第十八話
ごめんなさい
単なるグダグダ話になりました。
それでも良ければお付きあいください。
転職先を見てからもその後、色々考えてみたが、結局これだ!っていう転職先は思い浮かなかった。やはり火力を上げるにしても補助的な部分を強化するにしても俺のステータス構成が足を引っ張る。
やっぱりDEX特化じゃ無理があったかもしれない。剣士と言う攻略組からすると異端ながらも、安定思考バランス主義のアニーは順当に『中級短剣使い』になるべきだと言っていたが、あまり気乗りしない。
結局ずるずると悩んでいたら今日の授業は全て上の空の内に終わってしまった。今は放課後。部活動のあるクラスメートは既にそちらに向かっており、帰宅部は友達同士で話をしながらも帰り支度を済ませ帰っていく。
「どうすっかなぁ~……」
「なにがどうすっかなの?」
一人頭を抱えながら唸っていたらせんせーが話しかけてきた。化粧で隠してはいるつもりの様だが目の下のクマはとても濃く、未だに徹夜でゲームをしている事があからさまだった。正直このクマは日に日に濃くなっていて内心大丈夫なのかと自分のジョブの事より心配になる。
「せんせー。目の下のクマ、ヤバいですけどちゃんと寝てんすか? それに確か今日は職員会議の日っすよね? 悩みはありますけど、時間大丈夫ですか?」
「うっ。朝に教頭先生にも言われた痛い所を……。別に授業に支障は出さないから大丈夫だよ! それに、まだ少し時間は空いてるし、生徒の悩みを聞くのも先生の仕事だから大丈夫だよ」
確かに授業はちゃんとやってたっぽいし、悩んでるのも事実なので、正直に答える事にする。騒いでる内は元気だと思うしね。
「実は、特殊クエストを見つけて受けたは良いんですけど、いかんせんムリゲー過ぎてどうしようも無くなったんですよね。んで、状況打破もかねて転職しようかと思ったんですけど、いかんせん数が多くて……。それにこれだ!って職業も無いんですよね」
「ムムッ!? この先生を差し置いて特殊クエストなんて胸熱な展開をしていたなんて! しかも転職ですって!? 先生だってまだなのに、なんて羨ましい……!! ずるいずるいずるい!」
ずるいって……。この残念教師に聞いたのが間違いだった。ジト目でせんせーを見ていると何を思ったのか慌てて繕って話し始めた。
「えーっと。コホン。ま、まぁ、とにかく。辻君のステータス構成について聞かないとアドバイスのしようがないよ。あ、そういえば辻君のプレイヤーネーム何? 確かヒューマンの短剣使いって言ってたと思うけど、見た目どんなキャラ? この際だから色々教えて頂戴?」
「……まぁ仕方ないし、言ってもいいか。プレイヤーネームは【メイ】。キャラは見た目はそこまで弄ってないから見たら分かると思いますよ。……ん?別に見た目は関係ない気が……。「いいからいいから!」 ……そうすか。んで、ステータスはAGIにちょっと振って後は全部DEXです」
そう告げるとせんせーは目を丸くさせて驚いた様子を見せた。
「DEX!? 辻君。ただの地味メンかと思ってたら実は結構通な人だったんだね! やっぱり辻君も極振りのロマンに惹かれて? それも火力に一切繋がらないって言われてるDEXに? も~、同じ同士だったら早く言ってよ~そしたらもっと早くこのロマンについて語り合えたのに~」
ニヤニヤニマニマと笑うせんせーに軽く殺意を覚える。その絡みが面倒だからこの一週間黙っていたのに。
「語り合うだけなら、俺帰りますよ?」
「あぁ待って待って! ちゃんと考える! 考えるから! ……よし、頭切り替えた。えっと、DEXに振ってるから火力に繋がらない。それどころか耐久性も無いから攻撃を喰らう訳にも行かないと。特殊クエストって討伐系? 採取系? それとも単純に探索系?」
頭を切り替えたと宣言してから、さっきまでのぽわぽわした残念教師の雰囲気が消え、歴戦のプレイヤー然の鋭い雰囲気を纏っていた。
