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第八十九話 ~スタンピード編~


「じゃあまずはルーノからスキルを教えてくれ」

「無理」

「無理って……じゃあリーノから__」

「無理」

「食い気味だな! はぁ……」


 二人に指輪のスキルを聞こうと思ったのに、2人とも即答で無理と言ってくる。いったいどうして教えてくれないんだ? 

 さっきからずっとこの問答の繰り返しだ。


「はぁ……それならどうしたら教えてくれるんだ?」

「それなら、誰から隠れて」「誰に注目されるつもりなの?」

「それは……誰もいないな。もしかして、ヘイトとハイドの対象がいないから無理って言っているのか」

「さっきからずっと」「そういっている」


 ぜんぜんそんな事いってなかったよな? ずっと無理としか言ってなかったよな? そう言ってやりたいところだけど、それに気付けなかった自分にも落ち度があるし、何よりもそんなことを言ってしまえばこの二人が不機嫌になるのは目に見えているのでぐっとこらえる。


 対象がいないと言うのであれば今はチェックしようがないので、今回新たに増えたスキルと称号を確認することにする。


まずは称号から。


【黒猫の継承者】

 黒猫のサーカス団座長から道化師を継承した証。芸人としての道化師だけでなく、物語上の道化師としてもスキルも使えるようになる。


 うん。よくわからん。分からないながらも解釈すると、トランプを使って盾や剣に変化させていたあの技や腕を斬られてもその腕が浮遊しだしたりしたのが物語上の道化師のスキルなのかな?というくらいか。あからさまにサーカスの域を超えていたし。


 続いてスキルの方の確認に移る。こっちの方はちょっと数が多い。

【トランプマジック】

 アクティブスキル。トランプによるマジック。マークによって効果は変わる。


【道化師的移動法】

 アクティブスキル。死角から死角へと瞬間移動する。自身を他者に認識されていて、かつ他者から一切の視線が集まっていない場合のみ発動可能。


【赤のいらない惨殺劇】

 アクティブスキル。一定時間切断属性の攻撃によるダメージ効果の一切を0にする。部位欠損ペナルティが発生する攻撃だった場合、ペナルティを発生させずに部位の操作が可能。


【ミスティック・レイン】

 アクティブスキル。ジャグリング中のアイテムをそこら中にぶちまける。ジャグリング中にのみ発動可能。


【スポットライト】

 アクティブスキル。指定した対象にスポットライトを当て、ターゲットを集中させる。


【ワンダー・ボックス】

 アクティブスキル。何かしら起こる不思議な箱を取り出す


【ボックスマジック】

 アクティブスキル。箱の中にいる間に受けたダメージ・バフ・デバフ全てを無効にする。箱がちゃんと閉じていないと不発。

 ボルテージを消費することでHPを回復効果。


【エスケープマジック】

 アクティブスキル。自身にかけられている拘束・施錠を解除し脱出する。成功率はDEX依存。


【ピジョンマジック】

 アクティブスキル。指定した対象の懐ないしポケット(またはそれに準ずる箇所)から鳩を飛ばす。発生する鳩の羽数はボルテージの高さに依存。


【ロマンティック・エクスプロード】

 アクティブスキル。大量のトランプで大きな爆発を起こす。爆発の威力は枚数依存


【女王の威厳】

 パッシブスキル。鞭系統アイテムを所持している時に限りテイム成功率を大幅に上昇させる。


【傅く全ては我が下僕】

 アクティブスキル。自分より目線が下のモンスター全てに強力なテイム効果。


【ワン・モア・チャンス】

 アクティブスキル。失敗時にもう一度チャンスを貰える。(ボルテージを消費)


【ステージセレクト】

 アクティブスキル。演目設定に合わせてステージを変更できる(ボルテージを消費)


【アシスタントコール】

 アクティブスキル。手伝ってくれるアシスタントを呼ぶ(コール可能NPC【リーノ】【ルーノ】)


【一人ぼっちのサーカス団】(道化師専用スキル)

 パッシブスキル。サーカスに関連するジョブの専用スキルを会得・使用が可能となる。サーカス関連のスキルを強化する。



 ちょっと所じゃないな。滅茶苦茶多い。

 増えたスキルの種類は大きく分けて三種類。マジック系のスキル。ナイフを使うスキル。テイマー系のスキル。それと、それ以外の道化師系とでも言えるスキル。

 一部のスキルは座長が使っていた奇術というには少し魔法チックな物と同等らしいスキルがある。たぶん、座長の継承の試練をクリアをしたことで手に入れられたスキル群だろう。

 座長、道化師は他の演目に首を突っ込む存在だと言っていたし、たぶんその関係でテイマー系のスキルもあるんだろうな。


 その中でも特に強そうなスキルが二つ。【道化師的移動法】と【赤のいらない惨殺劇】の二つだ。前者は死角から死角に瞬間移動できるスキル。やたらと座長が背後から声をかけてきたのはこの死角という縛りからだろう。誰かに自分を認識していて貰わなければいけない条件があるけど、それでもいきなり奇襲ができると言うのは物凄い利点だ。

