表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

119/129

第107話 ~スタンピード編~


スタンピードイベント三日目。


 ログインをすませて昨日と同様生産職プレイヤー達の元へと向かう。勿論、装備は革装備に戻し、外套を着ている状態だ。

 道化師の衣装やタキシードを着て歩き回っていたらいくらなんでも悪目立ちするからな。革装備が一番目立たない。


 それにしても……なんだか昨日よりも雰囲気がなんだかピリピリしている。昨日の反省会とやらが上手くいかなかったんだろうか?  やっぱり生産職の皆が戦闘に参加したのは良くなかったのかもしれない。

 不思議に思いながら辺りをぶらついていると、ポーションを作りながら周囲の生産職に指示を飛ばすヒュギーを見つけた。


「時間との勝負よ! 始まるまでの間にできるだけマナポを増やしておくのよ!」

「ヒュギー! お疲れ。 取り込み中だったか?」

「メイ? いい所に来てくれたわ! 悪いんだけどロゼさんから追加のマナ草を貰って来てくれない? 始まるまでにある程度数作っておきたいのよ」

「良いけど、まだ余裕がある様に見えるぞ?」


 ヒュギーの使っている作業台の奥には、マナ草が山のように積まれている。何なら他の生産職の所のマナ草よりも多いくらいだ。

 だけど、ヒュギー的には全くそんなことないようで、軽く首を横に振った。


「ぜんっぜん足りないわ! これくらいじゃすぐになくなるから!」

「お、おう。なんだか昨日より荒れてないか? 何かあった?」

「昨日私達も戦闘に参加したじゃない? そのせいでアイテムの供給が遅れてるって言われてね。供給が遅れるならもっと値段を下げろだなんて言ってきたり。それで、結局こっちが折れて始まる前に数を揃えておくことになったのよ」


 どおりでギスギスになるわけだ。昨日だってたくさん準備していたのにそれで足りなかったのだ。それで更にもっとたくさん作れって言われたら不満もたまる。

 大体、生産職の皆が戦闘に参加したのは戦闘職に対する抗議だろ? それでいて不満を言うのは違うだろうに。むしろマナポの数が増えている気がするのは気のせいか? 

 一日目にアイテムを大量消費して無双した快感が二日目にして出来なくなった反動と言ったところか。


「分かった。貰ってくるのはマナ草で良いんだな?」

「えぇ。それがマナポになる素材だから。貰えるだけ貰って来てもらってちょうだい。ロゼさんはこの近くで畑を作ってそこで栽培しているからすぐに分かるはずよ」


 言われた通り、手の離せないヒュギーの代わりにマナ草を取りに向かう。幸いにも畑は比較的近くだったらしくすぐに到着した。

 いつの間に耕していたのか、畑の面積は結構広い。都市の前にこんなに広く開墾してもいいのだろうか?

 畑を見てみるとポーションの材料の薬草が2割、マナポーションの材料になるマナ草が5割といったところだった。残りの3割は既に刈り取られた後だ。助っ人らしきプレイヤーが収穫していく端からロゼさんが種を撒いて後を追っている。



「あら~? メイさんですか~。お久しぶりです~」

「久しぶりロゼさん。ヒュギーに言われてマナ草を貰いに来たんだけど、大丈夫ですか? 一応、ヒュギーはあるだけ全部って言ってたんですけど」

「聞いてますよ~。あるだけ全部となると、今は200株ですねぇ~」

「にひゃっ!? そんなにたくさん!?」

「種と水さえあればいくらでも増やせますからねぇ~。種は私がスキルで作れますし、水は初級魔法の使える方がいればそれで充分ですから~。それに~、【成長促進】スキルも持っていので、播種から収穫までのサイクルも早いですし~。むしろ、作れば作った分だけ買ってもらえるのでとっても助かってますよ~」


 物凄くいい笑顔でロゼはコロコロと笑ってる。たくましいと言うか商売上手というか、流石と言ったところだ。

 収穫は助っ人のプレイヤーが代行しているわけだし、ロゼさんに掛かる負担はそこまでないって言うのは本当かもな。

 ロゼさんから今ある在庫全部、200株のマナ草とついでなのか薬草も50株受け取る。それと一緒に木札のような物も渡された。木札を見るとマナ草200・薬草50と書かれている。