……いや、それは言い過ぎた。ガチ勢特有の近づきたくない雰囲気だ。このせんせー、ゲームになるとこんな雰囲気なるのか。なんかゲームに対する本気度が違う。この熱意を仕事にも向けたら教頭先生にも小言言われずに済むのに。
「辻君?」
「え! あぁ、クエストですよね? 討伐系です。ホーンラビットの群れ、及びそのリーダー格の討伐です」
「おーけー。討伐系だね? となると、火力耐久共に振っていないという事は順当に中級に強化したところでたぶん詰んじゃうよね? まぁここまでは辻君でも思いつく事だろうね。他に短剣使いから派生するとなると、『盗賊』や『狩人』といった技術系のスキルが強みとなるジョブがポピュラーの筈。でもそれだと今回の討伐系にそぐわないのは同じ。火力に即決しないからね。でも、DEX特化型の戦い方と言えばクリティカルによる大ダメージ狙い……いや、違う。それだとまともじゃないステ振りの性能を引き出せない。辻君? 他に表示された職業は?」
詳しく教えてないのに次々に俺の悩みを当てていく。この人、残念教師の筈なのにゲームになるとすごい有能に見える! このモードで授業したら教頭も文句言わないだろうし生徒にも一目置かれそうなのに、全部ゲームに向けての熱なのが本当に残念だ。
っと、それは今はどうでもいい。今は俺のジョブについてだ。なんか今のせんせーならアドバイザーとしてすごく信頼できる気がする。
「表示されたのはせんせーが今言い当てた『中級短剣使い』『盗賊』『狩人』の他に、『軽戦士』『軽剣士』『シーフ』といった軽量級や技量系のジョブ。後は、単純に『剣士』。それと、戦闘向きじゃない所だと『ナイフジャグラー』『道化師』『軽業師』です」
「それだよ!」
せんせーが目をカッと見開いて叫ぶ。え? そんなに叫ぶ程ピッタリなジョブなんてあったか?
「えっと、『軽業師』?」
「違うよ! その前! 『道化師』の方!」
道化師がピッタリのジョブ? どう考えてもあの中だとハズレにしか思えない地雷ジョブだと思うんだが。
RPGでも道化師とかそうゆう職業ってネタの枠から出ないイメージがあるけど、それでなんで道化師なんだ? いや、今のせんせーは有能モードのガチ勢としての意見だ。恐らく深い考えと理由があるのだろう。
「せんせー。道化師なんて地雷ジョブにしか思えないんすけど、その根拠は何ですか?」
「勘だよ!」
訂正しよう。この人残念のままだ。有能なのは雰囲気だけの見せかけだった様だ。呆れた目線でせんせーを見ていると、もどかしそうに時計と俺を交互に見始めた。
「あぁもう! ちゃんと説明したいのにそろそろ職員会議が……! 辻君! 対象がホーンラビットって事はまだ『始まりの町』なんだよね! 今日もしっかりログインする事! いいね!」
矢継ぎ早にそう言うと、急いで教室を出ていった。それもダッシュにならない程度の早歩きという器用な真似をしながら。あの様子ならまだ徹夜しても大丈夫なのだろう。
と言うか教師が生徒のネトゲを推奨していいのだろうか。
「辻……。お前も大変だな」
残ったクラスメイトに何故か同情された。なんとなく涙が出そうになった。
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家に帰り夕食や風呂を済ませてから、言われた通りログインした。元々ログインするつもりだったからいいけど、言われた通りっていうとなんか癪だ。と言うかなんでログインする様に言ってたんだ? まさか始まりの町に来るつもり……? まさかな。いくらせんせーでもヒューマン用の初期エリアに来たりはしないだろう。今まで他種族がこの町に来てるところなんて見たこと無いし、それに来たら変に目立つだろうし。
視界がゲームの中の始まりの町に切り替わり、アニーとの待ち合わせ場所のギルドに向かう。なぜかその道中、周りの連中がざわついているのを見かけたけどそれよりも自分のジョブについてだ。
