第二十三話
水曜日と言いましたがフライングします。
ウサギの群れクエストをクリアした俺は、今次の町へ向かうべく森に来た……のだが。
「ここ……どこだ?」
どうしよう。道に迷った。どうしてこうなった?
~~~
回想
『へぇ。やっと次の町に行くのか。結構長かったな』
『野ウサギ狩りで一週間も始まりの町に引きこもってたからな。おかげでレベルだけは誰より高い自信があるぞ。まぁステータスはアレだけどな』
『ははっ。確かにレベルだけならお前はトッププレイヤーすら超えてるんじゃないか? それに……お前のジョブはちょっとばかり特殊だしな』
森へ向かいながらアニーとメールを交わす。自分でも一週間もいるのはどうかなって思ったけど、ウサギを相手にするだけでもレベルがポンポン上がってくものだから止めるに止められないくなって。だがそのおかげで斜め上の性能ながらもDEX特化を活かせるジョブに就くことが出来たし、不本意ながらも強力なスキルを手に入れる事が出来た。結局プラマイゼロって事でいいんじゃないかな?
短剣使いから派生したジョブの道化師。DEX以外のステータスが半減する代わりにDEXが2倍になるっていうおよそ戦闘には不向きってジョブだった。おまけに俺のステータスはDEXに振りまくっていてSTRやDEFなんて一度も振っていない。だから始めたばかりのプレイヤー以下のステータスとか言う訳の分からないモノだった。
しかし、その反面。【成功】というそのデメリットを覆すスキルがあったお陰で、場合によってはどのプレイヤー達よりもずっと強くなれる物凄くピーキーなジョブだった。
魔法系や剣士系が王道的な戦いをする中、多分道化師は延々と芸とかのスキルを使用して自己強化を繰り返してからが本番、といったジョブなんだろう。
『まぁ、どんなに強化できようが最初は初心者以下なんだ。驕らずに謙虚にいけよ? ただでさえ今日は俺はついていけないんだ。気を付けろよ?』
『そうなのか? いや、多分大丈夫だと思うけど何か用事でもあるのか?』
『新人を見繕っていたら面白い奴が見つかってな? 性根さえ叩き直せば良い剣士になりそうな奴なんだが、これがまたとんだじゃじゃ馬でな。今日もちょっとばかしお話してくる予定なんだわ。あのイカレ魔法使いは付いてけないのか?』
剣士系の新人か。剣は多くのプレイヤー達が最初は手を付けるものの、キャラの操作がプレイヤーの運動神経に左右されるせいで諦める奴が少なくないんだよな。結局名前知らないけど、あのクレクレ君も大剣(木製)振り回すだけでそこまで怖くなかったし。近接戦闘系は結局はプレイヤースキルに依存するから、それで前線にいってるアニーはすごいよな。リアルで仕事何してんだろ。
しかもそのアニーに剣士として目を付けられるなんて結構有望株なんじゃないか?
『モルガーナなら今日はログインしてないよ。なんでも奇声を上げて決めポーズを取ってる所を妹に見られたらしくてな。ゴミを見るような目で見られて現在言い訳中だと』
その話が大体昨日の出来事だったらしいな。今日の放課後に「ヤバいどうしよう!」って相談してきたし。そもそも妹がいた事に驚いたな。こんな姉がいたらさぞかし大変だろうに。
『ならソロで森抜けか。普通の奴なら大丈夫なんだろうが、お前のステはホント特殊なんだからな。気ぃ抜くなよ? 一応真っすぐ進めば迷うことなく抜けられるから余裕だとは思うけどな』
なんか今フラグ立てられたような……。まぁいいか。もう森についたし。そう思いつつ森の中に入っていった。
確かにステは低いけど、あの群れは特殊クエストの影響によるものな訳だから気にすることは無いだろう。それに出てくるモンスターもホーンラビットレベルのモンスターなら問題なく勝てると思うし。
そんな事を考えながら森の中を歩いていると、草むらからホーンラビットが数匹出てきた。ラビットジェノサイダーのスキルの影響で引き寄せられたのかな?
短剣を構え、まず的確急所のスキルを発動させ、ステップ、並びにハイステップを発動させて成功を稼ぎつつ距離を詰める。今度は初心に帰って耳をむんずとつかむことにした。そして首に斬り付ける。
【スキル : 成功!】
【スキル : 成功!】【連鎖発生!】
【スキル : 成功!】【連鎖!】
・
・
【クリティカル:成功!】【連鎖!】
【クリティカル:成功!】【連鎖!】
「よし。一通り片付いたな。それじゃあまた進むかって……真っすぐはどっちだ?」
回想終了
~~~
いや、森の中で戦闘なんてするもんじゃないね。まさか、少し道の意識を忘れるだけで迷子になるなんて考えもしなかった。
流石にこんな事でアニー達に連絡入れるのはしょうもないし、それにモルガーナに知られたら何言われるかわかったもんじゃない。
いや、別にモンスターにあっても問題は無いんだ。スキルのせいか、遭遇するのはほとんどがウサギだから、戦い慣れている。ただ、ひたすらに迷うっていうのは精神的に辛いものがある。リアルの身体は無事ってわかっていても怖いよね。
ガサッ……
またウサギが出て来たかと思ってそっちを見てみると、今度は見たことのない敵だった。俺の腰ほどはある大きな芋虫が出てきた。緑色で体の横に斑点がある。モソモソと動くたびにその巨体がぶるぶると震えて正直嫌悪感を感じざるを得ない。
だけど次の町は製糸が盛んだって話だし、芋虫系のモンスターって言ったらなんとなく糸ってイメージがある。ポジティブに考えたらそれだけ町に近くなってるって事じゃないのか?
