第102話 ~スタンピード編~
「___という事で、今回は私達も前に出るから」
「いやどういう事だよ」
生産職の集合場所についた俺はヒュギーがそんな訳の分からないことを言い出した。周りを見るとヒュギーの他にも装備やアイテムの確認に勤しむプレイヤーの姿が見えるけど、昨日のスタンピード攻略会議で何かあったのだろうか?
それに確かヒュギー達はがちがちの生産職だったよな。人の事を言えるステータスじゃないけど、大丈夫なのだろうか?
心配しているのを察したのか、ヒュギーは肩をすくめる。
「言いたいことは分かるわ。生産職が戦えるのかって事でしょ? これでも足りない素材を採取しにフィールドに行ってるのよ? 多少の戦闘なら慣れっこよ」
「多少の戦闘ならって……昨日の数が多少に収まる範囲かよ」
「メイ殿の言う事もごもっともですが、ここはヒュギー殿に任せて大丈夫ですぞ」
元戦闘職のレプラが言うのなら心配の必要はないんだろうけど……本当に大丈夫だろうか。それなら俺は何をしていようか。レプラと二人でここでだべってるだけって言うのも味気ないし。
「ま、小生も今回は前線に出ますがな!」
「レプラも出るのかよ!? って事は何か? 今日は生産職が全員戦うのか? 本当に会議で何があったんだ?」
「ちょっとした行き違いよ。ほら。ロゼさんとの共同開発でポーション作ってたじゃない?あれでちょっとね。戦えない生産職が使うなんて勿体ないなんて言うから、それじゃあやってやろうじゃないって感じで売り言葉に買い言葉的な? あ、勿論全員が全員戦うって訳じゃないわよ? ローテーション組んでちゃんとポーションは随時補填が入る様にしてるわ」
「そういう問題じゃ……いや、まぁそれでいいならいいんだけど」
ロゼさんとの共同開発したポーションってあのステータスを強化できるあのポーションだよな? そりゃ、戦闘職からしたら喉から手が出るくらい欲しそうな代物だから、既に作った分は使っちゃいましたなんて言われたら怒るだろうけど、いくら何でも生産職が前に出るか?
それなら俺も戦闘に参加したほうが良いだろう。装備はレプラに新調して貰った革装備のままに、一応あの鑑定厨の件もあるし顔を見られない様にローブを纏ってと。
「そういう事なら俺も参加するよ。一応戦闘職ではあるから、多少は力になれると思う」
「であれば、ヒュギー殿の後ろに控えて何時でも対処できるようにしてほしいですぞ。戦えると言っても結局は生産職。ステータス的には戦闘に不向きですからな」
「ん? 前に出なくていいのか? 」
「良いのですぞ。それだとメイ殿が危ないですからな」
「危ないってどういう___」
「来たぞ! 始まった! 」
レプラの言う意味を聞く前に、プレイヤーの誰かの叫び声が周囲に響く。本日のスタンピードが始まったらしい。ゴブリンやウルフと言ったモンスター達が大群をなして攻め込んでくる。
昨日と同様にモルガーナが超広範囲魔法を持って初撃を担い、モンスターの大群を一瞬にして消滅させる。今回は昨日の炎と違って風魔法の超巨大竜巻だ。延焼で近接職が戦いにくかったのを考慮したんだろう。いつ見ても火力は異常レベルだな。もはや災害レベルだ。
「良い感じに始まったわね。それじゃ私達も行きましょうか」
ヒュギーに従い後を追いかける。バフ系のアイテムでも使っているのか、ヒュギーの走る速度はそれなりに早い。少なくともAGIに一切割り振っていない俺よりも速い。
置いて行かれるわけにもいかないのでステップスキルを使って後を追う。ついでに成功スキルのステータス強化もできるから丁度いいだろう。
それにしても生産職であるヒュギーはどうやって戦うのだろう。STRを上げて武器を振る訳ないだろうし、錬金術師は魔法で戦うイメージがあるけどやっぱり魔法使い系の戦い方なのだろうか。いや、それなら尚更前衛の存在が必要だよな。
レプラの言っていた前にいると危険ってどういうことだ?
「グギャギャギャギャ!」
「早速戦闘開始ね! それっ!」
考え事をしてぼんやりしているといつの間にかゴブリンと接敵していたらしい。俺が動く前にヒュギーが試験管をゴブリンに投げつけると、割れた試験管から紫色の煙が沸き上がった。
煙をもろに吸い込んでしまったゴブリン達は苦しんでもがき苦しみ、こちらに襲い掛かる暇はないようだった。
質が悪い事に沸き上がった紫の煙は割と長い時間滞留するらしく、後ろから追加でやってくるゴブリン達ももれなく苦しみだしている。こわっ!? 何この毒!?
