表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/39

第四話 雇用主は幼女様

「ここがわたくしたちのお家でございます」


 案内された先にあったのは、あまり大きくない家屋だった。

 小屋、と表現できるだろうか。俺一人が住んでちょうどいいくらいの大きさである。


「ここに、わたくし含めて四人生活しております。これからはご主人様を含めて五人になりますね」


「……せ、狭くない? これだとどうしても、同居人たちと俺との距離感が近くなっちゃうと思うけど。嫌がらないかな?」


「そこは問題ないかと」


 俺の懸念をルーラはまったく気にしていないようだった。


「まずは生活していただいて、出てきた問題はその都度対処していきたいと思います。もしご主人様が狭くて息苦しいと感じたなら、もっと広くなるように手配しますので」


 彼女はそれだけを言って、家の扉を開けてくれた。


「どうぞお入りくださいませ……ご主人様」


 優雅な仕草で一礼するルーラ。

 促されるままに中へ入ってみた。


 少し緊張するな……


「お邪魔しまーす……」


「んー? ……あ!」


 そしてまず見えたのは、部屋の中央でお人形遊びをしていた小さな女の子だった。


 ピンク色の髪の毛、紫色の瞳、そしてちょこんと突き出た八重歯と尻尾に、背中に生えた小さな翼……そんな特徴を持つ彼女は、俺を見るや否やまん丸の目を大きく見開いた。


「――パパ!!」


 次いで、彼女は勢いよく立ち上がったかと思えば、俺に向かって飛びついてくる。


「おっと……」


 慌てて受け止めると、甘い匂いが鼻腔をくすぐった。

 俺に触れると汚いだろうに、しかしこの子はルーラと同様にそんなことまったく気にしていないようだ。


「おかえりさない、パパ!」


 満面の笑みを浮かべて彼女は俺を抱きしめる。


「……もしかしてっ」


 抱きしめて、パパと呼ばれたところで、ようやく気付いた。

 昔、俺はこの子と出会ったことがある。


 何故か俺をパパと呼んでいる少女に、一人だけ心当たりがあった。


「サキュバスの村にいた……サキちゃん?」


「はーい! サキです、8さいになりました!」


 昔、旅をしていた時にサキュバスの村に寄ったことがある。


 亜人種である彼女たちは人間から迫害されており、辺境の地でほそぼそと生きていた。

 俺は彼女たちから物品の援助などしてもらったことがある。


 その際に、サキちゃんとはよく遊んだことがあった。


「えへへ~。パパ、だいすきっ。サキね、ず~~っっっとパパのこと、まってたんだよ!!」


 抱き着く彼女の無邪気さに、いつの間にか緊張も解けていた。


「また会えて、嬉しいよ」


「パパ、うれしーの? よかったね!」


 笑いかけると、サキちゃんは楽しそうにリアクションしてくれる。

 久しぶりの感覚に少し和んだ。


「それにしても……サキちゃんがどうしてここに?」


 サキュバスの村で暮らしていたはずなのに、どうしてルーラと一緒に暮らしていたのだろうか。

 気になって考えていると、後から入ってきたルーラがこんなことを耳打ちしてきた。


「細かい事情はまた後でお話いたします。今はただ、再会をお楽しみください」


「……うん、分かった」


 色々とあるみたいである。

 詳しいことはまた後で聞くことにしよう。


「それで、あとの二人は?」


「ここだよ、おにーちゃんっ」


 と、不意に後ろから誰かが抱き着いてきた。


「うぉっ……だ、誰?」


「わ、た、し、だ、よ! 忘れたなんて、言わせないもん――下等種のおにーちゃん」


 その呼びかけに、俺の背筋が震えた。

 こうやって、俺をからかうように『おにーちゃん』と呼ぶ奴なんて……一人しかいない。


「邪神――アンラ・マンユ」

 

 この世に終末をもたらすもの。

 魔王を越える災厄。


 伝承でしか語られない、悪の邪神――アンラ・マンユ。


 彼女と出会ったのは、やっぱり旅の途中だった。

 壊れた神殿跡地で、偶然にも俺は彼女と出会ってしまった。


「やだな~……マニュちゃんって呼んでって言ったのにっ」


 金髪碧眼で、髪の毛をツインテールにした活発な容姿の幼女。 

 信じられないことに、邪神である彼女はそんな外見である。


「なんで、お前がっ」


「言ったでしょ? また、会おうって」


 初対面の時、大決戦を繰り広げた。

 全盛期の俺よりも、ともすれば彼女は強かった。


 しかし、どうにか倒すことはできて、邪神は封印できたはずだった。

 それ以来彼女は姿を消していたのだが……まさかここで再会するなんて夢にも思っていなかった。


「これからよろしくね、おにーちゃん!」


 まさかの人物に動揺を隠せない。

 しかし、次に出会う少女には、アンラ・マンユ――マニュよりも、驚愕することになった。


「ご主人様……とりあえず、お風呂場へどうぞ。四人目の同居人がおります」


 マニュの登場に呆けている俺を、ルーラはお風呂場に案内する。

 小さな家の割には大きめのお風呂場に入ると、そこには既に先客がいた。


 真っ白い肌の、銀髪が美しい少女だった。


「あら? やっと、来たのね……勇者さん?」


 俺は、彼女を知っていた。




「魔王の、娘……」




 そうお風呂に入っていた彼女は、俺が討伐した魔王の娘。

 誰よりも俺に恨みを抱いているはずの、小さな少女だった――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