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第二十五話

ランクが嬉しかったので夜に投稿予定だったものをフライングします。

夜に投稿する分はこれから作ります


「ささ、ようこそ。ここが小生の仕事場ですぞ!」

「うわ。すごいな」


 フレンド登録をした後、森から出てクロウスの町まで案内して貰った。今はレプラの仕事場という家に来ている。

 流石、生産職と言うべきなのか、家の中にはたくさんの糸や布、仕事道具の他、その他にも糸車や機織り機といった裁縫用具を作る為の道具まで置いてあった。普通は糸と布だけで終わるだろうに、そこまでするんだとレプラの生産職にかける情熱を感じさせた。

 俺が驚いているのを見てレプラは鼻高々といった感じで気をよくしていた。


「作成するアイテムはオートやスキルで工程を簡略化させずにマニュアル操作にすればする程に質が上がりますからな。出来ることは出来るだけこだわる主義ですぞ」

「へぇ。って事はこの町にはこだわる為の特別な素材か何かでもあるのか」

「特別な素材?」


 俺がそういうとレプラはキョトンとした顔をした。え? 違うのか? 仕事場を設ける位だからそれだけ無視できないような素材が手に入ったりしないのか? ここ一応製糸に優れた町の筈だろう? 

 俺がそう告げるとレプラは声を上げて笑い出した。


「はっはっは! クロウスの町に特別な素材? そんな物があればもっと生産職プレイヤーがここに集っていますぞ! そうゆう生産職連中は皆もっと先にある生産に優れた都市に行っていますぞ」


そうなのか? それならどうしてこの村に? あ、次の村にやってきた駆け出しプレイヤーに布系の装備を作ってやって手助けする為とか?


「それこそありえませんぞ。何が楽しくて野郎共に小生が時間を割いてやらねばいけないのですかな? まぁ気分が良い時や友に対してならば構いませんが」

「ますます分からないな。それなら一体どうしてこの村にいるんだ? レプラもその優れた都市ってのに行った方がいいんじゃ無いのか?」

素材的な問題でもプレイヤーへの援助でもない。他に一体どんな理由があるんだ。いや、助けて貰った時の動きを見た感じ戦いに慣れたという所謂熟練のプレイヤーと言う感じがあった。という事はその域に至らなければ分からない何かがあるって事なんかじゃないのか?


「気になりますかな? 小生がこの町にいる理由。それは……ここにいるNPC【マリー】殿がどうしようもない程に可愛いからですぞ!」



………………え?



「えと……それだけ?」

「それだけとは何事ですかな!? 小生にとってはこれ以上ない程に重要な事なのですぞ!」


 重要も何も、あれだけの技量を持ったプレイヤーなのだからそれだけガチプレイヤーなのだと思ったけど、どうしてエンジョイプレイヤーみたいな事をしているんだ? これだけの設備を揃えているほどなんだから生産の腕も相当な物だろうし。そのNPCが特殊なクエストでも出してくれるのか?

