第十九話
やっと転職できました。癖が強いですが、悪ふざけが過ぎたかもしれません。話もグダグダにしかならない……。
それでも良ければお付き合い。
「その転職。ちょっと待ったぁぁあ!!!」
声の方向がした入口の方向を見ると、なぜかエルフの魔法使いがいた。
真っ黒のでゆったりとしたローブに、体の大きさと比べてもとても大きい黒のとんがり帽子。そしてエルフの象徴ともいえる長い耳、木で作られた杖。10人中10人が間違いなく「魔法使い」と答えるであろう姿の人物がドヤ顔でこちらを向いている。どう考えてもせんせーだ。
周りのプレイヤー達は「エルフだ」「本物のエルフだ」とざわざわしている。中にはスクショを取ってフレンドに拡散しようとしている奴までいる。どうしよう。関わりたくない。
だけど、その魔法使い然とした人物は真っすぐにこっちに歩いてくる。
「悩める冒険者【メイ】よ。話は聞かせて貰ったよ! その転職先、この高貴なるエルフにして偉大なる魔法使い【モルガーナ・サイト・マーリン】。言語道断と言わせてもらうよ!」
なんかやたらと気合の入った長い名前をドヤ顔で語る女性プレイヤー。痛い。決めポーズまで取って、とても痛い。名前にしてもそうだ。魔法使いとして有名なマーリンや、モルガーナ(アーサー王物語だっけ?)それに多分自分の苗字をと、とにかく色々詰め込んだ名前だ。
アニーもどうリアクションを取ればいいのか困っているようで固まっている。
「おやおや? 偉大にして超有能な魔法使いを前に声も出ないって感じなのかな? まぁあふれ出るこのエルフ的超神聖オーラを前にしたら仕方が無いんじゃないかな!」
「あ~ えっと、メイ。恐らくそうなんだろうが、一応念の為に、万が一の事を考えて聞くが、コイツはお前の知り合いか?」
俺と同じく、関わりたくないのであろうアニーが一抹の希望を兼ねて訪ねてくる。その気持ち分かる。今すぐ警察を、いや、衛兵を呼んでこの状況から抜け出したい。だけど、それと同じくらいこの痛い人を放置するのが怖い。諦めとため息交じりに返答する。
「悲しい事に、この人がさっき言ってた知り合いだよ。俺もこっちで会うのは初めてだけど、ここまで酷いとは思ってもいなかった。……なんかゴメン」
「メイ……。お前も大変なんだな」
おかしいな。クラスメイトにも同じ慰められ方した気がする。涙が出そうだ。
二人でそんな話をしていたら、のけ者にされたと思ったのかせんせーらしき魔法使い。【モルガーナ・サイト・マーリン】さんは不機嫌そうに話しに混ざってくる。
「ちょっと! せっかく無理してエルフ領からヒューマン領まで来たのに、そのそっけなさは酷いんじゃないかな! 結構たいへんだったんだよ!?」
モルガーナのその言葉を聞き、アニーがハっとした表情を浮かべる。
「そういえば他領のスタートの町に向かう時はモンスターの難度が少し上がるって聞いた事があるような……。いくら森を挟んで隣接しているエルフ領といってもよく来れたな」
「おやおや? 良く知ってるねそっちの古参っぽい人。そうだよ。種族別のスタートエリアに他の種族がいるのはおかしいという事なのかは知らないけど、確かに比較的レベルの高いモンスターが出てきたと思うよ。……ま! この絶大なる魔法を操るモルガーナの敵じゃないよ!」
またもやモルガーナはドヤ顔でビシッとポーズを決めた。そんな使用があったなんて知らながったが、こうドヤ顔で言われるとムカつく。それを聞いて若干顔が引き攣ってはいるものの、アニーは
「へぇ。性格は兎も角なかなかやるっぽいな。見たことない顔だが、もしかしてランカーか?」
「うっ……そんな事よりもまずはメイ君のことだよ! さっきの話を聞いてれば、『中級短剣使い』? 絶対に反対だよ! そんな事したら、この先前線になんていけないよ!」
なんか話を無理やり変えてきた? でもそれだけの為にわざわざこっちまで来るか? アニーの話じゃエルフのモルガーナがヒューマンのこの町に来るのって結構難度高いらしいし。アニーもその意見に納得がいかないのか、質問をしてる
「なんでだ? 中級短剣使いは短剣使いの完全上位互換。云わば正統的な進化形だ。クセが無い分扱いも簡単で慣れも早い筈だ。ステータス構成に若干の不安はあるが、それでもそれは調整次第でどうとでもなるだろう? 何か問題があるのか?」
「ありもありあり。大問題だよ! だってメイ君のステータス構成はDEX極ぶりの特化構成なんでしょ!? 紙装甲・無火力の短剣使い? 低火力ならまだしも無火力! それならありきたりな派生先なんてナンセンスだよ!」
「ありきたり? 確かに火力が皆無なのは否定しない。だが、そんなのは後のステ振りでどうとでもなるだろう? 本来ならステータスもバランス良く振った方がいいとも思うが、流石にそこまでは言う権利は無いからな。王道にハズレはないだろう」