「な、なぁ? それはいったい……」
「私が作ったポイズンスモッグっていう毒薬よ。吸い込んだ者へ高確率で毒状態を付与と、毒状態になった対象の行動速度を大きく鈍化させる効果。一番の自慢は効果時間の長さね。ここまで毒煙を持続させるのは中々に骨だったわ」
製法と材料はもちろん秘密よ?と、いたずらっ子のような笑みをヒュギーが浮かべる。生産職的にこれはちょっとしたジョークらしいのだがそんなことより毒の効果だ。毒状態にするだけでなく行動の阻害もできるなんて、いくら何でも強すぎる。今はゴブリンだからそこまで凄くはないかもしれないけど、もしもこれがもっと上位のモンスターにも効くとしたら、攻略の難易度は格段に下がるはずだ。
何せ麻痺毒やスタンを取らずとも行動を阻害できるのだ。これが戦闘職にとってどれだけ生存確率を上げて攻撃チャンスを増やすことが出来るのか、想像に難くない。
「驚いてるところ悪いけれど、まだまだいくわよー」
自分だったらこのアイテムを使ったどれだけ成功スキルを重ねる事が出来るだろうなんて考えていると、ヒュギーは更に追加で試験管をポイポイと投げ始めた。
今度は一体何が起きるのだと思いつつ見ていると、投げられた試験管が次々に爆発し始めた。
毒薬の次は爆弾かよ!
しかもゴブリンは簡単に倒せてるし、いったいどうなってるんだ!?
「どうよ! アイテムさえ作れれば生産職だって戦えるのよ! 戦闘職がなんぼのモンっての!」
「ちょ、ちょっと待て! もう少し周りに気を配ってくれ! アイテムならフレンドリーファイア補正無いだろ! 」
「大丈夫! コントロールには自信があるわ!」
「そういう問題じゃねぇ!」
ツッコミはしたが、確かにヒュギーの投擲は手慣れたもので違える事無くゴブリンやウルフといったモンスター達にぶつけている。
戦闘には慣れていると言うのは本当のようだ。
投げるのは毒や爆発する試験管だけでなく、麻痺毒が入れられた試験管もあるらしく、黄色い煙を巻き上げてゴブリンやウルフたちの動きを完全に止めたりしている。
周りをよく見れば他の生産職プレイヤー達も各々の作ったアイテムを使って苦戦することなく戦えっている。
見ているだけじゃなくて俺も参加しないとな。幸い、今回は誰ともパーティを組んでいないからDEXがどうこうって説明することも口止めとかの必要も全くない。
近づいて攻撃……は、毒と麻痺と爆発に巻き込まれそうで怖いから、投擲にしておこう。
まずは【的確急所】スキルを発動。そこから【トランプマジック】でナイフ化させたスペードのトランプをゴブリン達に対して【ダガースロー】で投げつける。ありがたい事にヒュギーの麻痺毒のお陰で動かない的状態なので、簡単に当てることができる。
一体目、クリティカルが出ても流石に一撃では倒せない。更にもう一投してやっと倒せた。
二体目からは成功スキルのステータス強化がいい具合の高さになってきたので、短剣一本でも倒せるようになった。
そこから更に続けて三、四、五体。あふれかえるモンスター達に投擲を繰り返す。
【スキル:成功!】【連鎖!】
【スキル:成功!】【連鎖!】
【スキル:成功!】【連鎖!】
【クリティカル:成功!】【連鎖!】
【クリティカル:成功!】【連鎖!】
【クリティカル:成功!】【連鎖!】___
「よくそんなに短剣を所持してるのね。さっきから一度も回収してないわよね?」
「そんなこと言ったらヒュギーだって湯水のようにアイテム使ってるだろ?」
「私はホラ。自分で作れるから。でも短剣を使い捨てるとなったら結構コスト掛かるでしょ? 仮にも武器なわけだし、その上結構な威力が出ているから相応に品質も高いんでしょ?」
「う~ん。そこは企業秘密って事で」
「そう。ならいいわ」
確かに投擲する短剣全てを買っていた時は結構馬鹿にならないコストがかかっていたし、だからこそできるだけ投擲系の攻撃は避けてた節があるけれど。
今はトランプマジックのスキルでいくらでも短剣を作れるからな。消費したトランプにしてもMP消費で補給できるわけだし。こうしてみると、サーカス団から貰ったトランプって破格の性能だったな。
ただ、そんな事を言って道化師ジョブがバレてしまったら面倒事は避けられないだろうから言う訳にはいかないけど。
最初は大量に短剣を消費する俺に引いている様子だったヒュギーも、スキルか何かあるのだろうと当たりを付けたのかそれ以上聞いてくることはなかった。
さて、気を取り直してスタンピードだ。昨日はスタンピードを率いていたらしきオーガを倒したらその日の攻撃は終了した。
だから今回もボス個体を倒せば終わりそうだとは思うけど、一体何が来るのだろうか。いやまぁ、攻略組のメンツに任せるから戦わないんだけどね?
「アイテムの貯蔵は充分か?」
「何? 私にネタ振られても返せないわよ? とりあえずこの調子ならまだまだ余裕があるわ。倉庫の在庫全部引っ張り出してきたから」
ヒュギーの残弾はまだ余裕がたくさんあるらしい。それならこの場は大丈夫そうだな。
ところで、ヒュギーと同じく戦うと言っていたレプラはどうなっているんだろう?