 ……違うんだろうなぁ。


「むっ。その顔は信じておりませんな。いいでしょう。如何に【マリー】殿が可愛いのか、出会いを含め小生が教えますぞ!」


~~~


 それはレプラがまだ初心者だった頃の話。当時のレプラは、魔法使いとして他のプレイヤー同様に戦闘職で純粋にモンスターを倒す事を楽しんでいた。製糸に栄えた町であるこの町に着いた時も後衛職という事で装備にそこまで魅力を感じておらず、すぐに別の町へ向かい戦闘を楽しんで少しは名の知れた魔法使いとなっていた。しかし、野暮用でこの町へ再度訪れた時。


 彼は出会ってしまったのだ。


 それは、言うなれば運命の悪戯。出会った少女の髪は、エルフ種である自分よりも美しく輝く金髪。肌は青々とした森の中に降り立った新雪の様に透き通った白。瞳はエメラルドのように澄んだ碧眼。そして何よりもそれらは全て付属物と言っても過言ではない程に、その笑顔は輝いていた。

 それは言うなれば朝日の輝き。まさにこの世に降り立った天使か、はたまた森の妖精か。

その笑顔を見ただけで、自身がなぜこの町に来たのか。なぜこのゲームが届けられたのか。それらはこの笑顔を見る為だったのだとレプラは悟った。


 話をして、その少女がNPCなのだ知ってなおレプラの情熱は消えることは無かった。

 聞けば、少女はこの町で最も大きな糸屋の一人娘らしい。しかし、その糸屋を継ぐ為に必要な【製糸】スキルを少女は有していないのが悩みだという。

 話を聞けたお陰か、【製糸の町の少女の夢】というクエストが展開された。しかし生産職でもない、魔法使いの自分にはそのクエストを受注する資格さえなかった。


 レプラは絶望した。なぜ自分は魔法使いなどと言う非生産的なジョブで遊んでいるのだろう。もし自身に製糸スキルがあれば、すぐにでも伝授したというのに。

 故にレプラはジョブチェンジを躊躇いなく行った。【見習い縫い子】という服や布系装備の作成に向いたジョブの最下級のジョブではあり、加えて既に割り振られたステータスはMPとINTに割り振られた戦闘向きのステータス。今更生産職への変更は困難を極める。

 生産の道に入るのはとても厳しかった。どんなにアイテムを作ろうと質は劣等も劣等。とても自慢できるようなものではなかった。


 そこでレプラは一度、この町よりも先の先。多くの生産職プレイヤーが根城としている都市へと赴き、生産職の技量を高めた。他のプレイヤーに師事を仰ぎ、NPCから情報を集め、クエストをこなした。完全マニュアル操作で作成した方が質が高くなると知ってからは、就活中だった彼は服飾業界への道へ本気で入ってリアルの知識もどん欲に貪った。

 その狂気的な努力により遂にはトップレベルの生産職と同格レベルの技量に至り、現実でも店を持てるほどの腕となった。

 ゲームでも資金を為貯め、クロウスの町に仕事場を作成。古参プレイヤーの中でも知る人ぞ知る名生産職者になり、これにてリアルとゲーム共に一流の生産職者となった。


 魔法使いだった名残もあり、素材は全て自分で賄える生産職者。一人の少女と出会った事で、レプラの人生は劇的に変化したのであった。



~~~


「___という事があり、小生はタダ飯喰らい、親のすねかじりという不名誉な称号を返上する事も出来たのですぞ。これら全ては【マリー】殿のお陰。故に小生はこの町に残り骨を埋める所存ですぞ! 今では作成した服や糸は全て相場の半額以下で【マリー】殿の店に卸して……おや? どうされましたかな?」

「いや、別に……」 


 やばい。助けて貰って結構いい人かと思ってたけど、ヤバい人だ。ゲームの為に仕事を合わせて、しかもそれで成功してる? どんなサクセスストーリーだよ……。 そんな熱意があるならどうして脛齧り呼ばわりされてたんだ? ぶっちゃけ引くレベルだぞ? いや、話をする分にはいい人なんだけど。


「あぁそうですぞ。そう言えば装備のメンテナンスでしたな。宜しければ手直しも致しますぞ?」

「え? あぁ、やってくれるなら有りがたいけど、いいのか? 一流生産プレイヤーに払うほどの手持ちがないと思うぞ?」

「お代ならDEXの効果を教えてくれましたぞ。この情報は非常に大きな情報ですからな。それに申し訳ないですが、野ウサギ装備を手直しした位ではお代は貰えませんぞ」


 一流となると野ウサギの様な最序盤のモンスターの装備なんてはした金レベルなのだろうか? これは、流石一流と言うべきだろうか。一流になった経緯は別としても一流なのは変わりないのだろうし。

 装備を全て解除して、レプラに手渡す。これで俺は、初めた頃と同じ麻の服の村人スタイルだ。


「これが俺の装備だ。申し訳ないけど、お願いするよ」

「なんのなんの。DEXに革命を起こしてくれる先導者と懇意になれるのならば安いものですぞ」


 レプラはウサギ装備を手に取ると、ウィンドウを開き性能を確認したり、縫い目を確認したりして出来を確認している。この光景だけ見ていると、やはりこの人は一流プレイヤーなんだと分かる。