「今からそんな王道に軌道修正? そんな事していたらいつまでたっても序盤の町々から進む事なんてできないよ! 王道に外れナシ? ハズレは無くてもロマンもないよ! ロマンと大成は邪道にこそ宿るんだから! バランス構成? そんな器用貧乏まっしぐらな構成よりも一発狙って極ぶり特化構成の方がカッコいいよ!」
あ、これヤバいかも。段々と剣呑な雰囲気になっていくふたり。完全に水と油だ。
「バランス型の何が悪い! いつの時代も汎用性と王道的選択の方が大敗する可能性が少ない。その安定性であらゆる状況に順応、対応する事こそが汎用型の利点だ。大体、邪道で成功できるのは環境に適合できたごく一部だけだろうが! 弱点を突かれればすぐに危機になる特化型よりもバランス型の方が優れている! だからコイツもその道wを行った方がいい!」
「おやおや~? 自己保身と危機回避を前提に考えるなんて余りにも保守的考えだね? 確かにバランス型の方が安定性があるのは認めるよ。でもそれは言い換えればどっちつかずの中途半端。もし高い火力の高い敵が来たら? 突破出来ない耐久力が来たら? こんな時に攻撃を耐え、突破するのが特化型の役割だよ。中途半端なんて真っ先に役に立たなくなるかな! メイ君を役立たずになんてさせないよ!」
「おいおい。語るに落ちるとはこの事だな。高い耐久、高い火力。これらが役割を持てない程に高い敵が出てきたらどうするんだ? 予想を遥かに超える敵が出た時こそ、安定と地力の差が出るんだよ。」
「語るに落ちる? 何を言っているのかな! 特化ステで対処できない敵相手に優柔不断で半端でしかないバランス型が一体何を出来るのかな!?」
じりじりと睨み合う二人。安定と汎用を求めるバランス型主義。一点特化の爆発力とロマンを求める特化型主義。多分絶対に理解し合えないんだろうなと思いながら仲裁に入る機会をうかがう。そして二人はガタリと椅子から立ち上がり、
「決闘だよ! 半端剣士! 」
「上等だこのイカレ魔法使い!表出やがれ!」
「いい加減にしろ! 二人そろってヒートアップするな!」
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「で、ちょっとしたことで事故になるステの事は置いておいて、お前の進めるジョブはなんなんだよイカレ魔法使い。まさかここまで来てピッタリのジョブはありませんでしたはねぇよなぁ?」
「もちろんだよ。半端者。ロマン派はそんな文句だけ言って終わりなんてハ・ン・パ・な! 真似はしないからね。メイ君にピッタリのジョブ。それは『道化師』だよ!」
決めポーズと共に宣言するモルガーナ。口喧嘩を収めてなんとか最初の話題に戻したは良いけどまた喧嘩になりそうだ。だけどなんで道化師なんてジョブを薦めるんだ? 学校では理由を聞けずに終わったけど、どう考えても戦いに向いてるジョブじゃない。
「『道化師』だぁ? そんなジョブでやってる奴なんて一度も見たことないぞ。どう考えても非戦闘職じゃねぇか。そんなジョブで大丈夫なのか?」
「もちろん根拠はあるよ。まず第一にメイ君の歪なステータス。前衛だからINTは置いておいて、一切振られていないSTRとDEF。これじゃあ普通の前衛として機能できない。だから、ある程度の博打を打つ必要があるの。ここまではいい?」
そこは俺も納得できる。野ウサギは兎も角、これじゃあゴブリンだって神経集中させないといけないから。DEX特化でまともな戦い方じゃ辛いってのはずっと思ってた。いやまぁ全部俺のせいだけど。
「じゃあどんな博打を打つのか。私の主張は三つ。まず、道化師なんてジョブ。ランカー同士の話でも一切聞かないよね? 少なくても私は毎日1,2時間は情報収集に当ててるけどそんなジョブの人も話題も聞いたことが無かった。多分派生先として発生するのには条件が付くんだと思う。例えばDEX関連とかね。だからメイ君にそれが派生したって事は適正があるんだと思う。」
そんなに情報収集してたのか。というか、収集だけにそれだけ時間当ててたって事は毎日どれだけログインしてるんだ? そんな疑問が浮かんだ所で更に続ける。
「次に道化師と言えば、遊び人を連想させる所があるよね? 遊び人と言えばあの伝説的ゲームで賢者になれる職業。これはつまり、道化師も同様に可能性の塊だと思うの」
ん? ちょっと無理やりな説明のような……。いや、間違いを言ってる訳では無いんだけど。
「最後に、他に派生先としてあるジョブ。ジャグラーと軽業師の存在。この2つはいずれも芸をするジョブでしょ? しかもどっちも道化師に関係がある所があるよね。って事は、もしかしたらこの2つのスキルも手に入れられる可能性があるって事でしょ? あぁ、なんたるロマン! 絶対に面白い!」
あ、これただ自分が面白がってるだけだわ。最後らへんには面白いって言っているし。自分の興味本位でそんな推すか普通!?
