第九十話
スタンピードというテンプレイベント
「何してやがりますか! スタンピードです! 早く行くです!」
「待て待て! まずは詳しい話を教えてくれ!」
腕を引っ張って連れて行こうとするルナを必死に宥め、何とか話が聞ける程度に落ち着かせる。
スタンピードって言うとモンスターが大量に出てくる事だろう? 何かイベントやクエストが発行されたのか?
ある程度ルナがやっと詳しい内容を話し出す。
「あっちの大通りのお店を見て回っていたら、他のプレイヤーの人たちがスタンピードだって言って皆どっかに行っちまったです! ぜってーメイにーちゃんが何かやらかしたと思ったですけど、違うんですか?」
「違う違う。俺は無関係だ。むしろなんで俺が原因だって思ったんだ?」
「え? だってあのレプラって小っちゃいにーちゃんとかミツバねーちゃんとかが何かあったらメイにーちゃんが原因ってたですよ?」
「いくらなんでも何もしていないのに起こすなんて出来んわ!
真顔でルナにそう言われても俺は否定するしかできない。いくらなんでもスタンピードと俺は無関係だと思いたい。
「そもそもいったいどこでスタンピードが起きたんだ?」
「んなもんルナが知る訳ねーです。 ルナ、ここに来たのだって初めてですよ?」
あー、そういえばルナはこっち側の大陸に来たのは初めてだっけか。どうやらルナは他のプレイヤー達が一気に移動しているのを見て慌ててきたって言ってたな。
それなら他のプレイヤーに聞いてみたほうが早いか。いや、よく考えたらその手の内容にやたらと敏感に反応する人が一人いたな。
メニューを開いてモルガーナへとメールを打ち込む。
『今、メイカーの街にいるんですが、他プレイヤー達がスタンピードが起きたといった話をしています。モルガーナは何かイベントかクエストが起きたって話は聞いてませんか?』
これで送信と。性格はあれでも一応トップクラスのプレイヤーらしいし、なによりゲーム知識だったら群を抜いているのがモルガーナだ。何か掴んでいるかもしれない。
後は返信が返ってくるのを待てば……って、驚いた事にもう返信が返ってきた。
『メイ君今魔族領側から帰ってきているの!? ナイスタイミングだよ! 今ルクスルナの神官NPC達がスタンピードが起きたって騒いでいるの! そっちにいるプレイヤー達が動き出しているのは、たぶん経験値の稼ぎ時になるし人手がいるクエストになるからって事でルクスルナにいるプレイヤー達がフレンドにメールで伝えているんだと思うよ! 既にこっちにはアニーとサオリちゃんも来ているからメイ君も来た方がいいよ! あ、スタンピードが本格化するのは神官曰く明日からだからそこまで急がなくても大丈夫だよ!
P.S
ロマンを追求してチートキャラになれたと思ったらサオリちゃんの方ががチートキャラだった件について(´・ω・`)』
追伸を見る限りこっち側の大陸でもしっかり強化フラグがあったんだな。いやそれは兎置いといてだ。スタンピードがあったって言うのは本当らしい。
ルクスルナっていうと、確か要竜がいた森に一番近い国だったな。自称攻略組のメンツがいたところ。
サオリやモルガーナがPvPで戦ったイワンなんかもいるだろうし、なんだか一波乱ありそうな予感がする……。いやでも、スタンピードでたくさんの経験値が入るのであれば行かない手はないか。ただでさえ最近はレベルアップの要求経験値量が増えているんだし。
「どうやらスタンピードが起きたって言うのは本当のことらしい。一応言った事のある場所だから行くことが出来るけどルナはどうする?」
「もち、行くです! いっぱい人も敵もいるならルナだって活躍できるです!」
「わかった。それじゃ、ミツバも呼んで向かおう。どうせアイツなら絶対行くって言いだすと思うし」
バトルジャンキーであるミツバなら、たくさん敵が出てくるであろうスタンピードのことを聞いたら、むしろ嬉々として突っ込んでいくだろうし。謹慎処分くらって戦闘に対する欲求不満らしいから断ることはないはずだ。