ギルドの中に設置された酒場にてアニーが来るのを待つ。アニーは普段から大人びてる様子からも分かるように社会人らしい。それで仕事が終わったら趣味としてこのゲームをしているとの事だ。それも次の日の仕事に支障が出ないように。長くない時間をガッツリ集中して。徹夜でプレイしてるどこかの残念教師とは大違いだ。しばらく待っていると、アニーがやってくるのが見えた。
「ようメイ。悪いな。仕事で遅れた」
「いや、いいさ。こっちもレベリングの時間を割いて貰ってるから文句なんてないよ」
そう短いやり取りを交わし、アニーが席に着く。そして昨日の様にジョブについての相談を始める。
「で、どうなんだ? 何か良いジョブチェンジ先…… いや、転職先か。検討が付いたのか?」
「いや、あんまりピンと来てるジョブは見つかってないよ。リアルで丁度このゲームしてる人がいたからその人に相談してみたけど、あまり根拠があるようには思えなかったし」
そういうとアニーは少しだけ意外そうな顔をする。
「へぇ。リアルでも知り合いでやってる奴がいるなんて珍しいな。いや、まぁ俺にもいるっちゃいるが、今は死に待機中だからなぁ」
死に待機とは、LP0によるキャラクターロストが執行されてからもう一度キャラクター作成が出来る様になるまでの待機の事らしい。約三か月という環境から置いてけぼりを喰らっている人物は少なくないらしいが、アニーの知り合い……ニッキニキさんだったか? も、そうらしい。
「まぁそれはいいとしてだ。俺としてはやっぱ『中級短剣使い』が押しだな。王道の道であればある分ハズレは無い。俺の主義の押し付けって訳じゃないが、バランス良く振った方が万が一の事故が少ない。もう十分レベルも上がったんだし、この際普通にステを振ったらどうだ?」
アニーの言葉に俺は悩む。
「そうだよなぁ。それが一番妥当な案だよな。これじゃ野ウサギしか通用しないって身に染みたし、単純に中級にすればいいかなぁ」
角が生えたウサギ相手にボロ負けした訳だし、現在のステータス構成じゃレベルを上げるという事しか考えられていない。それじゃあ勝つためのステータスにはどう考えてもなり得ない。そう考えていたらギルドの入り口から大きな声がした。
「その転職。ちょっと待ったぁぁぁあ!!!」
次は水曜日に出します。
久しぶりに確認したらブクマと評価が増えていました。してくださった方ありがとうございます。
そういえば、補正込みのステータスを表示したことが無かったので一応書いておきます。ミスがあったらすいません。
各スキルの詳細やウサギへ攻撃した時の補正は割愛します。
【メイ】 Lv.50 ヒューマン
ジョブ:短剣使い
HP 10
MP 10
STR 6(5)攻撃時は 武器込みで12
DEF 26(5)
INT 6(5)
AGI 27(14)
DEX 105(94)
※ (括弧)の中は補正前の数字
スキル数:8
補正詳細▽
種族補正:ヒューマン
1.表示されている 5種のステータス(S、A、I、A、D)に+1
2.スキルが程よく会得しやすい。
補正詳細▽
職業補正 短剣使い
1.攻撃時、STRの値0.5割加算
2.常時、AGI,DEXの値1割加算
3.短剣系のスキルの会得簡易化
装備詳細▽
・武器補正:【鉄製の短剣】
攻撃時、STRの値+5
常時、DEXの値+1
・装備補正:【野兎の探検帽】
常時、DEFの値+2
・装備補正:【野兎の服】
常時、DEFの値+4
・装備補正:【野兎の外套】
常時、DEFの値+7
常時、AGIの値+3
・装備補正:【野兎のズボン】
常時、DEFの値+4
常時、AGIの値+4
・装備補正:【野兎の靴】
常時、DEFの値+3
常時、AGIの値+5
こうやってみると DEX 3桁いってたんですね。