 後者は、打撃攻撃をノーダメージにできる【オーバーリアクション】と同系統のスキルだ。切断系の攻撃全てのダメージを0にできるというのは、剣士系の敵と戦う際に物凄く有効なスキルといえるだろう。

 勿論、座長にオーバーリアクションスキルの穴を突かれたように、このスキルにも抜け穴はいくらでもあるだろうから過信はできないけど。

 明確な切り札として一つのスキルに依存すると痛い目を見るって言うのはよく分かったんだ。このスキルも手札の一つとしてしっかりと認識しておかないと。


 トランプを取り出して適当にスペードのカードを引き抜く。そしていつも【フラッシュポーカー】を使う時の様に投擲し、【トランプマジック】スキルを発動させる。

 すると、トランプはポンッと子気味良い小さな爆発と共に、剣へと変わって木に突き刺さる。

 そこから1分くらい待つと木に刺さったその剣はトランプへと戻った。効果時間は大体一分ってことね。もう一枚取り出してスキルで短剣に変えて【ダガースロー】を発動。スキルは問題なく発動して、剣となったトランプはさっきよりも深く木に突き刺さる。

 ちゃんと他のスキルがかかるのはデカいな。これならば短剣を大量に消費しなくて済むし、いちいち回収する必要もなくなる。案外一番の収穫といえるかもしれない。

 次に試すのはダイヤのカード。【トランプマジック】を発動させるとA4ノートくらいの大きさにまでトランプが大きくなる。折り曲げようとしてみるが、鉄板の様に堅くとてもじゃないが曲げられそうにない。やっぱり座長が使っていたのはこのスキルだったんだ。

 

ここまでは座長が使っていたから効果は分かる。次はクラブのカード。

 適当にトランプから引き抜いてスキルを発動させると、クラブのカードはジャグリングのピン(ボーリングのピンみたいなアレだ)へと変わる。……ピンなのか?

 スペードが剣でダイヤが盾、ハートは恐らく回復系の効果だからクラブは魔法が発動するものだと思っていたけどそういうわけでは無いのか。

 確か占いではクラブは農民とか、棍棒を表すんだったっけ? それならばピンが出てくるのもうなずける。


 最後はハートだ。

 

 ハートのAを取り出して【トランプマジック】を発動させてみると、トランプは光の粒子に変わり俺の中に吸い込まれていく。

 ……変化なし?

 いやいやそんな事はないか。HPが元々最大だったから回復したかどうかなんてわからないし、そもそも俺のステータスではバフが入ったかどうかなんてわからない。これは被験者で自分を選んだのは人選ミスだったかな。

 


 

 うーん……ミツバたちがいればもう少し詳しくチェックできると思うんだけど……こればかりは仕方がないか。俺が俺にこのスキルを使っても分からないし。

って、ん? よく考えたら、双子がスキル、俺を対象にして貰えばいいんじゃないか?


「それなら」「いいよ」

「本当か!? それなら、まずはリーノのハイドスキルから頼む」

「わかった。__光があるから影は埋もれる」


 ルーノの後ろに、リーノがスッと隠れる。すると、隠れたリーノの輪郭がどんどんぼやけていく。反対に、前に立つルーノの存在感がどんどん大きくなって目が行ってしまう。

 特殊なハイドスキルというのは、自身が隠れる代わりに他の人に注目を与えるスキルってことか。俗にいうヘイトの擦り付けに近いけど、主役を立たせて自身は目立たずに引き立てる、アシスタントらしい効果だな。いや、アシスタントというよりも黒子か? 

  

「これでいい?」

「うぉ!? いつの間に後ろに回ったんだ? ……いや、それよりもその短剣は何だ?」

「あててんのよ」

「うん。どこからそのネタを仕入れたとか、使い方が違うとか突っ込む前に、精神衛生的に良くないから離してくれないか?」


 背後に回って短剣を首に当ててくるリーノを宥め、リーノをルーノの隣に戻す。全くこの子達は……座長の背中を見て育ったというのがよく分かる。

 軽く息をついてからルーノへと目を向ける。


「次はルーノのヘイトスキルを頼む。……今度は悪ふざけはしないでくれよ?」

「……分かった。__影があるから光は際立つ」


 若干不服そうながらも頷くと、ルーノは横に並んだリーノより一歩前に出る。すると、自然と視線がルーノに集まっていき、後ろのリーノに目がいかなくなっていく。

 さっきと同じ? ……あぁ、そうか。今度は、自分が目立つ代わりに他の人のヘイトを減らすのか。

 起きている事柄は傍から見ればほぼ同じに見えるけど、それぞれの本質はヘイトの擦り付けとヘイト集め。やっている事は全く異なる。

確か、手品や芸の手法で視線誘導があったと思うけど……ミスディレクションというんだったかな?

