第九十七話 ~スタンピード編~
続けて連投しました。
「さぁ! 冒険者の皆さん! もうじき魔物の群れがやってきます! 皆様の手にこの都市の命運がかかっているのです!」
この、唾を飛ばす勢いで演説しているの人物は、前に魔族の侵攻だと騒いでいた神官だ。前に煽動に失敗していたにも関わらず今回も変わらず頑張って煽動しようとしているようだ。
でも、残り時間の放送から考えて本当にもう少しで始まりそうなんだよな。俺もそろそろ気を引き締めないといけないな。
ちなみに俺は戦闘職の同盟側にいない。生産職側の集まりに混ざっている状態だ。理由は単純に、俺が寄生プレイヤーだって事になっているからだ。流石に隠蔽効果のある外套を装備していたと言っても、態々夏の虫になる必要もないし。
遠目ながらモルガーナやアニー達の集まりの中にやマオさんやルナがいる事に安堵しながらイベントが始まるのを待つ。
周囲の生産職プレイヤー達は延々とポーションの作成をする人、作ったポーションを販売する人(クレーム対応している人含む)、戦闘職の武器や防具の手入れをする人等様々だ。
ロゼなんかはこの場で料理を作って販売していたりする。ロゼの持っている食材の関係上、野菜を多く使った料理が多いけどそれでもバフが付くというのは魅力的らしい。中にはSTRが上がりそうな肉系のアイテムを持ち込んでいるプレイヤーまでいる。
他に料理人プレイヤーを探しても見当たらないのは、料理をするプレイヤーが少ないせいだろう。これまでの視覚と聴覚だけのVR環境では作っても楽しみが見いだせないプレイヤーが多かったのかもな。
「そういえばレプラ。結局俺は何をすればいいんだ?」
「あぁ、そういえば誘っておいてその説明がまだでしたな。メイ殿には我々生産職プレイヤーの護衛を頼みたいですぞ。ポーション系のアイテムの供給や武器のメンテの関係で生産職連中も前に出ざるをえませんからな。……まぁ、一部例外もいますがな」
そう言ってレプラは横目でとある集団を見る。視線の先には淡々と楽器のチューニングをしている集団。さっきからスルーしちゃったけど、あの集団は一体何をしているのだろう? あれがヒュギーの言っていた笛の人とか言う人のグループだろうか?
「……あの集団が笛の人ってやつなのか?」
「ご明察ですぞ。集団の中心で指揮をしている御仁が通称【笛の人】ですぞ。名前は【マエストロ】。現状、プレイヤー唯一の音楽家ジョブのプレイヤーですぞ」
音楽家という事は吟遊詩人とかバッファーの派生形ってことか。確か、吟遊詩人系のジョブは実際にプレイヤーが歌わないといけないから不人気を通り越して皆無って話は聞いたことがあるけど、まさか本当にそんなプレイヤーがいるとは……
「No! もっと気持ちを込めて! 皆サンの熱量をワタシに感じさせてくだサイ! 」
「ウィ! マエストロ!」
「素晴らしい! 感じマス! 皆サンのAnimato! 良い演奏は技術でも楽器でもありまセン。込められたPassionで決まるのデス! では、もう一度合わせてみまショウ!」
「……外国人?」
思わず口にでてしまった。まさか日本人以外のプレイヤーまでいるとは思わなかった。もしかしたら在日中の人かもしれないけど、英語だけやらたと発音がいいから、少なくともアジア圏の人ではなさそうだけど?