「ふむ。性能・縫合部分。いずれも良好ですな。質にプラスもマイナスも無いという事は、恐らくはNPC製の装備ですな? いや、始まりの町にしては良い職人に作って頂いたようですからな。ですが、この性能ならば……ふむ。メイ殿」


一通り確認が終わったのだろう。装備を確認する手を止めて俺の方を向き確認を取る。


「ん? もしかして、NPC製の装備は手直し出来ないとか……」

「いやいや、それくらいは造作無い事ですぞ。問題は手直しの方向性ですぞ。どのように手直ししますかな? 防御力重視ですかな? それとも、ウサギらしく素早さ重視ですかな?」


 そう……だな。正直な話、DEXを強化した所で半減されるからあっても無い様な物だし、すばやさも同じなんだよな。正直に言うと、成功スキルの上昇でそれらのステータスを賄えるし。あぁでもイモムシの時の様にある程度は素早く行動できないとダメか。それならば……。


「防御力……DEFの上昇値はもう0でもマイナスでもいいから、AGIとDEX。この二つだけでも強化出来ないか?」

「なんと、『防』具なのにDEFは切り捨てると!? 挙句マイナスでも構わないとは、メイ殿は中々突拍子も無い事を言い出しますな! しかし、マイナス……なかなか面白い注文ですぞ。それならば、フォレストスパイダーの糸を使って……いや、素材的な親和性を考慮すると……」


ブツブツと一人で強化の方針を考えながら、仕事場の中をぐるぐると歩き回りだした。時折、糸や布等を取り出してみてはあーでもないこーでもないと考えを繰り替える。10分くらいそうしていただろうか。内容が決まったのだろう彼は、こちらを見てその内容を告げる。


「大体のイメージは付きましたぞ。スパイダーの上位版「アサシンスパイダー」の糸、ホーンラビット・マジックラビットの素材で手直ししようと思いますぞ。ですが……生憎、マジックラビットとアサシンスパイダーの糸が少々足りませんな……。この二種は出現が稀な為中々骨が折れますぞ」


