第十五話
ご都合主義と自分の趣味全開になっております。それでも良ければお付き合いください。
「ロイさん、コートどうですか!?」
「あぁ昨日のウサギの奴か。思ったより遅かったな。とっくに出来てるぞ」
家に帰って即ログイン。防具屋に行くと奥からロイさんが出てきた。出来たがったと言うコートを受け取り広げてみる。
丈はそこまで長くなく、ポケットが多い。色は野ウサギの毛皮を使ったせいか褐色気味で、なんとなくサバゲーの上着って感じだ。実際に装備してステータスを確認してみる。
装備▽
武器:鉄製の短剣
野兎の外套
村人の服
麻のズボン
ただの靴
補正詳細▽
装備補正:鉄製の短剣
攻撃時、STRの値+5
常時、DEXの値+1
装備補正:野兎の外套
常時、AGIの値+7
常時、DEFの値+5
結構大きいんじゃないか?7って事は大体レベル3つ分違う訳だし。1万つぎ込んだ価値はあると思う。他にも服とかズボンでも補正が入るらしいし。
「素材を持ち込んだら服やズボンも作って貰えますか?」
「うちは服屋じゃないんだけどな…… まぁ軽装装備なら仕方ねぇか。あぁ。やってやるよ。」
「じゃ素材が集まったらお願いします」
「まぁ適当にがんばれや」
ひらひらと手を振るロイさんに礼を言ってギルドに向かう。今日もウサギ狩りをしようと思う。
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「よぉメイ。調子どうだ?」
ギルドに到着すると今日もアニーがいた。自分のレベリングは良いのだろうか。
「順調だよ。そっちこそ自分のレベリングは良いのか? 3日連続でこっちにいたら碌に上がらないだろうに」
「ばーか。別に俺はレベリング至上主義じゃねぇよ。今日は一日目を離した変わり者がどんな成長してるのか見物してやろうと思ってな。で? どうなんだ?」
「順調だよ。今は別の町に行くための準備中。始まりの町以外の場所も見てみたいしな。ちなみに今はレベル29」
「は?」
ニヤニヤ顔で見ていたアニーの顔が固まる。マジで思考停止してるのを機械が読み取ってるのか表情が抜け落ちて能面みたいな顔になった。怖い。
「聞き間違えたか? は? 今29って言ったのか?」
「いや、そう言ってるでしょうに…… どうしたんだ?」
「いや待てって。おかしいだろ! なんでそんなに上がってるんだ?! ここらじゃウサギくらいしかレベリングが出来る奴なんていない筈…… いてもゴブリンがいいとこだろ? お前、いったい何と戦ったんだ!?」
アニーが目を見開いて聞いてくる。え? そこまで驚くようなことも無くないか? 何と戦ったってそりゃ、アニーの言うように
「ウサギとゴブリンだけど?」
今度こそアニーは言葉を失った。口をパクパクさせて本当に驚いてるようだ。と、思ったらいきなり真剣な顔をしてギルド内の酒場の方に引っ張られて入っていった。
その時の俺はアニーに気を取られて後ろから見ていた人物に気が付かなかった。
「わりぃ取り乱した。だが、ここでする話はお互い秘密だ。いいな?」
「お、おう。秘密にするのは分かった。でもどうしたんだ? 序盤ならこれくらい上がるだろ? 何がそんなに驚くことなんだ?」
「いや、まぁそうなんだが。考えてみろ。ここのウサギは他のゲームで言うならスライムだ。初心者が狩る為のモンスター以下のモンスターだ。何しろウサギだからな。一匹倒しても得られる経験値なんてたぶん10も無い筈だ。ポケ○ンで最初の道路でレベル30近くまでする奴はそういないだろ? それと同じだ。より上に行くために他のプレイヤーは別の町でレベリングをしてるんだからな」
まぁウサギだもんね。モンスターでさえない小動物を倒したところで得られる経験値なんて、たかがしれて…る……し……?
