第113話~スタンピード編~
お久しぶりです。お待たせしました(誰も待ってない悲しみ)
「で、勇み良く掛け声を上げたはいいけど、俺まだ動けないから出来れば守ってほしいなーなんて……」
「その辺は既に考えてある。これを使ってみろ」
「これは……免罪符?」
アニーが投げ渡してきたアイテムを見てみると、アイテム名【免罪符】。その効果は、使用者のペナルティやバッドステータスをなんでも1つ打ち消すと言うトンデモ効果だった。
これを使えばすぐにでも動けるようになる! でも、こんなすごいアイテム一体どこで手に入れたんだ?
「凄いだろ? 教会に多額の寄付をしないと手に入らないアイテムだ。どうやら高位の神官ジョブなら一日1つ教会から貰えるらしい。ルナに感謝するんだな」
そういえばルナは高位の神官ジョブだったっけ。一日一回の貰えるとはいえそんな貴重な物を……。ルナに感謝してありがたく使わせてもらおう。
俺に掛かっているペナルティは『全ステータス1』『スタン状態』『全
スキル使用不可」の三つ。とりあえず、今すぐ必要なのはスキルの使用不可をどうにかすることだ。ステータス1や移動不能をどうにかした所でスキル頼りの戦い方の俺じゃどっちにしろ役立たずのままだ。免罪符を使用を選択すると、免罪符はボロボロになって砕けてしまった。試しに【アシスタントコール】を使ってみると、目の前にリーノとルーノが現れた。
「「……大丈夫?」」
「大丈夫大丈夫。それよりも俺の代わりに皆を援護してくれ。それと、このトランプを」
心配そうにのぞき込む二人にアイテムボックスから取り出したトランプを渡す。そして【トランプマジック】を使って二人にバフを盛る。二人なら、これでやられることはないと思う。
スキルが使える事が分かったので、今度は【カードは貴方の元へ】を発動。皆の元へトランプを送り、同じくトランプマジックでバフる。身動きが取れない以上、今出来るのはこれくらいだ。
「で、勝算はあるのか?」
「餅のロンだよ! 相手はアンデッド。なら燃やる! 以上!」
「おう。聞いた俺が悪かったわ」
「ひどくないかな!?」
「アナタ達、痴話げんかはいいから早く参加して頂戴!」
「「誰が痴話げんかだ(よ)!」」
ルナとサオリのお陰で腐要竜の行動は抑えられている。だけど、速く倒さなければ肝心のスタンピードの方が防衛が出来なくなってしまう。
「ルナちゃん! 合体技行くわよ!」
「合点です! 聖女アターック!」
サオリがルナを掴んだと思ったら……思いっきり投げた!? 十字架を前に構えて吹っ飛んでいくルナは、そのまま腐要竜へと直撃した。
まさか、AGIが一番低いルナが一番早くここに駆け付けたのって……。しかも、何気にあいつのHPをがっつり削っているし。
「フフン。DEF極振りのルナちゃんは、言わば最高硬度を持つ弾丸に等しい! 更にルナちゃんには死霊に対する極大特攻効果のある十字架があるわ! つまり、アンデッドに対して最強の弾丸! この一撃に限り最高の防御力は最高の攻撃力と化す!」
「さらに! ちょーぜつ筋肉なサオリねーちゃんがぶん投げる事で! さいきょーにさいきょーが重なってちょーさいきょーな一撃になりやがるです! これこそ、聖女アタック!」
聖女がアタックするんじゃなくて聖女“で”アタックするわけかよ。馬鹿みたいだけど、実際にデカいダメージをたたき出してるわけだから始末が悪い。
投げられたルナは腐要竜から反撃を貰うが、当たり前のようにルナはノーダメージだ。投げられた側のリスクもないってどんな攻撃だよ。いや、ただぶん投げただけの攻撃だけども。
「おっと、俺も参加させてくれよ。【パワースラッシュ】!」
「GROOOO!?」
アニーが剣を一閃すると、腐要竜の足に大きな傷をつけた。まさか、今まで俺の攻撃ですら弾かれていたのに!?