「この木札は?」

「手形替わりの代わりのようなものですよ~。納品の度にお金を渡されるのを待っていたら作業が進みませんから、トードリさん……商人プレイヤーの方に後で纏めて清算して貰っているんですよ~」

「商人プレイヤー……そういえば前もヒュギーがそんなことを言っていたような……。でも、人に任せて大丈夫なのか? 」

「商人プレイヤーの皆さんは信用第一ですからねぇ~。プロなだけあって正確ですし~」


 どうやらロゼさん曰く、商売計算の正確さや交渉でも商人専用のスキルが影響が出るらしい。ちょろまかしたりしたらスキルや称号に響くから、基本的に取引は安全らしい。

 “基本的に”というのは、プレイヤーによってはアウトローな怪しい商人や詐欺師をロールプレイしたりするかららしい。その点にかんしては、今回引き受けているトードリと言う人は商人プレイヤーとしてはそれなりに有名らしく、信用度が高いそうだ。なぜ魔族であるロゼさんがそんなヒューマン族領のプレイヤー事情を知っているのかと言うと、ヒュギーやレプラ達他の生産職プレイヤー達の推薦だからだそうだ。

 確かにあのメンツの推薦ならば俺も信用できると思う。


「じゃ、確かに受け取ったよ。せっかくだからついでに少しだけ畑を見て行っていいか?」

「いいですよ~。そういう事でしたら少しだけ解説もしますねぇ~。まず、お手伝いの方たちが収穫しているのが見えますか?」

「あぁ。1,2……4人いるな。助っ人のひとはずっと収穫をしているのか? それに結構早いペースだから、すぐに収穫しきってしまいそうだ」

「他にも参加者がいるので、その人たちと交代制ですねぇ~。収穫が終わったスペースには~、私が種を撒いて行きま~す」


 そう言って、アイテムボックスから種を取り出し、適当に撒いて行く。本来は畝を作ってしっかりと整備をするそうだが、今はそれよりも数が欲しいらしい。

 ある程度種を撒き終えると、ロゼは畑の外に向かって合図を送った。合図を受け取ったらしきプレイヤーが初級の水魔法で水を畑に撒いていく。そして、しっかり土が潤った事を確認したロゼは、満足そうに頷くと手を前に突き出す。


「水魔法を撒いて貰ったら~、次は私が【成長促進】スキルを使って成長を促しま~す」

「へ? 伸びた!?」


 スキルを使うやいなや、まいた種から芽が出て急速に成長していく。まるでトト○のドングリの木のようだ。


「凄いですよね~♪。アウラウネの種族スキルのお陰で促進の効果が強くなってるんですよ~。このスキルのお陰で1000株や2000株を依頼されても間に合わせられるんですよ~」

「スキルに驚けばいいのか2000株も依頼されていることを驚けばいいのか判断に困るけど……角すごいですね。もうロゼさんが生産職プレイヤーの要って言っても過言じゃないですよ」

「それほどでもないですよ~」

「「「いや、それほどでもありますよ」」」


 助っ人のプレイヤー達が揃って反論してきた。そりゃこんなにニョキニョキと生えてくる現場をずっと見てきた助っ人の人たちからしたら、ロゼのすごさは身に染みて分かって至るんだろう。ずっと収穫しだと大変だろうし。


 「それに、ロゼさんは生産職の要どころの話じゃありません。今回のスタンピード全体の要ですよ。ロゼさんがいなかったら高品質のポーション系アイテムが供給停止になってもおかしくないですからね。あ、ロゼさん。選別済みのマナ草です」

「いつもありがとうございます~」

「ロゼさん、選別って?」


ロゼさん、いつの間にかどれだけ重鎮になってるんだ。

 いやそれよりもだ。説明してくれた助っ人プレイヤーの一人がロゼさんにマナ草の束を渡していたけど、選別って一体何のことだ? マナ草は全部生産職プレイヤーに降ろしているんじゃないのか?