そう考えたらモチベーションが上がってきた。まずは先手必勝だ。動きが遅いなら大丈夫だろうと過信せず、横に張り付き短剣を突きつける。
しかし、その大きな体のせいかブヨンッという音がしただけでそこまでダメージを負っているといった印象は無かった。
「やっぱ素の火力じゃどうしようも無いか。クリティカルも出てないっぽいし……」
それにブヨブヨした感触からすると、多分大きさ通りダメージとなる芯の部分まで攻撃が通って無いんじゃないか? 長剣や魔法じゃないとダメージが入りにくい、みたいな。
まずはスキルを繰り返して連鎖を積まないと。そんな事を考えていたら、芋虫が頭をこっちに向けて糸を吐いてきた。しかもモ○ラの幼虫の吐くスプレー状の糸だった。
急いで回避しようとするが、広い範囲攻撃に対しての対処としては余りに遅すぎた。
糸が体に付着するにつれ、体の動きが遅くなっていき遂には身動きが取れなくなってしまった。
「クソッ! どうにかして抜け出さないと。【ハイステップ】!」
【oh……失敗】
「マジかよ!?」
スキルによってどうにか抜け出せないかと試したが、失敗扱いになって発動することが出来なかった。どう足掻いても抜け出せる気がしない。多分これSTRが高い奴なら無理やり抜け出すとかって選択肢もあったのかもしれない。
だけど、俺の初期値以下のSTRではこの糸から抜け出すにはあまりにも貧弱すぎる。
どうやったら抜け出せる? 転倒は……いや、状況が悪化する未来しか見えない。他にあるスキル類でも抜け出せる気がするものがない。
無理と知りつつ足掻いていたが、芋虫はノソノソと突進をしてきた。避けられない!
「ぐあっ!」
吹き飛ばされてHPが一気に10から1になる。俺の耐久力で0にならないって事はそこまで攻撃力は無いのか。いやでも、避けられないんじゃ嬲り殺しに変わりない。
どうする……?
「お困りの様ですかな?」
「え?」
振り向くとそこには、子供位の背丈の金髪エルフがいた。楽しそうに笑みを浮かべるその少年の様なエルフはどこか場違いな感じがした。
若干不思議に思ったものの、自分がピンチなのは変わり無い。藁にも縋る思いで助けを求めることにした。
「あ、あぁ。助けてくれ! 抜け出せなくて詰んでるんだ!」
「了解ですぞ。では、少々じっとして頂けますかな?」
そういうと、その少年エルフはその手にすっぽり収まる程度の小さなハサミを取り出した。いや、小さなハサミと言えば少し語弊があるか。一本の鉄の棒を半分に折り曲げて、その両端に刃があるその形状から、そのハサミが糸切りバサミである事に気付いた。
「【縫い子のお仕事:糸切り】」
何かのスキルを使ったのだろう。手に持つハサミが輝いたと思ったら、すごい勢いで俺に纏わりついていた糸がみるみる内に切られていった。
それだけじゃない。ただ切るだけじゃなく、切られた糸くずを片っ端から集めている。
「キャタピラー相手に手持ちの糸を使うのは少々勿体無いですからな。【製糸】そして、【影縫い縛り】」
そう言いつつもスキルを発動させると、糸くずは一本の糸束へと瞬時に仕立て直された。それだけじゃない。ハサミをしまい今度は針を取り出したかと思うと、瞬く間に芋虫の影をその場に縫い付けてしまった。すごい。物凄い手際の良さだ。
呆然と立ち尽くす俺に対して、その少年エルフは余裕の笑みを浮かべながら問いかける。
「さて、問題が無いようならばこのまま倒してよろしいですかな?」
「え? あ、あぁ。大丈夫だ」
「了解ですぞ。【ウィンド・カッター】」
恐らく魔法だろう。イモムシ……モーリーワームに向かい手をかざし魔法名を唱えると、風の刃が現れ、緑色の斬撃エフェクトを散らしつつモーリーワームを斬り刻んだ。
斬撃の疾風に当たる事数秒。モーリーワームはあっけなく倒され、少年エルフは変わらぬ笑みを浮かべつつ振り返り俺に告げる。
「これにてお仕事完了、ですな! さて、新人殿は大事ないですかな?」