よく見てみると、アニーの長剣がうっすらと赤く光っている。あれは、火属性でもエンチャントしているのか? だとしてもあんなに劇的に変わるとも思えないし、アニーも知らない内に強くなっていたっぽい。
「おおう……こんなに火力上がるか? エクストラジョブになるだけでこんなに変わるなんてどんなぶっ壊れだよ。軽く引くわ……っと。それはそれとしてやっぱ弱点は火っぽいぞー」
アニーがそう告げると、後ろから轟っと熱気が伝わってくる。恐る恐る見てみると、モルガーナが火柱を上げながら詠唱を開始していた。獰猛な笑みを浮かべるその様子はどうみても悪役のそれだ。
「……火属性。そう、弱点は火属性、だね? フフフ。私の大ッ得意な属性だよ!」
「も、モルちゃん? 全力を出すのは良いけど、アタシたちもいるからね? アタシのDEFじゃ、フレンドリーファイアでもそんな火力受け止めきれないわよ?」
「大丈夫だよ! ちゃんと離脱は待つから!」
「そ、そういう問題じゃねーと思うです……」
「爆発狂い……」「黒猫のサーカス団にもいた……」
いかん。前衛組が引いてる。とりあえず、前衛組をなんとかしないとな。【ワンダーボックス】を使って皆の近くに箱を呼び出す。爆発系の魔法であれば、ワンダーボックスの追加効果で無傷で帰還できるはずだ。
あと、リーノとルーノ。あの人を思い出すのは止めるんだ。俺も震えてくるから。
「皆! モルガーナが魔法を撃ったらその箱の中へ! 多分そこなら耐えられるから!」
「助かるわメイちゃん!」
「いくよ! あの時のお返し! 全身全霊全力の! 【禍ツノ災炎】!」
小さな黒い点が現れ、数秒と立たずに点は轟々と燃える爆炎と代わる。要竜の時は魔法によるダメージは殆ど全くと言っていい程に効いていなかった。だが、アンデッドとなった今、腐要竜のHPはグングンと減っていく。まさに前回の雪辱を果たしたと言えるだろう。
というかフィールドに延焼ボーナスが付いたことでダメージが止まる様子がない。
……うん。引く。
「……ククク。クハハ。ハーハッハッハ! 見よ! これが最大火力という最大正義だよ! これぞロマン! ロマンこそ至上! たーのしー!」
「……で、俺達はどこで戦えばいいんだ?」
「ヒール! ヒール! ヒール! スリップダメージとか聞いてねーです!」
笑いの三段活用でドヤ顔するモルガーナに対して呆れ顔のアニーがジト目でツッコミを入れる。そうだよね! 爆発は免れても延焼フィールドだとダメージ判定あるよね!
HPが初期値のルナなんて涙目になりながらヒール連発してるし。スリップダメはDEF関係ないからルナにとっては一番の弱点だろうに。
可愛そうなので【カードは貴方の元に】でハートのカードをルナの元に飛ばして【トランプマジック】で回復を手伝う。二人がかりのヒールならスリップダメでも大丈夫だろう。
「……さっきの一撃にMP全部注ぎ込んじゃったから、マナロストペナルティで動けないよ……アニーおんぶ!」
「てめーマジで馬鹿じゃねぇのか!?」
「とりあえずモルちゃんは後で反省ね。それはそれとして、相手の残りHPはあとわずかって所かしら。なら、次はアタシも行こうかしら。【パンプアップ】。」
うつ伏せで動けなくなったモルガーナを焦ったようにアニーが回収して離脱。まだそんなにアニーは活躍しきれてないのに……合掌。
スキルを使うとサオリの筋肉が一回り肥大する。筋肉の調子を確かめるように手を握ると、悠々と腐要竜に向かって歩き出した。
燃やされ苦し気な様子の腐要竜は、不快感をあらわにするようにサオリに右腕を振るった。危ない__!
「ふん!」
軽く力んだ声と共にサオリが軽く腕を振るうと、腐要竜の腕はサオリを吹き飛ばすことなく、むしろ反対に弾かれてしまった。
ルナのように高い防御力があるわけでもないのに一体どうして?
