第七話 なでなでするのもお仕事なのです
現在、俺はゆっくりとお湯に浸かりながら、彼女たちと談笑を交わしていた。
「この家って、なんでお風呂だけそこそこ広いの?」
俺の新しい職場であるこの家はサイズが小さいのだが、お風呂場が結構大きい。
さすがに四人の幼女と一人の青年が入るとギューギューになるとはいえ、入れないこともないくらいの広さがあるのだ。
「実はご主人様と一緒に入れるくらいのサイズにしたのです」
「みんなで一緒に入れたらいいわねって、話してたのよ」
どうやら四人で相談して風呂は大きめに作ったようだった。
「そ、そうなんだ……」
「パパ、うれしーでしょっ? サキたちとおふろ、きもちーよね!」
俺としては一緒に入るのは恥ずかしいと思ったが、サキちゃんの眩しい笑顔を見ていると首を横に振れなくなった。
「まぁ、きもちーかな」
「そっか! サキもパパとおふろ、たのしーよっ」
だらしない笑顔でくっついてくるサキちゃんは微笑ましかった。
一緒に入るくらいでここまで喜んでくれるのなら、俺の羞恥心くらいどうでもいいか。
「みんなで入れるくらいの大きさ、か……あれ? その口ぶりだと、この家ってみんながわざわざ用意したてこと?」
話し合って決定したということは、即ち計画通りに用意する手段があったということだろう。
この家はもともとここにあったものではないみたいだ。
「みんなっていうか、わたしが用意したもーんっ」
と、ここでそう主張したのは邪神のマニュだった。
「マニュが、家を? どうやって?」
「わかんない! なんかね、なんとなくできた」
さすが邪神だ。
存在も能力も意味不明だった。
「なんとなくって……相変わらずすごいな……」
「にひひっ。偉いでしょ? 頭なでなでしてもいいよ?」
金色の髪の毛をぐいっと近づけてくる彼女に、俺は思わず苦笑する。
戦った時はもっと禍々しい感じがしたのに、今の彼女はただの幼女だった。
マニュは別に悪いことをしたわけではない。
封印から復活した直後に俺の手で再封印されたので、悪事は一切やっていないだろう。
だから禍根はなかった。
マニュも気にしていないみたいだし、俺も気にしすぎるのはやめておこう。
「なでなでって、こんな感じでいいの?」
軽く、マニュの頭に手を置いてみる。
優しく左右に揺らすと、マニュはビクンと体を震わせた。
「ん? あ、にゃっ!? ちょ、おにーちゃん……そこは照れて撫でないのがお約束だよ! びっくりしちゃった」
「えぇ……よく分かんないぞ、それ」
「むぅ。わたしとしたことが、おにーちゃんに動揺させられるなんて……不覚だよー」
楽しそうに俺をからかうマニュだが、なかなか突発的な事態には弱いらしい。
顔を真っ赤にして照れ照れと髪の毛を弄っていた。こうして見ると本当に可愛い幼女にしか見えないな。
「マニュちゃんだけずるーい! サキもなでなでしてっ」
「……下僕、私のも触りなさい?」
「なでなでするのもお仕事ですので、わたくしのも」
結局、全員の頭を撫でることになった。
この『なでなで』という行為が何を意味するのか、正直俺にはよく分からない。
でもまぁ、彼女たちが喜んでくれるなら、それでいいと思った。
みんなでゆっくりとお風呂に浸かる。
五人で入ると狭いので、自ずと距離感が近くなる。
「みんなで一緒に入れるのはいいんだけど……もう少し大きくしても良かったんじゃない?」
恐らくマニュは自在に建物を構築できるのだろう。
だったら、もっと大きくしても良かったのではないかなって思った。
「にひひっ。みんな、おにーちゃんとくっつきたいからギリギリのサイズがいいねーって、話しあったんだよ?」
しかし、このサイズ感はあえてのことだったらしい。
「この家、そこそこ狭いでしょう? キッチンとトイレの他に部屋はもないことだし……これならずっと、あなたといられて幸せだもの」
そして家のサイズも、意図的なものだったようだ。
「俺、邪魔になると思うんだけど」
「邪魔だなんて、ありえないわ。むしろあなたがいないと意味がないのよ。観念して存分に愛されるといいわ。下僕の分際で私の下僕をバカにするなんて許さないわよ?」
「……ご、ごめん。ありがとう」
俺のこと悪く言うのは、例え本人だとしてもエレオノーラは許さないらしい。
その優しさに気持ちがほっこりした。
「ふんっ。私はあなたが大好きなのよ……発言には気をつけなさい」
そっぽを向くエレオノーラは、なんだか子供っぽくて可愛かった。
「ご主人様。ずっと、わたくしたちと一緒にいるのもお仕事でございますよ?」
「うん、分かった。よろしくね、みんな?」
頷くと、四人は笑顔で俺を受け入れてくれた。
「はい。こちらこそよろしくお願い致します……ご主人様」
「はいはーい! よろしく、おにーちゃんっ。わたしたちみたいに可愛い幼女に囲まれて良かったね!」
「パパ! サキも、よろしくおねがいちまちゅ」
「……下僕、私のことをしっかり頼んだわよ?」
その温かさが、とても嬉しかった――