「収穫物の中から高品質の物だけを種用に抜いて貰ってるんですよ~。そうすると~、次に撒いた作物の品質が受け継がれるんですよ~」

「本来は肥料系のアイテムを使えばもっと効率よく品質が良くなるそうなんですけど、収穫までの回転が速すぎるので、肥料が足りなくなるんですよね。まぁ、肥料無しでも回転の速さでごり押しで品質向上できてるのがロゼさんのすごい所ですよね。元々最初に巻いた持ち込みの薬草やマナ草の品質が高かったんですけど」

「へぇ。じゃあ時間がたつごとにポーションの品質も高くなっていくってことか」

「それは実際に調合をしている錬金術師の皆さんの腕ですけどね~。ヒュギーさんの腕であればそう言えますよ~」


 ヒュギーさんとロゼさんがいる限り、生産の現場は安泰だろうな。もっとも、ヒュギーさんは戦闘の方に回ってしまっているんだけど、他にも生産職プレイヤーはいるから大丈夫だろう。

 俺は今収穫し終わったマナ草の追加50株とその木札を貰って、ヒュギーの元へと戻る。



「ヒュギー。マナ草貰ってきたぞ。木札もヒュギーに渡せばいいのか?」

「助かるわ! 木札もそこに置いといて!」


 ヒュギーは手を止めることなく、調合台の端に置くように言った。来た時には山のように積まれていた筈のマナ草の束は既に三分の一にまで減っていた。代わりに行かせるわけだよ。ヒュギー一人で数人分の数をこなしてるじゃないか。

 言われた通りマナ草を継ぎ足し、ちゃんと分けるようにして薬草もおいておく。木札も木札でちゃんと入れておく用の箱があったのでそこに入れる。

 既に溢れかけている箱の中の木札を見ると、『マナ草250』『マナ草300』等と書かれた札が大量に見えた。確かポーションの高騰に素材の高騰も含まれてたよな? これ全部の代金を払うとなると……ちょっとゾッとする。

 

「こ、この素材代は後で纏めて清算するんだよな? その、大丈夫なのか?」

「それなら大丈夫。作った分のアイテムはちゃんと売れてるし、ポーション以外のアイテムでも稼げているから。利率下げてるから純利は期待できないんだけどね」


 高騰してるからその分利率下げてるんだっけか。こけたら赤字が悲惨なんじゃないかと思ったけど、よく考えたら商売なんだからちゃんと考えてるに決まってるよな。


 うわっそう考えたら急にヒュギーが大人に見えてきた。同じくらいの年齢化と思ってたけどそんなリスキーな事俺にはできない。


 思いがけず生産職に対して感心していたら突然爆音が響き渡る。


「っ! スタンピードが始まったわ! 戦闘担当と支援担当に速やかに分担! 各員予定していた通りに動いて!」

「「「「「了解!」」」」」

 

 ヒュギーの対応は早く、戦闘に参加する生産職プレイヤーと生産によって支援をするプレイヤーに別れすぐさまに移動を開始し始めた。

 戦闘参加組を統率するのは勿論ヒュギー。調合の手を止めると付近にいたプレイヤーと交代しバトンタッチ。

 まだ生産職の皆が戦闘に参加し始めたのは二日目だっていうのに凄い統率力だ。


「メイはどうする? 私達と一緒に戦う?」

「あぁ。微力だけどヒュギーについていくよ」


 外套のフードを被り直し、俺はヒュギーの後を追った。





====

 




請求書

          

下級ポーション   162 / 2562

ポーション     400 / 3695

中級ポーション   1000 / 4531

上級ポーション   1750 / 3598

下級ハイポーション 2700 / 5627

ハイポーション   4050 / 4393


下級マナポ     210 / 43052

マナポ       500 / 51596

中級マナポ     1350 / 39524

上級マナポ     2000 / 20750

下級ハイマナポ   3500 / 1907 

ハイマナポ     5250 / 375


(単価/個数)

 

※三日目から六日目までの支払いが滞っております。早めのお支払いをよろしくお願いいたします。

トードリ

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