「おいおい。ふざけてるのか? なんだその根拠は!? 特に三つめ! 完璧に自分の欲求じゃねぇか!」
「そんなことないもんね~! ちゃんとした理由だもんね~! 半端者のお勧めジョブよりもこっちの方が面白いもんね~!」
モルガーナのお勧めする道化師は分からなくも無いけど、自分の欲求が入っているのがちょっと……。いや、でも1つ目の主張が正しいならあるいは……?
「良く聞いてメイ君」
「え?」
こっちを向いて真面目な顔をするモルガーナ。それは学校で相談した時に見せたゲームに本気モードの顔だった。
「最終的に判断するのはメイ君。キミだよ。こっちの半端者のジョブにするのも、メイ君の選んだ道。もしそっちを選んでも私は何も言わないよ。……多分。でも、思い出して。どうしてメイ君はDEX特化にしたの? たぶん戦闘はすっごく辛いよね? それでも続けるロマンがそこにあったんじゃないの? メイ君の覚悟はその程度だったの?」
そんな訳ない。たかが野ウサギにワンパンできずにゴブリン相手じゃ命がけ。ホーンラビットに勝てないような俺のステータスだけど、DEXに特化すればレベルが上がる。誰よりも弱いが誰よりも高いレベル。そんなロマンを目指したんだ。俺の覚悟は、そんなもんじゃない。何よりもDEXの追加効果は俺が見つけたんだ。そう考えたら、俺の中でプライドの様な物がプチっとなった。
「やってやろうじゃねぇかぁあ!」
その場の勢いで転職部屋に向かっていった。なんか馬鹿にされてムキになってる気がするが今はそんなの気にしない。後ろでギャーギャー騒いでる二人を置いて受付嬢さんに話しかけた。
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メイが転職部屋に向かった後、二人は会話していた。アニーはしてやられたといった感じで一言。
「やってくれたな。そんな事言われたらある程度プライドあるやつならハイそうですかって流せる訳ねぇじゃねぇか。お前、説得する様に見せて煽ってその場で勢いで決めさせたな?」
モルガーナこと斉藤教諭はこれでも担任教師だ。生徒の性格はある程度把握している。ましてや特化型ステをする者であれば、それに少なくない愛着とプライドを有している事が多い。メイがアニーを信頼しているであろうという事を察したモルガーナは、このまま口論していてもメイは自分側に付かないという事を予想した。そこでこのような手に出たのだ。
モルガーナは自信にあふれた顔でアニーに告げた。
「ふふん。あのまま口喧嘩していても基本的にまともな子のメイ君は『中級短剣使い』を選びそうだと思ったからね。これも戦略だよ!」
「イカレ魔法使いと思ったら腹黒魔法使いでもあるのかよ。まぁ、俺も打倒であっても最善とは言い難いとは思ってたからな。前例が無さそうなアイツのステータスなら仕方が無いか。……そういや名乗って無かったな。俺はアニー。剣士をやってる。メイとはダチみたいなモンだ。アンタは……偉大なる魔法使い様なんだろ? モルガーナ・サイト・マーリン様?」
「この人物はこういう性格の人物なのだ」という事で自分を納得させたアニーは、取りあえず自己紹介を始める。自分とソリが合いそうに無いが、メイとリアルでも知り合いらしい。せめてこれくらいはと自分から歩み寄ることにした。
メイが道化師を選択したことで既に満足しているモルガーナは若干恥ずかしそうに答える。
「うっ。改まってフルネームで呼ばれるとちょっと恥ずかしいね……コホン。私はモルガーナ。メイ君とはリアルでも友達と言うか、まぁ知り合いだよ。ジョブは魔法使い。前線の魔法使いとは一味違うよ。私の方が優秀なんだから」
