第103話 ~スタンピード編~
【スタンピード:レプラの場合】
「ルナ殿! ルナ殿はいずこに!?」
メイがヒュギーと共にスタンピードで戦闘を始めた頃、レプラは魔族プレイヤーの少女であるルナを探し、戦場を走り回っていた。
エルフであるにも関わらず、ドワーフ並みの低身長であるレプラはスタンピードの戦闘フィールドにおいてとても目立ってしまっていた。
何しろ身長もさることながら、その格好は革装備でも何でもないただの布の服に、針や糸を詰め込んだウェストポーチをしているのだ。
明らかに場違いな恰好で必死の形相で叫びながら走り回る人物。これで注目を集めない方がおかしいだろう。
周囲の目線にも目もくれず、レプラは不思議そうに首を傾げていた。
「おかしいですぞ。小生の勘によればこの辺りにルナ殿がいる筈なのに、一向に姿を拝見することが出来ないですぞ……」
重度のロリコン___もとい無類のフェミニストであるレプラは、周囲にいる一定年齢以下の女性を察知することが出来ると言う特殊能力(という名の勘)を持っている。それによればこの付近にルナがいる筈なのだがその姿を一向に見ることが出来なかった。
そのまま見つからない方が恐らく事案にならなくて済む。むしろお巡りさんがレプラを見つけたほうが良い。
「そこの生産職! 戦えねぇなら黙って後方に下がりやがれ! さっきからタゲが変に散って狙いが付けられねぇ!」
「あれだけの天使たるお姿ではこの付近にいればすぐに気付くはず。しかし騒ぎすら起きていないとなると、やはり他の場所に移動したのですかな……」
「無視するんじゃねぇ!」
スルーされたことに魔法使いのプレイヤーが声を上げて怒りをあらわにする。事実、叫びながら走り回ったことでヘイトを稼いでしまい、モンスター達が意図せぬ動きをして魔法使いが攻撃を外すと言う事が少なくない回数起きていた。
マナポーションの価格上昇と昨日のツケの返済でピリピリしている魔法使いがこれで怒らないはずがなかった。
「うるさいですぞ。魔法使いならもう少し静かに戦えないのですかな」
「誰のせいで騒いでると思ってやがる!」
「むぅ。であれば、動くモンスターを足止めでもすればいいのですかな?」
無視してもいいがこうもギャーギャーと騒がれてはルナの声を聞き逃す可能性があると判断したレプラは、いやいやながらも手を貸すことに決めた。
しかし、魔法使いのプレイヤーはそんなレプラを馬鹿にしたように鼻で笑った。
「これだから生産職は分かっちゃいねぇな。足止めって言うのは高レベルのタンクが高いプレイヤースキルを持ってやっとできることだ。簡単に出来たら苦労しないんだよ!」
魔法使いの声に耳を傾けることなく、レプラはウェストポーチから待ち針を数本取り出す。ケチっているのか、持っている待ち針の中でも一番安物の待ち針だ。余程この魔法使いに手を貸すのが面倒なのだろう。
無造作に待ち針をゴブリン達の足元へと投げつける。投げつけた待ち針は丁度ゴブリンの影のある部分に突き刺さった。
「【影縫い縛り】……これでいいですかな?」
「は?」
影が縫われてゴブリン達は身動きができなくなったとこを信じられないかのような目で見る魔法使い達。
これまで壁となるタンクと火力担当の魔法使いによる戦法ばかりをとっていた者が殆どだったため、敵を拘束することができるスキルがあるなんて知らなかったのだ。
「これでは足りないのですかな? 面倒ですな。【継ぎ接ぎ合わせの捕縛術】」
黙っている魔法使い達の様子をまだ満足していないと判断したレプラは更にスキルを発動させモンスターの群れに向かって走り出した。
今度は待ち針ではなく、ちゃんとした縫い針と糸を手にしている。
モンスターの合間を、文字通り縫うように走り抜けるレプラは、手にした針ですれ違いざまにゴブリンやオークと言ったモンスター達の粗末な装備を縫い合わていく。
最後に糸を引っ張ると、その周辺のモンスター達は一塊に縫い合わせられた。まさに一網打尽である。
捕縛されたモンスター達も自らを縛る糸をどうにかして断ち切ろうともがくが、着れる気配は一切ない。
「無駄ですな。その糸は深緑の森のフォレストスパイダーのエリアボス個体から採取した捕縛糸から小生自らが製糸した一品ですぞ。鋏を使うなら兎も角、力任せに切るのであればSTR値70は無いと不可能ですな」
「STR70ってトップクラスの近接ジョブでもそうそういねぇよ……でも助かった! これなら簡単に攻撃が当てられるぜ!」
「これくらいなんでも無いですぞ。その糸も小生の持ってる糸の中では高い糸ではないですし、サービスですぞ。それにしても貴殿らのローブ、あまり品質にこだわっていないのですかな?」
レプラが改めて魔法使いのプレイヤーをよく見てみると、纏っているローブは多少ダメージ軽減効果が付与されているがあまり良い物とは言えなかった。
「あぁそうだな。どうせタンクがいればダメージなんて負わないから、装備にかける予算は殆ど杖の方に割いていたな」
「ふむ……では、サービスついでに少し手を貸しますぞ。【クイックリメイク】」
レプラがローブに向かってスキルを使うとローブの色が若干良くなる。支援術師の使う魔法がプレイヤーを強化するバフ効果だとすれば、今レプラが使用したスキルは装備を強化するバフ効果のスキルだ。
スキル【クイックリメイク】は、所持している糸を消費することで一定時間の間装備の効果を向上させたり、効果を付与させるスキルだ。今行ったのはローブに一定時間装備者のINTを上昇させる効果を付与させたのだ。
生産職のスキルに疎い魔法使いは最初レプラが何をしたのか分からなかったが、拘束されているモンスターに攻撃してみると自身の火力が上がっている事に気付き驚きの声を上げた。
「スゲー! お前バッファーでもあるのかよ。これなら楽に倒せるぜ! ありがとな!」
「正確にはバフではないんですがな。袖振り合うも何とやらですぞ。では小生はこれにて失礼しますぞ」
珍しく赤の他人を手助けしたレプラはそのままルナを探してその場を立ち去った。勿論、作らない名工などという名誉なのか不名誉なのか判断に困る二つ名で呼ばれるレプラが善意で手を貸すはずもない。
(見ず知らずの赤の他人に手を貸すと言う善行! これはルナ殿が見ていたら確実にポイント高いですぞ! これで信頼を得た小生は更にルナ殿にコスプレ__もとい装備を作ることが出来る! 小生、自分の策士ぶりが怖い! 怖いですぞ!)
この場にルナがいないとさっき自分で言っていたにも関わらず、穴だらけの杜撰な計画でしょうもない捕らぬ狸の皮算用を考えていた。
勿論、ルナは一切見ていないのでレプラの計画は敵う筈もないのだが、レプラはそんな事は気にせず幸せそうににやけていた。




