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第三十話 お仕事にも慣れてきました

 日中はみんなでわいわいと遊んだ。

 ケーキを食べたり、おかしを食べたり、些細なことしかしていないのに楽しかった。


 そして夜。

 俺がお風呂に入っていた時のこと。


「ご主人様、失礼します」


 ルーラが平然と入ってきた。

 裸である。


 もちろん裸なのはちょっと良くないと思う。

 でも、なんだかんだこの家に来てしょっちゅう裸は見ているので、露骨な動揺は隠せるようになった。


 あと、この家ではまともに一人でお風呂に入れたことがないので、誰かが入って来るのを覚悟していたというのもあるだろう。


「ルーラだけ? 他のみんなは?」


「……皆さまはサキ様のおままごとに付き合っております。わたくしは家事を終えたところです」


 サキちゃんがおままごと無双しているのか。


 そうなると、エレオノーラとマニュが解放されることはしばらくないだろう。お風呂はルーラと二人きりか。


「今日もお疲れ様。おかげで楽しい一日だったよ」


「いえ、大したことはしておりません。ご主人様が幸せであるなら、それだけでわたくしは嬉しいです」


 彼女はそう言いながら、シャワーを浴びていた俺の方に歩み寄る。

 それから当たり前のように、俺の体を洗い始めた。


「お背中流します」


 優しい手つきで、ルーラは俺に触れる。

 小さな手なのにどこか安心感あるから、不思議なものだった。


「ありがとう」


 お言葉に甘えて、俺は彼女に洗われることに。

 最初は甘えるのがとても恥ずかしかったが、今は少し恥ずかしい程度だった。


 なんだかんだ、俺も彼女たちに気を許しているのだろう。


 でも、やられっぱなしというのは、心情的に抵抗があった。

 いつもこっちが狼狽えてばかりなので、たまにはやり返させてもらおうかな。


「ルーラ、俺も背中流していい?」


 そう。彼女にも俺と同じような恥ずかしさを感じさせてやろうと考えたのである。


 だが、ルーラはまったく恥ずかしがらなかった。


「……よろしいのですか?」


 むしろちょっと嬉しそうだった。

 あれ? おかしいな……他の人に背中を流されるのって、こそばゆいはずなんだけど。


「じゃ、じゃあ、洗うね?」


 計算違いに動揺したがそれは表に出さないように気を付けつつ、シャワーを浴びるルーラの背後にまわる。


 その背中はとても小さくて、あと肌が綺麗だった。

 少し力を入れただけで傷つきそうなほどに、この年頃特有の儚さを有している。


 無意識に、そっと手を伸ばしていた。

 ゆっくりと、ルーラの背中に触れる。


「んっ……くすぐったいです」


「ご、ごめん!」


 あまり慎重にやっても、なんか手つきがいやらしくなって良くないな。

 なるべく平常心を心がけて、ルーラの背中を洗ってあげた。


「お上手ですね、ご主人様。気持ち良いです」


 この子は俺が何しても褒めてくれる。

 褒められて悪い気分はまったくしないので、嬉しかった。


「はい、終わり」


「ありがとうございます。後でお礼に、またマッサージをさせていただきますね」


 昨日に続いて、今日も寝る前にマッサージしてくれるようだ。

 あれのおかげで体の負傷も軽減するので、これは素直に嬉しい。


「では、湯船に浸かりましょうか」


 背中を洗い終えたので俺とルーラは浴槽に入る。


 穏やかで、ゆったりとした時間が流れていた。


 浴槽は二人で入るには十分に広い。しかしルーラは俺の隣にぴったりとくっついている。

 肌とは会が触れあうほどの距離だ。


 この子に限らないが、この家の子供たちはみんな距離感が近い。

 最初はびっくりしたが、今はそうでもなかった。


 むしろ、懐かれていると実感できて嬉しいくらいである。


 そんなことを考えていると、不意にルーラが口を開いた。


「ご主人様……少しずつ、お仕事にも慣れてきたようですね」


 どうやら俺の仕事ぶりを評価してくれているようだ。


『甘やかされること』


 それが俺の仕事である。

 この家に来たばっかりの時は、まだまだ抵抗が強かった。


 しかし、少しずつ甘えられるようになっている。


 今もそうだ。ルーラに背中を洗ってもらって、逆に背中を洗わせてとわがままを言っていた。

 無意識ではある。だけど、それがなんとなく嬉しかった。


「でも、まだ足りません。わたくしたちに、もっと甘えてください」


 ルーラたちは、俺を心から受け入れてくれる。

 どんなに俺が情けなくても、関係ないと笑ってくれる。


「幸せになることを、ためらわないでくださいね?」


 ――その優しさに、抗うことなんてできなかった。


「うん……いっぱい、甘える」


 こんな俺を彼女たちは好きでいてくれるのである。

 だから俺も、全力で彼女たちの気持ちに応えたいと思う。


 これからも精一杯、甘やかされよう。


 そんなことを、強く決意するのだった――

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