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第100話 ~スタンピード編~

100話目です。いい機会なのでここから数字表記に変更します。

主人公不在ですが気にしないでください。

【スタンピード対策同盟本拠地】


「それでは今回のスタンピードの内容を振り返ろう。最初は私が纏めた内容から言わせてもらう」


 SSO攻略組クランホーム内の一角の会議室にて、プレイヤー達はさっきまで参加していたスタンピードイベントの内容を振り返っていた。

 会議に参加しているプレイヤーは多種多様。ホームを貸し出している攻略組のクランメンバーを始め、剣士、盾職、魔法使いといった戦闘職プレイヤーや、錬金術師や鍛冶師といった生産職プレイヤー達が古参新規問わず集まっている。変わり種で言えば部屋の片隅にてBGMがてらバイオリンを弾いている音楽家ジョブプレイヤー、マエストロもいたりする。流石にスタンピードイベントに参加したプレイヤー全員が入ることはできないため、入りきらなかったプレイヤーは会議内容がリアルタイムで書き込まれる掲示板の専用スレを用いて参加している。プレイヤーは皆今回のイベントで追加された要素をしっかりと活用していた。

 攻略組クランリーダーであるマーリンは続けて口を開く。


「まず今回のイベントだが、張られていた伏線通りスタンピードイベントだった。出現したモンスターの種類は主にゴブリン、ウルフ、コボルト、オークと言った一般的なモンスターであり、群れを率いたボスがハイオーガだった。序盤はAGIの速いゴブリンやウルフが先発としてやってきて、後半にはAGIの遅いが強力な一撃を放つオークやオーガが現れ始めた。また、ボスを倒した時点でその日のイベントが終了するといった仕様が予想される。ここまではいいか?」

「あ、補足情報があるよ。私のスキルで調査した感じ、最初のモンスターと比べて後々のモンスターのレベルは徐々に高くなっていたよ。これがボスを倒すまで際限なく続くのか、上限があるのかまでは、まだ検証がたりないけど」

「ふむ。モンスターの種類だけでなく質自体が上昇していたわけか。……これはうまく利用すれば非常に効率の良いレベリングができるな……。情報の提供感謝する。それと、明日もあの一撃を頼んでよいだろうか? 初撃から圧倒的に有利に立ち回れるのは非常に大きい」

「まっかせてほしいかな!」


 マーリンの説明にモルガーナが補足を入れる。エクストラスキル【叡智】によってわかる敵の情報は非常に大きく有力なものだった。


「俺からもいいか? 混戦状態になったらアーチャー系やウィザード系のモンスターの後方攻撃が結構うざい。後衛組は優先してそっちを潰してほしい」

「俺はもう少し攻略組の盾職に前に出てほしいかな。保険として後ろに控えてくれてるのは助かるけど、彼らの守りがあるかないかで全然違うんだ」

「あぁ。そういう事なら俺も___」


 戦闘職プレイヤー達は戦闘中に知り得た情報や感じた事を追加で上げていく。掲示板にて参加しているプレイヤー達も、むしろ顔が見えないからか思い思いに濃い考察を上げていたり、情報はたくさん集まっていく。

 一通り情報が集まった所で、次の話に移るべくマーリンが取り仕切る。


「成程。皆濃くも確証のある情報を感謝する。実に素晴らしい話だった。では、次に明日の戦略の計画を立てようと___」

「すみません。少々よろしいでしょうか?」


 マーリンの進行を遮る声が会議室の中に響く。声の主は金属や革装備を着込んだ戦闘職プレイヤー達の中では浮いているようなスーツ姿の男性。白衣や普通の服を着た生産職とも違う、ある意味この場で異端的な姿をしていた。

 プレイヤーの一部にはその男性の姿に疑問符を浮かべていたが、効率重視で特に見た目を気にしないマーリンは特に気にすることも無く返答を返す。


「あぁ問題ない。まだ上がっていない情報があったのだろうか?」

「いえ、そういう訳ではありません。私は【トードリ】。しがない商人ジョブです。明日の予定に入る前に、本日購入分のポーション類の清算をお願いしたいのです」

「ん……あぁそうだったな。確か時間がもったいないから商人プレイヤーに頼んでツケて貰っていたか。確かに金回りの話を後回しにするのは効率以前に気分的に良くない。それでは清算を頼む」


 後回しにしてなぁなぁにしてしまうと問題が大きくなることはマーリンにも理解があるので即答でトードリの提案

 それを聞いたトードリは微笑を浮かべたままに頭を軽く下げる。


「ありがとうございます。では、大前提をして1つお話を。現在ポーション系はHP,MP問わずいずれも高騰しつつあります。理由は簡単。消費量に対して供給が全く間に合っていないのです。冒険者ギルドを経由して薬草等の採取を依頼しても、討伐依頼と異なり採取系の依頼は人気が低い。しかし討伐依頼にはポーションは必須であり需要と供給は常に悪循環にある。そして、NPCメイドのアイテムよりプレイヤーメイドの方が品質補正がある分価格が高い。ここまではよろしいですね? 」