「【マッスルブースト:ストロング・アーム】」
疑問が解決する前にサオリは更にスキルを重ねる。今度は、サオリの両腕が大きく肥大化した。ただ肉が膨らんだわけじゃない。血管が浮き筋力が込められているのが見て分かる。
「ぬぅんっ」
腐要竜はサオリにヘイトを向けたのか更に追い打ちをかける。しかし、今度も軽く腕を振るうだけで腐要竜の腕を跳ね返してしまった。一体どうやって防いで……いや、違う。あれは守っているんじゃなくて、攻撃して競り勝っているんだ!
「これが、DEFが無振りのアタシが編み出した防御法よ。攻撃と攻撃がぶつかり合えば、それはより強い攻撃が競り勝つ。攻撃は最大の防御ってね。故に、STR極振りのアタシの攻撃は、言うなれば最大の防御力となる。【マッスルブースト:ストロング・レッグ】【マッスル・ジャンプ】! ブラァァァァァァァァァァァァァ!」
サオリは今度は脚力を強化すると、大きくジャンプして腐要竜を思いっきり殴りつけた!
全プレイヤー中最高峰を誇るサオリのSTRから放たれる殴打によって、腐要竜はたまらずよろける。身の丈を大きく超える巨大な竜がだ。
頭上に表示されたHPバーを見ると、さっきの聖女アタック程ではないけれどごっそりとそのメモリを削っていた。ルナのように特攻効果も無いのに……どんだけ火力高いんだよ。
「gugugu……GROOOOO!!!」
ルナ、サオリ、そしてモルガーナの魔法と延焼フィールドによって大きくHPを削られてしまった腐要竜は最後の抵抗とでも言う様にしっちゃかめっちゃかに暴れ始めた。
これでは下手に近づいてしまったら巻き込まれてダメージを負ってしまう。
「あらら、こんなに暴れられたら下手に近づけないわね。ルナちゃん!」
「合点です! 聖女アタック再びです!」
「私もマナロストペナルティが終わったよ! また詠唱開始!」
ただ、こっちには遠距離攻撃ができる奴がいる。かくいう俺もスタンがやっと切れた。間に合わないだろうが、ジャグリングをしつつ軽くその場でステップを使う。
【ジャグリング:成功!】【連鎖!】
【スキル:成功!】【連鎖!】
【スキル:成功!】【連鎖!】___
「GROOOOO!」
誰も近づいてこないことに焦れたのか、先ほどまでその場で暴れていた腐要竜がこっちに向けて突進を仕掛けてきた。
「ちょっ! こっちに突っ込んできたぞ!」
「もう詠唱を始めちゃったから動けないよ!?」
「ル、ルナに任せるです!」
ルナも盾を構えるが、流石のルナでも全員を守り切れるとは限らないだろう。それならば、俺の出番だ。道化師的移動法を使って全員から離れると、ぱちりと指を鳴らす。
「【スポットライト】!」
俺の上に明かりがおりて、俺の存在が強調される。【スポットライト】効果は単純明快。当てられた対象に強制的にターゲットが向くってだけの効果。タンクジョブなら喉から手が出る程欲しがりそうなスキルだ。
で、この場で使ったらどうなるか。一心不乱に走っていた腐要竜は直角90度という不自然なレベルで方向転換をしてこっちに向かってくる。
良かった。フラッシュポーカーとか精神干渉系のスキルが通用しなかったからこれも通用しなかったらどうしようかと思ってた。
「メイ(くん)(ちゃん)!?」
「大丈夫大丈夫。【オーバーリアクション】!ぐへぇ!」
コメディ漫画よろしくポーンと思い切り吹き飛ぶが、俺のダメージは0。スキルで自ら吹き飛んだだけだからね。
なんだか思いっ切り脇役しかやれてないけれど、これで皆が攻撃する時間は稼げたかな。
「今だ!」
「ナイスよメイちゃん!」
「行くです! 聖女アターック!」
「再度全てを焼き尽くせ! 【禍ツノ災炎】!」
「【エンチャント:フレイム】! 【スラッシュショット】!」
三人が三者三葉の攻撃を繰り出すと、腐要竜のHPをあっけなく削り切ってしまった。