それにルナが一緒に行ってくれると言うのも心強い。DEFに極振りしているから生半可な攻撃ではびくともしないし、それでいて本人は回復職でもあるんだ。いざとなったら混戦状態の場所まで来て直接回復するって芸当もできる訳だから、頼りにならない訳がない。
問題があるとしたらレプラに頼んだ装備が間に合いそうにない事か。ただ、現状の装備でも特に問題があるわけでもないし、連絡を入れておけば後は大丈夫か。
「それと……リーノ、ルーノはどうする? ついてくるか?」
「暫定座長(仮)が言うのなら」「どこへでも」
物凄く不本意そうな言い方だけど、少なくとも反対はしないでくれるらしい。一応、システム的には俺の団員という扱いだし二人はNPCなのだから断りを入れる必要もないんだけど、機械的に接すると言うのも気が引ける。嫌そうじゃないなら心置きなく連れていけるかな。
「それじゃミツバに話をしてスタンピードが起きるって場所まで行ってみようか」
「がってんです!」
「スタンピードって何? え? いっぱい的が出てくるの? それならついて行くよ?」
ミツバを見つけて話をすると、案の定と言うべきか即答で動向を決めたようだった。その後俺達はそのままの勢いで馬車に乗り、ルクスルナ星教国へと向かった。
特に何事も無くたどり着いたルクスルナは、前に来た時よりもプレイヤーの数が多くごった返しているといった印象を受ける。おそらくはフレンドメール経由でスタンピードの話を聞いたプレイヤー達だろう。
軽く見まわすとヒューマンだけじゃなく、エルフや獣人、ドワーフといった他の種族のプレイヤーも結構な数すれ違う。いずれも俺のウサギ革装備とは比較にならないくらい強そうな装備をしているプレイヤーばかりだ。最も、流石にルナのような魔族プレイヤーまではいないみたいだけど。
「ふわぁ……す、すごい人です」
「あぁ。俺が前に来た時よりもすごく多い。たぶん、スタンピードの話を聞いたプレイヤー達が集まってるんだと思う」
ルナは驚きを通り越してはんば放心状態だ。メイカーの街はあくまでも生産職プレイヤーが主だからな。プレイヤー人口の割合的には戦闘職プレイヤーの方が多いのだから、その戦闘職プレイヤーが集まればメイカーの街の人口の倍位以上にはなるだろう。
「ゴミみてーな人です」
「うん。それだとただの悪口だからやめような? 正しく言うなら人がゴミのようだ……いや、どっちにしろ失礼なのは変わらないか」
それは兎も角、これだけ人が多いとモルガーナ達を見つけるって言うのも簡単じゃないな。目立つとんがり帽子ををしているし体系的に目立つサオリも近くにいる筈だからすぐに見つかると踏んでいたんだけどあてが外れたな……。
「ミツバ、モルガーナは見えないか? こう、姉妹パワー的なノリで」
「流石に無理だよ? いくらなんでも、あの自由奔放なお姉ちゃんを見つけるなんて……あ、いた」
「マジで!?」
冗談で言ったのに、ミツバが指さす方向を見るととんがり帽子に黒いローブの格好で人混みの中を走る女性の影。
「メイくーん! どこー! そろそろこっちについてるよねー!」
……間違いない。あの残念な感じ、モルガーナだ。確かに向かうって連絡はフレンドメールで入れたけど、かといってあんなに叫んで探す必要あるか? ていうか俺の個人情報……。
「お姉ちゃん……あんなに周りに迷惑かけて……後で泣かす」
「ミ、ミツバねーちゃんなんかおっかねーです……」
こめかみに青筋を浮かべたミツバがぼそりと呟く。安心しろルナ。俺も怖い。走るモルガーナの周囲をよく見るとサオリとアニーらしき人影も見える。追いかけている所を見ると二人もモルガーナに手を焼いているっぽい。
あれに近づくのはちょっとな……
「メイにーちゃん。あの人たちがメイにーちゃん達の知り合いですか? 」
「恥ずかしながら……そうなんだよな」
「ちょっとボク行ってくるからちょっと待っててほしいよ?」
モルガーナがどうなったかは、おして知るべし。