 黒い衣装を着たルーノと白い衣装を着たルーノ。光と影のような二人から貰ったスキルといえば相応しいスキルといえるだろう。


 これだけのスキルが増えば、できる事が一気に増える事になる。これなら成功スキルの上げる手段が__いけないいけない。

 座長に成功スキルに依存しすぎるなってい言われたばかりだったのに、もう成功ありきに考えている。

 これだけ多彩なスキルに三種類の毒の短剣まであるんだ。これなら成功スキルに依存しなくても、十分戦えるはずだ。



 スキルの検証はミツバ達の手がいるし、ちょっと手伝ってもらうか。確か、メイカーの街をルナと一緒に観光している筈だから探せばいると思うし。

 ついでにリーノとルーノのことも説明しないといけないし。もしかしたら場合によってはレプラに追加で装備を頼まないといけないかもしれないしな。


 メイカーの街の屋台エリアに移動しミツバ達がいないか探す。屋台エリアには自ら作成したポーションや装備を販売するプレイヤーや、純粋に商売を楽しんでいる商人プレイヤー。プレイヤーだけでなく屋台を営むNPCもいてごった返している。

 興味深そうに周囲をキョロキョロ見回す双子たちが迷子にならないように注意しつつもミツバ達を探す。道着や修道着を着ているような目立つプレイヤーは一目見れば分かりそうなものだけど、どれだけ見回しても見受けられない。

 他のエリアにいるのだろうか?


「そこの兄ちゃん! 装備に不満はないかい? 品質の良い奴がそろってるよ!」

「え? いや、今は人を探していて……」


 断ろうと思ったけど、話し掛けてきたプレイヤーの屋台に並ぶ武器を見て言葉が止まる。端っこの方に取り敢えず置いてあるといった感じに展示されている短剣。これから目が離れない。


「ちょっと見せて貰っていいですか? いや、その長剣じゃなくてそっちの短剣です」

「短剣? そんなのでいいのか? そんな低火力武器使うって物好きな……まぁいいや。いいぜ」


 手に取って確認してみる。銘は付けられて無いものの、プレイヤーメイドのその短剣は俺の使う鉄製の短剣の数倍は強かった。品質もA+で上等で、持った感触も手に吸いつくかのようなフィット感がある。軽く振ってみても重心がぶれることのないくらいバランスがいいし、何より重量ペナルティが俺の短剣よりも軽い。

 魅了されたかのように短剣を眺めていると、屋台の売り子が感心したように笑みを浮かべる。


「へぇ。兄ちゃん見る目あるな。それはドワーフ領の生産職で今一番人気のプレイヤーの作品なんだよ。その短剣、本人が練習がてら作っただけらしくて安く多めに買い取れたまではいいんだけど、短剣使うプレイヤーなんてそういなくてさ。結局売れなくて困ってたんだよ」

「ドワーフのプレイヤーの作った短剣か。いくらくらいなんだ?」

「大体これくらいだな」

 

 掲示された金額を見る。う……一番人気のプレイヤーが作った武器だけあって中々高いな。これでも短剣の需要が低いせいで、そのプレイヤーメイドの武器にしてはかなり値下げされた低価格らしいけど。

回避が前提で特に魔法を使わないからポーション消費でお金を使う機会は無いから予算的には問題なく手は出るけども。

ただ、短剣に関してはトランプマジックを使えばいくらでも使えると思うんだよな……それに資金的にも懐的に痛くない金額でもないし……。

レプラは装備は無償でいいって言ってくれてたしな……決めた。


「この短剣買うよ。そうだ、三本あるか?」

「え? あ、あぁ。在庫的には問題ない。毎度アリ! 不良在庫で困ってたんだよ! 三本と言わず全部買い取ってくれないか?」

「良いのか? それなら全部買い取らせてもらうよ。」


助かるぜ! と言いながら嬉しそうに短剣を渡してくれた。短剣を受け取ると、俺は2本だけ残して自分のアイテム欄に回収し、残した短剣をリーノとルーノに手渡す。


「高いのに」「いいの?」

「これから荒事に付き合ってもらう事も増えると思うからな。一応、二人も持っておいてくれ」

「「……ありがと」」


 二人は珍しく素直にそうつぶやくと、大事そうに短剣をしまった。元々無表情が多くビスクドールのような可愛らしさがあるが、今は頬に薄くピンク色に染めている。

 普段からこれくらいなら可愛げがあるのにな。藪蛇になるから絶対に言わないが。


「___ん! ___ちゃん!」


 ん? どこかからルナが読んでいるような声が聞こえてくるような……。聞こえてきた気がしたほうを見ると十字架を背負った小さな影。そんなレアな人影ルナくらいしかいないだろう。AGIが無振りなだけあってその駆け足はやたらと遅いし。

 段々と近寄ってくるルナをゆっくり待ち、到着してからも息が整うのを待つ。


「そんなに焦ってどうしたんだ? 何かあったのか?」

「何かあったじゃねーです! 一大事です! まじやべーです!」

「ちょ、ちょっと待て! ルナ、一大事って一体何があったんだ!?」

「メイにーちゃんぜってー呪われてやがるです! スタンピードが起きたらしいです!」



 ルナよ。いくらなんでもそれは俺のせいではないと思うんだ。





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