「ワタシ、ニポンに来てたくさん勉強しまシタ。和食、カブキ、そしてサブカルチャー! アニメ文化とっても素晴らしいデス! オーケストラさえもBGMとして使い、作品の一部として昇華させるなんてワタシ、思いつきませんでシタ! このゲームだとBGMが無いのはガッカリしまシタが……それならワタシがBGMになれば良いのデス!」
「ウィ! マエストロ!」
BGMになるって……どういう事? 確かに今まで気にしていなかったけど、リアリティ重視なのかこれまでBGMがなかった。でも、だからと言って態々BGMをかけるために自分から演奏するか? いや、俺の場合はサーカス団系のスキルでBGMかけれるけどさ。
唖然としているとレプラが苦笑交じりの様子を見せる。
「どうですかな。面白い御仁でしょう? 前線を歩む戦闘職プレイヤーはどうかわかりませんが、メイカーの街では割と最近有名な御仁なのですぞ」
「あぁ……確かにこれは有名になるだろうな。なんというか、個性的な人だな……っと。始まったみたいだな」
「そうですな」
戦闘職プレイヤー達のざわつきが一段と大きくなっている。視線の先を魔の森方向に向けると、来るわ来るわの魔物の群れだ。
目につくところではゴブリンが多い。多分、魔物の群れの大半はゴブリンじゃないだろうか。その他にはウルフ系のモンスター。そこから遅れてオーガやオークが来ている。多分、群れの順番にはモンスターの強さの他にも足の速さが関係しているんだろう。戦闘を走っている来ているゴブリンもウルフもAGIの比較的早いモンスターだし。
さて、確か予定では初撃はモルガーナが一撃を加えるって話だったけど……お、杖を高く掲げているのが見える。
「ハハハハハ! これこそが、全プレイヤー中最大範囲! 最大火力の一撃だよ! 【禍ツの災炎】!」
高笑いを上げつつ魔法の発動を宣言した瞬間、魔物の群れの丁度真ん中あたりの上空に黒い小さな点が発生した。
一体なんだと目を凝らしたと同時に、その小さな黒点は爆発的に広がっていきゴブリンやウルフ、オーク、例外なくすべてのモンスターに黒い炎が絡まりついていく。
炎に絡まれたモンスター達はさっきまで明確な敵意を持って城壁を目指していたのに、苦し気にのたうち回ることしかできない。
黒炎の中で悶えて動き回るモンスター達の姿は、まるで命を捧げる異端の儀式か舞踏のような、禍々しい祭宴といえる。
燃え続けること数秒、黒炎が収まった目の前には延焼エフェクトだけが残り、先発を走っていた筈の全てのモンスターはいなくなっていた。
「「「えぇ………」」」
「な、なにかな!? そのドン引きの雰囲気は!? 私ちゃんと仕事したよ!? ほら! 綺麗に全部倒したよ!? 」
「呆けるな! 直ぐに第二陣来るぞ! 剣士組は前衛に走れ! 魔法使い組は水魔法でフィールドの消火を急げ! 延焼ダメージで味方にまで被害が出る! 」
あまりの馬鹿げた威力に全員口を開けてドン引いている中、唯一正気を保っていたアニーが喝を入れる。確かにアニーの言う通り、ゴブリン達第一陣がいなくなっても第二陣ともいえる魔物の群れが城門目指して走ってきている。しかも、今度はさっきのモンスター達よりも装備がしっかりしていてレベルが高そうに見える。段階ごとに強力になっていくのか?
一部未だに茫然としているプレイヤーもいるものの、アニーの声で気を取り直したプレイヤー達が走っていく。
要竜を討伐したアニーが自ら布教した影響なのか、剣士の数は比較的多い。両手剣オンリーのプレイヤーや長い太刀を使う派手めなプレイヤーもいるけど、引き手側に盾を装備した長剣使いというアニーと同じスタイルのプレイヤーが一番多いかな?
魔法使いジョブのみんなも水魔法を主体にして攻撃を開始した。これは攻撃の為と言うよりもモルガーナの攻撃によるフィールドの延焼を消すためって意味合いが大きい。
一応モンスター側へのダメージになるけど、プレイヤーにもダメージが入ってしまうからこればかりは仕方がない。
特に目立っているのはバロンだな。マジックムーブの魔法の機動力を活かして適所適所の延焼を消していっている。なんだか前にパーティーを組んだ時よりも速くなっているな。順調にAGIに振っていたんだろう。
お、他にも打撃武器を使っているプレイヤーもいるのか。ハンマーを派手に振りまわしてゴブリン達を吹き飛ばして___
「HAHAHA! 遠からん者はListenn to me! 近くに寄ってLook at me! ワタシ、ニポンのサムライの作法、ちゃんと勉強してマスヨ!」
あの前口上しているプレイヤー、さっきの笛の人じゃないか!? しかも振り回しているのはハンマーじゃない! コントラバスだ!
ちなみに作者が投稿もしないで何をしていたかですが、モンスターをハンティングするゲームをしていました。
使ってる武器ですか? 使用率2%で堂々の最下位の武器です。




