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第111話~スタンピード編~


 ドラゴン。古今東西、アクションゲームであれば必ず登場するモンスターだ。その扱いはゲームによって異なるけれど、大抵はボスキャラとか強敵として登場するのがテンプレだ。SSOでも同様にドラゴンは存在する。俺達が戦った要竜は魔族領との道を阻むエリアボスだったし、攻略組もエリアボスのドラゴンを何度か討伐した経験があるという。平たく言ってしまえば強敵として登場するという訳だ。

 そのドラゴンが、10体以上同時に現れた。


「ド、ドラゴンだと……?」

「はは……俺エリアボスとの戦闘経験ないんだけど……オワタ?」

「こ、攻略組! 攻略組のクランの奴らを前線まで引っ張り出せ!」


 前線のプレイヤー達の間に混乱が広がっていく。赤い鱗を有し火属性に秀でたレッドドラゴン。青い鱗で水属性に秀でたブルードラゴン。その他各種属性のドラゴンがより取り見取りだ。しかも、表示されているHPバーはどの個体も複数本を有しレイドボス並みに長い。

 誰もが思うだろう。何この無理ゲー、と。


「おい。お前の魔法で何とかならないか?」

「一体や二体なら私一人で何とかなるけど、最大火力で魔法を使って毎回ペナルティを受けてるような余裕がないよ!」

「充分だ。MPロストペナルティ中は俺が何とかする。兎に角あのドラゴン軍団を削らなければ都市防衛なんて夢のまた夢だ。メイも気を引いて進行を遅らせられないか?」

「……やってやれないことはないと思う」


 だけど、それは持ってるスキルをフルで使ったらの場合だ。道化師系のスキルを使うのは色んな意味で控えておきたい。訳の分からんスキルでプレイヤーの混乱を起こさないという意味でも、スキルを使う俺自身の羞恥な意味でも。

 そもそも、俺にできるスキルで出来るのは注意を引いたり攻撃を回避したりといった事が主だ。断頭マジックを意図的に失敗させるという手もあるけれど、その後にあるペナルティで使い物にならなくなってしまうのは痛い。

 だから、本当に足止めだけになってしまうのだ。


「いや、それでもいい。ぶっちゃけレイドボス級のモンスターが複数体出てくるなんて誰も予想してなかったんだ。出来る範囲でいいから頼みたい」

「分かった。やってみる」


 出来る範囲でいいならと、まずは一番近くにいるレッドドラゴンに狙いをつけて距離を詰める。

 ドラゴンが現れているにも関わらず、普通のモンスターは変わらずに攻め込んできている。後続の負担を減らすためにも攻撃して数を減らしていく。

 

【クリティカル:成功!】【連鎖!】

【クリティカル:成功!】【連鎖!】

【クリティカル:成功!】【連鎖!】___


 既に高まりに高まった成功スキルのお陰でオークだろうがオーガだろうが一撃で倒せる領域に至っている。これならば、ドラゴンだろうが結構なダメージが出せるのでは?

 ヘイトを自身に集めるために再度【星輝姫の祝福】を発動させて、更に【フラッシュポーカー】でトランプを投げつける。


「グオゥ!?」

「こっちだデカブツ!」


 怯ませている間に【ハイジャンプ】スキルでドラゴンに飛びつき手にした短剣を斬りつけるが、鱗に弾かれて刃が通らなかった。鱗が堅いのは竜種全部共通なのか?

 ならばと思い駆け上がって首へと向かう。【的確急所】と更にクリティカルの期待を上げるために【鬼才】スキルも発動させておく。


「これでどうだ!」


 【鬼才】スキルのせいで緩やかになった時間の中、鱗の合間を狙う様に突き刺す。例え微量なダメージでも、注意を引ければ暫く時間を稼げる自信がある!


 

【デスクリティカル:大成功!】 【Ex連鎖!】



 

……………………は?


 レッドドラゴンは力なく倒れるとあっけなく粒子と消えた。デスクリティカルって何だ? 即死判定ってことか? でも今までそんな成功出た事あったっけ? そういえば、鬼才の効果でDEXの有効範囲の拡張があったな。確か__


【鬼才】 EXスキル

 人の身を超えた才の所持者の証明。他者を大きく引き離し、最も器用なプレイヤーに贈られる称号。筋金入りの特化厨への運営からのプレゼントともいう。

常時効果:DEXの反映領域の拡大。(元々の効果である生産スキルの効果上昇・経験値取得量上昇・クリティカル確率上昇・操作性向上に加え、MP消費量、魔法詠唱速度、即死確率、回避確率の追加)

起動効果:一定時間,DEXの反映効果を大きく上昇させ、認識能力を上昇させる。(負担が大きい為注意)


 そうそう。こんな感じ。

 思い返してみれば確かに即死の確立も上昇させていた。アクティブスキルの方で更にその効果も上昇するし、まぁ発生してもおかしくはないだろう。それに、今まで成功スキルでDEXも大きく高まっていたし、まぁ発動する確率が高くなっていたと言うのもわかる。

 でも、今まで発動しなかったものがなにも今発動しなくても良くないか? こんな目立つような状況で? 恐る恐る皆のいる方を振り返ると、驚愕の目で俺を見ていた。


「い、今あのプレイヤー、一撃でドラゴンを倒したよな……」

「複数ゲージのHPが一瞬で消し飛んだぞ? 何がどうなってやがる?」

「まさか即死か? そんな事あり得るのか?」

「「「何者なんだあのプレイヤー」」」


 うん。完全に悪目立ちだこれ。

 皆俺が名乗るのを待っているのか戦闘の手を止めてるし、名乗らないとダメな流れか? かといって本名を名乗ったら地雷なのにどうなってるとか色々根ほり葉ほり聞かれそうだし、何より面倒くさい。


「あ、暗殺者………ジャックザリッパー……」

「「「暗殺者ってそんなことも出来るのか!」


 悩んだ末に絞り出すようにそう名乗ると思ったよりもすんなりと納得された。それでいいのか前衛たち。


「ぐぎゃ!」


【oh……ミステイク】


 とか何とか悩んでいる間にゴブリンにこずかれて成功が途絶えた! 一から貯め直すの結構大変なんだぞ! しかもそれに連動したのか【鬼才】スキルまで途切れる始末。成功スキルの無い俺のステータスなんてミジンコ同然。殺す気か! 