マジックラビットって、もしかしてあの魔法ウサギの事か? それなら一匹だけならあるけど。取りあえず見せてみるか。


「もしかして、マジックラビットってこれか?」

「む? おお! それですぞ! ちょうどいい。これならば後は糸だけですな。どうですかな? 今から森へ蜘蛛探しでも」


「わかった。俺の装備の事だしな。一緒に行くよ」


こうして蜘蛛探しに森へ行くことになった。



~~~


「【影縫い縛り】」

「【ステップ】【セカンド】【サード】、【的確急所】、そして、【ショートスラッシュ】」


【スキル:成功(サクセス)!】【連鎖(チェイン)!】

【スキル:成功!】【連鎖】

【スキル:成功!】【連鎖】

【スキル:成功!】【連鎖】

【スキル:成功!】【連鎖】

【クリティカル:成功!】【連鎖】



 レプラが糸を使ってイモムシを縛り上げ行動を阻害し、俺が成功を連鎖させ攻撃役になる。連鎖前のステータスが低いことをレプラが補ってくれるから、めちゃくちゃ楽に倒せるな。


「グッジョブですぞ。いやはや、道化師とはいかがなものなのかと思いましたが、存外馬鹿になりませんな。まさか、連鎖していけば何処までもステータスが増加していくとは」

「まぁ、30秒のリミットを過ぎたら全部消えるけど、その分効果が高いよ。それよりもレプラのサポート力の方がすごいな。モンスターのほとんどが動かない的になってるじゃないか。」


 レプラのサポート能力は異様に高かった。流石上位のプレイヤーと言うべきか、ここらのモンスターの行動を完全に阻害させている。レプラの格好は緩めの緑色のベストを着て下は半ズボンという格好で何処なくピーターパンっぽい。腰には、始まりの町にいた防具店のロイさんの様にポシェットを付けて中に針や糸が詰められていた。モンスターが出てくるや否やポシェットから針と糸を取り出して動きを阻害する感じだ。

 俺としてはただ攻撃するだけでいいからすごい楽だ。

 だけど、肝心のフォレストトラップとかいうモンスターが全然出てこない。出てくるのはイモムシやウサギ、時々ゴブリンが数匹と言った感じで全然出てこない。レア枠とか言ってたけど、かれこれ2時間はやってるんじゃないか?。


「メイ殿。目当ての標的が出ないというのはゲームでは良くあることですぞ。所謂物欲センサーといいますかな。こればかりは気長にやるしかありませんぞ」


 俺が落胆してるのを見てか、レプラがフォローを入れてくれる。サポート役の方が仕事が多いだろうに、未だに笑顔すら絶やさずに明るくふるまっている。

関心してるだけじゃ申し訳ないな。俺も気持ちを切り替えなくては。成功スキルを絶やさないために転倒スキルを使った時、突然目の前が暗くなった。


 「ん? なんだ?」


 上を見上げると、緑色の大きな蜘蛛が木々の間に張られた糸の上に佇んでいた。大きなといったが、滅茶苦茶デカい。キャタピラーとかいうデカいイモムシでも俺の腰位だった。だけどこの蜘蛛はそのイモムシよりも二回りほど大きい。

 

「ほぉ! 思ったよりも速かったですな。目当ての標的の登場ですぞ。それでは行きますぞ。はいっと【ウィンドカッター】」


 その軽い一言と共に魔法を放ち、鋭い風の刃が飛ぶ。流石のレプラでも手の届かない高い位置にいる蜘蛛に対しては、縫い付ける事は出来ないようだ。風の刃は蜘蛛に当たる事こそなかったが、蜘蛛の糸を切断して地面に落とす事に成功した。


「落としてしまえば、後は簡単ですな。【影縫い縛り・仮止め】、【影縫い縛り】」

「キ、キィ……」


 地面に蜘蛛が落ちるや否や、待ち針を取り出し影を刺し速攻で動きを止める。そして、動きが止まった所を糸を使って動けない様に更に縫い付ける。

 待ち針による影縛りスキルは速い代わりに抜け出しやすいらしいが、その代わり糸で縫う時間を稼ぐには便利とのことだ。発見から縛り付けるまで1分どころか30秒も掛かっていない。

 ……いや、強すぎるだろう……。いくら一流のプレイヤーと言ってもこの蜘蛛レア枠の強敵なんじゃないのか? なんでこんなに圧倒的なんだよ……。少し自信なくしそうだ。とうの本人はいつも通りって感じでにこやかだし。


「メイ殿。今がチャンスですぞ。今の成功の数なら小生よりも火力は上でしょうからな。頼みますぞ」

「お、おう……。【ショートスラッシュ】」


【クリティカル:成功(サクセス)!】


「キシャア……。」


 蜘蛛は……アサシンスパイダーは、そのアサシンの名を一切活かされること無く倒されてしまった。悲しそうな鳴き声を上げながら。

 今までダメージを負ってはいけないギリギリの戦いをしてきただけに微妙な気分になった。


「グッジョブですぞ。一応この森の中で最上位に位置するのに、()()()()()()()()とは驚きですぞ!」

「あぁ、うん。ありがとう……」


 かれこれ二時間は成功繰り返してたんだし、動かない敵に対してならこれくらいは誰でも出来るだろう。でも、レプラの流れるような動きはちょっと……キャラのレベルじゃなくてプレイヤー本人の技量(レベル)が違うな。


「メイ殿は学生でしたな? 今日はもう遅いですぞ。仕事はこちらで済ませておく故、メイ殿は明日の学校に備え寝ることを薦めますぞ」

「そうか? ……あぁ、そう言えばもうそんな時間か。分かった。レプラ、今日は助かったよ。それじゃ、また明日ってことでいいのかな?」

「そうですな。それでは、また明日会いましょうぞ」


そう言って、なんだか俺だけ消化不良な感じを残しつつ、今日はログアウトした。




ルビ振りをミスっていたので修正しました。

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