第八話 うちは1日24時間労働でございます
お風呂に入った後はみんなでごはんを食べることになった。
「本日はご主人様の歓迎ということで、ごちそうを用意しました」
出されたメニューは見ているだけで涎が垂れそうなものばかりである。
中でも特に、肉厚のステーキと唐揚げが美味しそうだった。
この数日間は飢えに苦しんでいたので、肉類の料理を食べるのは久しぶりである。
ここに来る前にルーラから軽食を食べさせてもらっていたが、まだ食欲はたっぷりあった。
丸テーブルを囲んで、俺たちは手を合わせる。
「いただきますっ」
直後、早速ステーキにかぶりつく。
「――っ!」
久しぶりに食べた肉は、言葉にならないほど美味しかった。
気付けば夢中になって俺は料理に食いついていた。
「パパ、すっごーい! サキもいっぱいたべるっ」
サキちゃんも対抗するように一生懸命ごはんを食べ始める。
小さな口で一生懸命もぐもぐしていた。
「ご主人様、たくさん食べてくださいませ。おかわりはたくさんあります」
「ルーラ、ここ数日はずっと気合入れて料理の下準備していたわ。たくさん食べてあげなさい?」
どうやら俺のためにルーラは色々と下準備してくれていたようだ。
この子は本当にいい子である。
「……エレオノーラ様、恥ずかしいのであんまりそういうことは言わないでください」
「そう? 彼が大好きって気持ちは恥ずかしいことじゃないと思うわよ?」
「それは、そうですが……直接口にするのは、まだ少し恥ずかしいです」
ルーラは恥ずかしそうにそっぽを向いていた。
「ありがとう。美味しいよ?」
「……左様でございますか。お口に合ったのなら、嬉しいです」
でも、褒めたらすぐにこっちを向いて嬉しそうにしてくれた。
あんまり表情の動かない子なのに、好意を隠すのは下手くそみたいで分かりやすかった。
俺のために色々と考えてくれていたのだろう。
彼女の純粋な気持ちに頬が緩んだ。
「おにーちゃん、お野菜も食べないとダメだよっ。はい、あーん!」
不意に隣のマニュが俺に野菜を差し出してきた。
フォークに突き刺さった緑色の物体を、口元に近づけてくる。
正直、今は肉が食べたかったが、あんまり好き嫌いするのはよろしくないので俺は素直に口を開いた。
野菜を口に入れて、シャキシャキとした歯ごたえを感じながら咀嚼する。
「はい、間接キス!」
「ぐふっ!?」
むせた。
気が緩んでいたせいで間接キスに気付かなかった……改めて言われると、結構恥ずかしい。
「そ、そのフォーク、交換した方がいいんじゃない?」
「え? なんで? もしかしておにーちゃん、幼女と間接キスしたくらいで恥ずかしいの? そんなにわたしのこと、女性として意識してるの?」
この邪神、かなりしたたかである。
平然とした顔で俺が口にしたフォークを使っていた。
「そういうわけじゃ、ないんだけどっ」
「だったらいいよね~? まさか、おにーちゃんがロリコンなわけないもんね!」
「……その言い回しはずるいと思う」
こうやって言われると、間接キスぐらいどうってことないと言うことしかできなかった。
「マニュ様、そのままご主人様にお野菜を食べさせてあげてくださいませ。バランスの良い食事も大切です」
「はーい! ほらほら、あーんして?」
「自分で食べられるからっ」
18歳にもなってあーんされるのは恥ずかしかった。
しかし、俺の雇い主であるルーラは首を横に振る。
「甘やかされるのがご主人様のお仕事ですよ? 何も言わずに、黙ってあーんしてください」
「……わ、かった」
これを言われると弱かった。
何も言い返せなくなって、俺はマニュに野菜を食べさせられることに。
「あー! サキもやるっ。パパにあーんする!!」
いつの間にかサキちゃんも加わって、これ以降俺は自分で食べることができなかった。
でも、みんなで囲む食卓は和やかで、今までのどんな食事よりも美味しく感じた――
ごはんを食べ終えてすぐに、四人は眠る準備を始めた。
かなり早いと思うのだがもう眠る時間らしい。
そして、この家の間取りはあまり部屋が一つしかないわけで。
「……俺は別の場所で眠るとか?」
「そんなわけあると思うかしら?」
当然、俺も一緒に眠るようだった。
狭い部屋に布団が三つほど敷き詰められている。
やっぱりもう少し広い方がいいと思うのだが、四人は一切気にしてないようだった。
「これも仕事? もう就業時間は終わったんじゃない?」
「うちは1日24時間労働ですから」
労働の組合みたいなところがあるところがあれば相談したいくらいの労働時間だった。
まぁ、そんな組合ないので、俺は言われた通りにするしかない。
このまま四人と一緒に眠ることにした。