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第二十五話 泣き幼女より笑い幼女

 この日は昨日より早く目覚めた。


「……あれ? 体が軽い?」


 体調がとても良い。早く目覚めたのも、体力が十分に回復したからだろう。


 昨日はしっかりごはんを食べて、軽く散歩もして、夜はマッサージを受けて眠った。

 そのおかげか非常にコンディションが良かった。


 魔王と戦って負傷して以来、体を動かすたびに常に軋むような感覚がずっとあったのだが、今はその違和感が軽くなっている。


 気分も、みんなと過ごすことで大分リラックスできているのだろう。

 精神的、及び肉体的にとても充実していた。


「ちょっとだけ、動いてみようかな……」


 怪我の症状が緩和している今、軽く運動するのも良いかもしれない。


 今は何もできない身ではあるが、いつかは冒険者として簡単なクエストを受けられる程度には回復することが俺の目標だ。


 お金を稼ぐことで彼女たちに少しでも恩返しがしたいのである。


 まだルーラも起きていない。

 朝食まで少し時間もあるだろうし、ちょうどいいタイミングだろう。


 それにしても、この子たちの寝顔かわいいな……起きているとたまに小悪魔のように見える時もあるのだが、寝ているときは天使そのものだった。


 起こさないようにしないと。

 そう思って、俺は引っ付いているみんなをゆっくりと引き剥がす。


 昨日に続いて、眠っているときにくっつかれていたみたいだ。

 おかしいなぁ……離れて眠ったはずなのに。


「ぱぱぁ……だいすきぃ。えへへぇ」


「下僕……愛しているだなんて、照れるじゃない」


「ご主人様……こんな体でよろしければ、どうぞご自由にしてくださいませ」


「おにーちゃん……それわたしのパンツだよぉ……食べたらだめぇ」


 ついでに寝言も聞いてしまった。

 前二人は微笑ましいのだが、ルーラとマニュの寝言はちょっと問題があるような。


 特にマニュは内容がおかしかった。

 ……まぁ、寝言だし、あまり気にするのも良くないか。


 聞こえなかったことにしよう。


「ちょっとごめんね」


 彼女たちを優しくどかしてから、俺は家を出る。


 外の空気は早朝ということもあってか、とても澄んでいた。

 太陽も完全には顔を出していない今が、一番気持ちの良い時間帯だと思う。


「ん~……よし」


 庭の方に移動して、軽くストレッチを行ってみる。


「っ……」


 少し筋肉を伸ばしただけだが、鈍い痛みを感じた。

 相変わらずボロボロである……日常生活でさえ、時々休みを入れないと満足に動いてくれないからだなのだ。無理もないか。


 実は昨日、マニュと散歩に行った時も頻繁に休憩をとっていた。


 もう少し動けるようになりたいものだ。できれば、サキちゃんとおにごっこできるくらいにはなりたい。


 少しずつ体を慣らしていかないと。

 そんなことを考えながら、黙々とストレッチを続けていた時だった。


「だーれだ!」


 不意に、背中に誰かが飛びついてきた。


「お、わっ」


 ちょうど体勢が悪くなるストレッチを行っていたので、その衝撃に耐えられなくて俺は転んでしまった。


 せめて飛びついてきた子が怪我させないために、俺が下敷きになるよう意識する。

 その子を胸で抱きしめたところで、背中を地面にぶつけてしまった。


「ぐっ……」


 一瞬、息が詰まった。しかし大したダメージはない。

 良かった……抱き留めた子も、無事のようだし。


「あ、ごめんなさいっ。おにーちゃん、大丈夫っ?」


 そして、俺に飛びついてきた子は慌てた様子で謝っていた。


「あの、朝から二人きりだからはしゃいじゃったっていうか、えっと……ごめんなさいっ。おにーちゃん、怪我してない……?」


 不安そうにしている彼女の名前は、マニュである。


「大丈夫、そんなに謝らなくていいよ」


 もちろん悪気がなかったことは理解している。

 これくらい何の問題もない。


 しかし、マニュは俺を転ばせたことをとても反省しているみたいだ。


「うぅ……わたしのばかぁ」


 ちょっと涙目にもなっている。

 いきなりのことだったので、俺も慌ててしまった。


「え? や、泣かないでっ。体は大丈夫だし、気にもしてないから!」


 安心させるように、マニュをギュッと抱きしめる。

 俺の胸で泣きそうになっているマニュは、邪神ではなく一人の女の子にしか見えなかった。


 しばらく、抱きしめたままマニュを慰め続ける。

 そうすれば、彼女は次第に落ち着きを取り戻していった。


「……んにゃっ。取り乱して、ごめんなさい。わたし、おにーちゃんが怪我したり、痛くなったりするの、一番嫌いなの」


 だから彼女は泣いてしまったのだろう。

 俺のことを心から思っているからこそ、不覚でも俺を転ばせたことで取り乱したのだ。


「ごめんなさい。あと、抱きしめてくれてありがとうっ。おにーちゃんの体、たくましくて大好きっ」


 だけど、ようやく調子も取り戻したのだろう。

 彼女は笑顔を浮かべて、俺の胸に顔を埋めた。


 ――本当に、かわいい子である。

 笑顔がとても愛らしかった。


 うん、やっぱりマニュは泣いているよりも笑っていた方がいいと思う。

 泣き顔よりも笑顔の方が、何倍もかわいかった。

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