「俺なんでこんなレベル上がってんだ!?」
「だ・か・ら! それを聞いてるんじゃねぇか!!」
いったん落ち着こう。ここはいったん餅つけって言うべきか? ……寒いな。黙ってよう。
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「で、何か思い当たる節は無いのか?」
「ん~。確かにゴブリンと戦った時は結構レベルが上がったと思うけど、戦う前から上がってきてはいたからな。って事は、倒した数や種類は関係ないか?」
「って事は、職業かあるいはスキルによるものか……だな。つっても短剣使いなんてお前以外見たことねぇし……。スキルはどうだ? 何か変わったスキル会得したりして無いか?」
「新しく取れたスキルは【兎狩人】だけだな。でも、ウサギをそこそこ倒した者なんて俺だけじゃ無い筈だろ?」
「そうなんだよな……。それこそ、ゴブリンが倒せなくてウサギを500羽くらい倒した奴が【ラビットジェノサイダー】なんて称号スキル貰ってたが、そいつはむしろレベルが上がらないって嘆いてたくらいだ」
そこで議論は息詰まる。議論ってほどの議論もしてないけど。でも経験値の増減なんてスキルとか職業補正とかしか思い浮かばない。あとはレベル差があればそっちの方が多く経験値入ると思うけど、俺の方がレベルが高い訳であって。それこそレベルが上がる訳が分からない。
そんな事を考えてたら、アニーがふと呟いた。
「……ステータスは、どうだ?」
「ステータス?」
「確かお前、初めてのウサギ狩りの時にやたらとDEXに割り振ってたよな? あの後にレベルが上がった時は、どんな感じに割り振ってたんだ?」
「全部DEXだけど?」
「……それじゃねぇか?!」
思わずって感じで椅子から立ちあがる。アニー、目立ってますって。受付さんから他のプレイヤーまで皆の注目の的になってるって。
「あっと、わりぃ。だがそれくらいしか思い当たる不自然な点は無くないか? 仮に短剣使いによる職業補正だとしたら余りにもこの補正はデカすぎる。」
言われてみれば他に他者と違う点が無い。DEX、つまり器用が上がる。言い方を直せば器用になる。手先が器用とかって意味だけじゃなく、手際が良いって意味。つまり要領が良いって事にもなる。それが転じて経験値が得られやすいって事か?
「レベル29で全部DEXにほぼ全て割り振ってるって事は大体50越えって事だろ? それと、レベルが高かろうともウサギの攻撃で致命傷を負うって言うのも補正対象に入るんじゃないのか? STRもDEFも割り振ってないんだろ?」
「あ、あぁ。どうせウサギ相手じゃそっちに割り振らなくても避けるくらいできたからな」
俺たちがたどり着いた答えはこうだ。DEXに割り振ることで要領が良くなる。その結果、経験値の『効率が良くなる』。更に、経験値は読んで字の如く経験の値。戦いが不利で困難なモノならより多くの糧が手に入るという事になる。この場合の戦いの不利ってのは、敵に攻撃が効き難い。敵の攻撃が大ダメージ。敵から逃げる程の速さも無い。こんなところだろう。
さて、このように仮説を立てた上で俺のステータスを見てみよう。少しのAGIを振った以外は全部DEXに振ってある。AGI・DEX以外は初期のままだ。これが何を意味するか。低スペックの様に見えて実はレベルを上げる事に関してだけは超効率的。更にレベルが上がれば上がる程、DEXに振れば増えてく訳で相乗効果が飛躍的に向上する。
なんともご都合主義的な答えだが、現在このほかに思いつく答えは無い。話し合った後、アニーは呆れ果てたといった感じでため息交じりに言う。
「全く。馬鹿げてるぜ。それじゃあこの先お前は加速度的にレベルが上がるとでも言いたいのか? ウサギと戦うだけでも? ハッ。必死に魔法打ったり盾で亀になったりしてる他のプレイヤーがお前を見たら発狂するだろうな。地道に剣士やってる俺も含めてだが」
「そうでもないぞ? ゴブリンと戦ったら一撃貰ったらほぼ瀕死状態で反対にこっちは低火力の短剣で何とかしないといけないんだ。アニーの様に一撃で倒せないし危険を伴う分疲労感がヤバい。精神的にクリーンじゃないし効率も悪いんじゃないか?」
別に俺は武術どころか運動も得意と胸を張れる程ではない。ゴブリン相手でも酷い頭痛が出る程頭使うし。ストレスマッハって奴だ。
この先進めば少しでも攻撃を食らえば一瞬で俺のHPは吹き飛ぶだろう。与えられるダメージはどんどん雀の涙になっていって、戦いはより困難なものになるだろう。キャラデータが係っているんだからこれは無用なリスクだろう。いくら経験値ブーストが出来るといっても圧倒的にデメリットやリスクがでかいと言う事は理解している。
だがあえて言おう。これは、物凄くロマンではないのだろうか?
「アニー。決めたわ。俺今後もDEXにしか振らないわ。」
「あぁ? さっき自分で特化はそこまで良くないって言ってたじゃねぇか」
「あぁ確かに面倒だ。だけど、それを差し引いても他の誰も真似してない・真似できないってのは、めちゃくちゃかっこよくないか?」
「はぁ……。こりゃ曲げる気はねぇな。俺はそういうハイリスクハイリターンは好きじゃないんだが……まぁ好きにやりな」
「おうよ。俺は、ロマンを追っかける!」
先に謝っときます。
明日はあらすじ注意欄に書いてあったレポートの発表日です。発表の合否、場合により投稿しなくなります。11月17日まで投稿されないようでしたら、羊は消えたと思っていただいて構いません。