「? あぁ。消費アイテムの高騰やポーション事情は我々も把握している。多少の高値は覚悟の上だ」

「覚悟の上、ですか。ではまずは請求総額から参りましょうか。占めて12,781,550ガメツとなります。こちらが内訳です。確かに金額は非常に大きいですが、この金額はあくまでも総額です。購入者のリストは既に作成済みですので各購入者に購入分の請求が妥当でしょうね」

「じゅ……っ!? そ、そうか。分かった。貸し倒れにならない様にクランとしても呼びかけておこう。……一応内訳を見せて貰えるか?」


 余りの金額に普段は冷静な様子のマーリンでさえも若干金額にうろたえるが何とか承諾し、内訳のかかれた書類を受け取る。内訳は次の通りだ。


アイテム名/金額/購入個数


下級ポーション   162 / 150

ポーション     400 / 216

中級ポーション   1000 / 354

上級ポーション   1750 / 259

下級ハイポーション 2700 / 50

ハイポーション   4050 / 43


下級マナポ     210 / 130

マナポ       500 / 359

中級マナポ     1350 / 3524

上級マナポ     2000 / 2750

下級ハイマナポ   3500 / 187 

ハイマナポ     5250 / 85


総額        12,781,550G


※金額の内、生産者の利益は約25%、商人のマージンは5%


 

「むぅ……分かってはいたが中々に痛手だな」

「ちょ、ちょっと待てよ! なんだこのマナポの値段!? 桁が1つ多いんじゃねぇか!?」

「そうだ! 流石にボッタくりすぎだろ!」


 後ろから覗き込んで内訳の内容を見たプレイヤーが抗議の声を上げる。NPCメイドのポーションを例に挙げると、ポーション・マナポーションが100G、中級ポーション・中級マナポーションが300G。プレイヤーメイドのアイテムには品質補正が存在するため簡単に比べる事は難しいが、それでも倍どころか5倍近い高騰になっている。

 抗議したプレイヤーの声に乗り次第に抗議するプレイヤーの数が増えてくるが、トードリは冷静さを崩すことなく鼻で笑い返した。


「ボッタくりですか……。最初にポーションの高騰については説明していたと思いますが?」

「それにしてもだ! いくら素材が無いって言っても五倍になるなんてありえねぇだろ!」

「おやおや……。では現在生産プレイヤーの皆様がどれだけの値段で薬草や素材を仕入れているのかご存じでしょうか?」

「それは……だ、だけど薬草なんてせいぜい50Gが買取価格だったろ! 冒険者ギルドで低ランだった時にちょっとだけやった時はその程度だった!」

「それがすべてを物語っているのですが……まぁ、ここからは本職の方々に語っていただきましょう。私は所詮双方をつなぐ仲介役なのでね」


 トードリはそう言うと、身を引いて次の話し手に向けて手を向ける。その人物は、白衣姿に小さな眼鏡をちょこんと鼻の上にのせた女性。上級錬金術師でポーション生産プレイヤー達を纏めていたヒュギーだ。

 会議室の中の視線がすべてヒュギーに集まるが、動じることなく堂々と胸を張ってトードリに応える。


「薬草は300G。マナ草は400Gで仕入れていたわね。最もそれでも依頼をこなしてくれるプレイヤーはいなかったけど」


 むしろNPCの方がちゃんと供給してくれたかしら? と皮肉気にヒュギーは肩をすくめた。

 古今東西、いかなるゲームにおいても採集系の依頼は初心者や低ランクの人物が受けるクエストである傾向が強い。

 プレイヤーに操作性やゲームシステムに対して慣らし、マップを覚える為ならば再集計依頼でマップ内を駆けずり回らせる方が速いのだ。故に、ある程度ゲームに慣れた状態になると効率の悪い採集系のクエストよりもより強いモンスターと戦ったほうが有意義にゲームを楽しめるし、資金源になる。

しかし、突き詰めてリアル重視を行い、市場に流れるアイテムの絶対数などという物を作ってしまえばそうはいかない。

例えどれだけ単なる作業でつまらなくとも、誰かが採集をしないと薬草は手に入らないのだ。


その結果がこの薬草の高騰。


 戦闘プレイヤー達は資金を稼ぐために採集には目もくれずより強いモンスターと戦い、その結果ポーションが必要になる。

 生産プレイヤーは素材を得る為高値を出すが、元を取る為にポーションの値段が高くなる。

 至極当たり前の悪循環だが、起こるべくして起きた問題であった。


「__ってことで、この高騰は誰も薬草を採集しないから起こったの。だから文句を言うなら少しでも採集してくれないかしら? つーかアンタたちアイテム使いすぎよ。これ作ってるのもプレイヤーなんだからね? どれだけ私たちが大変だったと思ってんのよ! 今回だってたまたま高位の農家ジョブプレイヤーが“善意”で手伝ってくれたから良かったものの、下手をしたら素材がなくて在庫を切らしてたかもしれないのよ!?」

