったらスキルは失敗扱い。成功のステータス上昇が途切れてしまう。……どうしよう?


「レプラ。遠くの敵への攻撃は俺は5回しか出来ない。そっちに数人任せていいか?」

「承知しましたぞ。それならば、少々サポート致しますぞ。【影縫い縛り:仮止め】」

「な、なんだ!? 体が動かねぇ!」


 まるで手裏剣かクナイでも投げるかのように待ち針を投げ、盗賊たちを縫い付ける。うん。もうそれ仕立て屋じゃ無いね。レプラのジョブって忍者だったか?

 いやまぁ、チャンスって事には変わりないし、ゲームの仕様に難癖つけても仕方ないか。

 動かない的なら、スキルで外れる筈も無い。【的確急所】を使ってから【ダガースロー】を使って盗賊に向かい短剣を、投げつける!

「グペェ!」

【スキル:成功(サクセス)!】【連鎖(チェイン)!】

【クリティカル:成功(サクセス)!】【連鎖(チェイン)!】


 投げられた短剣はスキルの補正でも入っているのか、吸い込まれるかの様に盗賊の首に命中し、首が刎ねられた。蜘蛛に攻撃した時もそうだったけど、なんだかよく首が飛ぶな。そんな補正かかる様なスキルなんてあったっけ?

 

「メイ殿。そろそろ拘束の時間が解けますぞ」

「おっとそうだった。分かった。 【ダガースロー】!」


 続けざまにダガースローを繰り返し、予備の短剣全てを投げ切った。全員動かない的になっているから、すごい楽だ。


「調子コイてんじゃねぇぞおらぁ!」

「え? なんだ!?」


 勢いよく減っていく俺のHP。慌てて体を確認すると、盗賊の頭の放った矢が俺の腕に当たっていたらしい。いくら成功を積み重ねいたとしても、今の俺の装備はDEFがマイナス補正の装備だったのをすっかり忘れていた。

 減っていくHPは遂に0になり、LPゲージが現れた。


【oh……失敗(ミステイク)】 


 その短いアナウンスが聞こえた瞬間。体の動きがガクッと遅くなった。攻撃を喰らったせいで成功スキルによるステータス上昇がリセットされた。つまり、今少しでも攻撃が掠ったらそのまんま俺はゲームオーバーって訳だ。背筋がゾッとするね。


「心配いりませんぞ。ここまで減ってしまえば、後は小生が処理しますぞ」


 そう言ってレプラは軽く笑って魔法を唱え始めた。強めの魔法を使ったのか、ウインドウォールのキャストタイムより少しだけ長い。

 

「幼子を狙う不届き者は小生が斬り刻んでやりますぞ。【ウィンドスラッシュ】」


 レプラのその一言と共に轟っと大きな風が吹き荒れる。アサシンスパイダーに対して使っていたウインドカッターよりも威力も範囲も大きく見えた。

 風は緑色の刃の様なエフェクトになって盗賊に襲い掛かり、複数の斬撃エフェクトが発生した。


「「うわぁあ!!」」

「ぐぉ! こんな、こんなあっけなく終わるのかよ……」


盗賊の頭はそんな事を恨み交じりに呟きつつ、倒れていった。強い強いとは思っていたけど、まさかここまで強いなんて……。



「まぁ、こんなところですかな。メイ殿。そろそろ目的の都市へ到着の筈ですぞ。LPのままでは不安でしょうが、もう少しの辛抱ですぞ」

「あ、あぁ」


 やっぱりレプラはこれくらい普通だって感じで誇ったり何もしない。既にマリーちゃんの寝顔を眺めてにやけている。思わず返す言葉にどもってしまった。俺のレベルは蜘蛛や盗賊と戦った事で60になっている。俺のこのレベルはDEXを上げたことによる物で、普通ならばもっとレベルの上昇は緩やかと言うか、遅い筈だ。

だけど、道化師ジョブでのマイナスを考慮してもこの人の方が強い。いったいどれだけのレベルなんだ? 魔法使いから転職して仕立て屋になったくらいだから、余程レベルを上げてDEXに振り直している筈だから……。少なくとも俺よりはレベル上げは困難な筈だ。


「なぁ、レプラ。強い強いとは思ってたけど、いったいレベルはどれくらいなんだ?」


 他人のステータスを聞くのとかは失礼かと思ったけど、どうしても聞きたい気持ちが勝ってしまった。

 だけどレプラは、軽く返してきた。



「レベルですかな? 今は軽く70を超えていますぞ」








夜に投稿する部分はこれから書きます。

道化師にジョブを変えてから補正込みのステータスを書いていなかったので書いておきます。小数点・割合の増減は作者の都合の良いように四捨五入しています。多少のミスがありましたら、後で訂正します。()の数字は補正前の数字です。

【メイ】 Lv.60 ヒューマン

ジョブ:短剣使い

HP 10

MP 10

STR 3(5)攻撃時は 武器込みで8

DEF 0(5)実際はマイナス50

INT 3(5)

AGI 16(14)

DEX 288(114)


※ (括弧)の中は補正前の数字


補正詳細▽

種族補正:ヒューマン

1.表示されている 5種のステータス(S、A、I、A、D)に+1

2.スキルが程よく会得しやすい。


補正詳細▽

ジョブ補正▽

職業補正 道化師

1.常時、STR・DEF・INT・AGIの実数値5割減

2.常時DEXの値2倍

3.常時挑発効果


装備詳細▽

・武器補正:【鉄製の短剣】

 攻撃時、STRの値+5

 常時、DEXの値+1

装備詳細▽


・装備補正:【ウサギ皮の良質な帽子+5】


常時、DEFの値-5

常時、DEXの値+12

・装備補正:【ウサギ皮の良質な服+6】

常時、DEFの値-8

常時、DEXの値+15

・装備補正:【ウサギ皮の良質な外套+7】

常時、DEFの値-10

常時、DEXの値+20

常時、DEFの値を1割減

常時、DEXの値を1割増

・装備補正:【ウサギ皮の良質なズボン+5】

常時、DEFの値-8

常時、AGIの値+17

・装備補正:【ウサギ皮の上質な靴+6】

常時、DEFの値を1割減

常時、AGIの値を1割増



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