第二十八話 幼女は光の道しるべ
「パパっ。おてて、はなしたらダメだからね!」
森から街道に出て、首都の方向に歩く。
最中、サキちゃんはずっと俺の手を握り続けていた。
出かける前に、みんなから俺をよろしくと言われたからか、責任を感じているようだ。
「パパはサキがまもってあげるっ」
「……あ、ありがとう」
こんなに小さい子に守ってもらうのは不思議な気分である。
お姉さんぶりたい年頃、というのもあるのだろう。サキちゃんは意外と世話焼きである。
きっと将来はいいお嫁さんになるだろう。
「…………」
と、ここでちょっと背後を確認してみた。
ルーラがついてくると言っていたので、見えるかもしれないと思ったのだ。
しかし彼女の姿は見えなかった。
上手く隠れているみたいである……どこにいるのか分からないけど、とりあえず今はサキちゃんとの時間を楽しむか。
「サキちゃん、街で何か食べたいものある? ルーラからお小遣いもらったから、二人で食べに行かない?」
「いく! えっとね、サキはね、パパがすきなものたべる!」
どうやら俺が好きな食べ物がいいらしい。かわいいこと言うな、この子は……
「じゃあ、ケーキでも食べてみる? 美味しいよ?」
「わかった!」
サキちゃんはぴょこんと跳ねて返事をする。
本当に元気の良い返事だった。聞いているこっちまで気分が上がってくる感じがする。
サキちゃんと一緒にいると、まったく暗い気持ちにならない。
常に明るい気分でいられる、太陽みたいな子だった。
「サキね、ケーキだいすきっ。でもパパのことはもっとだいすき!」
「うん、俺もサキちゃんのこと大好きだよ」
「ほんとーに!? りょーおもいだねっ。しゃせーしますか!?」
「しゃせーはしません」
「そーですか! じゃあ、なでなでしていいですよ!」
「はいはい、なでなでします」
手は繋いだままなので、反対側の手でサキちゃんを撫でる。
外套のフード越しとはいえ、彼女はとても嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねていた。
「えへへ~」
そうやって二人でじゃれあいながら、街道を歩く。
街までは一時間程かかったが、どうにか到着することができた。
門をくぐると、一気に人の数が増える。
活気のあるその場所は、ほんの数日振りだというのに懐かしい感じがした。
「ふわぁ……ひろい! おっきー! すごーい!!」
サキちゃんも興奮して目を輝かせている。
「サキちゃんは首都に来るのは初めて?」
「うん! はじめてっ」
サキちゃんはあまり人が多いところに来たことがなかったようだ。
この子は村出身だし、亜人種だし、ずっと人が少ない場所でしか生きてこれなかったのである。
なら、せっかくの機会だし……街を案内してあげようかな
「パパ! まいごにならないよーに、おててはちゃんとつかむんだよっ?」
「……分かった」
どっちかと言えば俺よりサキちゃんの方が迷子になると思うんだけど。
しかし、俺を思うその気持ちは嬉しかったので、素直に頷いた。
「俺のこと、よろしくね?」
「はーい! サキにまかせてっ」
……やっぱり、この子と一緒にいると力が抜ける。
実は俺、ここに来るのに少しだけためらいがあったりした。
一時は飢えに苦しんで道端に倒れこんでいたし、どこも雇ってくれなかったし、みんな冷たかったし……なんだかんだいい思い出がないのである。
それでも、サキちゃんと一緒なら大丈夫そうである。
この子は光だ。
太陽のように優しくて温かい道しるべ。
――なんてことを、サキちゃんから感じていた。
よし、サキちゃんと一緒に過ごせる時間も、精一杯楽しもう。
それが俺の仕事でもあるのだから。
「えっとね、おかいもの! パパ、おみせいこっ」
「まずは、食材から買いに行こうかな」
そうやって俺とサキちゃんはお店をまわった。
ルーラが用意してくれた買い物リストを見ながら、物品や食材を揃えていく。
あのメイドちゃんは俺とサキちゃんに気を遣っていたのか、買い物のリストはそんなに多くなかった。
あまり時間も経たずに全て揃えることができたくらいである。バックにも全て収まったし、後はのんびりするだけだ。
「パパ! あれなぁに? おみずでてる!!」
「あれは噴水だね」
「ふんしゅい!」
サキちゃんは見るもの全てが珍しいのか、ずっと周囲をキョロキョロしていた。
好奇心旺盛な年頃であるのだろう。とても楽しそうだ。
「そろそろケーキ食べる?」
「たべる!!」
買い物もひと段落ついたところで、近くの喫茶店のような場所に行くことに。
俺はチョコのケーキを、サキちゃんはショートケーキを選んだ。
「パパ、はんぶんこしよっ? あ! サキがたべさせてあげるっ」
喫茶店で幼女にあーんされるのは恥ずかしかったし、注目を浴びていなかった気がしないでもないが、それでも彼女の優しさに甘えないわけにはいかなかった。
少しずつ、俺も『甘やかされる』という仕事に慣れている。
いずれは息をするように、彼女たちにわがままを言う日がくるのかもしれない。