「そ、それならその農家ジョブのプレイヤーって奴にもっと作らせればいいじゃねぇか! それがダメでもお前ら生産プレイヤーが農家ジョブに転職すればいいじゃねぇか! どうせ戦わないんだからステータスなんて関係ないだろ?」


 戦闘職の一人が苦し紛れの反論をするが、それに対する生産職プレイヤー達の視線は冷ややかだ。

 『戦わないならステータス値に意味はなく、ならば転職などし放題である』。ある意味、生産プレイヤーの一番の地雷を踏んでしまったに等しい。

 生産ジョブについてある程度理解のあるモルガーナやアニー、バロンなどはやってしまったと頭を抱える。


「へぇ……じゃああんたのジョブの魔法使い。余ってんだから転職しなさいよ。弓使いに。どうせ弓使いなんてステータス関係ないでしょ?」

「はぁ?馬鹿いうんじゃねぇ! バカ高いコストのわりにダメージに繋がらねぇ地雷中の地雷じゃねぇか! 魔法使い系のスキルを揃えるのだってどれだけ苦労したと思ってんだよ! ふざけてるのか!?」

「あんたはそのふざけている事を私たちにしろって言ったのよ? これでおあいこね」


 弓使いというジョブは、十人中十人どころか百人中百人が声を揃えて地雷というほどのマイナージョブだ。

 まず第一に操作難易度が非常に高い。同じ遠距離船長職である魔法が、ある程度狙いを定めると自動で標準を合わせてそれに沿って進む事に対し、弓はそのような自動標準機能は存在しない。弾道予測線の表示機能は一応存在するものの、プレイヤー本人の弓の技量に左右されるため大きな誤差が発生する。はっきり言って全く役に立っていない。

 

 ではアーチェリー経験者ならどうかと言えば、それも微妙だ。

 第二の問題に火力の問題がある。剣士であれば多少レアリティの低い武器を使ってもSTRが高ければダメージが期待できる。極端な事を言えばSTR特化のサオリがヒノキの棒を振り回してもエリアボス程度なら難なく倒せる火力が出せる(武器の耐久値は考慮しないが)。 魔法使いもINTが高ければ高いほどダメージが伸ばせる。だが、弓使いはそうはいかない。

 弓使いのダメージ計算は弓の性能と矢の攻撃性能に全てが依存する。どれだけSTRを上げようと、できるのは持てる弓のレベルが上がるだけであり、どれだけDEXを上げようとクリティカルの確率が上がるだけ。レベルが上がるだけでは弓使いの火力は増えないのだ。

しかもクリティカルの確率が上がっても実際に的に当てるのはプレイヤーの腕次第であり、魔法のようにシステム側に技量を頼ることができない。

 ダメ押しにコストの問題。

 弓と矢で火力が依存するため、その矢の質には妥協することは許されない。しかし、矢というのは消耗品だ。

一発撃てば無くなる代物を大量に何度も補充しなければならない。一度の戦闘で得られる利益程度では赤字になる事が殆どなのだ。


 その為、戦闘職界隈では弓使いと言うのは満場一致の地雷職なのだ。


対する農家ジョブと言うのも生産職の中では非常に難易度が高い。

 土地を買って、肥料を仕入れて耕し、種を仕入れ植え、収穫できるまで待たなければいけない。

 農地と言うのは土地だ。つまりポーションや薬草のような消耗品とは比べ物にならない価格の固定資産だ。種や肥料も自分の手でどうにか出来るようになるまでは金がかかり続ける。

 ロゼの場合は例外中の例外だ。魔族領は総じて無法地帯。土地は自分で開拓してしまえば自分の物とできる。更にロゼの種族であるアウラウネは、種・肥料の作成が種族スキルでデフォルトで可能だ。土地の農地化も同様に種族スキルスキルで自分で何とかできる。

 種族がアウラウネだからこそ農家ジョブで大成できたのだ。


 つまり、ヒューマンの初心者が農家ジョブに手を出すには初期投資が大きすぎる。ある程度資金に余裕の出来る中級者以上のプレイヤーであれば何とかなるだろうが、果たしてなりたい者がいるだろうか?

 これまでの努力したステータスを棒に振り、培ってきたスキルを腐らせてまで?


 そんな人間はよほどの物好きか、それでも問題ない人物だけである。


 ここまで言えばわかるだろう。「農家ジョブになれ」「弓使いになれ」と言うのは、難易度ベリーハードでやり直せと言うのと同義なのだ。生産職の怒りも分かるだろう。


「ここまで言っても平行線の様ね……こっちは別にアイテムを降ろさなくても構わないのよ?」


 ヒュギーの銃口を向けるかのような発言に、今度こそ戦闘職プレイヤー達は固まった。










相場や価格については適当なので突っ込まれても言い返せません。許してくください。


気付いたら日間VRランキングで33位になってました(2019/10/16 19:45)

こんな稚作を読んで下さりありがとうございます。

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