その言葉にアニーはピクリと反応する。今、モルガーナは前線の魔法使いとは違うといった。つまり前線に出たことがあるという事だ。それでも自分の方が優秀と言い切ったという事は余程自信があるのか。アニーは目の前の人物の評価を上げた。
「へぇ。モルガーナって名前の前線プレイヤーは聞いたことが無いな。その如何にもな感じの装備は目立ちそうな物だけどな」
「おっ?この装備のすごさに気付いた? 前線プレイヤーじゃないけど、腕のいい生産職のエルフプレイヤーがいてね。口調が変だったけど。前線の人は余り序盤の町に戻らないから気付かないんじゃないかな? 前線はちょっと……ね? 調子に乗ってやんちゃしたから、あだ名の方が広がってるんじゃないかな」
それは黒歴史だとでも言うように気まずそうにいう。あだ名をつけられる程のプレイヤーは少数であり、それだけ目立ったことをしたという事になる。気になっているのだろうと思ったモルガーナは嫌そうながらもそのあだ名を口にする。
「……歩く(ウォーキング)厄災って聞いたことがない?」
「歩く(ウォーキング)厄災って、あの厄災か?!」
その名を聞いて思い出す。ふらりと前線に現れたエルフの女性プレイヤーが、現状最もレベルの高いと言われていた自称攻略組の魔法使いよりも更に広範囲・高威力の魔法を放った事があった。付近のプレイヤーを巻き込んで。幸いそれでLPが尽きたプレイヤーはいなかったが、その魔法一発によってそのエリアのモンスターが著しく個体数を減らした。
エルフ族のプレイヤーの中にその魔法使いについて知っている人物が何人かおり、その時に「歩く厄災」というあだ名が広まった。周りの迷惑を考えず、その無駄に高性能な魔法を放ち周囲を蹴散らす者として。
「そういえばそんな話があったような。まさかアンタがその歩く厄災だったとはな。だが、古参プレイヤーすら超える魔法って一体どうやったんだ? いくらなんでも限度があるだろう?」
いくらなんでも1か月の差は簡単に縮める事は出来ない筈。何かからくりがある筈だとアニーは問い詰める。目を逸らしながらモルガーナは語った。
「アハハ……。だから最初から言ってたでしょ? 私は極ぶり特化主義だって。MPに一切振らないでひたすらINTに振ったらどうなるんだろうって今のレベルまでずっとINTに振って魔法の威力を上げてたの。そしたらある程度INTが高まると威力の他にも範囲も上がるっぽくて。テンションが上がって前線で最大威力の魔法を打ったらこれだよ」
あの生徒にしてこの先生あり、といった所である。メイがDEXに振りレベルアップが早まり、キャラクターの操作のブレが減る事を見つけた様に、モルガーナはINT値が一定量を超えると魔法の範囲まで上がるようになる事を見つけていた。
ある程度の差はあれど、MPを増やし攻撃回数を増やそうとするプレイヤーが多い中、INTにひたすら割り振っていたのはこの人物だけだろう。
「待ってくれ。なら、アンタのステータスは……」
「あ、あー! ほら、メイ君が帰って来たよ!」
無理やり話を逸らした先にはフラフラとこちらへやってくる。気のせいか、魂の抜けた様な顔をしていた。
「メ、メイ君。どうしたの?」
「お、おい。ホントに大丈夫か? 見るからにヤバそうだぞ」
「やっちまった……。やっちまったよ。ほら……」
そういってステータスを他のプレイヤーにも見れるようにし、見せてくる。そのステータスに書かれた道化師ジョブの効果とは……
ジョブ補正▽
職業補正 道化師
1.常時、STR・DEF・INT・AGIの値5割減
2.常時DEXの値2倍。
3.常時挑発効果
次は木曜日に出します。
最近タイトルとあらすじを変えるかどうか悩み中です。そのうち変えるかもしれません。