 【ワンモアチャンス】で成功スキルを取り戻そうとするも時すでに遅し。慌てる俺を見て味を占めたのか、ゴブリンがしたり顔で追撃をしてきた。ステップスキルで必死に避けつつも短剣を振るい牽制する。

 が、元に戻った俺のステータスではゴブリンすら大したダメージも通らない。大体なんでドラゴンの足元にゴブリンがいるんだ。今日のスタンピードカオスすぎるだろう。


あたふたしている間に【ワンモアチャンス】の有効時間も過ぎてしまった。仕方がないので、諦めて【的確急所】を発動。1から成功を積み上げ直す方向に頭をシフト。ゴブリンを斬りつけ地道に成功を稼いでいく。



「謎の暗殺者も善戦している! 俺達も彼に続くぞ!」

「「「応!」」」

「すまない待たせた! 我々攻略組も助太刀しよう!」

「「「俺達後衛組も復活だぜ!」」」


 ドラゴンを一体倒す事が出来て士気が高まってくれた。更にありがたい事に都市前で保険の守りに徹していた一部攻略組が前線にまで出張ってきて、PKで混乱していた後衛組も何とか通常運転に戻ってくれたようだ。

 

「タンク隊防御態勢! 纏わる雑魚など捨て置け! ウィズ隊ブルードラゴンに対してライトニングの詠唱開始! ___一斉掃射!」


 流石はマニュアル化した立ち回りを確立させている攻略組というべきだろうか。崩れることの無い大盾プレイヤーの壁に、寸分のずれもない同時タイミングの魔法攻撃。これまで攻略を一手に担ってきていただけあって堅実で安定していながら、効率良くDPSを稼いでいる。

 攻略組に攻撃されたブルードラゴンも負けじとタンク隊にブレスを放つが、タンク隊は崩れることなく耐えきった。要竜のノックバック効果が異常なだけで、攻略組のタンクの質は非常に高い。


 彼ら攻略組の活躍を見て他の前線プレイヤー達も士気が高まっている。これならいける。誰もがそう思ったけれど、ここの運営の性格の悪さを忘れていた。


「お、おい。あれってまさか……」

「はは……ドラゴンをゴブリンと同列に扱うか? いっそ笑えてきたわ」


 ドラゴンは最初に現れた数体で済まず、延々と増え続けたのだ。流石に大きさの制約がある為同じ群体数という訳ではないものの、その出現率はゴブリンやオークたち雑魚敵に近い物がある。どうしろと?


 攻略組への指揮と統括をしていたマーリンを始め、どのプレイヤーも顔が引きつっている。大体なんでいきなりこんなドラゴンが溢れてきたんだよ。

 いくらモンスターが跋扈するって設定の魔の森といったって、限度ってものが……


 待て。待て待て待て。

 『魔の森』『ドラゴン』。このワードで嫌って程の覚えがあるだろう。地脈や竜脈といった力ある流れの集結点の番人。エリアボス【ゲートキーパー・キードラゴン】通称要竜。

 まさか、まだアイツの影響が終わっていないとしたらどうだろうか?

 最初のゴブリンやウルフといった比較的弱いとされるモンスターは、純粋にその異変から逃げる為に人間領へ走ってきていた。その後、段々と強くなってきていたのは、魔の森の中でも上位に位置していたモンスター達も、逃げざるを得なくなっていた。そして、最後に今日のドラゴンラッシュ。これが、同じくドラゴンである要竜に由来するものであったとしたら説明が付くんじゃないか?

 仮に逃げていた訳じゃないとしても、集結点が放出するリソースが由来とするものとかいくらでも説明が付く。

 もしも、もしもだ。集結点が今回のスタンピードの理由だとしよう。


 これいくら倒しても無駄じゃね?


 呆れかえる程に性格の悪いクリア条件であるが、否定したくともだってSSOだしと言われてしまえば否定しにくい。

 チュートリアルはなく、ナビや公開されているストーリーも無く、プレイヤーの自己責任と自主性の元ひたすらに運営に放置される。うん。あっても不思議じゃない。


 この状況の中でアニー達に相談をすると言うのは難しい。それに、アニーやモルガーナ達上位の戦力を減らしてしまったせいで都市が崩壊でクエスト失敗しましたでは本末転倒だ。

 ……俺一人抜けても大丈夫だよな? メニュー画面を開いてパーティーを解散させる。二人には申し訳ないけれど、メールをうってる時間も読んでもらう時間も無いだろうから察してくれることを願う。

 向かうは要竜戦のあの場所。地脈の集結点だ。


 

 


スタンピード編が思いのほか長引いていますがもう少しお付き合いください

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― 新着の感想 ―
[一言] 今度こそ、『プレイヤーネーム:メイの活躍によりスタンピードは解決されました』みたいなメッセージが流れて強さがバレちゃうのかな!? ごめんなさい、毎回バレることばかり期待してしまって… リアル…
[気になる点] 即死判定、主人公もう3回ぐらい出して毎回同じ様なことを言っています
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